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第六話 十三階段



「ふああぁ。…やっべ、もうこんな時間かよ」

 欠伸をし、うーんと伸びを一つしてから、風馬は二階に続く階段をトン、トンと下りていった。

 本を読んでいる内に寝入ってしまったらしい。これだから架音かのんの薦める本は分厚くて眠くなるんだよ、と風馬は心の中で幼馴染の少女に悪態を吐いた。

 それでも、彼が生真面目に借りた本は読破することを架音は理解っているから、自分のおススメ本を彼に薦めるのだ。

「それにしても……、」

 本当に遅くなってしまった。まだ玄関は開いているだろうかと大して焦りもせずに思いを巡らしていると。

「うー、やっぱ夜の学校怖ぇよー」

 どこかで聞いたことのある声が、階段の下から聞こえる。ひょこっと手すりから身を乗り出して診てみると、人影が五人、何やら話をしていた。

「…あれ、確か……」

 先ほど怖い、とか言っていた奴。あれは確か二年の吉川…、と言ったか? よく目立つ有名な奴なので風馬にも見覚えがある。

「それに…、」

 美形で有名な柊兄弟と、こちらは見覚えの無い男子生徒。そして女子と一部の男子に絶大な人気を誇る保険医の水城。

「何してんだ? アイツら」

 風馬は手すりに手をかけたまま、首を傾げた。

「…………でも、ま」

 そして、にやり、と人の悪い笑みを浮かべる。

「おもしろそう、じゃん?」





「怖い怖い言ってないで、早く歩け」

 怯えて遅々として先に進まない潤に、翠がイライラしている。明治はそんな二人をハラハラしながら見ていた。

 片割れの碧衣は無言で無関心だし、事情を話しても中々信じてくれなかった水城は水城で、一言も喋らない。

 それに……、

 何故だかはわからないけれど、明治はこの人形のような顔をした水城が苦手で、少し怖かった。

 先ほどのゾンビのように、ぎゃあぎゃあと表立って騒ぐような恐怖ではない。

 ただ傍にいて、どこか居心地の悪いような。変な感覚。

 こんなに綺麗な人なのに、この人は……。

「だーかーらっ! これでも早く歩いてんだっつの!」

 潤が負けじと応戦している。こうして翠と言い合っていたほうがまだ恐怖心がまぎれるんだろうなぁと、明治は思った。

「とりあえず、三階に行ってみる? 会長達、あっちの生徒会室から出てきたんだろうし。二階に人が残ってたら気付くんじゃないかな?」

 明治がそう提案してみると、潤が「ナイスだアキっ!」と同意した。あまり長く校内をウロつきたくないのだろう。

「……そういえば、知ってる?」

 ふいに水城が、三階へ向かう階段に足を踏み入れた生徒達に声をかけた。

「前に生徒から聞いたんだけどさ、この階段、十二段のはずなのに、夜に数えると十三段になってるんだって…」

 怪談を語る時特有の低い声で、水城が言う。

「じゅ、十三階段…って、ことですか…?」

 結構よく聞く怪談だ。

 使い古されて大して怖くは無いが、怖がりな潤をさらに震え上がらせるには十分だったようで、

「やっ、やめてくださいよぉー…」

 びびっている。

 完全にびびっている。またも翠を苛立たせるようにトロトロびくびくと進む潤。しかも怖いくせに、律儀に階段の段差を数えている。

「十一…、十二……、十さ…」

「わっ!!」

「「「「「!!!!」」」」」




「まったく! ホントにびびったじゃん!!」

 憤然として、潤が言った。その隣では三年の桐山風馬が「あれくらいで何びびってんだよ」とけらけら笑っている。

 三階の階段で偶然明治達の話を聞いていた風馬は、ちょうど潤が十三段目に差し掛かったとき、大声を出して脅かしたのだった。

 いきなりの大声に驚いた他の四人に対し、怪談を本気で怖がっていた潤は本気でびびって涙目になっていた。まあ大声で絶叫し逃げ出さなかっただけ、ましだが。

「それより、水城先生も人が悪いですよ。あの階段が十二段で終わるわけないじゃないですか」

 話は戻るが、水城が語った怪談は嘘っぱちである。二階から三階に行く階段は全部で二十段。十三階段など存在しない。

「…はは、吉川くんがあんまり怯えてたんで、つい、ね」

 くすりと悪戯っぽく笑う水城に、騙された張本人である潤は涙目ではあ…と幸せそうなため息を吐いた。

 かくして、三階には自分しかいなかったと主張する風馬と五人は揃って合流場所である体育館へ向かっていた。

 場所はもう、体育館前の渡り廊下まで来ている。

「しっかし、ゾンビねえ。まるで『学校の怪談』と『バイオハザード』が混ざったみたいだなっ」

 嬉々として言う風馬に、明治はびっくりして尋ねた。

「先輩、怖くないんですか?」

「なんで? めっさおもしろそうじゃん」

 案外体育館でもなんかあるかもなー、と風馬は潤をちらりと見て笑い、びびらせて楽しんでいる。

 その時、


「「うわあああああああああああっっ!!」」


 体育館の中から、二人分の悲鳴が聞こえてきた。




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