資本主義の怪物 2
彼のことはそれこそディスカッションの講義で顔だけは知っていた。アイドルのようなイケメンというより、整った顔立ちだというのが第一印象だった。平凡以下の私はこの類の人間に構えてしまうところがあって、例外なく彼に対してもそうだったのだが、その期待を裏切るように彼は自虐話などを巧みに操り、私の警戒心を解いたのであった。結局私の人生の中で上から13番目ぐらいに楽しい飲み会となった。その日を皮切りに彼はよく私を遊びや飲みに誘うようになった。どうやら私のことをひどく気に入ったらしい。私も私で彼のユーモアに相性のようなものを感じていた。というのも関西で生まれ育った私は人並みに笑いに貪欲であったが、この神奈川ではノリやテンポが違うのか燻っていた。彼と関わるうちに私のユーモアもチューニングされて、面白い人ねと言ってもらえることも多くなった。彼はそれが気に入らないのか、「俺のスタイル真似するんじゃねぇよ。」と面白かしく言っていた。彼は自分の黒い部分を笑いという銀紙に包んで、甘いお菓子のように受け入れやすく言葉を投げるのが、非常に上手であった。だから彼の気持ちを受け止めてあげることにはしたが、彼はあくまで触媒のようなもので、あくまで私のユーモアは私のものである。因みに世間でいう仲が良いという段階に彼となった頃には、彼は言葉を何かに包むという事を私にしなくなった。
ある時やはり彼の誘いで居酒屋に行った場面で、例の女子の相談をしようとこれまでの経緯を話した。すると彼は途中で、
「あ、まじ?」
と神妙に言うので胸が騒つく嫌な気配がした。
「いや俺もさ、その子のこと良いなと思ってて、もう3回ぐらい一緒に出掛けてるんだよね。次のデートで告白しようと思ってた。」
的中だ。彼は続けて言い放った。
「でも話聞く限りお前の方は終わってるんだよな。だから普通に俺いっていいよな?」
聞いているのか、断言しているのか分からないような言い回しだが、絶妙に後者だと受け取れる演出ができる彼を、心底ずる賢いと思った。一応の良心的心遣いはありますと示してはいるが、こんなに人から薄情を見せられたことがない私は、初めて人にここまで疑念を抱き、関西の義理人情とやらがそれこそ初めて恋しくなった。
「うん、がんばって。」
私の心にとどめを刺したのは、終には私自身の言葉であった。彼は自分の手を汚さずに人の心を壊せるのであった。
後日、晴れて彼はその子と交際が叶い、私の方は雨で煙る空模様であった。それからは正直言って彼とはあまり関わりたくなかった。素直に言って彼が悪くないのも分かっている。それでも、そんな私の心の矛盾などどうでもいいと言わんばかりに、相変わらず彼は何かにつけては私を誘ってきたのであった。おそらく、いや間違いなく私の心境を分かっているはずなのだが、彼は誘うのである。何故かと言えば、私と遊びたいからである。目の前に肉が置かれて食べない獅子がいないように、それぐらい彼は欲望に従順なのである。私も私で、いじけていると思われ兼ねないので、彼の誘いを断ることをしなかった。




