第四話 出会い
「水城センセー? いますかー?」
がらっと保健室の扉を開けて、潤が声をかける。
薄暗い室内。明治にとって初めて足を踏み入れるこの学園の保健室は、かすかに消毒液の臭いのするごく普通の保健室だ。
(……? 誰か、寝てる……?)
無防備に開けられた中庭に面した窓。真っ白いカーテンが夜風に揺れ、弱められた室内灯の光を受けぼんやりと輝いている。
そしてそのカーテンの下。壁にもたれるように座り込んだ人物が、それこそ天使の寝顔と形容するにふさわしい寝顔を浮かべ、すうすうと寝息を立てていた。
漆黒の髪はさらりと風に揺れ、縁無しのメガネの奥では長い睫毛が白い肌に影を落としている。
(うわ……)
白衣を纏ったその人物がこの学園の保険医で、男であることは解る。
解るのだが、
(これじゃあ、潤がファンになるのもわかるかも。アイツ面食いだしなあ…)
「水城先生、怪我人」
水城に負けず劣らずの美形、碧衣が水城の肩を軽く揺らして彼を起こした。
んん…、と目をこすって欠伸を一つ。ようやくこちらを認識したらしい水城は、あれ? と少し間の抜けた声を発した。
「もう夜…だよね? こんな時間まで文化祭の準備? ご苦労様」
水城は苦笑して、「で、怪我人どれ?」と薬の置いてある棚を開けた。
「ああ…それで、どんな怪我…?」
怪我人を診る前に薬を選ぼうとしてしまったらしい。どこかすっとぼけた人だ。
潤が嬉々として椅子に座り、足を見せる。その予想外の傷の酷さに水城はぎょっとして、「一体何をしたの君達」と苦笑した。
「熊と格闘でもしたの?」
ははは、と冗談交じりに笑った水城は、その大人しげな外見に反してすごく沁みる消毒液を躊躇いもせずに潤の傷口にだぱだぱ掛けた。
ぎゃっ、と潤が悲鳴を上げる。
「熊、じゃなくてゾンビ」
翠が無表情でしれっと言う。水城は「そっか、そうなんだ大変だったね」と冗談として流したようだ。慣れた様子でガーゼを傷口に貼っている。
「……窓、開けてるんだ…?」
ぼそっと、窓際に立った碧衣が中庭を見つめ、言った。
「ああ…。なんだかね…、夜になると……何故か……」
潤の傷の治療を終えた水城が、中庭を見つめた。
まるで何かを、探しているような瞳で。
「誰かがあそこに……いるような気がして……」