女の子の買い物は恐ろしい……
そして一週間後、俺たちは買い物にやってきたのだが……
「………………」
「………………」
自分たちの買い物をそっちのけにせざるを得ない状況で、俺たちは呆然としている。
呆然として、そして女性陣の様子を窺っている。
……いや、好きで窺っているわけではないのだが。
「ほら、見てくださいよアリシャさん! 妖精輪ですよ。すっごく可愛いです」
「あら、こちらの雷鳴石も素敵ですわよ。装備すれば雷属性の魔法の威力を二割増しにしてくれるみたいですわ」
「私魔法使えませんし~」
「……妖精輪は魔力増強のアイテムでしょう?」
「それはそうですけど、でも可愛いじゃないですか」
「そう思うなら魔法の勉強もしてみたら? その気があるならわたくしが教えてあげますわよ」
「……アリシャさんが先生、ですか? なんか怖そう」
「何か言いまして?」
「へうっ! な、なにも言ってないですぅっ!」
「無理に魔法を学ばなくても、魔法具の効果を引き上げてくれるという特性もあるようですし、どうしても欲しいのなら常時発動型の魔法具を持ってみてはいかが?」
「魔法具、ですか。でもどういうのを持てばいいのか……」
「そうですわね。例えばあそこにある風精のブーツなどはどうかしら? 履くだけで速度が一割上昇するわ。妖精輪との相性もいいでしょうから、併用すれば二割増しになるわよ。忍者として素早く動く必要があるリオにはもってこいじゃないかしら?」
「あ、いいですねっ! それ!」
……と、リオとアリシャが大はしゃぎなのだ。
さっきから二人はこの商店街をぐるぐる回っている。
……かれこれ三時間ほど。
「女の子の買い物って……」
「なんでこんなに時間がかかるんだ……?」
まさか二人を置いて行くわけにもいかず、俺たちは呆然としながらついてきている。
しかも二人は選ぶわけではなく、あれこれと見て回っては楽しそうにおしゃべりしているのだ。
買うかしゃべるかどっちかにしろよ、と言いたくなる。
「どれでもいいからさっさと選べばいいのに……」
心底うんざりした表情でぼやくヴァル。
それについては激しく同感だ。
以前ローゼの買い物に付き合ったことがあるけれど、こんなに時間はかからなかったぞ。
店に入ってすぐに良さげな物を決めてぽんと購入した。
店に滞在した時間は五分ぐらいだった。
ローゼが普通なのか、それともあの二人が普通なのか、俺にはさっぱり分からない。
後者だったらすっごく嫌だなぁ……と思うぐらいだけど、物事は大抵嫌な方が大当たりなんだよなぁ。
「じゃあこの風精のブーツと妖精輪にします」
「ではわたくしは雷鳴石と、あとはこのあたりですわね」
リオはブーツと指輪を、そしてアリシャは雷鳴石とそして……
「ええっ!? そんなに買うんですかっ!?」
色取り通りの宝石を一掴み……十個ぐらい取っている。
しかもどれも本物の宝石で、お値段は大変よろしい品物だ。
アクセサリー用ではなく魔法具用のアイテムなので、扱いはぞんざいになっているが、曲がりなりにも宝石なので安い買い物ではない。
「準備は万全に、というのが基本ですわよ。宝石には強力な魔法を込めることが出来るのよ。当日の魔力消費を抑える為にも、ここで予備の魔法をストックしておくのは無駄じゃないと判断しますわ」
「……確かにそうかもしれませんけど、魔力消費よりも金銭消費の方が心配ですぅ」
あわあわしながら涙目になるリオ。
無理もない。
あれを全部購入したら軽く一千万を越えるぞ。
魔力は休めば回復するけど、財布の中身はそう簡単に回復しない。
というか基本的には回復しない。
お嬢様の金銭感覚って怖い……
彼女にとってははした金でも、俺たちにとっては十年近く遊んで暮らせる大金だぞ。
「問題ありませんわ。金で買える安全ならばわたくしは躊躇しません」
「それは確かに正しい意見ですけど……」
物には限度がある……と言ったところで無駄だろう。
金のある人間にとってアリシャの意見は間違いなく正論なのだから。
リオは自分の財布からかなりの部分を費やして風精のブーツと妖精輪を購入し、アリシャは鞄の中から大量の金貨を出してから宝石各種を購入。
店の人がぎょっとしたのは言うまでもない。
というか大量の金貨って……
鞄そのものが財布じゃねえか……
「お待たせしました~」
「こちらの必要な物はあらかた購入しましたわ。次は貴方たちの買い物に移りましょうか」
ほくほく顔で戻ってくる少女二人。
「……それよりも先に昼飯にしようぜ。腹ぺこだよ」
「っていうかとっくに昼過ぎじゃねえか」
俺の提案にヴァルもぼやきがちに同意する。
「ご、ごめんなさい~。二人をお待たせしたまま放っておいちゃって……」
リオだけが恐縮そうに肩を縮めているが、アリシャの方はふふん、と開き直っている。
「女の子の買い物に時間がかかるのは当然ですわ。男ならそれぐらい心得ておきなさい」
「やっぱりそうなのか?」
「見て回るだけで楽しい気分になれるのが女の子よ。いつか恋人が出来たら嫌でも理解できますわよ」
「うーん……俺の知っている女の子は手早く買い物を済ませる人だったからなぁ」
「……誰ですの?」
「俺の姉ちゃん」
「……変わったお姉さまですわね」
「まあ、普通でないことは認める」
「けれどアインハルト家に女子がいたとは知りませんでした」
「いや、義理の姉だよ。俺を引き取ってくれた家の嫡子なんだ」
「嫡子って……男子はいないんですの?」
「いない。姉ちゃん一人だし、跡を継いでるけどすっごい有能だぞ」
「それは一度お会いしてみたいですわね」
「………………」
俺は会わせたくないなぁ。
お嬢様の金銭感覚……
一度は経験してみたいものですにゃあ(゜Д゜;)




