目立つつもりはなかったけど……
これでも負けず嫌いのフェリクスくんです。
まずはそれぞれの得意魔法を見せてもらうと言われる。
俺が選択するのはもちろん炎の魔法だ。
他の生徒は色々やってみるみたいだけど。
「火炎弾っ!」
「はああああっ! 風刃舞!」
「うおおっ! 地烈柱!」
「裂水陣!」
生徒たちが精一杯の魔法を繰り出す。
あくまでも初級のものもあれば、中程度の魔法を使う生徒もいる。
最初から魔法使いを目指すだけあってある程度のレベルで使えるらしい。
しかし本当に初心者でしかない生徒もいる。
小さな炎を出すのがやっとだったり、わずかな水を出して息切れする生徒もいるのだ。
感じる魔力はそこそこなのだが、それを使いこなす方法がまだ分からないらしい。
もちろん新入生なのだから無理もない。
むしろこれがあるべき姿なのだろう。
魔法とも言えない魔法をなんとか繰り出してへたり込む生徒も多い。
それは俺から見ると微笑ましい光景でもあった。
馬鹿にしているつもりはないけれど、俺にもこんな時代があったなぁと懐かしい気持ちになるのだ。
……同年代の新入生にこんなことを思われていると知ったら彼らにとっても噴飯ものだろうが、そこは勘弁してほしい。
そして最後の方になると金髪美少女の出番だった。
もったいぶったような順番だが、俺と同じようにそれぞれの実力を見極めようとしていたのかもしれない。
ふふん、と不敵な笑いを浮かべると、彼女は足下に魔法陣を出現させる。
その様子にシルルト先生が息を呑む。
他の生徒たちもぽかんとしている。
魔力による光の魔法陣を出現させられるのは高位の魔法使いだけだ。
彼女は新入生の段階でそれを可能にしている。
魔法陣は魔力を増強させ、魔法の威力を引き上げ、そして制御を補助する為のものだ。
魔法陣を出すことこそが魔法使いの最初の目標とも言える。
「雷帝の鎚!」
金髪に紫電を纏わせ、彼女が大きく手を挙げると、巨大な雷の鎚が地上へと突き刺さる。
バチバチと周りに紫電を撒き散らしながら、地上には大きなクレーターが出来上がる。
「………………」
シルルト先生も、そして周囲の生徒も無言でそれを見ている。
言葉が出ないのだろう。
これは明らかに生徒の域を越えている。
一流の魔法使いとして通用するレベルだ。
俺もびっくりした。
まさか同年代でここまで凄い魔法を使える人がいるなんて想像もしていなかった。
彼女はとてもプライドが高い、傲慢にすら見えるお嬢様だが、少なくともその実力は本物だ。
ふふん、と偉そうに小さな胸を張っている彼女はとても誇らしげだった。
やはり女帝の貫禄だな、と改めて思う。
「見事だ、フォンカーベルくん。君の得意属性は既に一極の域に達している。今後は他の属性も負けないぐらい強力にしていくことを目標にするといい」
シルルト先生も感嘆の声を上げながらそう言う。
どうやら彼女の家名はフォンカーベルと言うらしい。
貴族らしい名前だが、どこの家かは分からない。
グリオザークの貴族ならそこそこに詳しいつもりなので、おそらく他の国の貴族なのだろう。
「ありがとうございます、プロフェッサー・シルルト。もちろんわたくしはまだまだ未熟ですから、今後も精進を怠るつもりはありませんわ。プロフェッサーには今後も至らぬ点をご指導いただけたらと思います」
「もちろんだ。だが私の指導はあくまでも全ての生徒に向けられるものだ。君にはレベルが低く感じられるかもしれないが、そこは了承してほしい。もちろん時間が許すなら個別指導も引き受けよう」
「ありがとうございます。頼りにさせていただきますわ」
と、そんなやりとりが行われる。
いかにも貴族らしい受け答えだが、しかし彼女は一人で足りているのだろう。
頼りにさせてもらうと口では言いながらも、自分の力だけで十分だ、その為の努力を続けているのだから、という言葉には出さない心意気を感じる。
ならば何の為にアカデミーアにやってきたのかという話になるが、そこはアカデミーアなりのメリットが存在するのだ。
それは教師ではなく特権によるものだ。
成績優秀な生徒は一般生徒が閲覧を禁止されている禁書を読むことが出来るのだ。
一般に普及されている魔法だけではなく、特殊な魔法を身につけることが出来る。
おそらく彼女の目的はそれだろう。
そしてその禁書で分からないところがあれば質問などもするかもしれない。
禁書の内容は独学で身につけられるほど甘いものではない、と以前ローゼが言っていたし。
俺もいずれは禁書の閲覧を許されるようになりたいものだ。
そして次はいよいよ俺の番だ。
最後になってしまったけれど、まあそれはいい。
最後になりたかった訳ではないが、おかげで面白いものが見られたし。
ちょっとだけ彼女に対する対抗心が芽生えてきた。
目立つつもりはなかったけど、あんなものを見せられた後でしょぼい魔法を出すほど無粋ではない。
禁書の閲覧を目標にするならどのみち目立つぐらいの実力は必要なのだ。
ならば最初から出し惜しみは無しにしよう。
俺が使える最大の魔法。
炎の精霊アストリアの加護を受けたアインハルトの血筋が可能にする最強魔法。
通常の魔法とは系統が違うので、高位魔法であっても魔法陣は必要としない。
身に纏う炎を灼熱に換えて、俺は太陽を作り出す。
「太陽をこの手に。灼熱の星よっ!」
小さな星のような炎が出現する。
威力を制御しているので破壊力は押さえているが、この熱量を解放すれば訓練場だけではなく、周りで見ている生徒やシルルト先生も焼き尽くすほどの威力を秘めている。
「………………」
ぽかん、と口を開いたまま固まっているシルルト先生。
生徒たちも同じように唖然としている。
これは高位魔法という域を越えている、血筋による特殊魔法だ。
学べば身につくという類のものではない。
魔法陣の補助を必要とせずにこれだけのオリジナル魔法を使って見せたのだ。
これでインパクトはフォンカーベルさんよりも上だろう。
しかし魔法の威力に比例して俺の体力も削られているので、すぐにへたり込みそうになる。
それを意志の力で克服して、辛うじて立ったままで耐える。
ここでへたり込んだらいろいろ台無しだし、頑張りどころだろう。
「素晴らしいな、アインハルト君だったか」
「はい」
「フォンカーベル君に負けず劣らずの資質だ。今年の新入生は異例揃いで嬉しくなる」
「ありがとうございます」
「しかしあれだけの高位魔法なのに魔法陣を出現させていなかったが……」
「はい。あれは血統魔法に属するものですから。本来の魔法系統とは理を別にしています」
「なるほど。特殊魔法か。しかし本来の魔法でも炎ならばかなり得意なのではないか?」
「ええ。代わりに水は苦手ですが、炎なら第一線で通じる威力だと自負しています」
「だろうな。次はそれを見せてもらえると嬉しい」
「俺としては苦手な水系を鍛えていきたいですね」
「その心掛けは立派なものだ。今後も精進を重ねたまえ」
「はい」
惜しみない賞賛の言葉を浴びせられて、俺も少しだけ気分が良かった。
自慢するほど天狗にはなれないけど、ちょっとぐらいは自分を誇らしく思ってもいいかもしれない。
「………………」
「う」
しかしシルルト先生や他の生徒たちと違って、彼女だけは俺を睨みつけている。
フォンカーベルさんだ。
怖いなー……
美少女が敵意満々でこちらを睨みつけているのは、それだけで怖い。
「それでは今日の授業はこれで終了だ。各自解散」
そしてシルルト先生は授業終了を告げた。
そしてツンデレちゃんが不機嫌に……(^0^;)




