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第十六話 手がかり



「うわーっ! もう何がどうなってんだーっ!!」

 二階北校舎奥にある図書室で、潤は叫んでいた。

「るっさい吉川! ゾンビ共が嗅ぎ付けてきやがったらどーすんだ!」

 一応小声で、それを諌めるのは風馬だ。彼等はあの後、何故か北校舎二階の廊下に転がっていたのである。風馬が、再び戦える程回復するまでは身を潜めていようと、混乱する潤を引きずって図書室に逃げ込んだのだ。今のところ、内にも外にも怪奇現象は起こっていない。

「…でも、なんだったんだ……? あの光…森永が…?」

 そう。彼の放った呪文は自分や、下手したら柊兄弟などよりよほど強力だったのだろう。意識を失う寸前、風馬はあの光がゾンビ達を跡形もなく溶かしていくのを見た。

「…あいつ…、何者だ…?」

「アキはアキっすよ」

 真剣に考え込む風馬の隣で、潤があっけらかんと言った。

 さっきまでぎゃあぎゃあと騒いでいたくせに、なんなんだこいつ。

「つーかそれよりー、この学校マジでおかしいですって。今までも何度か遅くまで残ったことあったけど、こんなこと初めてだし」

「…だよな。体育館や二年六組に現れた幽霊ならまだわかる。アイツらこの学校で死んだんだからな。なら…、あのゾンビ達もこの土地で死んだ奴等なのか…?」

「うえっ!? ここって昔大量虐殺でもあったんすか!?」

「いや…、そんな話は聞いたこと無いな。大体戦時中には既にこの学園は建ってたはずだし、日本の死体がゾンビになる状況といったら…」

「状況?」

「火葬されたらゾンビにゃならねーだろ。日本じゃ死体は大体火葬してし……、まてよ」

 ふと思い立って、風馬は立ち上がった。

「日本も昔は、火葬が一般的じゃなかった時代があったな…。ずっと前…、そう昭和初期くらいまでは土葬も普通に行われていた…。吉川!」

 原因があるはずだ。この不可思議な現象の、原因。

 なぜ今この時、大量の死体がゾンビとなって襲いかかり、幽霊が現れたのか。

 なぜ、自分達がここに閉じ込められたのか。

 その、理由が。

「原因を探すぞ。ホラーゲームの基本だ。原因が解ればここから出られるかもしれない」

「ま、マジで!? 俺頑張るっす!」

 潤も、これ以上こんな恐ろしい学校には居たくないと立ち上がる。

 その時、

「…………っ!?」

 風馬がばっと後を振り返る。

 立ち並ぶ本の合間、一番隅の本棚の前に、一人の男が立っていた。

 淡く白い光に浮き立たつ、青年の姿。彼は一冊の冊子を手に取り、ぱら…ぱら…と頁をめくっている。

 息を呑む風馬と潤。しかし、不思議と恐怖は感じなかった。

 ゆっくりと、青年が顔を上げる。そして二人を見て、ふっと微笑み、

 カタン、と冊子を床に落として、そのまま静かに消えていった。

「…な、なんだったんだ今の…」

「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆれれれれれれれれれいいいいういいいい」

「どもんな。……何を見ていたんだ…?」

 がたがた震える潤を放って、風馬は青年が立っていた場所から冊子を拾い上げる。それはかなり古いもので、中に白黒の写真が貼ってあった。

 薄暗いここではよく見えない。ライターは玄関で投げつけてしまったので、風馬は仕方なくすぐ近くの学習用の机に移動した。幸いなことに、何事もなく机上のライトは点灯する。

「先輩…?」

 ぱらっと、冊子をめくる。写真は随分古いものらしく、白い部分がセピア色に日焼けしていた。

「…屋敷…? 随分デケエな…。……」

「…あ! 先輩、コレ!! この桜!!」

 隣から冊子を覗き込んだ潤が、写真の中で屋敷と一緒に映っている桜の大木を指差す。

 それは、この学園の中庭に今もそびえる、樹齢三百年と言われている桜の大木だった。

「じゃ、この写真はこの土地に昔建ってた屋敷、ってことか」

 風馬が、その写真をべりっと剥がす。

 裏面には、読み取り難い小さな字で何ごとかが書き付けられていた。

「……大…正…。くっそ読めねえ…。……あ~。なになに……?」

 書付けの字を読むのを諦め、今度は冊子の方に目を向ける。

 その頁には、他にずっと昔の新聞記事が貼られていた。

「…一帯の大地主、水城家が近年の不作により疲弊した農民達に襲撃され…」

「水城!? それって、水城先生となんか関係あるんすか!?」

「知るか! …一家は全員死亡。ふーん…、で、後に土地と屋敷が学園の創設者に渡り、一部を残して校舎が建てられたってわけか。不作が飢饉を呼び、襲撃に発展したのかもな。大量の人死にが出てそれが土葬されたとしたら…。はっ、ゾンビができるにゃもってこいの条件だな」

「てことは、あのゾンビ共は当時の農民!?」

「…だとしたら、化けて出るほど水城家に恨みでもあった…ってことか? いや…、じゃあ他の幽霊や、ましてさっきの男は何なんだ? 何だってこんな冊子を…」

 まるで自分達に手がかりでも示すように。

「…この土地の因縁が、俺達をこの校舎に閉じ込めたのか? 何で『今』、『俺達』なんだ…?」

(ちっ。どーにもこーにも腑に落ちねぇな…)

「…先輩、どうします?」

 黙り込む風馬に、潤が恐る恐る尋ねる。

 風馬はしばらく思案した後、諦めたように冊子を閉じた。

「っかんねえっ。とにかく、コレ持って室井んトコ行くぞ。アイツならなんか知恵出すだろ。っつーか、今は合流した方が得策だ」

「…………」

「何だよ」

「いや、先輩が会長を頼りにするのが意外で…」

 結構信頼してんすね、と潤がへらっと笑う。風馬は一瞬虚を突かれて目を見開いたが、

「吉川ぁっ!!」

 すぐに我に返って、いつものごとく後輩にツッコんだ。



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