こんな夢を観た「根はいい奴の家へ遊びに行く」
友人の木田仁は、お人好しだけれど、時々、妙なマイ・ブームに熱中しだすので困ってしまう。
他人の趣味に口出しするつもりはないが、周りの者を巻き込むので迷惑をこうむるのだ。
川口駅前の公園の「三連ピラミッド」の前で待っていると、木田が姿を現す。
「やあ、むぅにぃ。こんなところに呼び出しちゃって悪かったね」
「別にいいけど……。今日はどこに行こうっていうの?」わたしは聞いた。
「うん、おいらさ、今、風変わりな人間を友達にするのが面白くってさぁ」
「へ、へえー」もしかしたら、わたしの事もそんなふうに括られているのだろうか。
「でね、この間知り合った人物を、君にも会わせようと思って」
「変な人じゃないよね?」わたしは身構えた。
「いや、だから、変な人なんだってば。それが面白いんじゃないか」
やだなあ。そもそも、わたしは人見知りをするたちだし。
「大丈夫、大丈夫。ここからすぐそこだから、その人のお宅」と木田。
「そういうことじゃなくって、あのね――。えっ、この近くなのっ?!」わたしは驚いた。だから、川口駅なんかで待ち合わせをしたのか。
これじゃ、今さら「いやです」なんて言えやしない。
「行こっか」木田はわたしの肩をぽん、と叩いて促す。
「うん……」わたしは後について歩きだすよりなかった。
駅から10分、20階建てマンションのその足元に、コバンザメのように貼り付いた掘っ立て小屋。
「ここっ、ここだよ、むぅにぃ」木田が指差す。
呼び鈴を押すと、中からドスドスと足音が聞こえてきた。引き戸がガラッと乱暴に開き、30をちょっと過ぎた辺りの痩せた男が現れる。
「おうっ、木田君か。そっちのお連れさんは友達だな? ささ、上がっとくれ」
お邪魔します、と断ってわたし達は玄関をくぐった。中はきれいに片付いていたが、息が詰まるというほどではない。それなりに生活感が滲んでいた。
正面から見た時は、よくある木造平屋だと思ったが、間取りはばかに長細い。玄関、台所、浴室、寝室と、串団子のように一直線なのだ。
これではまるで「ウナギの寝床」である。そして、実際、入り口から窓まで、帯のように長い水槽が置かれ、黒光りしたパイプそっくりなウナギが寝そべっているのだった。
一番奥の部屋に通され、モカ色のソファーに掛けるよう勧められた。
「まあ、麦茶でもどうぞ」
冷たい麦茶を飲みながら、木田がまず口を開く。
「伊能さん、こちらがおいらの古くからの友人で、むぅにぃです。むぅにぃ、こちら伊能さんだよ」
「初めまして」わたしはぺこりと挨拶をした。
「おう、よろしくな、むぅにぃさんよ」伊能も丁寧に頭を下げる。
それにしても、特徴のない人物だ。七三に分けた髪に面長の顔、目も耳も2つずつで、鼻と口はそれぞれ1つ。どこにでもいそうな男だった。
誰かに紹介しようとしても、あまりにも特徴がないので悩んでしまう。
つけっぱなしのテレビは、ニュースを流していた。
「消費税増税は断固として行います。わたしの政治生命に懸けてっ!」そう、総理が熱弁を振るっている。
「なんだと、ドジョウの分際でっ!」いきなり、伊能が立ち上がって叫ぶ。
木田もわたしもびっくりして、ただ見上げるばかりだ。
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。とりあえず、座ったらどうです」木田がなだめる。
「まあ、座ってやらんでもない」そうぶつくさぶちながら、渋々と腰を下ろすのだった。
「続いて、天気予報を――」
テーブルを勢いよく叩いて立つ伊能。
「当たりもしない天気予報など、やめちまえっ!」そう怒鳴ると、押し入れをパンッと開ける。
布団の代わりに、古今東西の様々な武具鎧が詰め込まれていた。
伊能は中世の鉄鎧を引っぱり出すと、ちゃっちゃと装備し始める。
「どうするつもりだろう?」わたしは木田に耳うちをした。木田も、さあと首を傾げる。
両手でブロード・ソードを構え、伊能は37型液晶テレビの前に立った。
「神のご加護をっ!」そう一声発し、剣を振り下ろす。テレビは真っ二つに叩き割られた。
「あーあ、やっちゃった。結構、高いのに」わたしは木田に言った。
「まあ、彼のテレビだからね、壊そうがどうしようが勝手だけどさ」木田はそう答える。
伊能は、鉄兜を脱ぎ捨て、玉の汗を手の甲で拭った。
「ふう、いい気味だ。天皇バンザイっ!」
「ねえ、木田」わたしは伊能に聞こえないよう、ひそひそと言う。「あの人、相当に短気で危ないよね」
「でもね、根はいい奴なんだよ」
木田のお人好しにも呆れてしまう。




