第1話『サボり魔』
かつて世界は暗黒に包まれていた。
世界を手に入れようと多くの者が剣を取り、そして倒れていった。しかしそんな時、一筋の光が舞い降りた。
後に最高神として国を治める神神田さん。
そして4人の配下、ナイト・オブ・神
彼らは圧倒的な力で暗黒の世を沈め、世界に平和をもたらした━━━━━━━
「……こんな感じでいいのかな…」
手に持った資料に目を落としながら、心配そうに呟くアイラ。騎士学校を首席で卒業後、近衛騎士団に所属し、王都の治安維持に日々奔走していた。
そんな彼女が何故、騎士学校の歴史の授業用の資料を作成していたかと言うと…
「ぃよ~っす!!!進捗はどうやアイラ!!!」
王宮内の廊下を歩いていたアイラに、後ろから元気よく声をかける男。アイラの直属の上司であり、アイラが資料作成する事になった元凶である。
「サイルさん…。何処に行ってたんですか。騎士学校から臨時特別講師として招かれているのはサイルさんなんですよ?
教壇に立つのはサイルさんなのに、私なんかに授業内容を作らせるのは流石に……」
どうやら、サイルの仕事をアイラが代わりにするという事は今回が初めてではないようだ。呆れたように溜息混じりに話すアイラ。これまでは代行しても特に問題ない事務処理だったのだが、今回ばかりは無理があるだろうとサイルに食いかかる。
「まぁ、そう硬いこと言わんといてぇや。
そもそもやで?俺みたいな奴に、臨時とはいえ授業さそうって言う方が無理な話やっちゅうに。
…せや、もうこの際アイラが代わりに……」
「しません!」
ベシっと廊下に乾いた音が響く。アイラが作成した資料をサイルの顔面に押し付けたのである。
上司と部下という立場ではあるが、常に怒られているのは上司であるサイルの方らしい。しかし周りの人物は特に驚いた様子はない。どうやら2人のこういった場面は、王宮内の日常らしい。
「サイルさんはもう少し、シュバリエとしての自覚を持ってください。騎士学校の生徒からすれば、シュバリエは雲の上の存在にも等しいんですよ?こらじゃ示しがつかないです!」
シュバリエ━━━それは、王国の中でも特に優れた騎士が選ばれる10人の騎士。選出はおろか、候補になる事さえ難しいと言われている、騎士を志すものは誰もが憧れる存在である。
「いやそんなん言われても、できひんもんはできひんというか……」
困ったように眉を下げるサイルもシュバリエの1人である。それも、騎士学校卒業後にそのまま選出されるという、異例中の異例でシュバリエとなったかなりの実力者だ。
シュバリエは、№1から№10までナンバリングされており、彼は№5の位を務めていた。
「騎士学校の生徒がサイルさんを見ても、とても大戦で活躍したシュバリエとは思えないでしょうね…。」
「大戦ねぇ。やー、今思い出してもアレは中々エグい戦いやったなぁ……。今ですらまともに実用化できてない魔術を、あぁも自在に使いこなせてたっちゅうんは、ホンマにビビり散らかしたでぇ…。」
5年前に起きた「魔族大戦」と呼ばれる大きな戦い。世界各地に突如として侵攻を始めた謎の勢力と、王国軍による戦いである。
王国軍が苦戦した理由の1つが彼らの扱う「魔術」であった。個人によってその特色は異なり、様々な超常現象的な事象を引き起こす事が出来る……と考えられている。━━━━━というのも、この魔術は未だ解明されておらず、国王軍の中でも使用できるのは数少ない。魔術研究者によると、人間誰しもが使用できるとの事だが、何をどうすれば使えるようになるのかがまるで分からないとの事だ。
そんな魔術を自在に操る……故にその謎の勢力は「魔族」と呼称されている。
「彼らが何者かはわかりませんが、魔術の研究に関しては私達よりも何歩も先を行っているという事ですよね。」
「箔をつける為にイキって「撃退」とか言うてるけど、俺らが居ながら王都まで攻め込まれとったんや。アイツらが撤退せんかったら負けとったんこっちやで。」
「そうですね…。あの短期間で王都まで侵攻されるくらいですから。城下の一部が火の海になった時は終わりかと思いました」
大戦当時、アイラは騎士学校の生徒であった。城下の一般市民の避難誘導を率先して行った時の事は、今でもよく覚えているらしい。
そしてその時、彼女は実際に目の前で見たのだ。
攻めんこんできた炎を自在に操る魔族を。━━━━━そして、同じように炎を自在に操るシュバリエの姿も。
「あの、サイルさん。『狂戦士・ベルセルク』についてお伺いし……」
「あ、そういや魔族で思い出したわ。
最近、王都近郊で賊の被害が相次いでるらしいねん。なんや聞くところによると、商人とか金持ってそうな通行人が襲われるんやと。
悪いけど、これ調査に行ってきてくれるか。多分王都で指名手配されとる盗賊の仕業やとは思うんやけど……魔族とかの仕業の可能性もあるしな」
アイラの言葉を遮り、思い出したかのように話し始めるサイル。いや、実際今の今まで忘れていたのだろう。
近衛騎士の仕事の1つとして、街の治安維持がある。一般市民を犯罪者から守るために、犯罪者の取り締まりなどを任務としてこなす事が多い。今回サイルに上がってきた調査任務も、治安維持の一環としてのものだ。
「え、そんな大事な任務なんで忘れてるんですか。
…わかりました。調査任務であれば私一人で問題ありません。至急、調査へ向かいます。」
自身の聞きたい事を遮られたことに対する不満はあったものの、サイルが思いの外メガトン級の任務を忘れていたという事で、それは吹き飛んでしまったようだ。
調査任務であれば、寧ろ1人での遂行の方が動きやすくて都合が良い。何より、シュバリエクラスのサイルをこの程度の任務に駆り出す必要性はないとアイラは判断した。
「いや…そんな急いで行かんでも……ま、ええか。」
去っていくアイラの背中を見送りながら、やれやれと溜息をつくサイル。アイラはかなり実力のある騎士である。伊達に騎士学校を首席で卒業していない。実際、あの若さにして数々の実績を挙げ、シュバリエ直属の騎士になったくらいだ。調査任務どころか、討伐任務でさえ一人でこなす事も可能だろう。
だが、その真面目さがいつか仇になりやしないかとサイルは常々心配していた。
「………しもたぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、それはアイラの真面目さから来るものではなく、授業の資料作りをサイルにさせるためのものであった事に気づいたのは、アイラが既に城を出たくらいだった。




