追放ザマァDEざまぁ
ギルドの裏路地の公園で、ひとりの青年がベンチに座り込んでいた。
名を、レイ・セインという。職業は支援職――通称“バッファー”。
味方の能力、HPやMP、攻撃力や防御力を高める補助魔法を得意とし、パーティに貢献してきた。
――が、つい五分程前、彼は四人組のパーティから、追放された。
メンバーはそれぞれ、このようにレイに最後の言葉をかけた。
「最近の装備、性能インフレしてるからさ。お前の魔法、なくても問題ないんだよね。代わりに火力のある奴入れたいから。」
「性格も暗いしねぇ、正直、ウチのパーティと合ってないと思うのよね。」
「ウホウホホ。」
それらが追放理由だった。随分と便利な話である。
そんなレイの目の前に、ひらひらと、何かが降ってきた。
見れば、蝶のような羽を持つ少女。
きらきらと星屑のような光をまとい、掌に小さなステッキを握っている。
「はじめまして! アタシ、ざまぁの妖精、ミロー・ザ・マァ、だよ!ザマちゃんって呼んでね♡」
「……?」
「あなた! パーティを追放されて、憎しみで震えているでしょ!? ざまぁ、したくないですか!?」
「ざまぁ……?」
「そう、ざまぁ! あいつらを見返して、ギャフンと言わせて、スカッと仕返しする!!! それこそが今のテンプレ展開!!!みんなが好きなやつ!!!」
「なんじゃそりゃ……」
ザマちゃんは、くるりと回って、宙に魔法陣を描く。
「このたび、あなたに、ざまぁ能力を授けましょう!」
「お前、何者なんだよ……」
「アタシは、ざまぁ展開を司る妖精!世界のざまぁ展開からざまぁエネルギーを集めて、成長するの!さぁ、好きなギフトを選んで!」
ザマちゃんが提示したのは、三つの『ざまぁギフト』だった。
1.レイがこれまでパーティに使っていたMP・HP拡張魔法は“レイからのレンタル”であり、彼を追放したら、期限が切れ、利子付きで強制的に徴収される、「という世界に改変する」
2.レイのバフ魔法がなければ、パーティは実はゴミだった「ということにする」
3.レイ・セインは本当は最強の存在だった「という設定を追加する」
「……選びなさい!」
「ほほう。」
レイが、にやりとする。
そして、レイは、しばらく考えるふりをした後、言った。
「わかった、全部もらうわ」
「なになに、強欲☆でも、いいよ☆いぇーい! 大ざまぁターイム!!」
「でもな、一個条件があって。完璧なざまぁ展開?ってやつにするには、もう一個、おまけが必要だと思うんだよな。ほら、他の妖精とか、ギフトとか、ないとも限らないだろ?」
レイは続ける。
「『4.これらの改変を誰にも妨害されない』ってオプションもつけてくれよ。」
「あら、積極的でステキね☆あげちゃう、あげちゃーう☆☆」
ザマちゃんがステッキを振ると、魔法陣が光り、レイの身体に力が流れ込む。
「ふふっ、これであなたを追放した連中は、惨めに崩れ落ち、炎上し、後悔し、美しいざまぁが見られるだろうね!」
「――いや、やっぱ使うのやめるわ」
「は?」
ザマちゃんの動きが、完全に止まった。
「使わない。ざまぁ展開ってやつ?しない。」
「……ちょ、ちょっと待って!? 能力もらっといてそれはないでしょ!?」
「だってさ、まず③の“最強だったことにする”って、もう話としてズルすぎるでしょ」
「いや、でも、テンプレ的には……!」
「①と②もなんかキモいわ。仮にそれが真実になったら、俺がパーティにいる間にちゃんと説明しておくべきことだろ。ダサすぎるって。」
「えええぇぇぇえええぇええ!!!??」
「コミュ障だったことを誇るような人生、歩みたくないんだわ。」
「うわああああああああ!!!なんだこいつー!!!???」
ザマちゃんが頭を抱えて、空中で、のたうち回る。
「あなた! 何がしたいの!? ざまぁをしないって、ざまぁエネルギーどうやって得ればいいのよ!!」
「自給自足でいいんじゃないか?」
「へ?」
「この展開、立派なざまぁじゃないか?」
「は?え……?」
見ると、ザマちゃんの身体の周囲から、ほわほわと光が発されている。そう、ざまぁエネルギーである。
「ええ……なにこれ、こんなのアリ……?」
「アリだったみたいだな。」
数秒の沈黙のあと。
ザマちゃんが、ふっと空を見上げて言った。
「……まぁ、アタシが見たかった“ざまぁ”とは違うけど」
「うん」
「でも――まぁ、いっか、キミ、ちょっと気に入ったよ」
彼女の背中の羽根がきらきらと輝いた。
ザマちゃんと、レイ・セイン。この二人の冒険が、ここからはじまるのか……?
この先は、書かない。
めんどくさいから。
あと、ざまぁ展開の後は話がどんどんしぼむのがテンプレだから。
ざまぁ。
お読み頂きありがとうございました。
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