講義室内にホモはいるか?
10人に1人は……
「10人に1人はホモがいる」という事をご存じであろうか。
ホモとは同性同士の恋愛である。
この調査が正しければ、今まであった人間の中には必ず数人ホモがいるという事になる。
大学の「統計学」の講義中友達と、私はホモについて談笑をしていた。何故そんな会話をしていたかというと、特に理由がないが。なんとなく暇だったから、というのが談笑をしていた理由である。
まさかこの談笑が「ホモ事件」の引き金になるとは、俺達はまだ知る由もなかった。
現在、理系の大学に私は在籍している。私が在籍している学科の同期は約100人で女子は数名在籍しており、ほぼ男ばかりといったところだ。まわりを見れば男しかいないといった状況である。
学科の男子の6割はオタクで構成されており、ファッションなどはほとんどいつも同じで、オタクファッションだ。残りの3割はリア充グループで固まっており、ファッション雑誌を切り抜いた服装で、少ない女子と一緒に大学生活を満喫している。
そして、残りの一割……つまり、約10人ほど固まった「謎のグループ」があった……。
オタクグループでもなく、リア充グループでもない謎のグループだ。
結論から言おう。このグループは「ホモグループ」であったのだ。
俺はどちらかというとリア充グループに属していたが、いつもあのグループが気になっていた。一見、普通グループにも見えるが。何かそう、違和感といったものを入学当初から感じている。そんな違和感を覚えてはあったが、特に関わり合いがなかったので、3年になるころにはそんなことを忘れていた。しかし大学3年に進級した春、大学の統計の講義をきっかけにホモ事件が起きた。
これは、ごく普通の大学生が体験したホモ事件である。
桜の花びらが散り春の終わりを告げた頃「5月」、大学生は単位を取るために講義に集中していた。
かくいう俺も、単位を取るために必死に勉学に勤しんでいた。数学が好きだったのと、統計の魅力に取りつかれた俺は、この春「統計学」を履修することにしたのだ。統計学とは難しい言葉でいうと。
「統計は現象を調査することによってその数量を調査する学問だ」
……と説明してもわからないと思う。
あまり理論的な事を丁寧に説明しては、文字数にして1万字ほどになってしまうので。
今回の「ホモ事件」に沿って簡単に「ホモ統計学」的に説明させてもらおう。
「ホモ統計とは“男友達”を調査することによって“ホモ”の数量を調査する学問である」
これで大体の方々は納得していただけるだろう。つまり、友達を調査する事で、その数量を推定できる学問なのである。統計とはなんと素晴らしい学問であろうか。統計に感動していた俺は、統計の講義に必死になっていた。
そして、ここからは、統計の授業中にあった出来事である。
「おい、お前10人に1人ホモがいるって知っているか?」
統計学のノートに、共分散の数式を俺は書いていた。そんなどうでもいいことに興味がなかった俺は、適当に言葉を返した。
「しらなんな、お前どうした?ホモにでも目覚めたのか?」
「いや違うけどさ。特に理由はないけど、この前なんとなくホモについて調べたらそんな事が書いてあってさ」
「へー・・・10人に1人ホモがいるんだよな?つまり俺達がいる講義室に当てはめて考えると、このクラスには約100人の同期がいるわけだ」
「お、おう……」
「という事はだな!少なくともこの講義室に10人はホモがいるという計算になる!」
「!!…………」
俺がこの
「少なくともこの講義室に10人はホモがいるという計算になる!」
という言葉を発した瞬間、俺達は背筋が凍った。この背筋が凍った感覚は、特に理由があるわけではなった。が結果的にはこの時感じた俺達の感覚は、正しかったのである。
俺の友達は急に声を小さくして、ヒソヒソ話をするかのように俺に聞いてきた。
「確かにそういう計算になるな……で実際に俺らの同期にいると思うか?」
「計算上では10人程度はいることが推定されるが……お前ホモについて調べんたんだろ?ホモになる原因ってなんなんだ?」
いまでも、俺はこの発言に後悔している。こんなことを聞かずに、黒板に書かれた正規分布でも書いていればよかったのである。そうすれば、事件など起きずに、平穏無事に過ごせたのだが。背筋に感じた感覚をなくすためにも、俺達はこの講義室内にホモがいるか?について究明することにした。
「ホモっぽいのがいないか」確認するため、友達は周囲を見回した。そして、俺が聞いた“ホモになる条件”を友達はヒソヒソ答えた。
「ええっと。俺が調べた結果では、ホモになるにはいくつか条件があるらしいんだけど……
一つ目は女装をした男を好きになるパターンがある」
「なるほど。…………つまり、男の娘ってやつだな!」
「そうそれ、なんでも昔は日本もそうだったらしい……まあいいか」
「そうだな、これは今回のホモ調査には関係ないかもな……いや待てよ……」
「どうした?」
「俺達の大学の学園祭では“ミスコン”と称して女装した男子が出場する、イベントがあったよな……」
「あっ…………そういえば、そんなのあったな……」
俺達の通うキャンパスには男子が多い。これは理系の大学によくある光景なのだ。
しかし、男子しかいないので、女子を見たいという衝動に駆られたものもいる。
そういったが者が学園祭の実行委員になり、「ミスコン」と称して、男子学生を女装させ、
どの男の娘が一番かわいいか審査するものがあるのだ。
この「男の娘」を審査するコンテストを我が大学では「ミスターコンテスト」という。
ミスターコンテスト、略してミスコンは俺達の大学の学園祭では有名なイベントである。
一般的にいうと「男の娘コンテスト」といった方が分かりやすいであろうか。
この「ミスコン」に優勝すると。本当のミスターコンテスト「真ミスコン」で優勝した男からキスをもらえるという、謎の設定がある……。
そんなことをさっきの会話から、俺達は思い出した。
そして、もう一度周囲を見渡して、ホモっぽいのがいないのか友達は確認した。この時、周囲でなく、「後ろ!」を確認すればよかったものを……。今となって仕方のないことである。
周囲を確認して安心した友達は、普通の声で俺と談笑を始めた。
「てことは、意外と俺達の大学には“男の娘”が好きなホモもいることになるのだろうか?」
「……現時点ではそういうことになるが。ここはあまり論点を膨らませずに
“講義室内にホモがいるか?”という事を推察しようではないか」
「お……おう……そうだな」
「で!ホモになる一つ目の条件下として、“男の娘”ってのはこの講義室にいるのか?」
「なんだ?かわいい“男の娘”か?……そりゃあ、いるわけないだろ……」
友達はそんなことを言いながら、もう一度周囲を見渡した。周囲を見渡したあと、友達は後ろを振り返った……。
そう、いたのである……。男の娘が……。
しかも俺らの真後ろにいるのだ。
俺のノートの端っこに友達は
―――「執談にしよう」
と走り書きをした。
この時、まだ後ろに“男の娘”がいることは、俺は知らなかったのである。
なぜなら彼は……いや彼女といった方がいいのだろうか……。
いや、やはり彼で統一しよう。
彼は普段は男性の格好をしている、“どこでにでもいる男子”だったのだ。しかし痩せた体つきで、色白ではあったが。どっからどう見ても男である。
執談を開始するまでは、私は「講義室にホモがいるのか?」なんて推察をしていたが。友達の異常な焦りに、またしても冷や汗を俺は感じるのであった。俺はそんな中友達と執談を開始した。
―――友「執談にしよう」
―――俺「大丈夫だ。どうしたんだ?」
―――友「俺の真後ろに“男の娘”いる!!」
―――俺「うそだろ?」
―――友「振り返ってはだめだ! さっき目があった!」
―――俺「まじ!横眼で見たが普通の男だぞ?」
―――友「後ろの奴、2年前、1年前つづけて、2回ミスコンに出てた」
―――俺「まじ?どうするんだ?奴はホモ?」
―――友「わからない、ホモ条件下の“男の娘”はクリア」
―――俺「たしかに、他の条件下は何?」
俺達がこんな執談を開始して5分くらいだろうか、後ろの“男の娘”が消しゴムを落としたのである。俺達の執談を盗み見するつもりだったのだろうか?
このホモ事件の結果から推察すると、あの時“男の娘”は俺達の執談を見たのである。そうでなければ、彼があんな行動をしないからである。
“男の娘”の消しゴムを拾い、何食わぬ顔で「消しゴムどうぞ」と友達は返した。
それから、俺達は再び執談を開始した。
―――友達「ばれたか?」
―――俺 「それはない」
―――友達「続きを話す。もう一つ条件下」
―――俺 「何? 」
―――友第「機会的同性愛、条件に一致」
―――俺 「説明しろ」
―――友達「異性がいない条件下、ホモになる」
―――俺 「後ろのグループに当てはまる」
―――友達「そうだ、だから執談に切り替えた」
―――俺 「だが、奴がホモの証拠ない」
―――友達「たしかに」
俺達は執談をしながら、「講義室内にホモがいるか?」という推定を行っていた。そんな会話の中、友達のイスの下から何か物音が聞こえたのである。気になった私は、横目でチラリと友達のイスの下を見た。
“男の娘” のスラリとした長い脚があった。そして、イスの裏側をトントンとつま先で、軽快に叩いている。
見たときは、意味がわからなった。
しかし、途中で何が起きているのかに気が付いた。
―――俺 「おいイスの裏側叩かれてるぞ」
―――友達「わかってるきもいケツの穴狙って叩いてる」
―――俺 「イスを前に引け」
―――友達「おk」
友達は急いでイスを前に引いて、背筋を伸ばした。
“男の娘”は、つま先で叩くのをやめ足を自分の机の下に戻していた。
―――俺 「いまの……なんだ?」
―――友達「イスの裏側からケツを叩かれた」
―――俺 「やはりホモ濃厚か?」
―――友達「ありうる。ケツをトントン叩かれた感触残ってる」
―――俺 「まじか……」
―――友達「ああ、身の危険感じた」
―――俺 「やはり、ホモ? 」
―――友達「ちがいない」
―――俺 「一度まとめよう」
―――俺 「1:“男の娘”はホモになる可能性がある」
―――俺 「2:機会的同性愛でホモ濃厚」
―――友達「おk、後ろグループ当てはまる」
―――俺 「もうひとつある」
―――友達「なんだ? 」
―――俺 「10人に1人はホモという調査結果、気が付いてるか?」
―――友達「そうか、後ろのグループ10人いる」
―――俺 「この講義室内は約100人。つまり10人はホモがいる」
―――友達「ということは? 」
―――俺 「後ろの奴らは全員ホモかもしれない」
―――友達「マジかよ」
統計学のノートには、数式と図ではなく。ホモについての執談が書かれていた。
大学の教授はバンバンと、黒板を叩いては、標準偏差の数式について説明していたが。俺達は統計の講義中にとんでもない、ホモ推察を行ってしまったのである。
今までなんとなく過ごしてきた日常が、一気に崩されるような感じだった。
皆も少し私の文章を読んでから、目を瞑って想像して欲しい。
もしも、講義中の真後ろに、座っている人たちが……
「全員ホモ」
だったら、あなたはどうするだろうか?
私はこれを想像するたびに、ケツがきゅっとしまるのである。
あなたもきっとそうであろう。
どっかの偉人のことばには、
「常識を捨てて物事をみよ、新たな世界が見えてくる」
といった言葉がある。私は初めてこの言葉を実感したのである。
教授が標準偏差の実用的な使い方を語り始めると、友達のイスの下からまた音がした。
今度はサスサスといった音であろうか。布がこすれるような音が、微かに聞こえてきたのである。私はおそるおそる、横目を使って友達のイスの下を見た……。
私は、血の気がひいた。
“男の娘”は靴下で、友達のイスの下を擦っている。それも、たださすっているのではない。円を描きながら、ゆっくりと擦っているのである。そう、おしりの形に沿うように、優しくなでているような摩り方だ。
―――俺 「お前、また擦られてるぞ」
―――友達「ああ、おしりの形に擦ってる」
―――俺 「やばくない?」
―――友達「やばい、間接的に振動が伝わってくる」
―――俺 「今度は逃げられないぞ。どうするんだ」
―――友達「しばらく、我慢する」
友達はそう書くと。自分のノートに標準偏差の数式を書き始めた。
そして、俺も講義に集中することにした。
そして俺も擦られているのに気が付かない振りをして、同じ数式を書き始めた。