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第二十一話 扉



 まだ微かにホルマリンの異臭の残る生物室。あるだけのアルコールランプに火を灯し、室内の視界を明るくしてから和希達は生物室中の床ををくまなく探した。

 しかし、それこそ目を皿のようにして探しても、件の鍵に合いそうな扉は見つからなかった。さて、これからどうしたものか。

 和希は目の端で、『ポンっと投げればドッカンバッカン液状火薬D3(デンジャラス三乗の略)。残り香はほんのり香るアンモニア』をちらつかせ、「これで床を吹っ飛ばしてみようよ? きっと床下にあるんだよ」と暗に破壊活動をほのめかす薫を無視し、思案した。

 確かに、この生物室は家庭科室と同じく、十数年前に改装されている。対してこの鍵はそれよりも古そうだ。ならば、目当ての扉は室内よりもそのさらに下、床下に隠されているのかもしれない。だが、この広い床を全て吹き飛ばすわけにもいかないだろう。


    カツカツカツカツ……。


 ふと、廊下から足音が聞えてくる。警戒して和希がドアを見据えたところで、


    ガラッ!


「桐山! 吉川!」

「やーっぱここだったか。ホレ吉川。テメエがガタガタ震えてた『夜中に人体実験を繰り返すマッドサイエンティストの亡霊』じゃねえな?」

 つーかそれって斉藤のことなんじゃねえの? と笑いを噛み殺しながら振り返る風馬の後から、青褪めた顔の潤が顔を出す。

「先輩! バラさないでくださいよっ! でも、会長達…どうしてここに?」

「お前達こそ、どうしてここが? そしてそのツルハシはなんだ?」

 そう、風馬と潤の手には、それぞれツルハシが握られていたのだ。

 風馬はくすっと笑って、事のあらましを伝える。

「森永の呪文に吹っ飛ばされた後、しばらく図書室に潜んでいたら手掛かりになりそうな資料を見つけた」

 バサッと音を立てて、冊子をテーブルに置く。

「昔、この学校が出来る前にこの土地で暴動が起こり、この土地の元の持ち主だった大地主・水城家が襲撃された。相当な数の死人が出たらしいな。もし、当時この辺りで火葬が行われていなかったとしたら? 俺達を襲う、あのゾンビ達はその暴動で死んだ奴等なんじゃないのか?」

「…なるほど」

 和希が素直に相槌を打ったので、風馬は少し毒気を抜かれたように肩をすくめた。

「だが、こっから先がわかんねえ。何でこんな状況になっちまったのか、な」

「それを理解するにはまだ材料が足りないな」

 如月がそう言い、風馬に先を促す。

「えーと、で、ひとまず合流しようと体育館に向かったんだが、ドアの向こうからゾンビ共の声やドアを叩く音が聞えてきたんで、手持ちの武器を増やそうと思って一階の用務室に行ってツルハシを取ってきて…」

 ほらこれだ、とツルハシを見せる。

「そしたら用務室からこっちの灯りが見えたんで、もしかしたらと思ったらビンゴだったわけだ。でも、どうしてお前等ここにいるんだ?」

 風馬に聞かれ、如月は和希達と目配せしてから、今度はこちらのあらましを話し出した。

「ゾンビ達が石でガラスを割って侵入してきたから、俺達は体育館を出た。間一髪のところで柊達に助けられてな。そうしたら、渡り廊下で一人の幽霊に会ったんだ」

 幽霊? とそう聞き返して、自分も何か思うところがあるように黙り込む風馬。

「そう。歳は俺と変わらないくらいで」

「それって、少し茶色っぽい髪の、身長がこれくらいの男?」

 身振り手振りで自分達が図書室で遭遇した幽霊の特徴を風馬が言うと、その場にいた風馬と潤以外の全員が驚く。

「どうして…」

「この冊子、その幽霊のおかげで見つけたんだ。で、先生達はそいつに会って?」

 続きを促す風馬に、今度は柊兄弟が声を揃える。

「「鍵をもらったんだ。『みつけて』って言われた。それで、この場所を指差したんだ」」

「うわっ。お前等ここにいたのか! なんだよーいきなりいなくなりやがって」

 今更自分達の存在を見つけて憤る潤をさらっと無視して、双子は自分達より背の高い風馬を見上げて言った。

「「森永は? 一緒じゃないんですか?」」

「ああ。はぐれたっきりだな」

「「そう……」」

 双子が、考え込むようにお互いの顔を見つめる。

 風馬はその様子に首を傾げるが、特に気にするでもなく話を続けた。

「で、お前等はずっと生物室中を探し回ってたってわけか」

「ああ。渡された鍵は随分古い。おそらく、その水城家とやらに縁の物だろうな」

 和希の推測を聞いてふーん、と呟いた風馬はテーブルの上に置いた冊子をめくる。確か、と目当ての頁を開けば、そこには水城家邸宅の見取り図が描かれていた。それを、今も残る中庭の桜の樹を目印に今の校舎と照らし合わせる。

「生物室は…昔は離れか…。ん……っ? これ!」

 風馬と和希が顔を見合わせる。生物室のあるこの位置にあるのは本邸の離れだ。しかし問題は、その下の書き込み。

「座敷…牢…。地下に…」

「どうやらビンゴっぽいな。入口は……大体あの辺か」

 おおよその位置を定め、担いでいたツルハシを思いっきり振り下ろす風馬。如月も潤の持っていたツルハシを手にとって加勢し、二人で木製の床に穴を開けた。

「い、いいんですか先輩…。学校の床に穴開けちゃって…」

 とおろおろと二人の破壊活動を見守るのは恵。その震える肩をぽんぽんと叩いて、安心させるように慰めるのは優だった。

「仕方ないよ、恵。今は非常事態なんだから。それに体育館だって、聞けば玄関だって、ゾンビ達にガラス割られたそうじゃない? 今更床の一つや二つ平気さ」

 あっはっはと笑顔で言う優に、本当は平気じゃないんだがな…と心の中で呟きながら和希は思った。

 きっと、夜が明ければ大惨事だ。何せガラスは割れ、腐肉が飛び散り、床には穴が開いているのだから。

 しかし、それがどうにもならないこと、そして仕方がないことなのもわかっている。

 自分達がこの異常な状況から脱出する為には行動が必要なのだということを、いつのまにか全員が理解していた。

「斉藤、灯りを」

 ツルハシをテーブルに立てかけて、如月が指示を出す。

 言われたとおり薫がアルコールランプを穴にかざせば、その薄暗い床下には腐りかけた木製の扉が見えた。

「ビーンゴ、ってか」

「鍵穴が見えるな。この鍵のか……?」

 下がっていろ、と生徒達をいったん離れさせ、もう一度ツルハシを手に取り穴を広げる。

 そして床下に降り、ポケットに入れていた鍵を鍵穴に差し込んだ。


   カチッ


「……行くか」



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