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神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
二章「グラヴァディカにて」
15/44

古代人類と新世界の生物の違い

気が付いたら一週間近く間が空いてしまいました。

なるべく早めに更新しようとは思っているのですが、私生活がバタバタしていて中々時間が取れず……すいません。

 ステータス

 名前 エレナ=ラドキア・ソルレティア

 種族 白銀幻狼獣人

 称号 自由奔放なる王女

 年齢 ??

 身長 163

 体重 ??

 B: 88

 W: 58

 H: 86

 Lv 502

 HP 13500/13500

 MP 64000/64000

 筋力 268

 耐久 354

 敏捷 961

 器用 812

 知性 1538

 精神 1858

 《スキル》

【神位級氷属性適性】【詠唱破棄】【獣化】【交渉】【算術】【商才】【王者の威厳Ⅲ】【自然魔力回復速度上昇Ⅴ】【凍鉄神の加護】


「おふぅ……」


 何気なくエレナの事を【分析Ex】で見てみたら、衝撃の事実が発覚した。


「突然どうした。なにかあったのか?」


 もう一度、つぶさにエレナの事を観察してみる。

 顔は目元以外を布で覆い隠し、体は布の服の上から厚手の毛皮のジャケットを羽織っていて、サイズが合っていないためにジャケットの裾は下半身まで覆っていて、そのジャケットの下からはボロボロの履き古されたブーツが覗いている。


「……やっぱり奇妙だ」

「私からすれば、先ほどから私の方をジロジロと見ている君の方が奇妙だよ」


 体系は至って普通だ。肩幅ががっちりしている訳でもなければ、手足が取り立てて太い訳でもない。むしろ性別通りらしく、細いくらいだ。


「間違いないな。エレナ、胸に詰め物をしているだろう」

「馬鹿なのか君は!?」

「うおっと! おい、それは馬に対して振るう物だろうが」

「君がいきなり変な事を口にするからだろうが!」


 鞭を立て続けに振るわれるのは初めての事で、想像していたよりもずっと軌道が読み辛い。すでに何発かは避けられずにビシッという音と共に俺の体を打ち据えていた。しかも地味に痛い。


「いやいや、変な事じゃなくてだな! どう見たって、上は88も無いだろうという素朴な疑問をだな―――」

「なぜ私のサイズを知っている!?」

「ちょっ、痛っ、痛い! 王族の振る舞いじゃないだろこれ!」

「………………」


 その言葉を聞き、一瞬でエレナが俺を見る目を変化させる。愚か者を見る目から、不審者を見る目へと。

 果たしてどちらがマシなのかは、兄貴たちに判断してもらうとしよう。


「……一体どうやって知った?」

「あー、そんな殺気立った態度を取らないでくれって。単純に、あんたの称号を確認しただけだ」

「称号を確認? 私は見せた覚えは無いぞ」

「そりゃそうだろ。俺が分析スキルで勝手に確認しただけだからな」

「……分析スキルで確認?」


 視線に猜疑の成分が加算される。この反応からすると、もしかしなくとも俺の発言は非常識な事なのだろう。


「俄かには信じがたいな。分析スキルで称号が確認できるなど、聞いた事もない。そもそも称号を確認する方法はギルドカードを初めとした、そういった効果を持つ道具を用いるか、そうでなければ教会で寄付をして啓示を受けるか、そのどちらかしかない筈だ」

「へえ。ちなみに分析スキルでは不可能って言ってたけど、その分析スキルのランクは?」

「【分析Ⅹ】―――つまり最高ランクのスキルだ」


 なるほどね。分析のスキルでは、ランクを問わずに基本的に称号は確認できないと。また一つ新たな知識を手にする事ができた。

 俺の分析スキルはⅠから順に手に入れて上昇させたものじゃなくて、箱庭生活最初期で餞別代りに兄貴から貰った、いわゆるイレギュラーだ。こういった認識の齟齬は、早期の段階で発見しておく事に越した事はない。


 さて、そうと分かったなら、この後に取るべき行動として最も妥当なのは……それっぽい理由をでっち上げつつ、さりげなく自分の有用さをアピールする事だろう。

 薄々そうじゃないかと感付いてはいたが、マジで王族だったのだ。繋がりを作っておいて損は無いだろう。それに、一応貸しが一つあるわけだし。


「訂正を一つ。分析の最高ランクはⅩじゃない。Exだ。Exランクなら、他人の称号のみならず、保有するスキルだって確認する事ができる」

「……それは本当か?」


 声に含まれた成分は、疑い半分、興味半分といったところ。まずまずの滑り出しだ。


「保有するスキルを確認するには、慧眼スキルを使わねば不可能なのが常識だが……」


 どうやら分析スキルは、本来ならば保有するスキルも確認する事はできないらしかった。そして一方で、スキルを確認する別のスキルが存在するらしい事も判明。

 これは気を付けなければいけないだろう。万が一その慧眼スキルというものを保有する者と遭遇してしまった場合、俺の色々と知られたらめんどくさそうな事になりかねない事が、一発でバレてしまう可能性がある。


「証拠でも見せようか?」

「そうだな……では、私の称号は?」

「【自由奔放なる王女】」

「……保有するスキルをいくつか上げてみてくれ」

「【詠唱破棄】【獣化】【交渉】【算術】【商才】【王者の威厳Ⅲ】【自然魔力回復速度上昇Ⅴ】【凍鉄神の加護】の9個だ」

「……寸分違わず正解するとはな」


 念のため適性についての言及は避けておいたが、どうやらその判断は正解だったらしい。

 だが考えてみれば当然だ。なにせニューアースでは、最高ランクの魔法が最上級だと誤認されているもんな。もし適性がスキルによってハッキリと分かるなら、そんな事は無いはずだ。


 誤認の理由は分からない事もないがな。最上級なんて謳われていりゃ、誰だってそれで終わりだって思うもんな。まさか更に3つ、上があるとは思うまい。


「やれやれ、この事が他に知れ渡れば、それだけで世界が引っ繰り返るぞ」

「それ程か?」

「……日凪の環境がいかなるものかは知らないが、他人の称号やスキルが分かるスキルが後天的に得られるというのは、それだけで大きな意味を持つ。生憎【慧眼】のスキルは、先天的なものに限られるからな」

「え? スキルって、全部後天的に得られるもんじゃないのか?」

「……よし、もう君が何を言おうと驚くまい」


 やっべ。なんかヘタ踏んだっぽい。


「確かに、スキルの多くは後天的に得られるものが多い。といっても、習得方法が分かっていない物が殆どなのだがな。だが中には、絶対に後天的には得られない物もある。【慧眼】のスキルもその一つで、そういったものはスキルではなくアビリティとも呼ばれている。

 アビリティを持っているという事は、それだけで大きなステータスで、それがどんなスキルであろうと大抵のところでは好待遇で迎え入れられる」


 ……はて、習得方法が分かっていない物が殆どだと言うのに、何を根拠にそのアビリティとやらが先天的であると断言できるんだ?

 単純に習得方法が判明しておらず、尚且つ後天的に得た者がいないだけの話の気もするが。


『いや、彼女が言っている事は正しいよ。というか、ぶっちゃけお前がイレギュラーなだけなんだよ』


 天から兄貴。応対すると変に思われるどころの話じゃないので、黙って聞くだけに徹する。


『例えば適性ってあるだろ? これも所謂、アビリティの一つだ。最も、これを確認するにはお前だけに特別に与えた【分析Ex】でないと不可能だがな。とにかく、お前はそれを後天的に手に入れた。それはなぜかっていうと、言っちゃえば種族の違いというものさ』


 種族の違い―――俺の種族は古代人類エンシェント・ヒューマンだったか。ぶっちゃけ、普通の人類との違いが分からない。


『新しい世界―――ニューアースで生まれる種族は、どんな存在であれ最低1つはスキルを保有する。だけどニューアースで誕生していないお前に、この法則は適用されない。

 ならどうすればいいか。簡単な話だ。お前だけに適用される別の法則を作れば良い。さすがに、おまえ自身を勝手に改造する訳にはいかないからな』


 あれ? 俺、確か最初期に兄貴たちの手によって魔改造された覚えが……。


『それはそれだ』


 この野郎、しらばっくれやがって! 


『そういう訳で、作られた法則―――というか、種族的特長とでも言い換えるべきか。古代種族はあらゆるスキルを(・・・・・・・・)後天的に得る事ができる。それでお前はアビリティであるか否か関係無しに、スキルを習得できている訳だ』


 なるほど、良く分かった。ようするにチートだな。


『なにを今さら。言っただろう? 兄ちゃん、チートプレイなファンタジー大好きだって』


 ああ、そういや言ってたな、そんな事。

 当時の俺の中に辛うじて残っていた兄貴の理想像を木っ端微塵に粉砕した台詞だったから、意図的に忘れていたわ。


 だが、これで当時から抱いていた疑問も氷解した。

 当時の俺は適性を得る為に、巣穴を放火したり水攻めにしたり、あるいは生物を生き埋めにしたり、上空2000メートルからダイブしたり、氷風呂や燃え盛る火の中に2時間は浸かったりと色々していたものだったが、ニューアースの住人はそんな苦労をしなくてもいいらしい。

 実に羨まし―――ゲフンゲフン、素晴らしい事である。


「なるほどねー」

「なるほども何も、誰もが知っている事だろう」


 猜疑心の塊のような視線を向けられる。これ以上藪を突いたら蛇が出てきそうだ。


「日凪に、この大陸で言うところの一般常識があるとでも?」

「………………」


 俺は最近学習した。とりあえず苦しくなったら、日凪の設定を持ち出せば万事解決する。


「さて、ところで君が私の事を偽乳呼ばわりしてくれた事についてだが……」


 ちっくしょう! 全然解決してなかった!


「推測するに、君のその分析スキルは、私の称号やスキルのみならず、詳細な身体的プロフィールも分かるのではないか?」

「……おっしゃる通りでして」

「そして君は、自分が眼にした情報が信じられないと、そう言いたい訳か」


 怖い。すっごく怖い。

 なんか腰が本能的に引けるなと思っていたら、エレナはスキル【王者の威厳Ⅲ】を発動していた。Ⅲでこれって、Ⅹだったらどれだけだよと思わなくも無い。


「……ふう。それはつまり、自分のスキルが信じられないと明言しているようなものだぞ」


 威圧感がフッと消え失せ、多少空気が良くなる。

 鞭を本来の用途通りに使用するエレナからは、怒っているような素振りは見受けられない。


「怒ってないのか?」

「怒る理由が無いだろう……なんだその意外そうな顔は」


 意外も何も、明らかに怒ってたよね。怒っていたから鞭を振るってきたんだよね―――とは言えなかった。

 しかし、そうなるとあの情報は事実という事になるが―――どう見てもそんな風には見えない。


「意外と言えば……君は私が王族だと知ったのに、然程驚いたようにも見えないな」

「……薄々そうなんじゃないかと予想はしていたからな」


 そりゃ、あれだけフラグを立てられれば、嫌でも分かる。

 特に、拘留所の一件とエレナから聞いていた身の上話と照らし合わせれば、その正体は非常に限られてくる。


「……なるほど。拘留所での一件は、確かに不用心だったな。君の交流の無さを念頭に置いていなかった」

「俺に接触してくるのは、政治的意図も含めてか?」

「……なぜそう思う?」

「逆に、そう思わない方がおかしいだろ」


 一国の王族が、身分も定かではない者に近づく。そこに意図が無いと考える方が変だ。


「そもそも、この指名依頼からして変だろ。横流しした品の在り処が分かったのはいい。そして、その在り処が国外だからというのも良いだろう。だが、そこに俺が同伴する理由は?

 それを差し引いたとしても、一国の王女が俺に接近してくるには、日凪出身だからという理由じゃ弱すぎる」

「……私は、その日凪出身という設定(・・)にも疑問を抱いているのだがね」


 エレナのそれまでのそれまでのどこか探るような口調から、どこかに確信を持った口調に一変する。


「私もあれから色々と調べてみたのだが、過去に日凪に向かった者たちには、レベルが700や800越えが珍しくなかったらしい。そしてそういった者の殆どが死に、数少ない生還者も心に深い傷を負う。それほどの環境で、レベルが600に満たない君が生存できていたというのは出来すぎだ。

 そうとなれば、考えられるのは二つだ。

 君が日凪出身であるというのが嘘であるか、もしくは君がレベルを偽っているかだ。ああ、そういえばもう一つ、その両方という可能性もあったな」

「………………」

『凄いな彼女。鋭いってレベルじゃないね』

『女はいつだって凄いのよ』


 なにをあんた達はのどかに眺めていますかね。実際の立場としては冷や汗が止まらねえよ。

 つーか、エルナさんの声聞いたの久しぶりだな。ざっと五年振りか?


「君のさっきの質問に答えよう。半分正解だ。私が君に近づいたのは、ソリティア第一王女としての意図もあったし、純粋にエレナ個人としての意図もあったという事だ。私たちがこれから向かう場所は知っているだろう?」

「ラテリア神聖国家の、ソリティアとの国境沿いにある『アラゴ』とかいう街だったか。その街に【ソローリン商人組合】というギルドがあって、そこのメンバーが俺の刀とローブを回収したんだろう?」

「そうだ。そしてその【ソローリン商人組合】なのだが、昔から黒い噂が絶えなくてね。裏ではエスト教と繋がっているのではないかともっぱらの噂で、おまけにちょくちょくソリティアを初めとしたシエート連合に対して、水面下でちょっかいを掛けて来ている。だからここいらで一つ、警告をしておいた方が良いというのが私の第一王女としての判断だ」


 エスト教―――所謂最高神を信仰する宗教団体だ。

 ラテリアに向かう時点で面倒事の臭いはプンプンしていたが、ここに来て最高神との関わりができるとか……作為的なものを感じる。


「それで、警告に俺を使おうってか。一応俺は余所者扱いだし、万が一表ざたになったとしても、余所者の凶行として処理できるもんな」

「確かにそういう意図があった事は認めよう。前も言ったが、私は君の人間性を『自分の受けた仕打ちに対して相応の酬いを与える』と評価している。そしてそれは、今回の件にも同様の事が言えるだろう」

「つまり、俺が横流しされた商品を買われた腹いせに、連中に物理的制裁を下すとでも? 少しばかりやり過ぎだとは考えないか?」

「客観的に考えればそうだろう。だが、それでも君はやるだろうな。根拠はと問われれば唸らざる得ないが、強いて言うなら勘だ」


 ……仮に勘だったとしても、鋭いどころの話ではない。

 確かに、その【ソローリン商人組合】の連中をただで済ますつもりは無い。そして先ほどエスト教と裏で繋がっているという話を聞けば、尚更だ。


 兄貴にいくら問いかけてもはぐらかすばかりで、俺をこの大陸に連れてきた理由については判然としない。

 ならばどこかで自発的に行動を取らなければいけないと考えていたとこに来て、ちょうど良い話が聞けたのだ。多少の犠牲など些細なものだろう。


「結果的に人が死ぬことになってもか?」

「これでも一応は王族でな。必要な事ぐらいは弁えている。私個人としては犠牲者など出して欲しくはないが、王族の立場としては【ソローリン商人組合】の出してくるちょっかいは、随分前から笑って済ませられる限度を超えている。仮に死者が出てくるにしても、そのちょっかいで出た犠牲者と比べれば大したことはないだろう」

「怖い事を言うね」


 かつて道徳に溢れた日本に住んでいた俺にとって、エレナの今の発言がどれほど異常であるかは、客観的に判断する事ができる。

 自分の非を自覚していながら、それを肯定する。それは並みの精神でできる事ではない。それでも彼女をそうさせるのは、王族として備わっているなにかなのか。


「それで、逆に俺が返り討ちにあったらどうすんだよ」

「それもないな。さっき言った、君がレベルを偽っているのではないかという疑惑だが、実はちゃんとした根拠がある。

 君は【ジャッジメント・トード】の査定をクリアしたが、そうなると日凪出身であるという事が事実だとするとレベルが、レベルが事実であるとすると出身地が、それぞれ不自然に過ぎるのだよ。それこそ、査定手段その物を騙しているとしか思えない程にね。

 ところで君は【ジャッジメント・トード】を確実に騙せる方法があるのを知っているかい? 方法と言っても単純で、余りにもレベルが開きすぎていると【ジャッジメント・トード】は物事を全て正常だと判断するだけの事なのだがね。では、そのレベル差と言うのはどの程度かを知っているかい?」

「……500くらいか?」


 ギルドで見た【ジャッジメント・トード】のレベルは大体100だった。

 そしてエレナが俺のレベルに疑念を抱いている事を前提とした場合、妥当な差はそれぐらいだろう。


「まだ足りないさ。昔700レベルの冒険者が査定に引っ掛かったという記録が残っていてね。それが事実だとするなら、君は最低でも700レベルを超えている事になる。これは冒険者で言えばSランク相当という事になる。つまり、君は一個軍団にも匹敵する力を秘めていると言う事だ」


 だから失敗するとは考えていないと、締め括る。

 実際俺は700どころか5000を超えている訳だし、エレナの読みはどこまでも概ね正しい。

 恐ろしい限りだと思う。俺は戦闘に関してはニューアースにおいて最強かもしれないが、それはあくまで戦闘の話だ。こういう頭脳関連では、まるで勝てる気がしない。


『現役生の時代の成績も酷かったもんな』

「………………」


 咄嗟に罵声の言葉を飲み込めた俺は、褒められて良い。


「とまあ以上が第一王女としての観点からだったが、それとは別に、私と言う一個人でも君に対して近づく理由は、さっきも言った通り純粋な興味によるものだ。

 君は見ていて興味が沸いてくる……というよりも、なにか引き込まれるものを持っている。上手くは言えないが、例え自分の人生を棒に振ってでも君の近くにいる事には価値があると、そう思わされるような何かをね。正直な話、君が人間でなくとも驚かない」


 まあ(多分)人間じゃありませんけど。いや、どうなんだろうな。そもそも人間とそれ以外の境目が曖昧だから、俺も自分がなんなのかは曖昧なままだし。


 それにしても……。


「いつかも言ったが、買い被りすぎだろ」

「私はそうは思わない。自分の事は自分が一番良く分かっているとは言うが、自分の事は自分では良く分からないとも言う。私は私から見た君の事は、間違いではないと自信を持って言えるつもりだ」


 その、なんだ。シリアスな空気が雲散霧消すると無性に気になってくる事が一つある。


「ちょいと失礼」

「む―――って!?」


 とりあえず顔を覆っていた布を全部取っ払ってみる。そこには、予想通りの物があった。


 白銀幻狼(はくぎんげんろう)とは、幻獣の一種であるそうな。

 遥かな昔に、後にソリティアの国訴となる人物がその幻獣と生涯を共にし、交わった事で誕生したのが白銀幻狼獣人という種族なのだそうで、どちらかと言えば獣人と言うよりは、人型の幻獣と言ったほうが正解に近いらしい。

 だが、それでも獣人は獣人。そして獣人ならば、あれがある筈だ。そう思って見てみれば、どことなく頭部を覆う布の造形もおかしい気がしてきた。


 そしていざ布を取り除いてみれば、それは予想通り存在していた。


 最初に目に入ったのは、白銀色の不思議な輝きを放つ肌理の細かい長い髪。布で押さえ付けられていたにしてはまったく癖のついていないその髪が大量に溢れ出し、その下からは澄んだ瑠璃色の瞳が覗く。

 肌は白く、傷一つ、染み一つも見られない。そしてその肌の上に配置された、小振りで形の良い目鼻と両目によって作られる顔の造形は、さすが王族と言うべきか、逆に不気味なぐらいに整っていた。


 そして頭頂部。

 髪と同じ色の薄い体毛で覆われたそれは、紛れも無く頭部の左右についているそれと同じ機能を持った狼のそれだ。

 犬耳、狼耳、獣耳。呼び名はなんだって良い。末期の日本文化に染まった者たちが求めて止まなかったものが、目の前にあった。

 人間のものと獣のもので計4つあるが、どちらが飾りなのだろうかと余計な事を考える余裕すらあった。


 なのに攻撃を回避する余裕は無かった。


「【失墜する氷塊(アス・クォルレイト)】」


 頭上に突如として出現した、1トン以上ある氷のブロック。

 中級魔法によって生み出されたにしては大分大きなそれは俺の頭部に派手なたんこぶを作りましたとさ。



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