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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第二章

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第十九話:袋の鼠

 黒服のスキンヘッドに案内され、フロアの奥へ奥へと進み、小さな扉をくぐる。

 するとその先には――(きら)びやかな『夜の世界』が広がっていた。


(おぉー、さすがはVIPルーム、めちゃくちゃ豪華だね)


 天井で輝く立派なシャンデリア・見るからに有名っぽそうな絵画・迫力満点の大きな石像などなど……。

 調度品(ちょうどひん)一つ取っても、さっきの一般ルームとは、お金の掛け方が違う。


 そしてフロアの最奥で活況を(てい)するのは、この裏カジノの名物である『地下闘技場』。

 ここからはかなりの距離があるため、まったく見えないけれど……きっと原作と同じように、『趣味の悪い(もよお)し』が開かれていることだろう。


「チップの交換は、あちらのカウンターで承っております。その他、何かお困りのことがございましたら、どうぞ遠慮なく黒服のスタッフへお申し付けください。――では、夢のようなひと時を」


 スキンヘッドは丁寧にお辞儀をして、音もなくどこかへ歩き去って行った。


「ねぇホロウ、もしかしてあなた……このVIPルームへ来るために、わざとあんな負け方を?」


「あぁ、胴元に『いいカモが来た』とアピールしていたんだよ」


 ちなみにVIPルームへ招待される条件は、なんらしかの遊戯を10ゲーム以上プレイし、合計1000万ゴルド以上のチップを使うこと。

 さっきルーレットを選んだのは、単純に1ゲームあたりの時間が短くて、大量のチップを効率よく回せるからだ。


(とりあえず……奥の地下闘技場は、ニアに見せない方がいいな)


 あそこは血と金と涙の渦巻く、人間の黒い欲望を煮詰めた場所だ。

 彼女みたく純粋なヒロインには、少しばかり刺激が強い。


「こっちだ、付いて来い」


「えっ、あっ……うんっ」


 地下闘技場から遠ざかるため、さりげなくニアの手を引くと、彼女は一瞬目を丸くした後――嬉しそうにコロコロと微笑んだ。


(さて、まずはチップだな)


 交換所へ足を向けたそのとき――『不測の事態』が起きる。


(……くそ、これ(・・)は完全に想定外だ……っ)


 ボクの視線が――バニーガールへ吸い寄せられていく。

 色白の清楚系バニー・褐色(かっしょく)のギャル系バニー・妖艶(ようえん)な大人系バニーなどなど、フロアのそこかしこに可愛らしい『ウサギさん』がいた。


(<魅了(チャーム)>の魔法か!? ……いや、それはあり得ない)


 ボクは二十四時間<虚空憑依>を展開し続けており、精神支配系の魔法を完全にシャットアウトしている。

 つまりこれは、外部からの魔法攻撃じゃなく、内部から湧き上がる情欲。


(ふざけるなよ、なんなんだ、あの魅力的な衣装は……っ)


 あざといウサ耳・露出の多いボンテージ・白いフワモコの尻尾――こんなのもはや犯罪だ、今すぐに取り締まるべきだ、聖騎士はいったい何をやっているのか。


 バニーガールはカジノにおける超ド定番の存在であり、ロンゾルキアの美麗なCGで何度も見てきた。


 しかし、しかしだ。


(まさか『映像』と『生』にここまでの違いがあるとは……っ。恐るべし、『生バニー』……ッ)


 (たかぶ)った気持ちを鎮めるため、深く長い息を吐き、煩悩(ぼんのう)も一緒に放出する。


(本当に……困った体だ)


 もしかしたらこれは、メインルートの攻略において『最大の障壁』となるかもしれない。


 その後、先ほどと同様に3000万ゴルドをチップと交換する。

 このVIPルームでは、『1チップ=10万ゴルド』。

 レートが10倍に跳ね上がっているので、同じ3000万ゴルドを払っても、交換されるチップは300枚だけだ。


(よし、始めるか(・・・・)


 ボクは迷うことなく、ポーカーのテーブルへ移動する。


(……ふむ……)


 さっきのルーレットでは、同伴の女性はただ横に付くだけだったけど……。

 どうやらポーカーでは、一緒に卓を囲んでいるようだ。

 (ごう)に入っては郷に従え、周囲の空気に溶け込むためにも、ここは前に(なら)うとしよう。


「ニア、お前も楽しむといい」


 ボクはそう言いながら、チップの半分を渡した。


「い、いやいや……こんな大金、受け取れないわよ……っ」


 ニアはグイグイと突き返して来たが、半ば無理矢理にプレゼントする。


「こっちの都合に付き合わせているんだ、これぐらいの報酬は受け取れ。……と言ってもまぁ、すぐにゲームで回収させてもらうがな」


 ボクが挑発的な笑みを浮かべると、


「むっ……こう見えても私、けっこう強いんだからね?」


 超負けず嫌いなニアは、すぐに乗ってきた。

 このチョロいところは、彼女の美点だろう。


(実際、ニアはかなり強い)


 原作ロンゾルキアには『隠しパラメーター』として、『幸運値』というものが設定されている。

 これは熱心な有志たちによって解析され、一般平均は『+100』と判明した。


 ニアの幸運値はロンゾルキアでも最上位の『+700』、凄まじい『豪運』の持ち主だ。

 ただ……原作ホロウは恐ろしい『天運(てんうん)』の持ち主で、その値は驚異の『+900』。

 まともにやり合えば、絶対にボクが勝つ。


(まぁホロウ・フォン・ハイゼンベルクは、公式公認の『チートキャラ』だからね)


 しかしその分、この体に付与された『デバフ』は強烈だ。


(いつも最悪のタイミングで発動する『怠惰傲慢』+理性が飛びそうになるほど強烈な『情欲』……)


 二つの相乗効果によって、ホロウは基本的にあらゆるルートで死亡する。


 ちなみに……ロンゾルキアで最低の幸運値を誇るのは、ぶっちぎりでフィオナさんだ。

 その数値は絶望の『-1000』。

 彼女はもはや存在が『呪い』みたいなもので、『運』の介在するゲームでは絶対に勝てない。

 この世界で最も馬に手を出してはいけない人が、この世界で最も馬を愛しているなんて……皮肉な話だね。


(しかし、ポーカーをするのは久しぶりだな)


 五獄(ごごく)のみんながまだ小さかった頃、ボイドタウンの小さな家で遊んだっきりか?


(あの頃はみんなやんちゃで、いろいろと大変だったけど……楽しかったなぁ)


 昔の懐かしい記憶に(ひた)りつつ、なんとなく隣を見ると――偶然、ニアと目が合った。


(夜のカジノでヒロインと一緒にポーカー……。こういうイベントも、たまには悪くないね)


(夜のカジノでホロウと一緒にポーカー……。ふふっ、これはこれでデートみたい? うぅん、頑張ってデートにしちゃおう!)


 そうこうしているうちに、ディーラーが慣れた手つきでカードを配り、ゲームが始まった。


 テーブルには、ボクとニアを含めて六人が着いている。


「ベット」


「コール」


「コール」


「コール」


「コール」


「……フォールド」


 無難な『ベッティング・ラウンド』を経て、それぞれ不要なカードを交換していく。

 そんな中、ボクは一人だけ手札を交換することなく、なんなら手札を見ることさえなく――二度目のベットでオールイン。


 テーブルが騒然となる中、一人また一人と降りて行き……最後に対面の老爺が残った。


「では、ショーダウンを」


 ディーラーの呼びかけに応じ、先に老爺が手を開ける。


「『7』の……『フォーカード』じゃっ!」


 彼はニヤリと微笑み、周囲がざわついた。


 フォーカードはほぼ(・・)最強の役、道理で降りないわけだ。


「さてさて、そちらのカードを見せてもらえるかのぅ?」


 勝利を確信した老爺に対し、ボクはパッと手を開ける。


「おや、今日はついているな。『ロイヤルストレートフラッシュ』だ」


 ポーカーにおける『最強の役』が、最初に配られた五枚で、『偶然』にも揃っていた。


「ば、馬鹿な……っ」


 老爺は勢いよく立ち上がり、驚愕に目を白黒とさせる。


「おいおい、嘘だろ……!?」


「ノーチェンジで、ロイヤルストレートフラッシュって……っ」


「……手札を見てもなかったし、ちょっとおかしくない?」


 周囲が騒然となる中、ボクは素知らぬ顔で、老爺のチップを回収する。


「いや、すまないな。こういうことがあるから、ギャンブルというのは恐ろしい」


「ぐっ、貴様……ッ」


 その後、


「すまない、またロイヤルストレートフラッシュだ」


 さらに、


「ははっ、悪いな。再びロイヤルストレートフラッシュだ」


 さっきまでとは打って変わり、ボクはひたすらに勝ちまくって、チップの山を築き上げた。


(ふふっ、大漁だね!)


 いったい何億ゴルド、いや何十億ゴルドになるだろう?

 同卓の貴族から、しこたま(むし)り取ったけど……心はまるで痛まない。


(何せここにいるのは、弱者を食い物にしてきた重罪人ばかり。そう遠くない未来、ボイドタウンへ迎え入れる人達だからね)


 あっちの女は人身売買の元締めマーベル・対面の老爺は麻薬カルテルの大幹部バルランドゥ・向こうの男は臓器売買組織の長ゴゾ――っとまぁこんな感じで、全員立派な極悪人だ。

 彼ら彼女からお金を奪っても、良心は欠片も痛まない。

 それどころかむしろ、絞り尽くしたいまである。


(ただ、これをそのまま懐に入れるのは、なんだかちょっと悪い感じがするな……)


 どうせ立場の弱い人から、強引に吸い上げたお金だろうし……慈善事業にでも使うか。

 ハイゼンベルク家は四大貴族であり、多種多様なボランティアを行っている。

 弱者救済――そういう社会的な責任を果たすのもまた、力ある貴族の大切な役目だ。


 そうしてボクがお金の使い道について考えていると、


「「「……」」」


 無茶苦茶な役で勝ちまくっているせいか、周囲から冷たく鋭い視線が飛ぶ。


「ね、ねぇホロウ……? あなた、まさかとは思うけど……っ」


 恐る恐る問い掛けてくるニアへ、


「見ての通り、イカサマをしている」


 小さな声で淡々と答えを返した。


 ロイヤルストレートフラッシュなんて、普通にやっていて揃うわけがない。

 それが今や四連続、誰がどう見てもイカサマだ。


 ちなみにネタは、とっても簡単。


(裏カジノは『イベント』、ここで使われるトランプの柄は、完全に固定されている)


 だから事前に、裏カジノで用いられるのと全く同じトランプを買って、虚空界にロイヤルストレートフラッシュをセットしておいた。

 後は自分のカードを開けるとき、<虚空渡り>を使って『配られた札』を『虚空界の札』と入れ替える。


 そうすればあら不思議、ロイヤルストレートフラッシュの完成だ。


「どうやっているのか知らないけど、いくらなんでもやり過ぎよ! こんなの明らかに不自然だわ!」


「だろうな」


 あからさまでいい。

 いや、あからさま()いい。


 ボクとニアが小声で密談を交わしていると、VIPルームの奥から、屈強な五人の黒服がやってきた。

 みんな穏やかな笑みを浮かべているけど、目が全く笑っていない。


 ちなみに先頭を歩くのは、ボクたちをここまで案内してくれたスキンヘッド。

 もしかしたら、けっこう上の立場なのかもね。


「お客様、支配人がお呼びです。どうかこちらへ御足労願えませんか?」


「くくっ、なんだ『スペシャルVIPルーム』でもあるのか?」


「まぁそんなところです」


「そうか、それは楽しみだ――おい、行くぞ」


「うぅ……。高級ディナーじゃなかったから、カジノデートに切り替えようと思ったのに……なんで、どうしてぇ……っ」


 その後、ボクとニアはバックヤードに通され、狭く薄暗い道を右へ左へと進んで行く。


「随分と入り組んだ造りだな」


「……えぇ、こちらの方がいろいろと便利なモノで」


 大方、ボクのような違反者を逃がさないようにするためだろう。


 そのまま歩くことしばし、通路の突き当りに重厚な鉄の扉が見えた。


「どうぞ、お入りください」


 スキンヘッドに言われるがまま、部屋の中に入るとそこには――剣や角材や鉄パイプを持った、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男がワラワラといた。

 顔に刺青(いれずみ)が入っていたり、大きな古傷があったり、みんな堅気(かたぎ)には見えない。


 そして部屋の一番奥には、着物を(まと)った眼帯の老人が一人。


(おっ、いたいた!)


 あれがこの裏カジノの支配人であり、ヴァラン辺境伯の右腕ベラルタ・グノービスだ。

 嬉しいよ、やっと会えたね。


 ボクがほっこりとした温かい気持ちを抱いていると、背後でガチャリと冷たい音が響く。


「くくくっ、これでお前たちはもう、どこにも逃げられねぇぞ……?」


 スキンヘッドの男はそう言って、ニィと邪悪な笑みを浮かべた。

 どうやら、扉の鍵が閉められてしまったようだ。


「おらぁ゛、まずは服脱いで()びろやッ!」


「土下座だ土下座ッ!」


「くだらねぇ真似(イカサマ)しやがって、無事に帰れると思うなよッ!」


 黒服の男たちが怒声をあげる中、ボクは周囲をキョロキョロと見回し――スキンヘッドに問い掛ける。


「……一つだけ教えてほしい、出口は(・・・)本当に(・・・)あそこだけ(・・・・・)なのか(・・・)?」


「あぁ、そうだとも! ここは地獄の密室! お前たちは完全に『(ふくろ)(ねずみ)』だッ!」


「――ありがとう、いいことを聞かせてもらった」


 ボクはつるつるの頭を鷲掴みにし、そのままポイと後ろへ放り投げる。


「ぉ、ぉおおおおおおおおおおおおおお……!?」


 スキンヘッドは音速を超え、鉄製の扉に激しく衝突。


「が、は……っ」


『唯一の出入り口』は、ぐちゃぐちゃにひしゃげてしまった。

 あれじゃもはや、扉としての役割は果たせないだろう。


「「「なっ!?」」」


 黒服たちが驚愕に目を見開く中、ボクは飛び切り邪悪な笑みを浮かべる。


「くくくっ、これでもうどこにも逃げられないぞ? お前たちは完全に『袋の鼠』だ」

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カクヨム版:世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する



― 新着の感想 ―
ポイと放り投げただけで人体を音速超えで打ち出すホロウ腕(アーム)…いやここはそんな音速超えで打ち出されて鉄扉を凹ますほど打ち付けられても死んではいないらしい黒服の頑強さの方が驚きポイントなのでしょうか…
一気読みしました〜おもしろい^^
二度目のベッドでゴールイン に見えた(違
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