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ヤンデレ系小動物

 というわけで軽食屋に移動。

 サンドイッチやパスタなど軽い物を注文してから食事にする。

「なんだか買い物しないうちから疲れたよ、オレは」

 サンドイッチをぱくつきながらげっそりしたように言うヴァル。

 気持ちはよく分かるけどね。

「ごめんなさい~」

「まったく。そんなことでは恋人が出来た時に苦労しますわよ。女の子の買い物に付き合いきれない甲斐性なしの男なんて、すぐに愛想を尽かされるに決まってますわ」

 申し訳なさそうに謝るリオと、ふんぞり返るアリシャ。

 実に対照的な二人だが、一般ではリオの方が少数派なのだろう。

「げ……ってことはもし将来オレに彼女が出来たらこういうのに付き合わされるってことか?」

 勘弁してくれよ……と眉をハの字にするヴァル。

 それは『彼女』次第だと思うけどなぁ。

「ふふふ。覚悟することですわね」

 ニヤリと不敵に微笑むアリシャ。

 うーん、悪女っぽい。

 いや、高飛車お嬢様か?

 まあこの二人がくっつくことはないだろうけど。

「わたくしたちの買い物は一通り済みましたし、あとはフェリクスたちの買い物に付き合ってさしあげますわよ。剣を買うのでしょう?」

「まあな」

「おうよ。しっかりとした真剣を買わないとな」

「剣ぐらいはてっきり家から持ってきたと思っていましたわ」

「実力に見合ったものを買え、というのが親父たちの意見だし。オレも自分で選ぶ方が楽しい。レベルが上がれば装備を更新していく楽しみもあるし」

「そうだなぁ。俺は持たせようとしてくれたけど、あんまりにも立派な剣だったから遠慮しておいたんだ。実力に見合わないものに振り回されるのは怖いし」

 家を出て行く時にローゼが自分の剣のコレクションから好きな物を選んでいいと言われたけど、無理無理。

 俺の実力じゃ聖剣だの魔剣だの名のある刀匠が鍛えた名剣だの扱えるわけがねえしっ!

 それに剣の力で強くなっても意味がないんだ。

 俺自自身が強くならないとな。

 いつかローゼに勝つ為に。

「心構えは立派ですけど、ワールド・エンドに潜るつもりならそれなりの剣を選んだ方がいいですわよ」

「分かってるって。ちゃんと今の自分の実力で扱える最善の武器を選ぶつもりだ」

「そのとーり」

「それならいいですけど」


 そして今度は武器屋に移動。

 俺たちの剣を選ぶべく物色を開始する。

「色々ありますのねぇ」

「ほえ~。あ、この小太刀素敵です~」

「あら、リオは小太刀も扱うんですの?」

「扱いますよ~。忍者ですから~」

 小太刀を手にとって嬉しそうにはにかむリオ。

 笑顔は可愛いけど持っている物が物騒だよなぁ。

「忍者なら手裏剣とかでもいいのではなくて?」

「確かに毒を塗り込むにはそっちの方が便利ですけど……」

「毒を塗り込むのが前提ですの?」

「あ、つい……」

「恐ろしい『つい』ですわね……」

 本当に恐ろしいよ。

 サラっと言っちゃうあたりが特に。

 こういうところは本当にメディシスの血筋だな。

 本人に悪気がないのが一番怖い。

「でも小太刀なら自分の手に感触が残るじゃないですか。モンスター相手にとどめを刺しきれなくても、小太刀を刺した状態からさらに毒を仕掛けることも出来ますし~」

「………………」

「………………」

「………………」

 嬉しそうに言うリオに一同沈黙。

 はにかみながら言うのが怖いよ。

 この子マジで怖いよ……。

 小動物系だと思ってたけど、実はヤンデレ系なんじゃないのか?

 表情に暗さや悪意がないのが一番怖いよ!

 相手に気付かれないような卑怯な毒殺は嫌いでも、戦闘手段としての毒利用は大好きなのかもしれない。

 もしかしたらリオに浄化術式を施した魔法使いの言葉が影響しているのかもしれないけれど。

 あ、俺も似たようなこと言ったか……

 じゃあ俺の所為でもあるわけ?

 うわ、微妙だなぁ……

「あれ? どうかしました?」

 小太刀を持ったままきょとんとしているリオ。

 自分の危うさにまったく気づいていないらしい。

「な、何でもありませんわ……」

 アリシャが気まずそうに視線を逸らす。

「?」

 どうして視線を逸らされるのか、リオには全く分かっていない。

「……オレ、リオちゃんからかうのやめようかな」

「その方が賢明だと思うぞ」

 何かにつけてリオをわんこ扱いしていたヴァルも心底背筋が凍ったらしい。

 これからは行動を自粛する……かも?

 自覚のないヤンデレっぷりを自覚させるのは尚更危険な気がして、俺たちは口を噤んだ。

 リオは結局小太刀を購入することにしたらしい。

 他にも投擲武器をいくつか物色している。

 忍者らしい装備だとは思うけど、あれら全てに毒が塗られるかと思うとガクブルである。

「フェリクスは? そろそろ何にするか決めたか?」

「うーん。ちょっと悩み中」

「剣の種類、か?」

「うん。両手剣か、それとも片手剣か……」

「直剣か曲刀かは?」

「それは直剣かな。扱い慣れてるし」

「だよな。曲がってると間合いが掴みにくい」

 ああでもないこうでもないと言い合う俺たち。

 自分の命を預ける相棒だからこそ、ここはこだわりたい。

 いろいろな剣を見て回って、そして決めた。

「よし。オレはこれにする」

 ヴァルが手に取ったのは大きめの両手用直剣だった。

 攻撃に重さを乗せる為のものだ。

「攻撃力重視か」

「おうよ。速度よりも一撃必殺!」

「ふうん。じゃあ俺はこっちかな」

 俺が手にしたのは片手用直剣。

 俺の筋力にはちょうどいい重さで手にしっくりとくる。

 これならば思い通りに振るうことが出来る。

「片手剣ってことは盾も持つのか?」

 片手剣を持つ剣士はもう片方の手で盾を持つのがセオリーだ。

「いや。右手で剣を、左手で魔法を使うつもりだよ」

「おお、魔法剣士本領発揮スタイルか」

「まあな~」

 それに防御魔法もあるから基本的に盾は必要ない。

 いつも持ち歩かなければならない重たい盾なんて邪魔だし。

 そう考えると魔法って便利だよな。

 というわけでこれに決定。

 名前は『クラウドソード』。

 剣にはそれぞれ鍛冶師がつけた名前が存在する。

 打ち込む剣一本一本に名前とともに愛情を込めているのだろう。

 クラウドソード。

 それが俺の相棒の名前。

 ヴァルの剣は『ダーク・シリウス』。

 女性鍛冶師の作品なだけあってそれっぽい名前がついている。


 こうして俺たちは自分の武器を手に入れたのだった。

 あとは小物や消耗品、回復薬などを一通り揃える。

「こんなものかな……」

「だな。っていうかオレもうすっからかんなんだけど……」

「俺も……」

「私もです~」

 初めての装備品ショッピングということではしゃぎすぎた……もとい使いすぎた。

 気がつけば財布の中身がとてもとても寂しいことになっている。

 真冬の吹雪並に寒々しい有様だ。

「まったく情けない。手持ちのお金ぐらい計算して買い物をしなさい」

 一人だけ呆れた視線を向けてくるアリシャ。

 腕を組んでふん、と鼻を鳴らしている。

 財布の中身が寒くなる……などという事態とは無縁のちょー大金持ち。

 ちなみに一番買い込んでいたのはアリシャなのだが……

 それもかなり大量に。

 手持ちの荷物が少ないように見えるのは、彼女が特殊な鞄を持っているからだ。

『アッティカーナの魔法鞄』という特殊なもので、見た目はハンドバック程度なのに、五百キロまでの荷物を詰め込むことが出来るとんでもない鞄だ。

 鞄の中は専用の亜空間に繋がっており、鞄に取り憑いている妖精アッティカーナが所有者が望む荷物を取り出してくれる。

 一般家庭の引っ越しならばこの鞄一つで荷物が収まってしまうというとんでもない代物だ。

 ちなみに鞄の大きさに関係なく荷物を受け入れてくれる、小石だろうとソファだろうと食器棚だろうと何でも詰め込むことが出来る。

 見た目通りの鞄ではない、魔法の代物ならではの機能だ。

 しかし見た目的にはかなり怖い時もある。

 腰にかかっているぐらいの大きさでしかないハンドバッグからいきなり食器棚がにゅっと出てきたら普通にビビるし。

「その鞄、便利だよなぁ」

「実家を出る時に持ってきたものですわ。お陰で家具なども一式入りますから、余計な人員を連れてくることなく入寮をすませることが出来ましたし」

「って、家具まで自前かよ!?」

「このわたくしが使うのだから当然でしょう」

「………………」

 そんな当然は大貴族様だけだと思うぞ。

「でもワールド・エンドに潜るときはその鞄を利用させてもらいたいな。持っていける荷物が段違いに増える」

「……まあいいですけど。貴族たるものその程度のことでケチケチするつもりはありませんわ」

「金持ちってケチが多いとも聞くけどな。アリシャが太っ腹で助かるよ」

「わたくしの腹部は太くありませんわっ!」

「いや……そういう意味ではなくて……」

「とにかくその物言いはおやめなさいっ!」

「……はい。ではなんて言えばいいんだ?」

「……そうですわね。気前がいいとか、そういう表現でお願いしますわ」

「りょーかい。気前がいい友達で助かるよ」

 そうか。

 誉め言葉であっても『太』と『腹』が入るとまずいんだな……

 女の子は難しい生き物だ。

 ともあれ、俺たちの準備はこうして順調に進むのだった。

わんこがヤンデレにっ!!

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