ライセンスを取得しよう
「なあ、そろそろライセンスの取得とかしようと思ってるんだけどどうかな?」
俺の部屋でベッドに寝転がりながらそんなことを言ってきたのはヴァルだった。
同じ寮なのでよく部屋に入り浸っている。
逆に俺がヴァルの部屋に遊びに行くことは滅多にないのだけれど。
なんだか他人の部屋って遠慮してしまうんだよな。
……こいつはその手の遠慮とは無縁っぽいけど。
そうでなければ人のベッドでごろごろとくつろぎまくるなんて出来るわけがないし。
「ライセンスって、D級の?」
「もちろん」
以前にも少しだけ触れたが、ライセンスとはワールド・エンドに潜る為の許可証のようなものだ。
D級は最低限のもので、とりあえずの立ち入りを許可する、という程度の資格だ。
広大なワールド・エンドのほんの表面をうろつくことが出来るという資格で、アカデミーアの学生が最初に目指すべきものでもある。
この世界の裏側に足を踏み入れる為に越えなければならない最初の壁。
ローゼが持つSSS級のライセンスとは比べるべくもない、入門レベルの資格だが、目指す人間にとっては最初の勲章になるだろう。
「うーん。まあ確かにそろそろ頃合いかもしれないけどさ」
「だろ? 挑戦してみようぜ」
ライセンスの受験は常時受け付けになっているので、いつでも挑戦できる。
受験料は必要になるが、それもD級なら大した金額ではない。
子供の小遣いでも受けられるレベルだ。
学生たちは自分の実力が十分についたと判断したら挑戦する。
俺もまあ、D級なら受かると思うし。
入学したばかりの頃にA級ライセンス試験に使われる金色の騎士とやり合ったけど、あれは俺の完全敗北だった。
けどまあそこそこにいい勝負をしたという自覚はある。
あれから三ヶ月経過している。
俺も強くなったし、今ならあの金色の騎士ともう少しまともに戦えるのではないかと思う。
D級で使われるのはおそらく最初の適正チェックで使われた赤い騎士よりも数ランク上のものだろう。
それぐらいならば倒せる自信がある。
ヴァルもこの三ヶ月で強くなっている。
他のものにも手を出している俺とは違って、ほとんどの授業を剣術一筋で選択しているので、剣の腕だけなら俺よりも成長速度が速い。
といっても、まだ俺の方が強かったりするけど。
まあそこはスタート地点の違いということで。
それに俺は魔法や体術、隠密の腕だってあげているんだから、総合スキルで言えばヴァルを圧倒的に上回っている。
……もちろんそんなことをヴァルに言えば怒られるので黙っておくけど。
「うん。まあいいっか。挑戦してみよう」
「よっしゃ! じゃあ早速明日申し込もうぜ」
「明日かよっ! 早っ!」
「いいじゃん。ちょうど休みだし」
「そりゃそうだけどなぁ」
思い立ったが早すぎる。
この思い切りの良さとせっかちさがヴァルらしさでもあるけれど、時々このテンションについていけなくなる。
「もちろん一緒に受けるだろ?」
「そりゃいいけど。一緒だと俺は剣士限定か」
「ダメか?」
ヴァルがちょっとだけ気まずそうになる。
こういう部分で俺に遠慮してくれるのがとりあずお救いでもある。
ライセンスには職業別の種類がある。
同じD級でも、剣士、槍使い、斧使い、拳闘士、魔法使い、回復術士、忍者など、スキルに応じた資格が存在する。
ヴァルは当然剣士だが、俺は拳闘士、魔法使い、忍者の資格も選ぶことが出来る。
それらを全て含んだ複合資格というものあるけれど、さすがに一つ一つの試験を受けるのは面倒くさい。
要するにワールド・エンドに行くことが出来ればいいのだから、職業的こだわりは別にない。
だから剣士を選んでも構わない。
「いいよ。俺も剣士で受けることにする」
「よっしゃ! そうこなくっちゃなっ!」
ぱん、と手を打ってはしゃぐヴァル。
友達とこうやって一緒に何かをするのは俺も楽しい。
「リオちゃんやアリシャお嬢様もそろそろ受験することかなぁ?」
ちなみにあれからリオとアリシャのこともヴァルに紹介している。
俺の友達だから必然的に一緒にいる機会も増えて、顔を合わせる機会も増えたというわけだ。
気さくなヴァルはすぐに彼女たちと仲良くなった。
アリシャは同じ貴族でありながらまったく貴族らしくないヴァルに思うところがあるらしいが、それなりに仲良くしていると思う。
ちなみにリオのことはアリシャと同じくわんこ扱いしている。
バカにしているのではなく、リオを見ているとついついそうなってしまうのだそうだ。
まあ気持ちは分かるけど。
リオはわんこなところが可愛いと思う。
餌付けすると喜んで近づいてくるところとか、かなりツボだ。
「どうかな。まあアリシャなら余裕だろうけど、リオはちょっと怪しいな」
「そうなのか? 結構強いだろ、リオちゃん」
「強いよ。確かに強いんだけど……」
リオも隠密の授業ではかなりの実力を発揮している。
毒薬の知識だけではなく、暗器の取り扱いや体術など、戦闘能力はハイレベルの域にある。
お陰で剣術ではヴァル、魔法ではアリシャ、隠密や体術ではリオと、対戦相手に恵まれているので俺もめきめきと実力を伸ばすことが出来ている。
優秀な友達に感謝だ。
しかしリオには大きな欠点がある。
「リオはさ……本番に弱いんだよな……」
高い実力を持っているくせに、必要なときにそれを発揮出来ないのだ。
具体的にはテストの時とか。
緊張しすぎて動揺しすぎていつも失敗してしまう。
「ああ~、なんとなく分かる気がする。リオちゃんって本番だとあわあわおろおろしそうだもんなぁ」
「その通りなんだけどね……」
失敗は致命的なものではなく、挽回が出来るものだから、何度かやり直すとちゃんと成功する。
あのあがり症をどうにか出来ればもっと上のランクを狙えると思うけど、あの性格だと難しいだろう。
「まあ実力はあるんだから何とかなるんじゃないか?」
「だといいけどなぁ。みんな一緒にライセンスを取得できたら、一緒にワールド・エンドに潜ろうぜ。パーティーで冒険したら楽しそうだし」
「確かに楽しそうだ」
ワールド・エンドの探索は命がけだが、少なくともD級ライセンスで行ける場所ならば俺たちでも余裕だ。
俺も、そしてヴァル達もそれが出来るだけの実力を持っている。
「そしてバンバン稼いで装備もいいやつを揃えようぜ」
「そうだな。装備の充実は重要だ」
実力が上がれば装備もレベルが高いモノを要求せざるを得ない。
しかし品質の高さは値段の高さなのだ。
いいものを揃えようと思えば、それに見合う稼ぎを得なければならない。
といってもアリシャは実家からそれなりの金を得られるだろうし、ヴァルだって貴族なんだから金に困ることは無いはずだ。
ちなみに俺は自分で稼がなければならない。
ローゼはそういう部分で俺を甘やかしたりしないし、俺も甘えるつもりはない。
やっぱり自分で稼いでレベルを上げて、それに見合ったものを得るというのが達成感があって好みだ。
「ヴァルもやっぱり装備は実家に頼らず自分で整えたい派?」
「当然だろ。装備も自分の力なんだぜ。だったら自分の力で手に入れないと意味がないだろ? 誰かに与えられた金で手に入れたものを自分の信頼する一部として使いこなすなんて無理だからな」
「なるほど。立派だな」
「それほどでもある」
「……そこは謙遜しろよ」
「しない」
「しないのかよ……」
「謙遜は美徳じゃないっていうのがエーデルハイトの家訓だからな」
「……すげえ家訓だな」
確かに謙遜しすぎるのもどうかと思うが、だからといって自信過剰もどうかと思うぞ。
それから二時間ほど俺は魔法書を読みふけっていたが、その間、ヴァルは俺のベッドで娯楽小説を読みながらごろごろしていただけだった。
……人が勉強しているときにこういうことをされると地味に腹立つな。
というか受験前日とは思えないぐらいの緊張感のなさだった。
いよいよライセンス取得ですにゃ(*^▽^*)




