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大ピンチ……

「フェリクス。ちょっと来て欲しいのだけど」

 一通り石像を調べ終わったアリシャがこいこい、と手招きする。

「どうしたー?」

 袖を握ったままのリオを連れて近づいていく。

 それを見たアリシャが呆れた視線を向けてくる。

「なんだか友達というよりは保護者と小さな子供、みたいな感じですわね……」

「あははは……」

 否定できないなぁ。

「ち……違いますよぅっ! これはちょっと……なんというか……そのぅ……」

 慌てて否定するリオだが、袖を離してくれなければ説得力に欠けてるぞ。

「まあいいですわ。そのお子ちゃまを連れたままで構いませんから、ちょっと確認してほしいんですの」

「何を?」

「この石像、やっぱりただの作り物ではないようですわ」

「え?」

「人間が作ったにしては懲りすぎていますし、モンスターがこんなものを作れるわけがありませんし。もしかしたら……」

「もしかしたら……?」

「これ、何かの封印じゃないかしら」

「………………」

「もちろん確証はありませんわ。これを発見したのがわたくし達が最初、ということはまずないでしょうし」

「そりゃそうだろうな。結構分かりやすいし」

「ええ。みなさんただの石像だと思って眺めていたのでしょう。違和感に気づいた人たちもいたのかもしれませんが、確証を持つには至らなかったのでしょうね」

「そりゃそうだろう。どこからどう見ても石像じゃねえか」

「まあ、それは認めますわ。けれどわたくしの勘が妙だと言っているのです」

「女の勘って奴か?」

 それは確かにバカに出来ない。

 意外なところで凄まじさを発揮しするのが女の勘という代物だ。

「この場合は魔法使いとしての勘、ですわね」

「………………」

 うーん、それもバカに出来ないなぁ。

 他の相手ならともかく、アリシャは俺の知る限り最優秀の魔法使いだ。

 もちろん力量だけならそれを上回る人間がいくらでもいるけれど、この年齢でこれだけの能力を発揮できる魔法使いは彼女だけだと断言できる。

 潜在能力だけなら世界最強の一人に数えられるぐらいの才能を秘めているのではないだろうか。

 まあ、あくまでも俺の主観だけれど。

 本人には絶対に言ってやらないけど、俺はアリシャのことを天才だと思っているし。

 そのアリシャが妙だと言うのなら、それは蔑ろにしていいものではない。

「もしもこれが封印なのだとしたら、古代龍の生き残り、ということになりますわよ」

「……それは確かに凄いけど、でもスケールが大きすぎてついていけない」

「もう少しテンションを上げなさいっ! 古代龍ですのよっ! もしもこの封印を解くことが出来たのなら、失われた種族を復活させることが出来るんですのよっ!」

「そりゃそうかもしれないけど、その場合俺たち人間に対して間違いなく牙を剥くと思うぞ。封印を解いた人間をその場で皆殺しにしてもおかしくないんじゃないか?」

「う……それは確かにそうかもしれませんが……」

「だろ?」

「でもこれだけの存在を目にして、放っておくことなど出来ませんわ。もしもこれが封印だとしたら、今後の研究課題として解呪方法を探り出すつもりですわ」

「うーん、危ないと思うけどなぁ」

 ここまで来てこれがただの石像で、その努力は無駄になるからやめておけ、などとは言えない。

 アリシャが魔法使いとしての勘に従って努力をするのなら、それを邪魔することなど出来ない。

 けれどそれでアリシャが命を落とすようなことだけは止めなければならないのが微妙なところだ。

「それで、フェリクスにも調べて欲しいんですの」

「調べるって、解呪方法を?」

「違いますわ。この石像を調べて欲しいんですのよ。同じ魔法使いであるフェリクスなら、何か感じ入るものがあると思いますわ」

「うーん……」

 それはどうかなぁ。

 俺はアリシャほど研究熱心な魔法使いじゃないしなぁ。

 けどまあ、興味がないわけじゃないし、ちょっと感触を探るぐらいなら……

「まあいいけど、あんまりアテにするなよ」

「分かっていますわ」

「………………」

 あっさりと分かられても複雑なんだけど、まあいいか。

 俺は青い石像に触れてみる。

「………………」

 ひんやりと冷たい、ただの魔石に思える。

「っ!?」

 しかししばらく触れてみると、炎の感触がこの手に伝わってくる。

「なっ!?」

 ただの石像ならばそんなことはあり得ない。

 炎なら俺の専門だ。

 誰よりも意志を通わせることが出来る自信があるし、将来的には誰よりも巧く扱える自信もある。

 だから分かる。

 これは炎そのものではない。

 炎のような怒りの意志だ。

 封じられた奥側に眠る果てしない怒り、燃える命、その凄まじさがこの手に伝わってくる。

 これは確かにただの石像じゃない。

 本当に古代龍なのかどうかは定かではないけれど、何かを封じ込めた石であることは確実だ。

 しかも、封印が解かれたらただ事では済まない『何か』だ。

 これはこのままにしておくべきだ。

 遠い未来、もしもこの封印が解かれる刻が来たとしても、その時は十分な準備を整えてから再び封じるか、そして倒すか。

 どちらにしても俺たちが生きている間は大丈夫だろう。

 これはそれほどに強力な封印だ。

 少なくともあと二百年。

 この封印は保つと思われる。

「アリシャ。悪いことは言わない。こいつの封印を解くのはやめた方がいい」

「やっぱり何かを感じたんですのね!?」

 アリシャが興奮した表情で身を乗り出してくる。

 しかし喜んでいる彼女をこれから止めなければならない。

「駄目だ。封印は絶対に解くな。解いたら最後、俺たちが死ぬだけじゃ済まない。この第二層が壊滅するだけじゃなく、下手をすればワールド・エンドを越えて地上にまで乗り込んでくるぞ」

「ちょっと……冗談でしょう? ワールド・エンドの生物は基本的に地上には出てこられないはずですわ」

「それは現代のモンスターだからだろう? もしもこいつが本物の古代龍だとしたら、そんな制限は無いかもしれない。地上にだって古代龍の記録が残っているんだ。それは地上とこのワールド・エンドを自由に行き来できていたということじゃないのか?」

「それは……でも古代龍ですのよっ!? このまま放っておくなんて出来ませんわっ!」

「それはアリシャの好奇心だろう? それだけのことで俺たちや地上を危険に晒す気か?」

「………………」

「このことは忘れろ。少なくとも、気づいたのは俺たちだけのはずだ。他の誰かもここにやってきたのかもしれないが、誰も確信はしていない。確信していたならこんな状態で放置されている訳がないからな」

 むしろ気づいたアリシャの才能に驚くべきだ。

 俺が気づけたのは炎の意志を感じ取れたから、というのもある。

 どんなものでも、それが炎を秘めしものならば俺は感じ取ることが出来る。

 だから俺がこれに気づけたのは偶然であり、アリシャが気づけたのは純粋な才能だ。

 そういう意味では魔法使いとしての才能はアリシャの方が遙かに上回っているのかもしれない。

 ま、当然か。

 戦闘の一手段として学んでいる俺と違って、アリシャは魔法一筋なのだから。

 これで力量が同じだったら酷い話になってしまう。

「でも……」

 せっかくの古代龍を前にして、諦めきれないアリシャ。

 気持ちは分かるけど、それでもこいつを解放させるわけにはいかないんだ。

「アリシャ。頼むから聞き分けてくれ」

「………………」

 アリシャは頭のいい女の子だ。

 ここで我を通すことがどれだけ周りにとって迷惑を撒き散らすか、それだけではなく世界に災厄をもたらすことになるか、ちゃんと理解できるはずだ。

「分かり……ましたわ……」

 アリシャは悔しそうに頷いた。

 きちんと理解してくれたのだろう。

「少なくとも、わたくしが古代龍を圧倒できるだけの力を手にするまでは自粛しますわ」

「………………」

 諦めていなかった。

 ちっとも諦めてなんかいなかった。

 むしろやる気を漲らせていた。

 封印を解くことで危険があるのなら、その危険を自分で押さえ込めるようになればいい、と考えたようだ。

 それにしても個人が古代龍を圧倒するだけの力を身につけるなんていう目標を掲げるなんて、とんでもない身の程知らずだなぁ。

 ローゼだって古代龍に勝てるかどうか怪しいというのに……

 この意識の高さこそがアリシャの長所なのかもしれないが、それにしたってちょっとドン引きだぞ。

 確かにアリシャは才能の塊であり、いつかは不可能ではないと思わされる可能性があるけれど、それにしたって……

 いや、まあいいか。

 少なくとも当面の危機は去ったと考えれば。

「うん。まあ……頑張れ……」

 声がやや引き攣っていたのは仕方がない。

 無理だよ出来っこない、とか否定するよりもマシだと思って欲しい。

「それならばもう少し調べさせてもらいますわ。少しでも多くの情報を持って帰らなければ」

「はいはい。好きにしてくれ……」

 こうなったアリシャは止められない。

 俺は彼女の為に場所を譲ろうと、石像から手を離そうとするのだが……

「え……!?」

 離れない!?

 まるで接着剤でくっつけたように手が張り付いている。

「くっ!」

 いくら力を入れても離れない。

 俺の手は石にはりついたままだ。

「ど、どうなってるんだ……!?」

「フェリクス? どうしたんですの?」

 俺の異変に気づいたアリシャが怪訝そうに首を傾げる。

「手が離れないんだ!」

「手が!? 一体どうして」

「分からない。でも、これはやばいぞ!」

「やばいって、何が……」

「分からないってば! とにかく危ないから離れろっ!」

「無茶言わないで! 放っておけるわけがないでしょうっ!」

 俺の手を掴んでなんとか石から引き離そうとするのだが、如何せんか弱い少女の力だ。

 少なくとも助けにはならない。

 彼女は魔法使いであって前衛戦士ではない。

 その腕力はかなり弱々しい。

 それでも俺のことを心配して腕を放さない。

 その気持ちは嬉しいが、このままにしておくわけにもいかない。

「ちょっと……え? 待てよ、まさか……」

「どうしましたの?」

「こいつ……俺の魔力を吸ってる……」

「え?」

 手のひらから出ていくのは俺の魔力だった。

 この石像に、そこに封印されている古代龍に吸収されているのだ。

 俺が感じ取った炎の意志。

 そして俺自身が持つ炎の魂。

 共有できる炎を共鳴させて、己を解放する力に変換している。

 つまり封印を解かれるまでもなく、こいつは自分自身を解放しようとしているのだ。

「不味い……こいつ、復活するぞ!!」

「なんですってっ!?」

 アリシャの顔色が変わる。

 真っ青になって狼狽えている。

 それを聞いたヴァル達も同じように青くなった。

「おい……冗談だよな……? 嘘だと言ってくれよフェリクス」

「………………」

 ヴァルの声が掠れているし、リオは恐怖で声も出ないようだ。

 二人ともその場に立ち尽くすことしか出来ない。

「あいにくと嘘じゃない。こいつは復活する。だから逃げろ! ここから少しでも遠くにっ!」

 ここにいたら間違いなく復活したこいつに殺される!

 一刻も早くアリシャ達を逃がさなければならない。

「フェリクスも一緒ですわよね!?」

「無理だ。こいつが俺を離してくれない限り」

 こいつは自分を復活させる為に俺を必要としている。

 俺の炎を必要としているのだ。

 だからこそ俺を絶対に離してくれない。

 俺はこいつの束縛から逃げられない。

 だからこそ仲間だけでも逃がしておきたい。

 こうなった以上、俺の命は諦めるしかない。

 けど、仲間の命ぐらいは護りたい。

 こいつが復活して、少しの間だけでも足止め……は無理だろうな。

 だから逃げてもらうのが一番いい。

「いいから早く逃げろよっ! マジで死ぬぞっ!」

「嫌ですわっ!」

「おい、フェリクス! 何とかして離れられないのかよっ!?」

「……腕を切り落とせばなんとかなる、かも」

「っ!!」

「それでも逃げられる保証なんてないんだ。だからお前等だけでも逃げろっ!」

「嫌だっ! 仲間を見捨てて逃げるなんて戦士失格じゃねえかっ!」

「馬鹿野郎っ! プライドの為に命を捨てる気かっ!」

 勝てる相手ではないことは分かり切っている。

 だったら一人を切り捨ててみんなを生かす道を選ぶべきだ。

 それだって立派な戦士のあり方なのに。

「絶対嫌ですっ! フェリクスが死んじゃったら私は大切な友達を失っちゃうんですっ! 一番最初に私を受け入れてくれた、一番大切な友達を失っちゃうんですっ! そんなことになるぐらいなら死んだ方がマシですっ!」

「リオ……」

 ヴァルはプライドと友情が邪魔をして逃げてくれない。

 リオは俺自身を失うことに耐えられない。

 そしてアリシャも逃げてくれない。

 畜生……

 ここでみんな死ぬのか……?

 こんなところでみんなを死なせるのか……?

そろそろエンディングが近づいてきましたよ……

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