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神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
一章「箱庭にて」
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海賊版にも出来の良いのは存在する

 あれから二年が経過したわけですが、さっぱり出られる気がしません。


 いや、箱庭には随分な変化があった。まず、生命体が俺と野ウサギ以外にも現れるようになった。

 最初は増えても猪や羊だったのが、徐々にファンタジーの定番のゴブリンらしきものも現れ始めたし、中にはいまの俺には到底勝ち目の無さそうなやつだっている。

 そいつらは当面の指針にもなるし、そう考えると悪くないって思えるんだけど、素直には喜べない。だってそいつら、言っちゃうと失敗作なんだもん。


『おわっ、やべぇ! 妙なもん造っちまった!』

『箱庭に放り込んどけ。秀哉が処理してくれる』

『できた……けど、なにかしら、これ? 逆魚人?』

『箱庭に放り込んどけ。秀哉が処理してくれる』

『スライム……だけど想像してたのと違うぞ』

『箱庭に放り込んどけ。秀哉が処理してくれる』

『ペガサスって、尻に角が生えているんだったっけか?』

『箱庭に放り込んどけ。秀哉が処理してくれる』


 そんな会話が月に一度は空から降ってくるのだ。いい加減言いたいことも溜まってきている。

 ペガサスならぬシリサス強いし。レベル40くらいあるんじゃないのってくらいだし!


 あっ、ちなみに今の俺のステータスはこんな感じ。



 ステータス

 名前 天神秀哉アマガミ・シュウヤ

 種族 古代人類エンシェント・ヒューマン

 称号 卑怯者

 Lv 21

 HP 2580/2580

 MP 850/850

 筋力 56

 耐久 80

 敏捷 68

 器用 52

 知性 38

 精神 39

 《スキル》

【分析Ex】【剣術D+】【槍術F+】【投擲C】【体術D】【逃げ足】【自動治癒Ⅰ】【ナイフ捌きE】【解体Ⅲ】【調理Ⅲ】【武器作成Ⅰ】【防具作成Ⅰ】【衣類作成Ⅰ】【裁縫術Ⅰ】【調合Ⅰ】


 装備

 武器 草臥れた木刀

    解体用ナイフ

    シリサスの角槍

 胴 ボロボロの革の鎧

 肩 野ウサギの毛皮のマント

 足 野ウサギの毛皮のブーツ



 さて、この二年間で気付いたのだが、ステータスを上げるのには、なにもレベルにこだわる必要はないようである。

 木刀持って素振りをしていたら筋力が上がったし、走り込みをやっていたら敏捷が上がった。そして相手の攻撃を食らったら、耐久も上がった。もちろん数値はレベルと比べて微々たるものだが、この分だとレベルが高い=強いとは一概に言えないようである。


 ちなみに二年間でレベルが20しか上がっていないとかほざくやつ、実際に木刀だけ持って猪と対峙してみろ。返り討ちにあうから。

 最初の一年は野ウサギしかでなくて、全然レベル上がんないし、出たら出たで、ゴブリンメッチャ獰猛で強いし、猪と羊はゴブリンより強いしで散々だったのだ。称号の『卑怯者』を得た理由も、そこら辺が絡んでいる。


 それにしても、今の俺の装備もひどい。人がいないように思われているが、俺は常に五人の監視を受けているのだ。その中でこの格好というのは、かなり恥ずかしいものがある。

 だが仕方がない。これが俺の限界なのだ。


 一度兄貴に衣類を所望したことがあった。そしたら『自分で作れ』と言われて裁縫セットを投げ込まれる始末。ちなみに木刀の替えを所望したときも似たような反応だった。投げ込まれたのは裁縫セットじゃなく、金床と金槌とペンチだったが。

 それに本当にやばくなったら助けてくれる。それだけでも十分だと考えよう。


 そんな感じで、それなりに楽しくやっている俺の今回の獲物は前方二十メートル先の風上にいる【鉱鎧羊こうがいひつじ】である。

 二年間騙し騙しやっていたわけだが、そろそろ装備が―――とりわけ武器が限界だ。なのでここいらで、新しく作ろうかと思っている。


 【鉱鎧羊】

 ラバルが羊毛の代わりにダイヤモンドがとれないかと実験的に産み出した生命体の失敗作。全身を覆っている鉱物は、武器としても防具としても優秀な素材になる……といいな。


 ラバルさんなにやってるんすか。感謝するけど。

 兄貴に鍛冶セットを寄越されてから、武器の調達方法については、薄々察していたが、肝心の素材がなかった。

 岩壁を掘ろうにも道具がないし、ないない尽くしで困ってた矢先にこれだ。感謝してもしたりない。


 ただあの鎧、正面から行っても返り討ちにあうのは目に見えている。そこで今回は、離れた場所からの投槍で剥き出しの足を負傷させ、その隙に脳髄にナイフの一撃を見舞う事にする。


 完璧な作戦……のはずだ。

 投槍も投擲スキルの補正が働けば、まだこちらに気づいていない羊に当てることは十分可能だ。単純に投げるだけなら、三十メートルは飛ぶのだから。

 ナイフに関しても、解体用とはいえ、兄貴から支給された一品だ。今まで刃毀れ一つしたことがない。羊の頭蓋を割る程度ならば、十分可能なはずである。……木刀を見ると若干の心配が浮かんでくるが。


 呼吸を落ち着かせる。大丈夫、いけるはずだ。

 レベル差も向こうが4高い程度だ。18の時に40越えのシリサスを倒せたのだから、十分に狩猟範囲内なはずだ。


 手汗を拭い、シリサスの角槍―――シリサスの角を木の棒に取り付けただけの代物―――を逆手に握り、呼気の音と共に投擲。

 槍は山なりの軌道を描いて宙を舞い、狙い通りに鉱鎧羊の足に命中する。


「っしゃあ!」


 思い通りに事が運んだのにガッツポーズしながら、ナイフを抜いて、倒足を引きずりながら逃走する羊に駆け寄る。

 敏捷値の補正を受けて瞬く間に羊との距離を詰め、いざ尻尾に手が届くという時になって、目の前で鉱鎧羊が、突如として頭上から降ってきた黒い柱に押し潰される。


 突然の事態に対応できずに勢い余ってその柱に激突し、そのいやに暖かみと弾力のある感触に戸惑いを覚えながらも、数歩下がって見上げてみる。そして絶句する。


「あ……」


 見上げて視界に入ったそれを見た瞬間に俺の脳内を占めたのは、激しい疑問だ。

 なぜ、どうして、コイツがここにいる!?


 ワニの頭部を大きくし、さらに巨大な角を二本生やした頭部。左右三対に並んだ、見た者を本能的に萎縮させる縦長の瞳孔に加えて、僅かに開かれた顎からは、無機物有機物を問わずにズタズタに引き裂けるであろう大牙がびっしりと並んでいる。

 真っ黒な巨大なトカゲの胴体と頭部を繋ぐのは、直径からして俺の背丈よりも大きな蛇の首。その首と胴体の背中側には、頭部のと比べればやや大きさが劣るものの、角が等間隔に生えている。

 強靭な四肢には四本の指があり、その先端には岩だろうが容易くスライスできるであろう、不気味な光を放ちながら緩く湾曲する鋭利な爪。

 背中に生えるのは、その巨躯に相応しい大きさの、禍々しいコウモリの翼が四枚。


 俺はその凶悪なフォルムを持った怪物の事を、よく知っていた。

 そう、あれは忘れもしない、一年前の事。


 ようやく野ウサギ以外の生物として猪と羊が追加された時に、初めて投入された、ファンタジーありきな生命体。


『やばい! 制御に失敗した!』

『どうする蛍! 今すぐに投入するか!?』

『いや、まだニューアースの状態が安定していない。そんな中に投入すれば、すぐに死ぬぞ』

『ならどうする! 箱庭に投入するか!?』

『そしたら秀哉が死ぬでしょ! それよりはここに置いといた方が良いんじゃないの?』

『さっきも言ったとおり、制御に失敗した! 秀哉のレベルが上がるまでこいつをあやしながら作業を進めるのは、はっきり言って面倒だぞ!』

『……構わん、俺が許す。箱庭に投入しろ』

『蛍!』

『問題ないさ。箱庭の一部に隔離結界を張って、その中で飼えば良い。そしていずれは、秀哉に討伐させる』

『分かった、ならそれでいくぞ!』


 そうやって投入されたのがコイツ、《黒滅龍》ティアマントだ。

 出来の悪い海賊製品のような名前をしておきながら、こいつを初めて遠目に見た時、震えが止まらなかった。


 現代人は、危機察知能力が動物の中では圧倒的に劣っているという。それは高度に発達した文明社会の中では、自然界における弱肉強食の摂理が存在しないため、危機察知能力は不要なものとして退化していった為だ。

 そのバリバリの現代人である俺ですら、遠目に見ただけで本能的に恐怖と絶望を感じさせられる存在、それがティアマントだった。


 だが、そのティアマントは、結界に閉じ込められて隔離されているはずだった。

 ティアマントを隔離している結界が、不可視とはいえ確かなものであるのは、この一年間俺が安全かどうかは別にして、無事に狩りができている事からも証明されている。それがなぜ?


『あーあー、テステステス。只今マイクのテスト中。さて弟よ、お前の疑問に答えるとだ。そのティアマントは、意図的に結界から出した』

「なにやってんだてめぇ!」


 思わずぶちギレてしまうが、仕方ないだろう。いくら兄貴のやることでも、限度というものがある。


『おいおい、お前の姿は俺が隠しているとはいっても、声を出せばバレるかもよ?』

「―――!」


 兄貴の警告に、慌てて口を塞ぐ。

 いくらゲーム染みていても、この世界は紛れもない現実で、見守られているとは言っても、俺が死ぬ可能性は十分にあるのだ。そして俺は、まだ死にたくない。


『ていうかさ、お前にも責任の一端があるんだぞ』

「はあ? どういう意味だよ?」

『だってお前、全然魔物倒さないじゃん。そのせいで箱庭の生命体の数が飽和状態になってんだよ。捕食者もいないわけだし』

「兄貴たちがホイホイ増やすからだからだろうが!」

『いや、実のところそっちで繁殖して増える量の方が多かったりするんだよね。お前、巣や集落を襲って全滅させる気配もないし。だから天敵が必要になって』

「それでコイツを? 俺が危ないじゃねえか!」

『大丈夫だって。お前の姿はティアマントには見えないし、数が適度に減ったら元に戻すつもりだから。けど、その後にまた飽和状態になったら、その都度解放するつもりだから、そのつもりでいろよ』


 心底ぶん殴ってやりたかったが、それが叶わないのは分かっているため、どうしようもない。結局、俺はやり場のない怒りを貯めるしかなかった。

 俺にできる事といったら、精々が、コイツがさっさと帰るように積極的に狩りをして、ついでに出てこないようにする事くらいだ。


 その為にも、潰された鉱鎧羊の外殻はしっかりと拾い集めておいた。


 ――称号【ゴミ漁り】を取得しました。


 やかましいわっ!!      

 ティアマント

 BOSSモンスター

 Lv500

 黒滅龍の呼び名を持つモンスター。強靭な鱗に覆われた巨駆はあらゆる環境にも耐え、多種多様で強力無比なブレスと巨体からおりなす物理攻撃に加えて、高度な魔法も自在に操る。

 ちなみに秀哉が遭遇した個体は幼龍体であり成龍体は幼龍体を遥かに上回る巨駆と倍のLv1000を誇る。

 メイキング担当者 ラバル・マッケンシー

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