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こんな夢を観た

こんな夢を観た「根はいい奴の家へ遊びに行く」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/08/03

 友人の木田仁は、お人好しだけれど、時々、妙なマイ・ブームに熱中しだすので困ってしまう。

 他人の趣味に口出しするつもりはないが、周りの者を巻き込むので迷惑をこうむるのだ。

 

 川口駅前の公園の「三連ピラミッド」の前で待っていると、木田が姿を現す。

「やあ、むぅにぃ。こんなところに呼び出しちゃって悪かったね」

「別にいいけど……。今日はどこに行こうっていうの?」わたしは聞いた。

「うん、おいらさ、今、風変わりな人間を友達にするのが面白くってさぁ」

「へ、へえー」もしかしたら、わたしの事もそんなふうに括られているのだろうか。

「でね、この間知り合った人物を、君にも会わせようと思って」

「変な人じゃないよね?」わたしは身構えた。

「いや、だから、変な人なんだってば。それが面白いんじゃないか」

 やだなあ。そもそも、わたしは人見知りをするたちだし。


「大丈夫、大丈夫。ここからすぐそこだから、その人のお宅」と木田。

「そういうことじゃなくって、あのね――。えっ、この近くなのっ?!」わたしは驚いた。だから、川口駅なんかで待ち合わせをしたのか。

 これじゃ、今さら「いやです」なんて言えやしない。

「行こっか」木田はわたしの肩をぽん、と叩いて促す。

「うん……」わたしは後について歩きだすよりなかった。


 駅から10分、20階建てマンションのその足元に、コバンザメのように貼り付いた掘っ立て小屋。

「ここっ、ここだよ、むぅにぃ」木田が指差す。

 呼び鈴を押すと、中からドスドスと足音が聞こえてきた。引き戸がガラッと乱暴に開き、30をちょっと過ぎた辺りの痩せた男が現れる。

「おうっ、木田君か。そっちのお連れさんは友達だな? ささ、上がっとくれ」

 お邪魔します、と断ってわたし達は玄関をくぐった。中はきれいに片付いていたが、息が詰まるというほどではない。それなりに生活感が滲んでいた。


 正面から見た時は、よくある木造平屋だと思ったが、間取りはばかに長細い。玄関、台所、浴室、寝室と、串団子のように一直線なのだ。

 これではまるで「ウナギの寝床」である。そして、実際、入り口から窓まで、帯のように長い水槽が置かれ、黒光りしたパイプそっくりなウナギが寝そべっているのだった。


 一番奥の部屋に通され、モカ色のソファーに掛けるよう勧められた。

「まあ、麦茶でもどうぞ」

 冷たい麦茶を飲みながら、木田がまず口を開く。

「伊能さん、こちらがおいらの古くからの友人で、むぅにぃです。むぅにぃ、こちら伊能さんだよ」

「初めまして」わたしはぺこりと挨拶をした。

「おう、よろしくな、むぅにぃさんよ」伊能も丁寧に頭を下げる。

 それにしても、特徴のない人物だ。七三に分けた髪に面長の顔、目も耳も2つずつで、鼻と口はそれぞれ1つ。どこにでもいそうな男だった。

 誰かに紹介しようとしても、あまりにも特徴がないので悩んでしまう。


 つけっぱなしのテレビは、ニュースを流していた。

「消費税増税は断固として行います。わたしの政治生命に懸けてっ!」そう、総理が熱弁を振るっている。

「なんだと、ドジョウの分際でっ!」いきなり、伊能が立ち上がって叫ぶ。

 木田もわたしもびっくりして、ただ見上げるばかりだ。

「まあまあ、落ち着いて下さいよ。とりあえず、座ったらどうです」木田がなだめる。

「まあ、座ってやらんでもない」そうぶつくさぶちながら、渋々と腰を下ろすのだった。


「続いて、天気予報を――」

 テーブルを勢いよく叩いて立つ伊能。

「当たりもしない天気予報など、やめちまえっ!」そう怒鳴ると、押し入れをパンッと開ける。

 布団の代わりに、古今東西の様々な武具鎧が詰め込まれていた。

 伊能は中世の鉄鎧を引っぱり出すと、ちゃっちゃと装備し始める。

「どうするつもりだろう?」わたしは木田に耳うちをした。木田も、さあと首を傾げる。


 両手でブロード・ソードを構え、伊能は37型液晶テレビの前に立った。

「神のご加護をっ!」そう一声発し、剣を振り下ろす。テレビは真っ二つに叩き割られた。

「あーあ、やっちゃった。結構、高いのに」わたしは木田に言った。

「まあ、彼のテレビだからね、壊そうがどうしようが勝手だけどさ」木田はそう答える。

 伊能は、鉄兜を脱ぎ捨て、玉の汗を手の甲で拭った。

「ふう、いい気味だ。天皇バンザイっ!」

 

「ねえ、木田」わたしは伊能に聞こえないよう、ひそひそと言う。「あの人、相当に短気で危ないよね」

「でもね、根はいい奴なんだよ」

 木田のお人好しにも呆れてしまう。

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