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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第四章

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第二話:新しい家族

 台車に()せられた金色の粗大ゴミは、なんと瀕死のラグナ・ラインだった。


(いや、なんで……?)


 第一章のゾーヴァや第二章のヴァランとは違い、第三章のラグナは友好的に家族へ迎え入れた。

 彼は唯一『ボロ雑巾』にならず、ボイドタウンへ到達した奇跡の個体。

 そんな(とうと)い命に対し、誰がこんな酷いことを……。


(シュガーの仕業(しわざ)……じゃないね。彼女は一般戦闘員だから、天魔十傑(てんまじゅっけつ)のラグナに勝てない)


金獅子(きんじし)殺害事件』の裏には、ボクの『スケルトン製造機』を壊した真犯人(・・・)がいる。


「ねぇ、いったい何があったの?」


「はい、実は――」


 シュガーは真剣な表情で語り始める。


 今朝方、ラグナの案内役を任された彼女は、張り切って職務に臨んだらしい。


【この街は、ボイド様の偉大な御力と深淵な叡智(えいち)のもとに創設され、表の世界とは異なる独自の発展を遂げています】


【やっぱボイドは――俺の新しいボスは(すげ)ぇ奴なのな】


【ボイドではなく、ボイド()です。不敬な発言は(げん)(つつし)んでください】


【へいへい】


 ボイドタウンを巡りながら、街の歴史や成り立ちやルールを説明し、ガイドは順調に進んだそうな。

 その後、待ち合わせの17時が近付き、虚の宮へ移動しようかというとき――悲しい事件が起こった。


【あちらにいらっしゃるのが、(うつろ)の最高幹部『五獄』の第一席にして、ボイド様の右腕ダイヤ様です】


【へぇ……つまりあの銀髪エルフが、ここのNo2(・・・)ってわけだな?】


【銀髪エルフではなく、ダイヤ様です。決して失礼のないように……って、ちょっとどこへ行くのですか!?】


 シュガーをガン無視して、ラグナはダイヤのもとへ跳び、


【よぅ、先輩! 俺が新しい『ボスの右腕』、ラグナ・ラインだ! よろしくな、No3(・・・)さん!】


 地雷の敷き詰められた舞台で、華麗なタップダンスを披露したそうだ。


「――っということがありまして、見るも無残な『金色のボロ雑巾』に……」


「なるほど、それはラグナが悪いね」


 五獄筆頭のダイヤは、『ボイドの右腕』というポジションを凄く大切にしている。

 虚の定時報告でも、五獄の緊急集会でも、ボクの右隣――No2の座はダイヤの『聖域』。

 他のメンバーたちも、そこには決して触れない。


(しかし、よく死ななかったなぁ……)


 ラグナの驚異的な生命力……いや、これはダイヤの手心(てごころ)だね。

 もし彼女が本気でぶち切れていたら、こんなボロ雑巾じゃ済まない。


「さて、そろそろ起きようか」


 ボクは右手を前に延ばし、回復魔法を展開、ボロ雑巾を綺麗に修繕(しゅうぜん)する。


「おはようラグナ、気分はどうだい?」


「……最悪だ、危うく死ぬとこだったぜ……っ」


 むくりと上体を起こした彼は、奥歯を強く噛み締める。


「クソ、なんなんだあの銀髪エルフは!? 化物みてぇに強ぇじゃねぇか……ッ」


「キミじゃ五獄には勝てないから、もう馬鹿な真似はしないように。相手が優しいダイヤだったからよかったものの……。これがルビーやアクアなら、よくて『挽肉(ひきにく)コース』だよ?」


「あ、アレ(・・)が……優しい?」


「もちろん。ダイヤは思いやりに溢れたとてもいい子だ」


『極めて重い』という一点を除けば、彼女こそまさに『完璧なヒロイン』だろう。

『クンカクンカ属性』……そんなものはなかった。


「五獄ってのは、とんでもねぇ人格破綻者の集まりなんだな……っ(まぁ、虚の統治者がこれ(・・)だから、当然っちゃ当然の話か)」


 顔を引き()らせたラグナへ、軽く釘を刺しておく。


「とにかく、ボイドタウンの風紀を乱す行為は禁止。次また同じようなことをしたら、仲良しの家に入ってもらうからね?」


 その瞬間、


「「……っ」」


 ゾーヴァとヴァランが、ビクンッビクンッと体を震わせた。


「仲良しの家? なんだそりゃ、ガキの遊び場か?」


 ラグナが怪訝(けげん)な表情を浮かべると同時、


「――悪いことは言わぬ、ボイド様に逆らうな」


「――悪いことは言わん、ボイド様の御命令に従え」


 ゾーヴァとヴァランが、被害者一号と二号が、鬼の形相で忠告を発した。

 これ以上の惨劇(さんげき)を生まないよう、全力で助けようとしているのだ。


 一方、凄まじい『圧』を受けたラグナは、


「お、おぅ……なんだかよくわかんねぇが、とにかくわかったぜ」


 彼にしては珍しく、素直にコクリと頷いた。


(うんうん、やっぱり家族は助け合うものだよね)


 ちなみに仲良しの家へ連行されて、ルビー先生のご指導を受けたヴァランは――なんと奇跡的に無事だった。

 ゾーヴァみたいな『キラッキラの目』にならずに済んだのだ。


 本人曰く、「地獄のような苦しみの中、大翁(おおおきな)の忠告を思い出し、誇りと矜持(きょうじ)と自尊心を捨てた」とのこと。

 早々に抵抗を諦め、心を入れ替えた結果――ルビーの嗜虐心(しぎゃくしん)が収まり、解放されたのだろう。


【すまぬゾーヴァ、私が間違っていた……。あなたの差し伸べてくれた手を振りほどき、あまつさえ侮蔑した不徳(ふとく)を、どうか許してほしい……っ】


【よい、よいのじゃヴァラン……。今はとにかく、貴殿の無事を祝おう】


 爺キャラの大ボス二人が、涙を流して抱き合う姿は、とても情緒的(じょうちょてき)で胸を打つモノがあった。


(なんにせよ、ヴァランが助かって本当によかったよ)


 ボクは自分の街を――このボイドタウンを『少女漫画的な乙女空間』にしたくない。

 目に星の入った爺キャラは、ゾーヴァ一人で間に合っている。


(でも、『ゴドリーくん』は駄目だった……)


 魔法省に忍び込んだ大魔教団の工作員ゴドリー・ベルン。

 第三章に登場した中ボスで、セレスさんに魔王因子を研究させていた悪人だ。 


 凄い胸糞(むなくそ)キャラだったから、仲良しの家へ送り込んだところ……。

 あまりの苦痛に心が崩壊して、ゴドリーくん(精神年齢5歳)となった。

 かつての邪悪な彼はどこへやら……。すっかり幼児になってしまい、「お菓子ちょうだぃ?」って感じで、無邪気な笑みを向けてくる。


(やっぱり中ボスに『親友コース×48時間』は、ちょっとやり過ぎだね……)


 この失敗を(かて)にして、次はもう少し手加減しよう。


 そんな前向きなことを考えていると、ラグナが周囲を見回し、鼻を鳴らした。


「しっかし、なんだこりゃ? 『大翁』ゾーヴァ・『闇の大貴族』ヴァラン・『虚の統治者』ボイド……。どいつもこいつも、極悪人ばかりじゃねぇか。ボスはあれか、『世界征服』でも(たくら)んでんのか?」


「まさか、むしろ『世界平和』を願っているよ」


 ボクがにっこり微笑むと、


「くくっ、そいつは面白ぇ冗談だ。やっぱりあんたは最高だよ」


 ラグナは肩を揺らして笑った。


(いやぁしかし……大ボス三人が並ぶこの光景は、本当に素晴らしいね!)


 原作ファンとして、非常に感慨(かんがい)深い。

 言うなればそう、自分だけのガラスケースにお気に入りのコレクションを並べているような感覚だろうか。

 こうして眺めているだけで、とても幸せな気持ちになれる。


(欲を言えば、もっといろんなキャラを配置して、掛け合いや関係性を見たいんだけど……)


 それはメインルートをクリアした後のお楽しみに取っておこう。

 今はまだまだ、やるべきことが山積みだからね。


(さて、そろそろ『本題』へ入ろうかな)


 コホンと咳払いして、ラグナに目を向ける。


「さっきシュガーから説明があったと思うけど、今うちは二つの巨大事業を手掛けていてね。ただ、ちょっと労働力が足りなくて困っているんだ」


「なるほど、俺の召喚魔法を利用して、頭数を増やそうって話か」


「そっ、理解が早くて助かるよ」


「あ゛ー、なんだ、その……期待してもらっているとこ(わり)ぃんだがよ。俺の魔力量じゃ、ボスが望む数の召喚獣はすぐに出せねぇ。あのときレドリックを襲った軍勢だって、準備すんのに半年近く掛かったんだ」


 彼はそう言って、バツが悪そうに(ほほ)()いた。


「心配ご無用。ちょっと巨釜(おおがま)を出してもらえる?」


「別に構わねぇが、何をするつもりだ?」


「いいからいいから」


 ラグナが頭に疑問符を浮かべながらも、右手をスッとあげると、美しい巨釜(おおがま)が出現する。

 但し、中身はスッカラカン。

 第三章の最終盤面で、<原初召喚・熾天使グラディア>を使ったため、ひとかけらの魔力も残っていない。


 ボクはそんな空の器へ手を伸ばし、魔力をちょっぴり(そそ)ぎ込む。


 すると次の瞬間、<原初の巨釜>は黄金の輝きを放った。


「これくらいでどうかな?」


「お、おいおい、マジかよ……っ(あり得ねぇ、たった一人で、巨釜(おおがま)を満たしやがった……ッ)」


「ふふっ、どうやら十分そうだね。それじゃ早速、量産(・・)を始めようか」


 その後、ボイドタウンの空き地へ場所を移し、スケルトンを呼び出してもらう。


 だいたい三十分ほど経っただろうか。


「ふぅ、ふぅ……<多重召喚・スケルトン>」


 ラグナが30回目の召喚魔法を使うと同時、地中から10体のスケルトンが()い出した。


(……かなり苦しそうだね)


 巨釜(おおがま)には、まだ大量の魔力が残っているにもかかわらず、彼はとても苦しそうだった。

 どうやら召喚魔法を行使する際、魔力だけじゃなくて精神力のようなモノも消耗するらしい。


(回復魔法と同じで、原作と少し仕様が違うね……面白い)


 この世界に関する新情報を仕入れたボクが、ニマニマと満足気に微笑んでいると、


「はぁ、はぁ、はぁ……ぼ、ボス……もう限界だ……っ」


 四つん這いになったラグナが、早くもギブアップを宣言した。


「えー、まだイケるでしょ。目標の1000体に全く届いてないよ?」


 召喚できたスケルトンは、合計300体そこそこだ。


「いや、無理だ。これ以上は頭がイカレちまう……っ」


「そっか、それなら仕方ないね」


「あぁ、(わり)ぃな」


「いや、ラグナが謝る必要はないよ。これは完全にボクのミスだ。まさかあの(・・)獣災(じゅうさい)』ラグナ・ラインが、こんなすぐに()を上げるなんて、夢にも思わなかった。キミの実力を高く評価し過ぎたらしい」


 原作ホロウお得意の『謝罪風煽り』を決めたところ、


「や、やってやらぁッ!」


 ぶち切れたラグナは、上の服を脱ぎ捨てた。


「このラグナ様を舐めんじゃねぇぞ!? ボスが度肝(どぎも)を抜かすぐらいの、超大量のスケルトンを召喚してやるッ!」


「ふふっ、そう来なくっちゃ」


 ちょっっっろ。

 さすが『超単細胞』という設定を持つだけあるね。

 こういう扱いやすいところは、間違いなく彼の美点だ。


 それから一時間後、


「へ、へへ……っ。どうだ、(すげ)ぇだろ?」


「さすがはラグナ、見事な働きぶりだよ」


 空き地にズラリと並ぶのは、1200体のスケルトン――つまりは『1200人分の労働力』だ。


「ふぅー……まったく、我ながらイイ仕事しちまったな」


 達成感と充足感に満ちた男の顔は、


「それじゃ、明日も(・・・)よろ(・・)しく(・・)ね」


「……あし、た……?」


 まるで石像のようにピシりと固まった。


「お、おい、待てボス……っ。あんたさっき、目標は1000体だって、言ってなかったか?」


「それは今日の(・・・)目標(・・)ね。『最終目標』は10万体(・・・・)だから、これからもガンガン頼むよ!」


「……ここは地獄だ、鬼ボスの支配する魔界だ……」


 彼はそう言って、絶望に崩れ落ちた。


「ところでラグナ、キミって確か『例のアレ』を断ったんだよね?」


「……例のアレってなんだよ」


「ほら、お友達(・・・)から(・・)変な(・・)誘い(・・)を受けたでしょ?」


「あぁ、あの件か。確かに断ったが……なんでボスがそんなことを?」


「ふふっ、ボクはなんでも知っているんだよ」


 今晩遅く、ラグナを除いた天魔十傑(てんまじゅっけつ)の下位四人が、『幽現亭(ゆうげんてい)』に(つど)い、なんとも姑息(こそく)で卑怯な作戦を立てる。


(世界中に散らばる大魔教団の幹部が、一堂(いちどう)に四人も(かい)するだなんて、そう中々あるモノじゃない)


 彼らをコレクションに加えれば……ボイドタウンはさらなる発展を見せ、メインルートの大幅なショートカットができるうえ、主人公に入る予定の経験値を丸ごと(いただ)ける――まさに『一石三鳥』だ!


(今回の討伐対象は大ボスじゃないから、この前みたいな『システムの規制(ブロック)』は掛からないはず……)


 実際にラグナから裏も取れたし、『フラグは立った』と見ていいだろう。


「さて、と……ちょっと行ってこようかな」


「『行ってこようかな』って……おいボス、あんたまさか!?」


「うん、ちょっと拉致(らち)ってくるよ」


 ふふっ、また『新しい家族』が増えてしまうね!

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― 新着の感想 ―
残念ながらカクヨムのほう★3つすでに付いてました。
……ラグナくんは、その誘いに乗っても乗らなくても『家族』入りは逃れられなかったのか……。 まぁ、能力が絶対必須(他の章ボス二人は“欲しい”だけど、彼は“必要”)だし、あの入り方だから、ボスへの忠誠持…
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