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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第一章

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エピローグ

「その仮面……貴様、ボイドだな?(謎の組織『(うつろ)』の創始者。何故(なにゆえ)ここに現れたのかは知らぬが……。儂の背後を取るとは、相当なやり手だ)」


 ゾーヴァが警戒を強める中、ニアは強烈な既視感(・・・・・・)を覚えていた。


(あの仮面、私の『熱探知』にまったく引っ掛からなかった。まるで瞬間移動でもしたかのよう……。これって、もしかして……っ)


 脳裏を(よぎ)るのは、とある可能性(・・・・・・)


(いや、あり得ない。アイツ(・・・)は損得勘定のみで動く、私を助けるようなタイプじゃない。それに……いくら彼でも、ゾーヴァには勝てない……っ)


 大翁(おおおきな)は正真正銘の化物だ。

 その圧倒的な力は、この身を以って嫌というほどに味わった。

 しかも今のゾーヴァは、子どもたちから莫大な魔力供給を受けており、その力はもはや単騎で『国家戦力』に数えられるほどのものだ。


 しかし……何故だろう。

 あの仮面の負ける姿が、まるで想像できなかった。


「ボイドよ、いったい何用かは知らぬが……。せっかくの良き夜に水を差さんでほしいな」


 ゾーヴァが人差し指を軽く振れば、大木のような氷柱(つらら)が射出された。

 外部から魔力の供給を受けることで、魔法の威力・規模・構築速度、全てがデタラメに向上している。


 分厚い鉄板を穿(うが)つ巨大な氷柱はしかし、ボイドの眼前で手品のように消えた。


「……むっ?」


 眉根を(しか)めたゾーヴァは、すぐさま次の大魔法を構築。


「――<氷晶の槍(フロスト・ランス)>」


 極大の氷槍を亜音速(あおんそく)にて射出した。


 対するボイドは、防御も回避もしない。

 ただそこに立っているだけ。

 それだけで、氷の槍は消滅した。


「なっ、なんだと……!?」


 ゾーヴァが大きな動揺を見せる中、


「……」


 ボイドは沈黙を守ったまま、ゆっくりと歩き始める。


 カッ。

 カッ。

 カッ。


 革靴が氷の大地を叩く音だけが、規則的に鳴り響く。


 静かだった。


「食らえぃ――<零下氷撃(フロスト・クラッシュ)>ッ!」


 戦いと呼ぶには、あまりにも静か過ぎた。


「ぐっ、これなら――<月下の氷嵐(ホワイト・ストーム)>ッ!」


 激しい剣戟(けんげき)も。


「な、何故だ……<氷の縛鎖(フリーズ・チェイン)>ッ!」


 大魔法の衝突も。


「はぁはぁ、<断絶の氷閃(コールド・スラッシュ)>ッ!」


 知を競う謀略も。


「こ、の……<原初の天氷(オリジン・グレイシア)>ッ!」


 ここには何もない。


 哀れな道化が、独り芝居を演じるのみ。


「な、なんだ……何が起きている……!?」


 ボイドは優雅に歩くだけ。

 ただそれだけで、ゾーヴァの放つ大魔法は消えていく。


(奴の固有はいったい……!?)


 三百年の叡智(えいち)を結集し、必死に答えを探し求めた。


 ……いや、そんなことをせずとも、本当はもうわかっている。


 否定したかった。


 認めたくなかった。


 しかし、こんな芸当が可能な固有は、もはやアレ(・・)しかない。


「まさか……<虚空>?」


 自らの描いた理想にして、三百年と渇望した夢、それが『最強の固有魔法』<虚空>だ。

<原初の炎>と<原初の氷>、臨界まで高めた二つの因子を融合し、現代に<虚空>を蘇らせる――これがゾーヴァの掲げる悲願だった。

 彼は虚空の因子を手にするため、ただそれだけのために生きてきた。

 (いにしえ)の魔法書を解読し、(おの)が<原初の氷>を極め、魔法技能を徹底的に磨き、<原初の炎>の誕生を待ち続け、ニアから『収奪の力』を奪い、子どもたちから魔力を搾取する。


 そして今日、ようやく全てのピースが揃った。


 それなのに……自身の夢を体現する者が、突如として目の前に現れた。


 その事実は、とても許容できるものではなく……。


「ふ、ふ……ふざけるなぁああああああああ! それ(・・)は儂のモノだッ! 儂の悲願だッッ! 貴様のような何処(どこ)の馬の骨とも知れぬ愚物が、気安く使ってよい代物では断じてないッッッ!」


 大翁(おおおきな)激昂(げきこう)し、猛烈な吹雪を差し向ける。


 しかし、届かない。

<原初の氷>が通じない――のではない。


 あらゆる(・・・・)攻撃が(・・・)到達しない(・・・・・)


 雪の刃も、氷の槍も、巨大な氷塊も、全て虚空に呑まれて消えていく。


 ボイドの前には、あらゆる攻撃が平等に『無』となる。

 まさに『超越者』、目の前の仮面は(ことわり)の外に立っていた。


「ぅ、ぐ……ぉ、ぉ、ぉ……っ」


 狂おしいほどの苛立ちを抱えたゾーヴァは、その白髪をぐしゃぐしゃに()(むし)りながら、なんとか冷静に思考を回す。 


(『厄災』ゼノの<虚空>は、万物を滅ぼす破滅の力……。信じられぬことだが、決して許されぬことだが、ボイドはそれを完璧に掌握している……ッ)


 彼我の実力差は歴然。

 ボイドとの戦闘は、自殺に等しい行為だ。


 実際にゾーヴァの生存本能が告げている。


 今すぐ逃げろ、と。


(しかし、ここまで来て……っ。やっと全てが揃ったというのに……ッ)


 そうして頭を抱えている間にも、ボイドの歩みは止まることなく、両者の距離はもはや5メートルに迫っていた。


「くっ……<雪雲(ホワイトアウト)>!」


 苦渋の決断を下したゾーヴァは、濃密な雪の煙幕を張り――無様に逃げ出した。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ(くそ、くそくそくそ……! なんなのだ、あの仮面は!? あんな化物が、今までどこに潜んでいたというのだッ!?)


 敵に背を向け、必死に足を動かし、緊急用の隠し通路へ逃げ込もうとしたそのとき、


「な゛っ!?」


 突如ガクンとバランスを崩し、みっともなく氷の地面を転がった。


 見れば、ゾーヴァの右脚の膝から下が綺麗に無くなっている。虚空の彼方に消し飛ばされてしまったのだ。

 欠損した部位から鮮血が溢れ出し、一拍遅れて凄まじい激痛が脳を焼く。


「ぁ、ぐ……がぁああああああああ……!?」


 赤い絨毯(じゅうたん)がじんわりと広がり、老爺の絶叫が広大な地下に木霊(こだま)した。


「足が、儂の……足、儂、の……っ」


 小さくなった大翁を見下ろす形で、ボイドが立つ。


「――失望したぞ、ゾーヴァ」


 背筋の凍る冷たい声が響いた。


(正直、もっと強いと思っていた。ボクはこんな雑魚っぱのことで、今日一日ずっと思い悩んでいたのか? まったく……笑い話にもならないな)


 無言のままに右手を伸ばし、とどめを刺そうとしたそのとき、


(いや、待てよ……。確かこのとき原作ロンゾルキアでは、激昂(げきこう)した主人公が、ゾーヴァの実験施設を壊しまくっていたはず……)


 エインズワース家の地下は、蟻の巣のように入り組んだ構造をしており、そこかしこにゾーヴァの実験室がある。


(ふむ……)


 ボイドの脳裏をよぎるのは、美麗なCGで描かれた『とあるイベントシーン』。


【ニアを悲しませる部屋なんて、この世界には必要ない……! こんなくだらない施設、ボクが全部壊してやるッ!】


『勇者の力』に目覚めた主人公は、ゾーヴァの実験施設を破壊しまくっていた。

 大翁が作中随一の『胸糞キャラ』ということもあり、この場面はロンゾルキアでも屈指の名シーンと言われている。


(メインルートとのブレは、出来る限り少ない方がいい……。別にゾーヴァの施設を残す意味もないし、ストレス発散がてら派手に壊させてもらおう)


 ボイドは邪悪な笑みを浮かべ、漆黒の大魔力を解き放った。


 それは『融合の間』を飛び出し、エインズワースの領地を超え、王都全体を包み込む。


(こ、こんな魔力……個人が保有していいものじゃない……っ)


 ニアは小さく頭を横へ振り、


(……怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……ッ)


 アレンは生物的本能に身を縮め、


(あ、あり得ん……。これではもはや、『厄災』ゼノそのものではないか……っ)


 ゾーヴァは驚愕に目を見開く。


 次の瞬間、100を超える『漆黒の球体』が出現し、


「――<虚空(まわ)し>」


『虚空の引力』を帯びた巨大な球体は、超高速で縦横無尽に動き回り、文字通り全てを(・・・)呑み込んで(・・・・・)行った(・・・)

 耳をつんざく轟音が、腹の底に響く破砕音が響き渡り、地下に広がるゾーヴァの実験室や研究室や資料室が――あっという間に虚空へ消えた。


 それはまさに天災、キャンバスに黒を落とすが如く、森羅万象を『無』で塗り潰して行く。


「や、やめろぉおおおおおおおお……やめてくれぇええええええええ……ッ!!!」


 大翁の痛々しい慟哭(どうこく)が響く。

 それも無理のない話だろう。

 三百年と懸けて築き上げた自分の城が、突如現れた理不尽(ボイド)によって、踏み(にじ)られていくのだから。


 しかしこれは、文字通りの『因果応報』。

 ゾーヴァはニアの力を悪用し、病に()せた子どもたちから魔力を奪い、多くの罪なき人々の人生を(もてあそ)んできた、非人道的な魔法実験を何度も繰り返してきた。


 今まで()した悪行の責が、考え得る限り最悪のタイミング――自分の夢が結実する瞬間に返って来たのだ。


「わ、儂の夢が……三百年の結晶が……っ」


 ボロボロと大粒の涙を零すゾーヴァ。


 それを目にしたボイドは――名状(めいじょう)(がた)愉悦(ゆえつ)に襲われた。


「ふ、ははっ……ふはははははははは……ッ!」


 (わら)いが止まらなかった。

 嘲笑を止めることができなかった。

 腹の奥底から、『黒い快感』が()()なく湧き上がる。


 極悪貴族ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、彼の抱える悪性が、これでもかというほどに噴き上がった。


「あぁ、何故……どうして、こんなことに………っ」


 ゾーヴァが無念に打ちひしがれる中、ニアはかつてないほどの開放感を噛み締める。


「……っ」


 長年にわたり、ずっと自分を縛り続けてきた鳥籠(とりかご)

 それが粉々に破壊されていく様は、どうしようもなく『爽快』だった。


「ふぅ……」


 モノの十秒と経たずに破壊の限りを尽くしたボイドは、どこかスッキリとした様子で息をつく。


 一方――夢の最期を無理矢理に見届けさせられたゾーヴァは、憎悪の炎を(たぎ)らせる。


「……なんなのだ、貴様は……っ。いったい何が目的だ!? その力、どこで手に入れた!?」


 ボイドは何も答えず、スッと右手を前に伸ばす。

 仮面の眼窩(がんか)に光るのは、恐ろしく冷たい真紅の瞳。


(な、なんという眼だ……っ)


 それは自分を見ていない。

 そこには一切の感情が籠っていない。

 まるで地を這う虫を見下ろしているかのよう。


 本能で理解した、「この男に命乞いは通じない」と。


 ゾーヴァはせわしなく周囲に目をやり、なんとか生き残る可能性を探す。

 そして――ほんの僅かな光を見つけた。


「に、ニア……! 私が悪かった、これまでのことは謝る、この通りだ! だから頼む、助けてくれぇ……っ」


 なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、ニアに助けを求めた。


 これこそがゾーヴァの生き方だ。

 自身が劣勢に置かれれば、どんなものでも利用する。

 恥も外聞もなく、ただただ生きることに憑りつかれた、救いようのない邪悪な亡霊。


 ニアの目は――哀れなモノを見るように(ほそ)まった。


 そしてボイドは右手をかざし、


「――さようなら、ゾーヴァ・レ・エインズワース」


「や、やめろ! 儂はまだ、死にたくな――」


 虚空が全てを呑み込んだ。


 三百年と生き永らえた亡霊、その最期は酷くあっけないものだった。


「……次元が、違う……っ」


 アレンの口から零れたのは絶望。

 自分と仮面の間には、あまりにも……あまりにも大きな(へだ)たりがあった。


 敵か味方か。

 異様な緊張感に包まれる中、謎の仮面は虚空の彼方に消えていった。



 その日の深夜遅く、エインズワース家の屋敷にて。


 お風呂で疲れを洗い流したニアが、薄いネグリジェとレースの羽織(はおり)(まと)ったそのとき――寝室の一角に漆黒の渦が出現する。

 そこから姿を現したのは、先ほど圧倒的な力を見せ付けた謎の仮面だ。


「乙女の寝室になんの用かしら……ホロウ(・・・)?」


 謎の男がフードを脱ぎ、仮面を取り去るとそこには、臙脂(えんじ)の髪と真紅の瞳。


「口止めに来た」


「まぁ、そうでしょうね」


 この展開を予想していたのか、ニアは落ち着き払った様子だ。


「わかっていると思うが、俺の正体と<虚空>については他言無用だ。もしも言い触らすようならば――」


「――煮るなり焼くなり好きにしてちょうだい。でも、私はそんな恩知らずじゃないわ」


「そうか、ならいい」


「……随分あっさり信用してくれるのね。<契約(コントラ)>を結べとか、言ってこないの?」


「人を見る目には自信がある。お前は嘘をつくような女じゃない」


「ふ、ふーん……そんな風に思っててくれたんだ……っ」


 ニアは視線を逸らし、その細い指でクルクルと金髪を(いじ)る。

 この行動は、彼女が照れ隠しの際によく見られるものだ。


(原作ニアは、絶対に約束を守るキャラだった。彼女の言葉は信用できる)


 とあるルートで敵に捕まり、捕虜となって厳しい尋問を受けた時も、ニアは決して主人公サイドの情報を吐かなかった。

 彼女の口の硬さは作中でもトップクラス、ここから情報が洩れることはあり得ない。


(まぁそれに、<契約>は強力な縛りだけど、解く方法がないわけじゃないしね)


 下手に魔法で縛るよりも、信頼という鎖に()めた方がいい。

 ホロウは合理的に、そう判断したのだ。


「ねぇホロウ、どうして――」


 ニアが『とある疑問』を口にしようとしたそのとき、


「――動くな」


 摸擬戦のときと、全く同じ命令が下る。

 あのときは、恐怖のあまり動けなかった。


 しかし、今は違う。

 自然と受け入れられた。

 あのときの恐怖は、もうどこにもなかった。


 ホロウの大きな手が両肩に回され、真紅の瞳がゆっくりと近付いてくる。


(……綺麗)


 夕焼けのような、炎のような、吸い込まれるような瞳。


 ニアは静かに目を閉じ、ホロウに(すべて)(ゆだ)ねた。


 一方のホロウは、ニアの瞳の奥をジッと見据える。


(確かこの辺りに……っと、あった(・・・)


 彼女の瞳の奥に、大翁(おおおきな)の魔法因子が(のこ)っていた。

 因子改造手術によって埋め込まれたこれが、<原初の炎>の力を(いびつ)に捻じ曲げ、『収奪の力』の主導権をゾーヴァに書き換えているのだ。


(周囲の神経組織を傷付けないよう、超々極小の虚空を展開して……これでよしっと)


 大翁の魔法因子を消し飛ばし、『アフターフォロー』を終えたホロウは、


「もういいぞ」


 停止命令を解き、あっさりとニアを解放する。


「えっ……しない(・・・)、の……?」


 どこか物寂しそうな彼女に対し、


「何をだ?」


 ホロウは不思議そうに小首を傾げた。


「も、もぅ……なんでもないわよ……っ(こ、これじゃなんか、私が期待してたみたいじゃない……っ)」


 顔を真っ赤にしたニアは、プイとそっぽを向く。


「何を()ねているのか知らんが……まぁいい。お前の中に遺る大翁の魔法因子を消し飛ばした。これで<原初の炎>が持つ『収奪の力』、その主導権が戻っているはずだ。確認してみろ」


「え? う、うそ……っ」


 ニアはすぐさま自分の胸に手を当て、<原初の炎>に集中する。

 すると確かに、これまでゾーヴァに奪われていた力が、自分の元へ帰って来ているのがわかった。


「や、やった……戻ってる! これであの子たちもみんな、本当に解放される……っ」


 ゾーヴァが消えた後も力は帰って来なかったので、どうしたものかと悩んでいたのだが……これで全て解決だ。

 グッと拳を握り、心の底から喜ぶニア。

 その様子を見届けたホロウは、クルリと背を向け、<虚空渡り>を発動する。

 彼がそのままハイゼンベルクの屋敷に飛ぼうとすると、ニアが大慌てで制止の声をあげた。


「ま、待って……!」


「なんだ?」


 ホロウは面倒くさそうに振り返る。

 その口調と姿勢は本当にいつも通りで、とてもあの大翁を倒した後だとは思えないほど、極々自然体だった。


 一方のニアは居住まいを正し、その(おも)いの(たけ)を口にする。


「ホロウ、本当に……本当にありがとう。あなたには感謝してもしきれないわ。この恩は一生を懸けてでも返していく」


「ふん……。『なんでも言うことを聞く』といったあの約束、まさか忘れてはいないだろうな?」


「えぇもちろん、あなたの言うことならなんだって聞くわ。……本当になんでも、ね」


 ニアはほんのりと頬を赤く染めながら、伏し目がちに上目遣いで同じ言葉を繰り返した。


 その瞬間、ホロウの心に『情欲の炎』が燃え(たぎ)る。


(おい馬鹿、やめろ……っ。この体はもう……『限界』なんだぞ……ッ)


 彼はすぐさま鋼の意思を総動員し、なんとかこの気持ちを鎮めんとした。


 しかし、


(あぁ可愛いな、今度こそちゃんとしたキスを……いや落ち着け。あの大きな胸を……駄目だ駄目だ駄目だッ。ちょうどそこにベッドもあるし、このまま朝まで……馬鹿待て早まるな!)


 お風呂上がりのニアの(うるお)った髪・ほんのりと上気した肌・服の上からでもわかる大きな胸・薄いネグリジェから覗く健康的な白い太腿(ふともも)・ぷっくりとした柔らかそうな唇・甘くてとろけるような女の子の香り――ホロウの理性は既に崩壊寸前だった。


 彼の肉体は世界最高のスペックを誇るが……その反面、この手の『欲』にはとことん弱い。


(はぁ、はぁ……駄目だ、これ以上はもう持たない……っ。くそっ、無敵の<虚空>でも、この欲求だけは消し飛ばせない……ッ)


 ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは今、ロンゾルキアに転生して以来、最も過酷で苦しい戦いに身を投じていた。


「……」


「……」


 なんとも言えない沈黙が降りる中、ニアは先ほど口にしかけた問いを投げる。


「ねぇホロウ、一つ聞いてもいい……?」


「……なんだ」


「どうして私を助けてくれたの?」


「別に、お前を助けてなどいない。俺はただ、自分が助かりたかっただけだ」


「……えっ……?」


 ニアはパチパチと目を(またた)く。

 言葉としては理解できるが、文章として理解できなかった。


「いや……あなたみたいな化物が、いったい何から助かりたいというの?」


 史上最悪の魔法士『災厄』ゼノと同じ<虚空>を持ち、人の領域を踏み超えた絶大な魔力を宿し、神に愛された超人的な膂力を誇る天才――ホロウ・フォン・ハイゼンベルク。

 そんな怪物が何を恐れるのか、まったく理解できなかった。


 ニアの至極真っ当な質問を受け、ホロウは真剣な表情で答える。


「それはもちろん――『死の運命(シナリオ)』だ」


 彼はそう言い残し、虚空の彼方へ消えていった。


 たとえどれだけ強くなろうとも、たとえどれだけ準備を重ねようとも、気を抜くことはできない。

 何せ悪役貴族ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは『歩く死亡フラグ』、世界に中指を立てられた存在だ。

 過酷なホロウルートを乗り越え、幸せな生存Endへ辿り着くためにはやはり――『主人公モブ化計画』の完遂が必須。


(ロンゾルキアにおける『第一章大翁(おおおきな)ゾーヴァ編』は、理想的とも言える形でクリアできた。しかし、油断は禁物だ。原作ホロウの二の舞にならないよう、『怠惰傲慢』は封印し、『謙虚堅実』に生きていかねば!)


 さぁ、次の――『第二章の死亡フラグ』をへし折りに行くとしよう。

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ホロウの物語は一旦これにて完結。

第2章以降の続きを連載するかどうかは、まだ何も決まっていないので、一度キリのいいここで完結設定とさせてください。(数日後にエピソードを更新し、『続編の有無』をお知らせするので、フォローは外さずにそのままでお願いします!)


「第2章が、続きが読みたい!」

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作者のやる気が出て(以下略


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ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


最後になりますが、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

願わくば、また第2章で会えることを楽しみにしております!


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― 新着の感想 ―
星を毎度つけられるなら、つけているのですが、一度しかつけられないのがもどかしいです。 欲望に負けないホロウ様も素敵だけど、負けたところも見てみたい気もする笑
虚空にあんなに色々放り込んで、盗賊さんたち潰れてるんじゃ
第一章、最初から最後までめちゃくちゃ面白かったです! 是非とも第二章を読ませていただきたいです!!!
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