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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第二章

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第六話:聖騎士協会

 フィオナさんにお金を貸した後は、久しぶりにレドリック魔法学校へ登校する。

 一年特進クラスの後ろ扉を乱雑に開け放ち、肩で風を切りながらズカズカと教室へ入っていく。

 ボクは怠惰傲慢な悪役貴族、ちゃんと日頃から偉そうな姿勢を見せておく必要があるのだ。


 真っ直ぐ自分の席へ向かうと、楽し気な女生徒の声が聞こえてきた。


「ニアさん、凄いなー。四大貴族エインズワース家の当主様だよー?」


「うんうん、こりゃ呼び方も『ニア様』にしなきゃだね!」


「待って、そこはやっぱり『エインズワース公爵』じゃない?」


「みんな冗談はやめてよ。レドリックの中じゃ、爵位(しゃくい)は関係ないでしょ? いつも通り、ニアって呼んでちょうだい」


 ニアの言葉を受け、女生徒三人は顔を見合わせ――意地の悪い笑みを浮かべた。


「ははぁ、かしこまりましたー!」


「全て、ニア様の仰せのままに!」


「エインズワース公爵、肩をお揉みしましょうか?」


「もぅ、馬鹿っ!」


 ニアは仲のいい友達と冗談を言い合い、とても楽しそうに笑っていた。


(よかった、だいぶ立ち直ったみたいだね)


 ボクがそんなことを思っていると――こちらに気付いたニアが、周囲に気付かれないよう、こっそりと小さく右手を振ってきた。


 原作ホロウのキャラ的に、間違っても手を振り返すことはできない。

 ボクは小さく鼻を鳴らし、真っ直ぐ自分の席へ向かう。


 すると今度は、ボロボロの主人公が声を掛けてきた。


「あっおはよう、ホロウくん」


「あぁ。……酷い怪我だな、何があった?」


 ボクは素知(そし)らぬふりをして尋ねた。

 当然これが、ゾーヴァとの戦いによる負傷だということはわかっている。


(でも、あの場にいたのは『ボイド』であって、『ホロウ』じゃない)


 だからここは、何も知らない感じで接するのがベストだ。


「え、えーっと……階段から転がり落ちちゃって、みたいな……?」


 アレンは視線を泳がせながら、ぎこちなく笑った。


(原作通り、嘘が下手だな)


 でもまぁ、そのおかげでわかった。


(よしよし、ニアの口止めは、ちゃんと利いているようだね)


 ゾーヴァの死因は、『魔法実験中の事故』と報道されている。 

 その『真相』を――ボイドに消されたという事実を知っているのは、ボク・ニア・アレンの三人のみ。

 ボクとニアは協力関係にあるから問題ないとして……問題はアレンだ。


【こればかりは、俺が出張るわけにもいかん。アレンの口は、お前が塞いでおけ】


【わかった、やってみる】


 ニアにはそう指示を出しておいたんだけど、どうやら上手くやったようだね。


(それにしても、重傷だな)


 アレンの体には、いたるところに包帯が巻かれており、なんとも痛ましい姿をしている。


(ふふっ……けっこう、実にけっこうなことだ!)


 主人公の体は、勇者と魔王の因子が共存するチート。

 圧倒的な膂力(りょりょく)・異常な耐久力・超人的な回復力が売りの化物ボディだ。

『勇者の力』が覚醒した彼ならば、この程度の傷は、一晩寝れば完全回復するだろう。


 しかし今、アレンの体には、おびただしいダメージが残ったまま。


(これが意味するところはつまり……成長(レベリング)が大幅に遅れているということ!)


 正直、ちょっと不安だった。

『主人公VS大翁(おおおきな)の戦い』で、「うわぁ、アレンにけっこうな経験値が入っちゃったかも……っ」と恐れていた。


 しかし、どうやらそれは、杞憂(きゆう)に終わったらしい。


(ふふっ、第二章もこの調子で、『主人公強化イベント』をへし折っ……ん?)


 そこまで考えたところで、ちょっとした『違和感』を覚える。


(……あれ? あんな目立つ太刀傷、あったっけ……?)


 アレンの右頬には、鋭利な刃物で斬られたような傷が、前から後ろにスパッと走っていた。


 ボクは『融合の間』で、彼の姿をしっかりと確認している。

 確かそのときは、こんな目立つ傷などなかったはずだ。


(んー……?)


 よくよく細かいところを見れば、模擬刀(もぎとう)で叩かれたような打撲痕(だぼくこん)や擦りむいたような裂傷が目に付く。

 でも、凍傷の(あと)はまったく見当たらない。


(ゾーヴァの固有魔法は<原初の氷>……当然ながら、『氷』を軸にした攻撃だ)


 しかしアレンの体には、それらしい(・・・・・)()がまるでない。


(そもそもの話、主人公のレベリングが遅れていると言っても、さすがに一週間も経ってこれ(・・)は……ちょっと回復が遅過ぎないか?)


 なんとも言えない『チグハグ感』に頭を捻っていると、


「――ホロウくん、どうかした?」


 アレンはそう言って、不思議そうに小首を傾げた。

 どうやら、ジロジロと見過ぎたようだ。


「……いや、なんでもない」


 ボクは適当に誤魔化し、そのまま自分の席へ移動し、荷物をドカッと机に置く。


 ちょっとだけ引っ掛かったけど……まぁ考え過ぎだろう。


(それよりもアレン、今回は命拾いしたね。でも、次はないよ?)


 ゾーヴァは<原初の炎>と<原初の氷>を融合させ、『最強の固有魔法』――<虚空>を再現しようとしていた。

 あのときあの場所あの瞬間における『最適解』が、たまたま大翁(おおおきな)を倒すことであり、その副産物として偶然にも主人公は助かった。

 ただ、それだけのことだ。

 別に情が移ったとか、くだらない友情に(ほだ)されたとか、そんなことは断じてない。


(次にアレンを始末できる機会があれば……そのときは確実に処分する)


 ボクはこう見えて、けっこう冷酷なところがあるからね。


 自分の気持ちにしっかり区切りを付け、窓際の席へ腰を下ろす。


(とにもかくにも、原作ロンゾルキアは『第二章』に突入した)


 第一章を採点するならば――間違いなく100点満点。

 この勢いのまま、第二章の攻略も進めよう。


(基本路線は『主人公モブ化計画』の遂行、強化イベントをへし折り続けて、『一般モブクラス』にまで弱体化させる!)


 そんな風に『第二章の攻略方針』を頭の中で反芻(はんすう)していると――教室の前扉がガラガラと開き、特進クラスの担任を務めるフィオナさんが入ってきた。

 300万ゴルドという大金を借り入れ、見るからにご機嫌な彼女は、朝のホームルームを始める。


「みなさん、おはようございます。今日は大切な連絡事項があるので、静かに聞いてくださいね」


 フィオナさんはそう言って、コホンと咳払いをした。


「このところ王国周辺では、『(うつろ)』という謎の組織が目撃されております。彼らの目的は明らかになっていませんが……。夜闇に紛れて活動し、小さな女の子を誘拐しているとのこと。その構成員はみな、黒い装束に身を包み、極めて高い戦闘力を持つそうです。特に(うつろ)の創始者・統治者と言われる『ボイド』は、『異次元の強さ』を誇るらしく……。現在『聖騎士協会』は総力を挙げて、虚とボイドの逮捕に乗り出しています」


 彼女の声は、鈴を転がしたかのように美しい。

 どうしてあんなに綺麗な声が、あんなに薄汚れた人間から出て来るのだろう?

 人の体って不思議だよね。


 そんな益体(やくたい)もないことを考えながら、ホームルームを右から左へ聞き流していると、


「ねぇホロウ……大丈夫なの?」


 隣の席のニアが不安気な顔をこちらに寄せ、小さな声で耳打ちしてきた。


「何がだ?」


「いや、だってほら……その『ボイド』って、さ?」


「なんだ、心配してくれるのか?」


「べ、別にそんなんじゃないわよ! ただその、『大丈夫なのかな』なんて思ったり、思わなかったり……」


 彼女は頬を赤らめながら、恥ずかしそうにそっぽを向く。


 このとき、ボクは途轍(とてつ)もない衝撃を受けた。


(おいおい、さすがに早過ぎる(・・・・)だろ……っ)


 ニアと出会って、まだ僅か一か月あまり。

 それなのにもう、『ツンツンニア』から『ツンデレニア』へ進化していた。


(……あぁ、なんということだ……ッ)


 正直に言おう。

 ボクは一人の原作ロンゾルキアファンとして、もっとたくさんツンツンニアを見たかった。


(でも、もうあの頃の――最初期の彼女を見ることはできない……っ)

 

 いくらなんでも早過ぎる。

 このまま好感度を積み上げれば、あっという間に『デレデレニア』になってしまいそうな勢いだ。

 それはさすがにもったいないので、個人的にはなんとか阻止したい。


(こうなったら、ちょっと冷たく接してみるか……?)


 そうすれば、元のツンツンニアに戻ってくれるかも……いや、やめておこう。

 下手にやり方を間違えたら、『ヤンデレニア』に進化しそうだ。


生憎(あいにく)、『感情激重ヒロイン』は、ダイヤ一人で間に合っている……)


 これ以上同じ属性を重ねられては、さすがのボクも胃もたれを起こしてしまう。


 そんなことを考えていると、


「みなさんは優秀な魔法士ですが、同時に保護されるべき学生でもあります。王都周辺は聖騎士協会の定める『指定巡回強化地区』ですが……油断は禁物。一人一人が自衛の意識を持ちましょう。いいですか? 無暗に夜道を歩かないこと、一人で街をうろつかないこと、人気のない場所に立ち寄らないこと。危険から遠ざかることが、最強の護身術ですからね?」


 フィオナさんはまるで教師のようなことを言って、ホームルームを締めた。


(聖騎士協会、か……。正直、目障りだな)


 聖騎士協会は、ロンゾルキアにおける『国際的な治安維持組織』。

 簡単に言えば、『世界規模の警察』って感じだ。


 現場の聖騎士は真面目に職務を果たしている人も多いけど……上層部はもうドロッドロのジュックジュク。

 贈収賄(ぞうしゅうわい)・税金の着服・犯罪の隠蔽、なんでもござれ。

 基本はどこそこの貴族や経営者と繋がっているし、酷いところだともはや『飼い慣らされている』というレベルだ。


 今更『正義とはなんぞや?』なんて、恥ずかしい議論を吹っ掛けるつもりもないけど……もう少しちゃんとしてほしいよね。


(とにかく問題は……聖騎士協会が起点(・・)となるBadEndが、『デタラメに多い』ということだ)


 聖騎士協会+死亡フラグA=BadEnd『A』突入。

 聖騎士協会+死亡フラグB=BadEnd『B』突入。

 聖騎士協会+死亡フラグC=BadEnd『C』突入。


 聖騎士協会はこんな感じで、悪役貴族(ボク)と死亡フラグを結び付ける、なんとも鬱陶しい役割を果たしている。


(今のボクは『怠惰傲慢ルート』じゃなくて、『謙虚堅実ルート』で進めているから、大抵のBadEndは握り潰せると思うけど……)


『剣聖』たちが出張ってくるパターン、これだけはちょっと厄介だ。

 奴等は本当に強い。

 何せ、聖騎士協会が世界に誇る『最高戦力』だからね。


(それでもまぁ、勝てないわけじゃない)


 普通にやり合えば、ほぼほぼ押し勝てるだろう。


(しかし……それは『ナンセンス』だ)


 ボクは別に自分の力を誇示したいわけでもなければ、世界征服を目論(もくろ)んでいるわけでもない。

 ただそう――『生き延びたい』だけなんだ。


(それに、剣聖のような強敵と戦えば、『世界の修正力』がどんな干渉をしてくるかわからない……)


 可能な限り、強敵との戦闘は避けるべきだ。


(聖騎士協会をうちに引き()り込めたら、大量の死亡フラグを一気にへし折れて、めちゃくちゃ助かるんだけどなぁ……)


 残念なことにハイゼンベルク家は、聖騎士協会との繋がりがほとんどない。

 それというのも……うちが『極悪貴族』だのなんだのと言われているせいか、聖騎士協会側があまり関わりを持ちたがらないのだ。


(彼らには一応、『正義の組織』という建前(・・)がある)


 ハイゼンベルク家のような『闇』と繋がりを持つのは、立場的にちょっとマズいのだろう。

 そういうわけで今回、家の力を使うことはできない。


(なんにせよ、聖騎士協会は、いろいろな死亡フラグの元凶……メインルートの攻略において、非常に厄介な存在だ)


 武力で脅すか、餌で懐柔するか、内部に協力者を作るか、早急に手を打っておきたい。


(でも……それで『第二章の攻略』がおざなりになったら、文字通り『本末転倒』だ)


 今ボクが求めているのは、第二章のメインルートの流れに沿いつつ、聖騎士協会を手なずける方法。


(はぁ……無茶苦茶だね)


 自分で言っていて、馬鹿らしくなった。

 常識的に考えて、そんな『おいしいイベント』があるわけ…………いや、あったわ!

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