神話というのは要は捏造話である
評価やご意見、感想等お待ちしております。
ガタゴトという擬音を考えた人は神だと思う。
考えても見ろ。これほどまでに状況を的確に表す擬音が存在するか? 少なくとも俺は、カポーンとかモフモフとかぐらいしか知らない。
想像してみてくれ。周囲にはのどかな田舎風景が広がり、その中を舗装もされていない道を馬車に乗ってのんびりと進む光景を。
そこには余計なしがらみなど一切存在せず、ただ己を優しく包み込んでくれる雄大な自然があるのみ。それはもしかしなくとも素晴らしいものだろう、
いま俺が置かれている状況が、まさにそれだ。
荷台の大きさは、軽トラと同じくらいか。その荷台の上には、元の世界では見かけた事のない果実が詰まった木箱やら、中身の詰まった皮袋や樽などが乗せられている。それらから漂う仄かな香りは、俺の気分を少しだけ落ち着けるのに助力してくれている。
馬車を引く馬も、決して遅くはなく、かといって速すぎもせず、適切な速度で進んでくれている。蹄の音に時々加わる嘶きの声もまた良し。
ああ、なんと素晴らしき事か。
今ここには、俺以外の何者も存在しない。箱庭の殺伐とした血みどろの生活もなければ、鬱陶しい兄貴たちもいない。一人だけの世界だ。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな。もし良ければ、教えてくれないか?」
「………………」
現実逃避終了。ハイ、俺以外の人物が身近にいました。
「………………」
「その、できれば何か喋ってくれるとありがたいのだが……」
そう、俺は先ほどから、頻繁ではないにしろ話しかけて来ますエレナと名乗る女性(推定)に対して、黙秘権を行使しています。
唯一口にした事といえば、エレナさんの「私はこれからソリティアに向かうつもりなのだが、君も乗っていかないか?」という俺の叫びをなかった事にしてくれたありがたい言葉に対する「頼む」という言葉のみ。
補足しておくと、ソリティアというのは某有名コンピューターゲームではなく、シエート連合に属する小国の一つの名前であり、そしてその王都の名前の事な。まさしく、俺にとっては渡りに船な行き先という訳で、一も二もなく提案に乗っかったよ。その割には、酷く素っ気無かったと自分でも自覚しているが。
だがな、考えても見ろよ。俺がどれ程の時を箱庭で過ごしてきたと思っている。
二億年だぞ? 地球で人類が誕生してから経過した年数よりも遥かに長い時を過ごしてきたんだぞ? 誰ともコミュニケーションを取る事なく!
兄貴たち? 誰だそいつら。あいつら人間じゃないからノーカンに決まってんだろ。
ぶっちゃけ言って、なにもかもが二億年振りで、他人との距離の掴み方が分かりません。
そこ、コミュ障とか言うなよ。これでも俺は、地球があんなんになるまでは結構な友達がいたんだぞ。
クラスメイトからは事ある度に兄貴たちについて聞かれてきたし、女子に関してはクラスどころか学年を問わず兄貴を紹介してくれるよう頼まれてきたんだ。単純に言葉を交わした事のある人数なら、同年代の連中にも早々負けやしなかったね。
まあ、兄貴たちについて話すことができないと返答したり、兄貴からは「紹介してくるな面倒くさい」と言われていると答えたときの手の平の返しようはかなり来るものがあったがな。その度に、あいつらが見ていたのは俺じゃなくて、俺を通した兄貴の姿なんだと思い知らされたものだ。
……自分で思い返して、死にたくなって来た。
「その……まあ、なんだ。誤解のないよう言っておくが、君が何者であるかを詮索するつもりは、私には毛頭ない。誰にも事情というのはあるだろう。ただ私が言いたいのは―――」
「……秀哉だ」
「む……?」
頑張れ、俺。まだまだ素っ気無いぞ。もう少し愛想よく!
「天神秀哉だ。それが俺の名前だ」
「アマガミ・シュウヤ、か……」
まるで無愛想なのが変わっていなかったが、エレナさんは気にした素振りもなく、俺の名前を口の中で転がす。
「偽名だとしても面白い名だな」
「……は?」
一体どうしてこの方は俺の名前を偽名呼ばわりしてるんですかね?
「人の名前を偽り扱いするとは、この大陸の者は随分と礼儀がなっていないらしいな?」
「い、いや、そういうつもりではない! ただ、創造神の名前と、堕ち神の名前を姓にした名前はかなり、その……珍しいのでな。不快に思ったのならば、謝罪する。すまない」
こうもあっさりと頭を下げられると、逆に怒る気が失せる。もっとも、元々大して怒ってもいなかったが。
それよりも、今とっても気になる事を言っていた気がする。
「その、創造神と堕ち神というのは?」
「む、神話の有名な話なのだが、知らないのか?」
珍獣を見るような眼で俺の事を見てくる。そして慌てたように付け加える。
「別に、君に学がないという事を馬鹿にしているわけではなくてだな、子供でも知っている事を知らないのが珍しいだけで……」
おいおい、一体なにをフォローしたかったのかは知らないけど、まるでフォローになってねえよ。むしろ喧嘩売っているのかと疑いたくなってくるよ。
「単純に、この大陸出身じゃないだけだ」
「……そういえば、さっき『この大陸の者』と言っていたな。いやしかし、大陸によって神話が違うなんていう事があり得るはずがないと思うのだが……」
意外と鋭い考察をしながらうんうん唸っていたが、やがて自己完結したのか、その神話とやらを厚意からか話し始めてくれる。
曰く、この世界は至高神と呼ばれる五柱の神によって作られた。
生命を司る神ラバル。
迷宮と試練の神ヴィスヒツ。
愛と美の女神メロナ。
芸術を司る女神エルナ。
そして五柱の神の中心である創造神アマガミ。
この五柱の神々が、最初に世界を造り、そしてその後最高神を始めとするいくつかの神々が生み出され、その神々によって生み出されたのが、他の神々である。
ところが至高神の人柱である創造神アマガミには、一人の弟がいた。
闘争を司る戦神シュウヤ。
創造神の実の弟でありながら、至高神たちには及ばぬ力しか持たないシュウヤは、自分たちと比べて遥かに矮小な存在であった事を力しか持たないことを創造神を除く四柱の神々に疎まれ、牢獄に閉じ込められてしまう。
その理不尽な扱いに対して不満を抱いた戦神は、やがてその不満を憎悪や自分よりも強大な力に対する嫉妬といった感情へと変えていき、出ることが叶わぬ牢獄の中で長き時をかけて負の感情を溜め込んでいく事となる。
そしてあくる日、とうとう溜め込まれた負の感情がその身に留まりきらなくなった瞬間、シュウヤはその存在を堕とし、戦神から堕ち神となってしまう。
堕ち神となったシュウヤは、溜め込んだ感情のままにその力を振るい牢獄から脱し、至高神たちを討たんと歯向かい、そして最後は兄である創造神の手によって返り討ちにされて地上に堕とされ、その後行方が知れなくなったという。
堕ち神が落ちたとされる地は諸説がいくつもあり、場所によってはそここそが堕ち神が落ちた地であると主張し、観光地としていることもあるのだとか。
それはさておき。
うん、まあ……言いたい事は一つだけだ。
兄貴たち、どんな設定作ってんだよ。
「だから、偽名を疑ったことに悪気はなかったのだと納得してもらいたいな。アマガミという名に、シュウヤという姓。疑うなという方が無理がある」
「……いや、俺の姓は天神なんだが」
「む? だが君はアマガミ・シュウヤと名乗っただろう」
「ああ、それは……俺の故郷では、ファーストネームが後に来るんだ」
「ほう、という事は、君の故郷はロードレク大陸にあるのかな? あそこはそういう風習であると聞いたことがある。いや、詮索するつもりはないから、答えなくてもいいのだが」
言われなくとも、答えるつもりはない。俺の設定では、出身大陸はロードレクではないからだ。かといって、相手の事を良く知らないうちに正直に話したり、あるいはロードレクであると偽ったりして、後ほど苦労する羽目になるのもごめんだ。
「しかしそうなると、君の名前はアマガミ・シュウヤではなく、シュウヤ・アマガミとなるな。この大陸ではだが。まあどちらにせよ、変わった名前であることには変わりない。ひょっとすると、本当に堕ち神だったりするのかな? 見た事もない材質の物を着ているし、魔法の武具など一つ手に入れるだけでも苦労するのに、二つも持っているわけであるし」
「………………」
冗談めかして言って笑っていますが、俺としては笑えません。まったく笑えない。
堕ち神だの戦神だのと名乗った覚えはないが、その神話で語られているシュウヤなる神は、紛れもなく俺の事だろうからだ。エピソードについては、尾ひれに加えて背びれと胸びれまで引っ付いているが。
つーか兄貴たちも、そんな神話があるなら事前に教えておけっての。それと知っていたら、事前に設定をもう少し詰めておいたというのに。
「それで、こっちは姓まで名乗ったわけだが、あんたは名前だけしか名乗らないのか?」
「ああ、言われてみれば不公平だな。しかし、悪いがそれはできない。私にも私なりの事情というものがあってね、姓を名乗ることはできないんだ。だが、エレナという名前は偽名ではないぞ。愛と美の女神エルナ様と名前が似ているからといって、疑わないでくれたまえ」
「別に疑っていない」
それにしても、姓が名乗れないとなると訳ありという事になる。
理由としてありがちなのは、実は王族の者である……というのはぶっ飛びすぎだとして、どこかの良家の令嬢であるといったところか。
そう考えてみて改めて観察すると、動作の端々に品位のようなものが感じられた。
まあ、俺には余り関係のない話だろう。もしあるとしたら、家の者の追っ手や身代金目当ての誘拐犯が襲い掛かってくる可能性があるという事ぐらいだろう。それもエレナが良家の令嬢であるという仮説が事実であるという前提の下で成り立つ可能性だが、万が一でも実現した場合は、追っ払ってやるのが筋というものだろう。
一応それがテンプレであるわけだし、なにより乗せてもらっている恩があるのだから。
「それにしても、ふふ……」
「なにがおかしい?」
「いやなに、意外と饒舌なのだなと思ってな。いや、意外という表現は誤りか。第一印象の通りであったと言うべきだろう」
「……ほっとけ」
未だに話すことに、多少の緊張を伴うのは内緒の事である。
――――――――――――
そんなこんなで、野宿(その際の不寝番は買って出た)をしながら進むこと丸二日。とうとう遠目に、街を囲う外壁が見えてくる。
「見えてきたぞ、あれがソリティアの街だ」
「あれがそうか……」
街を覆う外壁の高さは、測定スキルによると56メートルで厚さは20メートルになるらしい。表面にはいくつかの紋章が刻まれており、【分析Ex】で見てみるとその紋章は各属性の中級以下の魔法を無効化し、上級以上の魔法に対しても威力の減殺などの効果を刻んだ対象物に付与する魔法だった。
そして外壁の上部には、魔法とは関係のない、しかし遠目でも見事だと分かる、外壁に使われている石材とは違った材質の石材を使って象られた紋様があった。
「見事なもんだな」
「だろう。今から二百年前に、当時の国王の命の下に大金が投じられ、歴史上でも最高の建築家と言われているマヴォラスの主導の下で作られた物だ」
そう語るエレナの表情も、どこか誇らしげだ。自分が拠点とする街の事を褒められれば、多少は誇らしげに感じるものなのだろうか。それとも、別の理由かもしれないが。
この二日間で、俺と彼女はそこそこ打ち解けられたと思う。というか、俺が対人コミュニケーションの取り方を思い出していると言った方が正確か。
今なら学会の発表会にも出席できるだろう。もちろん発表する側だ。ゴメン、それ嘘。やっぱそれは無理だな、うん。
「ところで、君は身分証の類を持っているのか?」
「いや、持っていないが……ないとマズイか?」
「別段、マズイという訳ではないな。ないと入れないが、持っていないならそう申告する事で、お金と引き換えに利用期限の定められた仮身分証明書が発行されるからな。だが君は、この大陸の通貨を持っているのか?」
「あー、成るほどね……」
当然ながら持っていない。それどころか、どこの大陸の通貨も持っていない。
「……一応、船着場で両替はしてくれるはずだが」
「いやほら、俺密航だったから」
「過分にして初耳だ。そして堂々と言えた事ではないだろう。私が密告したらどうするつもりだ?」
「いや、そんな事はしないだろ」
「……なにを根拠に?」
「商人は自分の利益にならない事をしない」
「一度、君の中にある偏見についてじっくりと話し合いたいものだ」
ジト目で睨まれるが、その程度は痛くも痒くもない。
やがてエレナは盛大な溜め息を吐き、いかにも仕方なさそうに言う。
「しょうがない。今回は私が立て替えておこう。その代わり、きちんと稼いで返してもらうぞ。腕はそれなりに立つのだろう?」
「ん、まあそれなりに……」
兄貴たちの話によると、それなりどころか、この大陸はおろか世界最強クラスらしいのだが、言ったところで仕方がないので言うつもりもない。
「これは礼代わりだと思ってくれ。立て替えてくれた料金に関しては、別途で支払う」
ただで立て替えてもらうのもあれなので、懐に―――正確には懐に作り出した【不思議で愉快な世界(ワンダーワールド)】の出入り口に手を突っ込み、取り出した物を投げ渡す。
「なんだ、そんな気を使わずとも良い、のに……」
受け取った物を見たエレナの言葉が、なぜか尻すぼみとなっていく。
「……一つ聞きたいのだが、これは魔晶石であっているのか?」
「そうだが?」
俺がエレナに渡したのは、魔晶石と呼ばれる、呼んで字の如しの魔力の結晶の石だ。
魔法を扱うモンスターの体内からごく稀に取れるそれは、内部に宿った属性によって色が変わり、日常においてはちょっとしたマジックアイテムの燃料代わりに、そして魔法を扱うものからすれば自分の魔力の代替エネルギーとなるちょっとした宝物だ。
ちなみにエレナに渡したのは、朱色の魔晶石。朱色は火属性の魔力が宿っている証だ。
「これを、私に?」
「そのつもりだが」
「正気か? これ程の純度の物は、早々お目に掛かれないぞ?」
「これ程って、それ程大した純度じゃないと思うんだが……」
魔晶石には純度があり、純度が高いほど内包する魔力の量が多く、価値も高い。
魔晶石の純度はそれを胎内に宿したモンスターの強さで決まる。今回エレナに渡したのは、精々が700程度の、俺からすれば本当に大した事のない代物だ。
「……まあ、くれるというのならもらうが。できれば、氷属性の物の方が良かったが」
「なら交換する?」
懐から同程度の純度の魔晶石を取り出し、渡す。受け取ったエレナは、火属性の魔晶石を俺に返す。
「これ程の物を気軽に、しかも私の要望に合わせてホイホイと提供できる君は何者なんだ? まさか本当に堕ち神な訳ではあるまい?」
普通に本人(本神?)なんですけどね。まあ言うつもりはないが。
その後、さすがにただで貰うのは悪いと言うエレナから、現金が入った布袋を貰う。
この世界の通貨は全て貨幣で構成されている。兄貴曰く、貨幣だけのほうがロマンがあるとの事。そして貨幣単位は小さい順から、銅貨、銀貨、金貨、閃貨となっていて、百枚で次の単位に移るのだそうだ。
大陸が違っても通貨単位そのものは同じで、違うのはそれぞれの貨幣に使われている原料の量や刻まれている紋様ぐらい。名前は各大陸の名前をそのまま使っていて、例えばこのグラヴァディガでいえば、銅貨はグラヴァディガ銅貨、銀貨はグラヴァディガ銀貨と言う。シンプルなのは良い事だ。
ちなみに貰った金額は金貨10枚。多いか少ないかで言えば圧倒的に多いんだそうだ。紙幣ですらレアで、電子通貨の流通最先端な時代を生きていた俺にはイマイチよく分からないが。
そんなこんなで何事もなく街中に入り、エレナと分かれる。借りた金額は返すつもりではあったが、連絡先を聞きそびれてしまう。なら、仕方ないね。仮に返せなかったとしても、仕方ない。
「さてと、まずは何をすればいいんだ、兄貴?」
一応周囲には【静寂(サイレンス)】の魔法を掛けて俺が悲しい人にならないようにしてから、天に向かって呼びかける。だが返答はない。
聞こえていて無視しているのか、それともあえて無視しているのか、おそらく後者だなと決め付けながら、今後の方針を練る。
とにかく、何をするにしても、俺はこの街の事を知らなさ過ぎる。シエート連合まで案内してもらっておいて厚かましいが、これならもう少し案内を頼んでおくのだったと軽く公開する。
「いやぁぁあああああああああっ!!」
「テンプレっ!?」
しまったと後悔するが、もう遅い。周囲の人たちが俺の事を奇異の視線で見ながら、露骨に俺を避けていく。
それはさておき、今しがた聞こえたのは、間違いなく悲鳴。それも女のもの。これは恩を売るチャンスではなかろうか?
そうと決まったら早い。周囲の人が邪魔なので建物の屋上に跳躍し、悲鳴が聞こえたあたりを目指して走る。
そしてたどり着いたのは、人気のない路地だ。
「この辺りから聞こえたはずだが……」
普通こういうのは、ギリギリのタイミングで間に合って颯爽と救出するのがテンプレではあるまいか。だが現実には、その場には誰もいない。変わりに、あちこちに散らばる血痕。
血溜まりとか、血みどろという表現が似合うわけではない。だが狭い範囲内に、点々とした血痕がチラホラと見受けられる。その血も真新しさを強調するように、壁についたものは重力に従って落ちて跡を付けている。
命に関わるような出血量ではないが、良い事が起こっていた気配はあまりしない。
「こっちです、早く来てください!」
そんな声が聞こえてきたのは、状況を検分していたその時の事だ。遅れて、複数人の武装した者が走って来る音も。
やがてやってきたのは、おそらくは自警団か警備兵か、それに準ずる職務の者たち。全員が統一の制服に、腰に剣を提げている。そして何人かは、気の早いことに既に剣を抜いている。
「貴様、そこを動くな!」
「いや、俺は―――」
「あの男です、間違いありません!」
俺の言葉を遮ったのは、自警団の者たちに混じった平服の女。特に外傷は見当たらないが、服には点々と血がついていた。
「この犯罪者め、署まで連行しろ!」
「いや、だから俺は―――って、あの、もしもし!?」
リーダーらしき男が憎悪の目で俺を睨みながら命令を飛ばし、その命令に従い、二人の屈強な男が俺の両脇を固めて腕を抱える。そして力ずくで、俺を引っ張り始める。
「もう逃げられないと思え!」
「違うんです、誤解です! 俺はやってない!」
「黙れ、犯罪者は皆そう言うんだ!」
屈強な男二人に抱えられ、引きずられていく。別に無理やり振りほどくこともできるが、彼らは職務をこなしているだけだ。それなのにシメるわけにもいかない。
だが無罪を主張しようにも、既にリーダーらしき男は、泣きじゃくる女性の背中をさするばかりで俺の主張を聞こうともしない。そして女性に関しても、異常事態に巻き込まれてパニックを起こしていて俺を犯人と誤認している可能性がある為、無理やり締め上げるのも気が引ける。
つまり結果としては、抵抗むなしく強制連行される俺という事である。
「違うんです!」
俺の言葉はただ虚しく響くだけだった。
魔法解説
・【不思議で愉快な世界(ワンダーワールド)】
なんでも仕舞い込める亜空間を恒久的に作り出せる。作り出された空間は大きさに比例して術者の最大MPを減らす代わりに、内部の物に対して任意に保存の魔法を掛けることができる。神位級空間属性魔法。