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アカデミーアへようこそ

第二話です。

バカな親友をゲットします。

王道?

 学園都市アカデミーア。

 イーグレッド大陸南端部にある地域で、国そのものがほとんど学園施設になっている。

 厳密にはアカデミーア共和国なのだが、一般には学園都市アカデミーアとして広く知られている。

 グリオザーク王国シルヴィス領から馬を乗り継いで三日。

 俺はようやくアカデミーアにたどり着いた。

 学園都市内に入ると、同じ年頃の子供が数多くうろついている。

 恐らく俺と同じ新入生だろう。

 大きな荷物を抱えて、キラキラした瞳をしながら学園寮を目指している。

 俺も同じように寮を目指した。


 看板には『シロツメ寮』と書かれている。

 学園から届いた案内には、ここが俺の入る寮ということになっている。

「すみません。今日からここに入る予定のフェリクス・アインハルトですけど……」

 寮の受付らしき人に声をかけてみる。

 茶色い髪をひっつめにした、恰幅のいいおばさんだった。

「新入生の子ね?」

「はい。これが学生証になります」

 懐から出した学生証を提示すると、受付のおばさんはにっこりと頷いた。

「ようこそシロツメ寮へ。この寮の管理人をしているスーシャ・クエンティと言います。分からないことがあったら何でも訊いてね」

「ありがとうございます。さっそくですが部屋に入りたいのですが」

「そうね。貴方の部屋はええと……」

 がさごそと書類を探るクエンティさん。

 俺の名前を見つけたらしく、今度は鍵を渡してくれた。

「四階のD-四十五番の部屋よ」

 鍵のナンバーにはD-四十五と書かれている。

 そこが俺の部屋なのだろう。

「ごめんなさいね。案内してあげられればいいのだけれど、今日は新入生がひっきりなしに来るからここを離れられないのよ。悪いけど構内図を確認して探してもらえるかしら?」

 クエンティさんは申し訳なさそうに言う。

「分かりました。自分で探してみますね」 

 ただでさえ忙しそうなクエンティさんに無茶は言えない。

 そこまで広い寮ではないし、構内図を見ればすぐに分かるだろうと思って了承しておいた。


 早速構内図を確認する。

「ふーん。なるほど……」

 自分の部屋を確認すると、四階にあるようだった。

 この重たい荷物を持って階段を上るのは少々面倒だけど、まあ仕方がない。

 ついでに食堂や浴室の位置も確認しておく。

 娯楽室まであるのはちょっと驚いた。

「よし。大体分かったぞ」

 シロツメ寮の構造は大体把握した。

 あとは動いて実際に確認するのがいいだろう。

 とりあえず部屋に向かうとしよう。


「D-四十五号室。ここだな」

 しっかりとした木造の扉に鍵を差し込む。

 部屋の中に入ると、最低限の家具だけが揃えてあった。

 ベッドと勉強机、クローゼットと棚。

 もちろん棚には何も置かれていないし、クローゼットも空だ。

 これから少しずつ物を増やしていくことになるだろう。

 あまり広くはないが、個室であることは十分に魅力的だ。

 誰かと同室になると色々と気遣わなければならなかったり、言葉は悪いけど警戒しなければならない場合もあるからこれは非常に助かる。

 荷物を取り出してから必要な場所に収めて、ようやく一息ついた。

「ふぅ……」

 家族と離れて三日。

 なんだかもっと昔のことのように思えて、ちょっとだけ呆れた。

 ホームシックになるのが早すぎる。

 しかしこの状況にもすぐに慣れるだろう。

 ローゼがいないことに慣れる。

 まずはそれが第一歩だ。

「大丈夫。寂しくなんかないぞ」

 自分に言い聞かせる言葉は、自分でも分かるぐらい頼りなかった。

 本当は寂しいと思っている。

 でもそれは口には出さない。

 絶対に、出さない。

 俺はこれから一人で強くなるんだ。

 だからしばらくローゼのことは考えない。

 そう決めたんだ。


 夕食の時間までは部屋でごろごろしておくことにした。

 外に出て探検みたいなことをしてみたいとも思ったけど、ホームシックの念が強すぎてそんな気分ではなかったのだ。

 もちろん気分転換という意味では有用だったかもしれないけど、寂しそうにしているところを他の生徒に見られたくなかった。

 ……つまらない意地を張ってるだけってのは分かってるけどさ。

 でも男は意地を張るイキモノなのだ。

 それがどんなにつまらない意地であっても、張ってしまうのが男というイキモノなのだ。

 ……ということにしておこう。


 夕食の時間になったので今度は食堂に降りる。

 食堂はセルフサービスになっているので自分でメニューを取ってからテーブルに着くことになる。

 俺も一人分のメニューを取ってから適当に空いている席に着いた。

 小さなテーブルがいくつも並べられているので、俺は誰もいない席についておいた。

 まだ一緒に食べるような友達はいないので、こうするしかなかったのだ。

 上級生や他の生徒はそれぞれでまとまっているようで、このまま一人で食べ続けるのはちょっと気まずいかもしれないと思った。

 まあそのうち友達も出来るだろう、と気楽に構えているが。

「おーい。ここ空いてるか?」

 そして気楽に構えた矢先に声をかけられてしまう。

「空いてるけど」

「そっか。座っていいか?」

「いいよ」

 どうやら俺と同じ新入生らしい。

 青い髪に赤い瞳の元気が良さそうな少年だ。

「新入生、だよな?」

「そうだよ。そっちもだろ?」

「おう。ヴァルクリス・エーデルハイトだ。よろしくなー」

「俺はフェリクス・アインハルト。こちらこそよろしく、ヴァルクリス」

「長いからヴァルでいいぜ」

「じゃあヴァルで」

「おう。フェリクス」

 俺の名前はこのままが一番呼びやすいらしい。

 そして食事が開始される。

 食事の合間に上級生の寮長が挨拶をしたりしていたが、空腹欠食児童にはあまり頭に入っていなかった。

 まあ要するにここの寮生として恥ずかしくない行動を取れとか、分からないことがあればいつでも質問するようにとか、そういうことを言っていたような気がする。

 もちろん俺達も話半分の耳すりぬけ状態で食事に専念している。

 寮長には悪いけど、食事時にこんな堅苦しい話をする方が酷い。

「ここの食事うまいなー」

 フライドチキンを頬張りながら言うヴァル。

「うん。当たりだ」

 俺も同じようにフライドチキンを頬張る。

 とても美味しい。

 伯爵家の豪華な食事に慣れている俺が美味しいと感じるのだから、ここの料理人は本当に腕のいい人なのだろう。

 決して贅沢な食材を使っているわけではないのに、味はとてもいい。

 これは純粋に料理人の腕を評価するべきだ。

「フェリクスは何を専攻するつもりなんだ?」

 何を目指すつもりなのか、何を勉強するつもりなのか、そんなことをヴァルは質問してくる。

 やっぱり興味があるのだろう。

 俺もヴァルが何を目指しているのか興味があるし。

「俺は剣術と体術と魔法と隠密だな」

「……多いな。入学してすぐにそれだけのスキルを習得するのはかなり大変じゃないか?」

「まあそうだけど。万能型を目指してるからさ。出来そうなことには何でも手を出してみたいんだ」

「ふうん。確かにフェリクスは器用そうだもんな」

「そう?」

「うん。器用貧乏に見える」

「……それ、褒めてないよな?」

「あれ? 何でも出来て器用なヤツってそう言うんじゃなかったっけ?」

「……その認識にはかなり問題があると思う」

 器用と器用貧乏は似て非なるものだ。

 しかしあれこれ手を出してどれもが中途半端になるかもしれないというリスクを考えるとあながち間違った認識ではないというのが痛いところだったりする。

 もちろん、認めるつもりはないけれど。

「でもすげーじゃん。それだけ何でも出来るっていうのはさ」

「まあまだ出来るわけじゃなくてこれから学ぶんだけどね」

「そっか。でもすげーよ。俺はそこまで手広くやれねーもん」

「ヴァルは何を専攻するんだ?」

「もちろん剣術一筋っ!」

 がしっと拳を握り締めて力説するヴァル。

 剣一本で生きていくことを決意した戦士のような意気込みだった。

「そっか。じゃあ剣術の授業で一緒になるだろうな」

「おう。その時は練習相手頼むぜ」

「いいけど、俺結構強いよ」

 掛け値無しに本当のことだ。

 少なくとも同年代の子供に負けるほど弱くはない。

 何故なら師匠がすごいから。

 あの銀閃の騎士直々のスパルタ教育を受け続けてきたのだ。

 ローゼには遠く及ばないものの、同年代の子供ならば圧倒的有利に立つことが出来るだろう……と自分では思っている。

「ほほーう。器用貧乏が言うじゃないか」

「器用貧乏言うなっ!」

「じゃあ模擬戦が始まったら早速戦おうぜ。その言葉が本当かどうか試してやる」

「いいとも。俺が勝ったら器用貧乏は取り消せ」

「いいぜ。取り消してやる」

 バチバチと火花を散らせる俺達。

 ……うーむ。

 初日から友達が出来たというよりはライバルもしくは悪友に絡まれてしまったという感じになってしまったなぁ。

 なかなか刺激的な学園生活ではあるけれど。

 ともあれ、こんな感じで俺はヴァルクリス・エーデルハイトと友人になるのだった。

というわけでバカな親友ゲットです。

まだバカっぽくないけど、これからバカっぽくなります。

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