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小動物系ヒロイン登場

イメージはわんこ。

 午後からは隠密と体術の授業だった。

 ヴァルは剣術一本なので、別の剣術授業を受けに行っている。

 剣術にもいくつか種類があって、午前中に俺たちが受けたのはオーソドックスな騎士の剣術だ。

 他にも実戦的な剣術や、スピード、重さなどを重視した各国の剣術が存在する。

 ヴァルはそのほとんどを受講するようだ。

 俺は隠密の授業を受けるために校舎へと移動する。

 隠密は戦闘訓練よりも座学の方が割合が多いらしい。

 知識を深めるために必要なのだろう。

 生徒の数は二十人ほど。

 さすがに剣術ほどの人気はないようだ。

 陽の光を避けて目立たないことを信条とする隠密職業は、子供たちの人気にはなりづらいのだろう。

 俺も技術の一環として取得しておきたいだけで、隠密家業に手を出すつもりはないし。

 というか立場上さすがにそれは許されない。

 銀閃の騎士の弟がお庭番だの暗殺者だのの隠密家業についているとなればローゼが何を言われるか分かったものじゃない。

 けれど独特の体術や暗器の使い方、毒薬の知識や気配を消す方法、足音を立てない移動方法など、隠密の授業では戦闘においてかなり役立つことを数多く学べるのだ。

 戦闘職を目指すのならば絶対に受けておきたい授業である。


「えっと、その……隣、いいですか?」

 おどおどしながら声をかけてきたのは黒髪の少女だった。

 髪と同じく黒い瞳は黒曜石のような美しさがある。

 ちょっと見とれかけたが、しかし声をかけられたなら応じなければならない。

「別にいいけど」

「あ、ありがとうございます」

 黒髪の少女はちょこんと座った。

 小動物のようなおどおどした態度だが、不思議とそれが似合っている。

 微笑ましくなってしまうのだ。

 どうして俺の隣を選んだのだろうと不思議な気持ちになって辺りを見渡してみるのだが、やっぱり理由はよく分からなかった。

 他にも空いている席はいくらでもあった。

 俺が座っているのは最後列である。

 授業をしっかり受けたいのなら前の方に座るべきだし、真ん中あたりでもいい。

 ……もしかしたら、俺と同じようにあまり目立ちたくないのかもしれない。

「俺はフェリクス・アインハルト。よかったら名前を教えてくれないかな?」

「ジェラルリオ・メディシス、です。ええと、よろしくお願いします」

 おどおどしながらも少女は答えてくれた。

「ジェラルリオさんでいい? 俺のことはフェリクスでいいよ」

「えっと、名前が長いんで、リオでいいです」

「じゃあリオさん」

「さんはいらないです」

「リオ?」

「はい。そう呼んでください」

「まあ、いいけど」

「ありがとうございます。フェリクスさん」

「………………」

 自分は呼び捨てにさせておいてこっちはさんづけかよ……

 と思わなくもないけど、これは性格的なものなんだろう。

 そう考えると文句も言いづらい。

「どうして他に席が空いているのにここを選んだの?」

「えっと、そのあんまり目立ちたくないんです」

「………………」

 目立たずひっそりこっそりと、か。

 その辺りの感性は俺と通じるものがあるかもしれないな。

「ふうん。まあいいけど。リオは隠密職業を目指しているの?」

「職業でそういうのをやりたいわけじゃないんですけど、家が毒を扱っているのでどうしてもそっちの勉強をしてこいと言われまして……」

「家の事情かぁ。大変そうだな」

「あんまり好きじゃないんですけどね、毒は」

「そうなの?」

「はい。毒殺って、なんだか卑怯な感じがしますし」

 隠密が行う毒殺というのは相手の食事にこっそりと盛るか、もしくは本人が気づかないうちに毒を仕込んだ武器で攻撃するか、という手段になる。

 正々堂々とは正反対の卑怯なやり方だ。

 リオは性格的にそういうのが苦手なのだろう。

「別に毒薬が活かせる場は隠密だけじゃないと思うよ」

「え?」

 それは思いつかなかったらしい。

 リオはきょとんとしながら首を傾げている。

「たとえばモンスターに使う場合だよ。弓とか投げナイフでもいいけど、そういうのに仕込んで攻撃すれば、それは自分や仲間を助ける力強い戦力になるし、それに堂々ともしているだろ?」

「あ、そうですね。確かにその通りです」

「どんなものだって使い方次第、心がけ次第だと思うよ。卑怯なのが嫌なら、そういう自分にならないって心がけていれば大丈夫なんじゃないかな」

「………………」

 何かに感じ入ったように俺を見つめるリオ。

 感動や尊敬の眼差しを向けられるのはちょっと居心地が悪い。

「フェリクスさんはどうして隠密の授業を受けに来たんですか?」

「俺は別に家の事情とかじゃないよ。単にいろんな技術を身につけておいた方が便利だと思ったから、かな」

「いろんな技術、ですか」

「うん。他にも剣術、体術、魔法の授業を取ってるし」

「魔法も使えるんですか?」

「それなりにね。だから万能型の戦闘職を目指してる」

「凄いですねっ!」

「まだ凄くなれるかどうかは分からないけどね」

 器用貧乏の中途半端になってしまう可能性だってあるのだ。


 そして授業が始まった。

 座学の講師はひょろりとした痩せ形の中年男性だった。

 ヒース先生というらしい。

 ヒース先生はプリントをみんなに配る。

 そこにはこれから学ぶべきカリキュラムの内容と、それから初期段階での毒薬知識が書かれていた。

「へえ、いろんな毒薬があるんだなぁ」

 毒薬については門外漢なので、このプリントだけでもかなり面白かった。

「ここに書いてあるのは初歩的な毒なので、服毒したとしてもまだ回復が可能なんですよ」

「そうなのか?」

「ええ。痺れ、麻痺、意識の混濁や発熱などで、命に関わるものはありません」

「詳しいなぁ」

「毒薬に関しては実家がかなりの数を取り扱っていますから」

「へえ」

 毒薬専門の家か。

 調合も担当しているのかな。

 なかなか物騒な家だけど、しかしそんな物騒な家からこんな小動物みたいな性格の女の子がやってきたというのはちょっと腑に落ちない。

 そういう家に生まれたのならもう少し性格的に歪みを抱えていたりしそうなものだけど。

 まだ知り合って短いけど、それでもリオがそういう根暗さや性格の悪さを持っていないことぐらいは分かる。

 他人を害するような意志を感じないのだ。

 どちらかというと他人を傷つけることを酷く怖れているようにも感じる。

 陰謀渦巻く黒い家系よりも、日溜まりの中にいる方が似合うような、そんな少女なのだ。

「じゃあ毒薬についてはリオに質問すれば分かりやすい回答がもらえたりするわけ?」

「私に分かることでしたら何でも教えますよ」

「そりゃあありがたい」

 正直なところ毒薬の知識は皆無だからな。

 けど面白そうではある。

 戦闘に関しても使い勝手が良さそうだし、覚えておいて損はないだろう。

 詳しい友人が身近にいるのなら頼るのも悪くない。

「じゃあ俺は他のことでリオにお返しをするよ。何か頼りたいことがあったら遠慮なく言ってくれよ」

「………………」

「リオ?」

 リオの表情は何故か暗い。

 まるで何かをこらえるように歯を食いしばっている。

「ご、ごめんなさい」

「いや、謝られるようなことじゃないけどさ。俺、何か気に障るようなこと言った?」

「いえ、そうじゃないんです。でも、その、私にはあんまり関わらない方が、いいと思います。も、もちろん私に出来ることなら力になりますけど……でも、フェリクスさんが必要以上に私に関わると……」

「………………」

 俺が何かをした訳じゃなく、俺のことを心配しているようだ。

 それが何に起因することなのかは分からないけど、それでも知らないうちに傷つけてしまった訳ではないことだけは確かなようで、そこは安心した。

「分かった。じゃあ頼りたいときは頼らせてもらうけど、リオが嫌がることはしないし、出来るだけ近づきすぎないようにする。これでいいかな?」

 事情に踏み込むよりも、ここは一歩下がっておいた方がリオの為だと直感した。

 素っ気ない態度のように思えるが、リオは安心したようで朗らかな笑顔を見せてくれた。

 やっぱり嫌われているわけではないようだ。

 それどころか、誰かと関わりたくて仕方がないようにも思える。

 人恋しさ全開に見えるのだ。

 けれどそれを必死に自制している。

 その理由が分からないけれど、いずれ明らかになるだろう。

 その時は心から仲良くしたいと思う。

これからヒロイン目指して頑張れリオちゃん!

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