念動力者、パンチラを夢見る。
俺、逢沢信一には人と違った能力がある。
まずはそれをみんなに教えておこう。
例えばそこにシャーペンが一本転がっている。
それに向かって俺が人差し指を向け、クイっと上に振り上げる。
どうだ、驚いたか?
机の上に転がってたただのシャーペンが、無重力の宇宙船の中の物みたいにふわっと浮き上がった。
簡単に言うと、これが俺の力。
ネットで調べたところ、念動力という力みたいだ。
だけど、名前なんてどーでもいい。
重要なのは、この力を使って一体何をするかということだ。
人には無い俺だけの力。使い方によっちゃどんなことでもできるはずだ。
そして俺は思いついた。
「エロいことしよう」
待ってくれ待ってくれ、そんなゴミを見るような目で俺を見ないでくれ。
いや、確かに漫画や小説なんかで超能力を持った人は世のため人のために働いている。
悪者だって、なんらかの思想のもとに計画を企てる。
ただエロいことしようとするやつなんていないだろう。
だけど、考えてみてくれ。もし君に俺と同じ能力が備わったらどうする?
本当に人のために使うか?
人は自分の学力を出世のために使う。自分のルックスをモテるために使う。運動能力を試合に勝つために使う。
人は自分の能力を全部自分のために使ってるじゃないか。
それが当たり前。だって自分の能力なんだから。
だから、俺は誰に何と言われようとエロいことのために、自分のためにこの能力を使うのだ。
******
俺が能力に目覚めたのは高校一年の梅雨明け。その時俺は数学の授業を受けていた。
窓際の最後列に座っていた俺は、梅雨が明け顔を出した太陽のポカポカ陽気をモロに受け、睡魔と戦っていた。
訳のわからない公式が綴られた黒板を根気で板書していた俺は、誤って消しゴムを床に落としてしまった。
それを拾おうとした時、初めて能力が開花した。
寝ぼけた俺は無意識のうちに念動力を使い消しゴムを引き寄せようとしたのだろう。
しかし、何事も初めては失敗がつきもので、その時の俺の念動力は消しゴムを外れその時授業を行っていた教師のカツラにヒットした。
騒然とした教室の様子で我に帰ると、俺は落ちた消しゴムに手を伸ばす姿勢のまま固まっていた。
手には、本物と間違えそうなほど精巧なカツラが握られていた。
それ以降、俺は度々無意識のうちに能力を発動させ、ある時は体育で驚異的な遠投記録を出し、ある時は車に轢かれそうだった子供を高度千メートルまで打ち上げ、ある時はクラスの女子全員のブラのホックを外した。
ここまできて、ようやく俺は自分が目覚めた力の凄さに気づき、高一の夏休みを力の使い方を覚えるために費やした。
そして二学期初日の今日、俺は初めて自分の意思でエロい目的のためにこの力を使おうとしていた。
******
その日俺は抑えようのない高揚感の中、久しぶりの通学路を歩いていた。
これは、クリスマスイブに布団に入る子供の気持ちに少し似ている。
これから必ず訪れるであろう幸福の時が待ち遠しくて仕方がないという気持ちだ。
だが、焦ってはいけない。下手な能力の使い方をして捕まるようなことになっては元も子もない。
それに、初めて自分の意思で能力を使うんだから、最初の一回は特別なものにしたい。
そう考えているとどうしても踏ん切りがつかず、結局教室に入るまで一度も能力を使わずに登校してしまった。
だめだ、ここでチキってしまうと俺の夏休みが無駄になる。早く行動に移さなければという焦りが、さらに機会を逃させた。
始業式でも何もできず、落胆していて机に突っ伏していると教室の雑音が急に静まった。
担任が入ってきたのだ。
俺のクラスの担任は小太りの男性体育教師。おまけに最近頭のてっぺんが寂しくなってきて、女子からの人気度ワースト一位を独走している。
いつもイライラしていて、キレると真っ赤になって怒鳴り散らしその姿がダルマに似てるので、俺は密かにこの担任教師をダルマと呼んでいる。
ダルマの話はいつも小言から入るのだが、その日は少し様子が違っていた。
「突然だが、今日からこのクラスに転入生が入ることになった」
ダルマが発した転入生というワードにクラスがざわめきたつ。
「はい、静かに。今は私が話しているんだぞ。
……よし、静かになったな。それでは紹介する、一条さん入りなさい」
ダルマが呼ぶと、扉がゆっくりと開き見慣れない制服を着た女の子が入ってきた。
腰まである艶のある黒髪、大きくて鋭い光をたたえた瞳、すっと通った鼻筋、小さな顔、モデルのやうな細い足、身長はチビなダルマより少し高い。
一言で形容するなら、美人だった。
せっかく治ったはずのざわめきが復活した。さっきの四倍ほどのボリュームで。
「うるさい、ギャーギャー騒ぐんじゃない。
一条さん、自己紹介しなさい」
転入生は、黒板に白いチョークで一条 心と達筆な字で記した。
さっきのざわめきが嘘のように静まった教室で、彼女が口を開いた。
「一条心です。よろしくお願いします」
自己紹介としては、不完全極まりない挨拶だったが、誰もが彼女の一挙一動に見惚れ気にしたのもはいなかった。
「はい、拍手!」
ダルマの指示で巻き起こった拍手の中、俺は心に決めた。
今日、念動力を使って俺は一条心のパンツを覗く!
バカな設定で物語を書きたくなりました。
今晩中に、3話まで更新する予定です。
よければお付き合いください。