目覚める
見慣れない木製の天井を視界にとらえた。
どうやら僕は寝ていたらしい。良質とは言い難いかたいベッドから上半身を起こし、辺りを見渡す。
となりには似たようなベッドがいくつも並んでおり、誰かが寝ている。
コン、コン……
正面のドアが開いた。
「失礼します。あら、お目覚めのようですね」
頭にはカチューシャを着けて、黒いロングスカートを履いたメイドが現れた。
「ここはどこですか?」
当然の疑問をぶつけてみる。
「ここは宿屋です。3日間寝てたようですが、お客様お体は大丈夫ですか?」
3日間! それは意外だ。それにしても変な夢を見ていたような……。
「それで僕はなんでここにいるのでしょう?」
メイドさんはやや困ったような顔をして僕を見つめてきた。
「町はずれに倒れてる人がいるって、友達がいってたからあなたをここに連れてきたんです。一応この宿屋はこの町で唯一の医院でもあるからね」
それはありがたい話だ。
「親切にしていただきありがとうございます」
礼を述べると、メイドさんは
「ああ、お礼なんていいですよ。お金さえ支払ってくれれば」
メイドさんはにっこりと笑った。
「へ?」
僕は顔を引きつる……。
おいおいおい、お金なんてあるかわからんぞ……。
「僕の手荷物はどこにあるんですか」
そこにお金があるのかもしれない。
「いやいや、お客様には荷物なんて最初からありませんでしたよ」
僕は冷や汗をかいて、体中のポッケに突っ込み、お金を探した。
「ははは」
僕は笑ってごまかそうとした。
「ふふふ」
メイドさんもつられて笑い出す。
「もしかして、お金なかったんですか?」
顔は笑顔だが、心なしか恐い。
「す、すいません。僕よくわからなくて、そもそも自分の名前も分からない状態で、ええと、だから、いやほんとすいません!」
心から謝る。そういえば、なぜここにいるのか分かったが、そもそも記憶がなく、思い出そうとしても思い出せない。名前すらも思い出せない状態だ。
「しょうがないですねえ」
メイドさんはややあきれ顔でこちらに近づいてきた。
顔を近づける。このメイドさん、なかなか美人だなあ……。
「払えるものがないのなら体で払ってもらいます」
メイドさんは僕の手を握り、笑顔でそういった。
「へ?」