表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/165

第三十話:暗躍

 コスプレ喫茶を後にしたボクは、本校舎の屋上で物思いに(ふけ)っていた。


「……はぁ……」


 脳裏を(よぎ)るのは、彼女(・・)のことばかり。


【紅茶のおかわりはいかがですか、ご、御主人様……?】


【あ、あはは……やっぱりちょっと恥ずかしいね……っ】


【行ってらっしゃいませ、御主人様】


 あの可愛らしいメイドのことが、ボクの心を掴んで離さない。


 その後、いったいどれだけの時間、こうしていただろうか。

 ようやく自分の中で、一つの『結論』を出せた。


(……そうだ。たとえどれだけ可愛くても、アレン・フォルティスは勇者! 悪役貴族とは、決して相容(あいい)れぬ運命(さだめ)っ!)


 ボクの目的は今も昔もただ一つ、生き(・・)残る(・・)こと(・・)


(その障害となる主人公は、あらゆる手段を以って排除する!)


 彼がどれだけイイ奴であっても、彼女がどれだけ可愛くても、そんなモノは一切考慮しない。


 そう、『原点回帰』だ!


(『謙虚堅実な極悪貴族』となり、ひたすら地道に努力して、死亡フラグをへし折り、主人公モブ化計画を進め――死の運命(シナリオ)に打ち勝つ!)


 やはりこれこそが、ボクの本道(ほんどう)だろう。


 そうして未曽有(みぞう)の『アレンショック』から立ち直ると同時、ゴーンゴーンゴーンと時計塔の鐘が鳴った。


「っと、もうこんな時間か」


 気付けばお昼の十二時、どうやら三時間も悩んでいたらしい。


(確か、音楽室の前に集合だったな)


 午後からは『いつものメンバー』で、聖レドリック祭を見て回る約束だ。


 待ち合わせ場所に向かうとそこには、ニアとエリザが立っていた。


「あっ、ホロウー!」


「ホロウ、こっちだ」


 残念ながら、二人はもうメイド服と巫女服を脱いでおり、いつもの制服を着ている。

 いやまぁ、このノーマルスタイルも、普通に可愛いんだけどね。


「アレンはどうした?」


 非常に不本意ながら、今回は主人公も同行することになってる。

 何故かわからないけれど、アレンの好感度は異常なほどに高く、(なつ)かれてしまっているのだ。


「ふふっ、それなんだけど……ねぇ?」


「あぁ、なんとも愉快な話だ」


 ニアとエリザは顔を見合わせ、クスクスと楽しそうに笑う。


「何があった?」


「それがさ――」


「実はだな――」


 二人の話によれば……アレンはコスプレ喫茶の『人気No1メイド』として、不動の地位を築き上げてしまい、本指名(ほんしめい)を入れる御主人様(リピーター)が殺到。

 クラスメイトに『フルタイム勤務』を頼み込まれ、仕方なくこれを了承したそうだ。

 ほんと、天井知らずのお人好(ひとよ)しだね。


「そうそう、アレンから伝言があるわよ」


「『お祭り、一緒に回れなくてごめんね』っと、ホロウに謝ってほしいそうだ」


「はっ、くだらん」


 せっかくの楽しい聖レドリック祭、勇者と肩を並べずに済んで、むしろせいせいするぐらいだ。


(そう……別に、これっぽっちも残念なんかじゃない)


 そのような感情は、一ミリだって抱いていない……はずだ。


 なんとも奇妙な気持ちを振り切ったボクが、


「さて、まずはどこへ行こうか」


 聖レドリック祭のパンフレットを広げると――ニアとエリザがこちらをジッと見つめた。


「どうした?」


「こういうイベントに乗り気なの、ちょっと意外だなぁって」


「同感だ、てっきり面倒臭がるモノかとばかり思っていたぞ」


「ふっ、祭り事は嫌いじゃない」


 原作ホロウは、とにかく派手な(もよお)しが好きだった。

 自身のキャラ設定を守るためにも、聖レドリック祭はエンジョイすべきだろう。


 まぁそういう(しがらみ)を抜きにしても、ロンゾルキアのファンとして、このお祭りは楽しみなんだけどね。


「ここから近いのは……ふむ、魔法実験室の『お化け屋敷』か」


「「お、お化け屋敷……っ」」


 ニアとエリザの顔がピシりと固まる。


(そう言えば……二人ともキャラ設定に『幽霊や怪談が大の苦手』、と書かれてあったっけな)


 その瞬間、


(……くくっ)


 胸の奥底から『黒い愉悦(ゆえつ)』が湧きあがる。

 ニアとエリザの小動物のような怯え(よう)に、原作ホロウの嗜虐心(しぎゃくしん)が刺激されたのだ。


「おや、お化け屋敷では、何か不都合でもあるのか?」


「不都合とか、そういうわけじゃないけど……」


「他にもっと面白そうな出し物はないのか……?」


 二人はこちらに身を寄せて、ボクのパンフレットを覗き込んできた。


「ふっ、何も恥ずかしがることはない。怖いのなら素直にそう言えば――」


「――べ、別に怖くないわよ!」


「――聞き逃せん侮辱だなっ!」


 ニアとエリザは、声を大にして否定した。

 この過剰な反応が、何よりの証拠だね。


(でも、ここで押すのは『悪手』だ……)


 こういうときはむしろ、サッと引いてやればいい。


「おっと、これは失礼した。そうだよな、誇り高きエインズワース家の当主様が、栄誉ある聖騎士協会の支部長様が、まさか幽霊を怖がるわけないよな」


「え、えぇ……その通りよ」


「り、理解してもらえたようだな」


 ちょっっっろ。

 ニアもエリザも、簡単に『詰んだ』よ。

 両者の役職(たちば)を示したうえで、「幽霊なんか怖くない」という言質(げんち)が簡単に取れた。

 自分で宣言した手前、もはや退()くことは――お化け屋敷を拒否することはできない。


「二人とも、ホラー系に耐性があるようで何よりだ。よし、それでは行くぞ」


「くっ……いいわ、望むところよ!」


「その勝負、受けて立つ!」


 気合の入ったニアとエリザを連れて、魔法実験室へ向かう。


「――はいはーい、まいどありー! 三名様、お入りでぇーすっ!」


 元気な受付へ入場料を支払い、お化け屋敷へ足を踏み入れる。


(へぇ……けっこうしっかりしているね)


 窓は全て暗幕(あんまく)に覆われ、室内はほとんど真っ暗。

 高い壁が視界を遮り、正面に見える細い通路が、ぽっかりと口を開けている。

 進行ルートの両端にポツリポツリと置かれた魔水晶、それらの発する僅かな光だけが頼りだ。

 美術や小道具もかなり()っていて、とても学生が作ったモノとは思えない。


(ふふっ、これは中々に楽しめそうだね!)


 そんなボクの考えは、すぐに崩れ去った。


「……おい、いい加減に離れろ」


「「……っ」」


 さっきまでの威勢はどこへやら……。

 開始三秒で顔面蒼白となったニアとエリザは、ブンブンブンと無言で首を横へ振る。

 右腕にはニアが左腕にはエリザが、ギュッとしがみ付き、決して離そうとしない。


(いや、これは……ヤバイ(・・・)……っ)


 両サイドから押し寄せる柔らかい感触。

 断言できる、これは絶対に当たっ(・・・)ている(・・・)


(ふぅー……落ち着け……っ)


 必死に情欲を鎮めようとするが、ニアとエリザの甘く優しいにおいのせいで、理性が上手く働かない。


(これはもうお化け屋敷とか、驚かしの仕掛けとか、二人へのちょっとした意地悪とか、そんな次元の話じゃない……ッ)


 率直に言わせてもらうなら、暗がりに紛れて<虚空渡り>を使い、自室にお持ち帰りしたくなった。


 その後、ニアとエリザに抱き着かれながら、必死に情欲と戦いながら――なんとかお化け屋敷を踏破する。


「――ありがとうございましたっ! リピート大歓迎なんで、また来てくださいねー!」


 明るい受付に見送られたボクたちは、ひとまず噴水広場へ移動し、休憩を取る。


「ふぅー……まっ、所詮は子ども騙しね!」


「まったく、拍子抜けとはこのことだな」


 安全地帯に逃れた二人は、なんと急にイキり始めた。


「あんな(おど)かしじゃ、ビクッともならないわ」


 ニア、キミはビビり倒して、ずっと涙目だったよね?


「うむ、もうちょっと工夫が必要だな」


 エリザ、キミはあまりの恐怖に、ほとんど目を閉じていたよね?


 なんと立派な『三下ムーブ』だろうか。

 そんな姿を見せられては、さらに意地悪をしたくなるのが、人情というもの。


「そう言えば、大講堂に『本格お化け屋敷』があるらしいぞ? 二人ともさっきのは余裕だったみたいだし、ちょっと覗きに行ってみないか?」


 ボクの提案を受け、ニアとエリザの顔が絶望に染まる。


「……強がってごめん、本当はお化け、とても苦手なの……っ」


「……正直に告白しよう。幽霊に対して、恐れを抱いている……っ」


「だろうな」


 二人が素直に白旗をあげたので、これ以上の追及はやめておく。

 しかしまぁ、幽霊が怖いなんて、女の子っぽくて可愛いね。


 その後、ボクたちはいろいろな出し物を巡り歩いた。

 みんなでクレープを食べたり、喫茶店で雑談に興じたり、ダンスパフォーマンスを見たり、クイズ大会に参加したり、占いをしてもらったり……。


 なんだか『普通の学生』になったみたいで、とても楽しかった。

 この世界に転生して早六年、こんなに『普通』をエンジョイしたのは、多分これが初めだ。


 時刻は夕方五時。

 東の空に太陽が沈み出したそのとき――けたたましい警報が鳴り響く。

 レドリックの東西南北に設置された<警告(アラーム)>の魔法が、全て一斉に作動したのだ。


 窓の外に目を向ければ、夕焼け空を埋め尽くさんとする大量の『召喚獣』が、レドリック魔法学校を覆っていた。

 そんな一団の先頭、巨大な白龍の背中に、大魔教団幹部ラグナ・ラインが乗っている。


(ふふっ、やっと会えたね……!)


 待っていたよ、ボクの新しい家族!


 さてさて、厄介な『三重結界』が完成する前に、みんなへ連絡を済ませてしまおう。


(――お前たち、この念波が届いているな?)


 レドリックの敷地内にいる全員へ、一方通行の<交信(コール)>を繋ぐ。


(俺はホロウ・フォン・ハイゼンベルク。これより現状を説明するので、どうか静かに聞いてほしい)


 ボクの指示を受けて、学校中がシンと静まり返った。

 よしよし、いいぞ。

 レドリックを支配した意味があったというものだ。


(当校は現在、敵性勢力より奇襲を受けている。首謀者は大魔教団幹部ラグナ・ライン。どうやら今は、強力な『三重結界』を張ろうとしているらしい)


 ボクは目を尖らせ、遥か遠くの結界を注視する。


(見たところ、既に第一層『不可侵の結界』が完成し、レドリックは完全に封鎖された。じきに第二層『封魔の結界』、第三層『魔力吸収の結界』も張られるだろうな。この三重結界の内部では、魔法が使えないうえに魔力が奪われ続ける)


 その情報を開示すると同時、あちこちでざわめきが起こった。


 無理もない、状況はめちゃくちゃ悪いからね。

 第三章のラストバトルは、極めて不利な盤面から始まる。

 これはもう『そういう設定』なので、黙って受け入れるほかない。


(確かに現況(げんきょう)は悪い。だが、何も案ずることはない。お前たちには、この俺が付いている)


 その瞬間、ざわめきがピタリと止んだ。

 きっとみんな、ボクの存在(・・)は認めていないけど、ボクの武力(・・)は認めているのだろう。


(これから俺は、結界の解除に動きながら、隙を見てラグナを仕留める。お前たちは二人組(ツーマンセル)以上で行動し、魔法と生命力の漏出(ろうしゅつ)を押さえ、敵の召喚獣を薙ぎ払え――以上だ)


 全体の接続を切り、次は個別に指示を与えていく。


(――さて、レドリックに忍び込んだ聖騎士(ねずみ)諸君。キミたちが何故うちに潜伏しているのか、誰の命令を受けてのことなのか、ここでは()えて聞かないでおこう。その代わりと言ってはなんだが、うちの生徒たちを守ってやってくれると助かる)


 ボクとエリザの関係は秘密なので、そこには触れないようにしつつ、軽く方向性だけを示しておいた。


 次は、主人公にも声を掛けておこうか。


(――アレン、敵の狙いはお前の固有魔法(ゼロ・カウンター)だ。精々死なぬよう、必死に足掻(あが)け)


(ボクの『勇者因子』を……わかった、頑張るよ!)


 最後に、今回の『鍵』を握る二人だ。


(――フィオナ、お前はリンと合流し、速やかに結界の解析に入れ。その際、リンの持つ『龍の瞳』を使うといい。アレは魔法の構造を解き明かす魔道具だ。お前の卓越した頭脳と魔道具の補助があれば、強力な三重結界も解けるは――)


 っと、<交信(コール)>が強制的に切断された。

 どうやらラグナが、第二層『封魔の結界』を完成させたようだ。


(一応、強引に繋げることもできるけど……)


 その場合、『実はボクだけ魔法を使える』という情報を向こうに与えてしまう。


 フィオナさんは救いようのない『馬カス』だが、頭はとてもいい。

 ボクの言わんとしていることは、十分に伝わっているだろう。


「――エリザ、お前は予定通り、現場の聖騎士に指示を出せ。一人の死者も出すな。完璧に勝つぞ」


「承知した」


 彼女はコクリと頷き、聖騎士たちのもとへ走りだした。


「ホロウ、私にも何か指示をちょうだい!」


「ニアよ」


「はいっ!」


「魔法の使えないお前は、ただの『足手纏(あしでまと)い』だ。守ってやるから、俺の傍を離れるな」


「あ、足手……纏い……っ」


 彼女は大きなショックを受けていた。


(でも実際、『魔法の使えない魔法士』って、本当に何もできないからね……)


 下手に前線へ送っても周囲の邪魔になるだけだし、こっちで引き取って面倒を見た方がいいだろう。


(さて、一通りの指示は全て出し終えた)


 ここから先は、『ボクのターン』!

 夢の完全攻略(パーフェクトクリア)を目指して、『暗躍』を始めようか!

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

「面白いかも!」

「早く続きが読みたい!」

「執筆、頑張れ!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、本作をランキング上位に押し上げるため、


・下のポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にする


・ブックマークに追加


この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?

ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。

おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!

ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


↓この下に【☆☆☆☆☆】欄があります↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カクヨム版の応援もお願いします!


↓下のタイトルを押すとカクヨム版に飛びます↓


カクヨム版:世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する



― 新着の感想 ―
これ原作でも完全な足手纏いだったのだろうか、、、?
逃げろじゃなくて傍を離れるなとな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ