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神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
一章「箱庭にて」
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新人類の方々は俺が基準らしい

 誤字脱字報告、感想等お待ちしています

 兄貴たちに薄気味悪い笑みで茶菓子を薦められて、それを食べた瞬間意識が遠くなって、目が覚めたら不老にされてどこだか分からない土地に置き去りにされた。現状を説明すると、こんなところか。

 正直、自分でもなに言ってるか分からない。もし誰かに聞かれて通報されても、俺は怒る気にはなれない。そいつの行動は、間違いなく正常だからだ。


 改めて周囲を見渡す。周囲に広がるのは、一面の緑の大地。そして、俺の側に一本だけ生えている、見た事もない果実をつけた木。

 兄貴の影響で、俺はそれなりに植物には詳しい自負があるが、少なくとも俺の知識の中に、あんな果実を作る木は存在しない。

 というか、そもそもこの緑溢れる大地からして不自然だ。だって一年前のあの日に、馬鹿野郎が始めた戦争のせいで、こんな光景は地上から消えてなくなったはずなんだから。


 いや、もう現実逃避はやめよう。俺は兄貴とは比べ物にならないくらい馬鹿だけど、前後の状況と兄貴たちがしていた研究を合わせて考えれば、いくらなんでも現状の予想はできる。


「これが、兄貴が作りたかった世界かよ! そんな世界に俺だけ生き残らせて、どういうつもりだよ! 俺も他の連中と一緒にリセットすればよかったじゃねえかよ! 俺なんかを生き残らせて、これ以上兄貴の手を煩わせろってのかよ!」

『いいや、それは違うぞ』


 天に咆哮したら、返答があった。ていうか、今のは間違いなく兄貴の声だ。


「兄貴ィ! 一体なんのつもりで―――」

『まあ待て、弟よ。聞くより見たほうが早い。ステータスと念じるんだ』


 文句の一つでも言ってやろうかと思った矢先に、意味不明なことを言われる。まあ兄貴の言うことが理解できないのは、いつもの事なんだけど。

 とにかく、こういう時は言われた通りにするのが一番と経験から知っている俺は、言われた通りに「ステータス」と念じる。         



 ステータス

 名前 天神秀哉アマガミ・シュウヤ

 種族 古代人類エンシェント・ヒューマン

 称号 なし

 Lv 1

 HP 100/100

 MP 100/100

 筋力 10

 耐久 10

 敏捷 10

 器用 10

 知性 10

 精神 10

 《スキル》 なし



「低っ!? 俺のステータス低っ!?」


 俺の胸中は、なんでゲームよろしくステータスが出てきたのかという疑問ではなく、自分の数値の低さに対する驚きに満ちていた。


『そんなことはない。その数値はお前を基準に作られたものだからな。お前の実際の数値がなんであろうと10で表示されるし、1辺りの数値はお前の実際の数値の十分の一だ』

「ってことは、実はこれは高かったりするのか?」

『いや、全然低いな。そこいらの一般人の六割程度だ』

「結局低いじゃねえか!」

『ちなみに俺たちが今後生み出す予定の人類の平均値をそれにする予定だ』

「ごめんなさい、新人類の人たち!」


 思わず謝ってしまったが、本題はそこじゃない。


「ってか、兄貴。これは結局なんなんだよ? ここはどこで、なんで俺はここにいるんだ?」

『まあ待て、弟よ。順を追って説明する』


 どうでもいいけど、空から聞こえてくる溜め息って無性にムカつく。ソースは俺。


『俺たちの目的については、お前も知っているだろう?』

「ああ、兄貴たちが神になって、世界をリセットするんだよな」

『そうだ。行きすぎた科学など存在しない世界を、もう一度造るのが目的な訳だが……その世界は科学など存在しない、剣と魔法のファンタジーの世界にしようと思ってな』

「……は?」


 虚をつかれるってのは、こういう事のことを言うんだろうな。俺は実感する。


『実は今まで黙っていたが、兄ちゃんファンタジーの世界に憧れていてな。科学の道を歩んだのも、それを現実のものにしたかったからなんだ』

「知りたくなかったよ、そんなこと!」


 とんでもねえカミングアウトだよ。後世があったなら間違いなく教科書に載ったであろう歴史的人物の動機が、ファンタジーの世界に憧れてだなんて……知る人が知ったら卒倒ものだよ。   


『それで他のやつらに相談したら、メロナのやつ、ステータスを数値化しようとか言い出してな』


 メロナってのは、兄貴と同じ五人の天才の一人のメロナ・ライコバリーさんの事な。日本かぶれの人だったけど、かなり優しく接してもらった記憶がある。


『それで俺もそりゃいいやって思ってな。ほら、実際に数値化すると、相手との実力差が明確に分かりやすいだろ? それに修行するにしても、数値って分かりやすい目安があればスムーズにいくし。だから満場一致で採用された』


 なるほど。これでステータスの謎については判明した。だが肝心の、ここがどこで、なぜ俺がここにいるのかが説明されてない。       


『それで、そこがどこだという話だが……簡単に言えば亜空間だ。今からお前には、その世界でベータテスターをやってもらう』

「……うん、もう驚かない」

『順能力高いな。さすがは俺の弟だ』

「それはいいから、詳しい説明を早くして」


 言われて少し嬉しかったのは内緒だ。あくまで少しだけな?


『当たり前の話だが、いくら俺たちとはいえ、神の真似事は経験はない。だから生命体を造るにしても、事前に入念な調査をする必要があるんだよ。ましてや、俺たちが造るのは、魔法を使う魔物だ。下調べをしてし過ぎという事はない』


 うん、それも分かった。けど、俺がテスターになる意味は?


『その亜空間には、人間は一人だけしか存在できないからな、新人類のアバターがお前というわけだ。ちなみにテスターの役割が終わったら、ステータスはそのままに俺たちが築いた世界に出してやるから、ぶっちゃけチートだな。兄ちゃんチートプレイなファンタジーが大好きでなぁ!』


 知らねえよ、そんなこと! それより、そのテスターが俺である必要性についての説明を早くしてくれ―――!


『とまあ、説明はこれくらいかな。それじゃあ、最初のクエストだ』


 パチンという音が空から響く。すると目の前に、一振りの木刀と野ウサギが現れる。


『この世界は経験値制を導入していてな、簡単に言えば、殺せば殺すほど強くなる。それとは別に熟練度というのもあるんだが……それは今はいいだろう』


 野ウサギはつぶらな瞳でこちらを見ている。繰り返す。野ウサギはつぶらな瞳でこちらを見ている。


『クエストは木刀でそのウサギを倒せ。ちなみにそのウサギ、今日のお前の晩飯な』

「できるかぁぁぁあああああっっ!!」



――――――――――――



 結論、できました。

 そこ、薄情って言うな。こっちだって必死だったんだよ。

 なにせ兄貴が『新しい世界で生きるには非情さが必要だ! 臆すな! 戦え! 自分の手で命を奪うことを肯定するんだ!』とか言いながら俺目掛けて雷を延々と落として来んだぜ? 殺らなきゃ殺られるっつーの。


 つーか兄貴、段々発言が危なくなっていったな。

 最初は『優しさはお前のかけがえのない美点だが、それだけでは生きて行けないぞ!』だったのが、意を決して野ウサギに一撃叩き込んだら『そうだ、その調子だ! その調子で畳み掛けろ! 潰せ! 抉れ! 相手の臓腑をブチ撒けろ!』とか言い出して、危ない宗教やってるのかと思ったぜ。あっ、兄貴が神か。

 最終的にエルナさんの『シャラップ!』とかいう声が打撃音と一緒に聞こえてからピッタリと止んだけど、兄貴生きてるかな?


 まあなんにしても、俺は今は食事中です。命のありがたみを実感しているところです。

 とりあえずそこら辺の石を砕いて石ナイフを作って皮を剥いで、内蔵を取り出して、兄貴の落雷によって生じた火で炙って食べてます。香辛料が欲しい。



 ――スキル【解体Ⅰ】を取得しました。



 今脳内にエルナさんの流暢な日本語ボイスが再生された。どういう意味かは何となくわかるけど、まさかエルナさんまでソッチ側だったとはな……地味にショックです。         


『無事にスキルが得られたようだね。このようにスキルは特定の行動を取ると得られるものが多いから、どんどん試していってね。ちなみにスキルには熟練度っていうのがあって、繰り返し使っていると上位スキルに進化するよ』


 兄貴、どうやら生きてたっぽい。心なしか声に元気がないけど。


『それじゃ、クエストクリアの報酬だ。受け取りたまえ』



 ――スキル【分析Ex】を取得しました。



 ・【分析Ex】

 任意の対象についての情報を、神々のデータバンクにアクセスして得ることができる、分析スキルの最上位形。


 ……うん、この時点で大分チートだ。兄貴は俺に、これ以上何を望む?


『本当は別のスキルにしようかと思ってたんだけど、お前の質問に答えるのもいちいち面倒だし、これでいいかなって』

「適当だなオイ」

『神だし』


 いや待て、その理屈はおかしい。どうでもいいけど。


『……うん、分かった。突然だけど秀哉、いまニューアースの作業行程の第一段階が終了したから、しばらくこっちにはこれないと思う。兄としてアドバイスするなら、木刀の素振りも馬鹿にはできないぞ、くらいだ!』


 その言葉と同時に現れる、大量の野ウサギ。

 ……いや、こいつらをどうしろと!?





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