第十三話 襲撃
その頃、体育館では和希達生徒会役員が今後について話し合っていた。風馬の言うように、いつまでもここに籠もっているわけにはいかない。
問題は、いかに安全にここから全員を脱出させるかだ。
「んー、でも外にはゾンビ達がうじゃうじゃいるしねぇ…」
優が呟き、
「…お母さん、心配してるかなぁ…」
とため息を吐くのは恵。
実は、風馬達が出て行った後携帯電話の存在を思い出し、それぞれ家に掛けようとしたのだが誰の携帯電話も圏外になっていて繋がらなかったのだ。
「…そうだ! 職員室にも電話ありますよね! そっちはどうだろう?」
携帯電話と違い、電話線が繋がっているのだから圏外にはならないだろう。そう思い立った和希が、のんきに煙草を吸っている如月を振り返る。
「ああ。試す価値はあるだろう」
「で、でも先輩。さっきみたいにまたおばけが出たら…」
不安そうに言う恵に、黙る和希。そうだ、あの得体の知れない化け物達に対する対抗策がないからから風馬の意見に反対したのだ。
「…………武器なら、ある…」
かなり久しぶりに口をきいたのは薫。彼は薄汚れた白衣のポケットから、コルクで栓をした試験管を一本取り出した。
「な、なんですかソレ」
生物室で彼の奇行を目にしているだけに、警戒してしまう恵。
「斉藤、それ確か…」
如月が煙草をその試験管に向けて言うと、彼は無表情のまま抑揚の無い声で、
「名付けて、『ポンっと投げればドッカンバッカン液状火薬D3(デンジャラス三乗の略)。残り香はほんのり香るアンモニア』ちなみに特許出願を検討中」
とのたまった。
「「「するな(しちゃだめです)!!!」」」
棒読み状態ながら確実にその危険性を示唆するネーミングに生徒会役員三人組は揃って声を張り上げた。
「これでゾンビを駆除」
「できるかっ! 第一俺達まで危険になるだろう!」
がしゃんっ!!!!
その時、ガラスが派手に割れる音が響いた。
「ええっ!? 『ポンっと投げればドッカンバッカン液状火薬D3(デンジャラス三乗の略)。残り香はほんのり香るアンモニア』発動ですかっ!?」
「…まだ開けてないのに…」
そう。超危険物体『ポンっと投げればドッカンバッカン液状火薬D3(デンジャラス三乗の略)。残り香はほんのり香るアンモニア』はまだ薫の手の中にある。
「おい。ガラスが…」
相変わらず動じず騒がずの如月が、ステージ近くの横下にある窓ガラスを指差す。そこは内側に向かってガラスが割られていた。
そして…、
「う、うそおっ!? こ、ここ二階なのにっ」
恵の悲鳴じみたセリフの通り、この体育館は二階である。にも拘らず、あの玄関で遭遇したゾンビ共がわらわらと這い上がってくるではないか。
「使う?」
薫が、可愛らしく首を傾げて『ポンっと投げればドッカンバッカン液状火薬D3(デンジャラス三乗の略)。残り香はほんのり香るアンモニア』を振る。和希は、人生始まって以来の大決断を迫られた。
使うか。使わざるか。
無情にも、ゾンビ共はゆるゆると腐った肉を撒き散らしながら、こちらに近付いてくる。
その時、優は思った。ああ自分今週体育館掃除なのに嫌だなぁー、と。
そして薫は、腐っている割に二階まで這い上ってくる筋力があるとは興味深い。ぜひ筋肉組織を採取したいなぁー、とゾンビ共を観察して心中呟く。
「「オンキリキリバザラバジリ!!」」
しかして悩める和希を救ったのは、マイペースな優と薫ではなく、同じ音の二つの声。
ゾンビ達はその声と共に現れた炎に包まれ、跡形もなく消え失せた。
筋肉組織…と名残惜しげな小さな呟きが聞えたが、それは黙殺するとして。
「「間に合ったな」」
体育館の入り口に、風馬達と一緒に出て行ったはずの柊兄弟が立っていた。