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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第一章

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第二十九話:『大翁』ゾーヴァ・レ・エインズワース

 ホロウとエンティアの『客観問答(きゃっかんもんどう)』から、時を(さかのぼ)ること十分――。


 エインズワース家の地下深くでは、大儀式が執り行われようとしていた。

 そこは『融合の間』。豊かな魔石の鉱脈を掘り進んでできたこの場所は、巨大なドーム状の空間となっており、魔石の放つ淡い光によって視界が確保されている。


「ニアよ、きちんと身は清めてきたな?」


 ゾーヴァの問いを受け、


「……はい、お爺様」


 純白の薄いネグリジェを(まと)ったニアが、素直にコクリと頷いた。

 ゾーヴァは目を凝らし、彼女の瑞々(みずみず)しい体をジッと見つめると……その胸の奥では、<原初の炎>の魔法因子が燦々(さんさん)と輝いていた。


「くくっ、素晴らしい! よくぞここまで育った! 儂は嬉しいぞッ!」


 邪悪な笑みを浮かべたゾーヴァは、クルリと(きびす)を返し、全長十メートルにも迫る巨大な『魔水晶』に目を向ける。

 これは彼が長い年月を掛けて調整した『魔法炉(まほうろ)』、その内部には莫大な量の魔力が揺蕩(たゆた)っていた。

 ここにある魔力は全て、<原初の炎>が有する『収奪の力』を悪用し、十年もの長きにわたって、子どもたちから吸い上げたものだ。


「<原初の炎>・<原初の氷>・莫大な魔力……今宵(こよい)、ここに全てが揃った」


 ゾーヴァの研究によれば、<原初の炎>と<原初の氷>を莫大な魔力で融合することで、『最強の固有魔法』が再現される、とのことだ。


「三百年余りとなるか……。言葉にすれば一瞬じゃが……永かった。ここに至るまで本当に永かった……っ」


 年季の入った喉から、万感の思いが零れ落ちる。


「さぁ、『原初の大儀式』を()()し、今こそ『最強の固有魔法』を再現するのだッ!」


 ゾーヴァは勢いよく手を伸ばし、<原初の炎>の魔法因子を抜き取らんとする。


 一方のニアは、自分の胸元に伸ばされる手をがっしりと掴み取った。


「……なんの真似だ?」


「残念だけど、あなたの計画(ゆめ)は、ここで燃え朽ちるの! ――<原初の劫炎(プロミネンス・ノヴァ)>ッ!」


「ぬぅ!?」


 1000℃を優に超える灼熱の劫火(ごうか)が、ゾーヴァの全身を包み込む。

 並の魔法士がこれを食らえば、骨すら残らないだろう。


 しかし、


「知っていたとも」


 極寒の冷気によって、灼熱の炎は凍り付き、パキンパキンと砕け散る。


「お前の心が折れていないことも、静かに刃を研いでいることも、今日この場で戦いを挑んでくることも――全てお見通しだ」


 ゾーヴァの全身から、凄まじい大魔力が吹き荒れた。


「きゃぁ……ッ!?」


 その瞬間、世界が一変する。

 (こけ)の生い茂る広大な地下空間は、(またた)きのうちに永久凍土へ塗り替えられた。


(な、なんていう力なの……っ)


 まさに天変地異。

大翁(おおおきな)』ゾーヴァの力は、人の領域を超えていた。


「ニアよ、お前は(さと)い子だ。今の一幕で、彼我(ひが)の実力差はわかったじゃろう? その体には大切な……とても大切な因子が宿っておる。無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しなさい」


「残念だけど、それは無理な相談、ねッ!」


 ニアが右手を前に突き出すと同時、三つの炎弾(えんだん)が立て続けに放たれた。


「はぁ……こんな子ども騙しの魔法が、この儂に通用するとでも?」


 ゾーヴァがため息を零しながら、一つ・二つと撃墜したそのとき、


「――(はじ)けろ!」


 ニアの号令に応じて、三つ目の炎弾が自壊(じかい)し――眩い閃光が(ほとばし)る。


「目潰しとは、小賢(こざか)しい真似を……ッ」


 ゾーヴァが思わず目を閉じたそのとき、


(来た、ニアさんの合図(・・)だ!)


 物陰で息を潜めていたアレンが、凄まじい勢いで飛び出した。


「ハァアアアア……!」


 最高速から繰り出される渾身の蹴りが、視界の潰されたゾーヴァに襲い掛かる。


 しかし、


「無駄なことを……<自律氷壁(オート・ウォール)>」


『氷の自律防御』が起動し、分厚い白銀の氷壁が、鋭い蹴りを完璧に防いだ。


 その瞬間、


()っ!?」


 アレンの顔が苦悶に歪む。

 それもそのはず、ゾーヴァの生み出す氷の壁は、鋼鉄を遥かに凌ぐ硬度を持つ。


 そしてさらに、


「なっ!?」


 氷の防壁に触れた右足は、たちまちのうちに凍り付き――一瞬にして重度の凍傷を負った。


「くそっ」


 魔力を込めた短刀で氷の壁を断ち斬り、着地した左足で大きくバックステップを踏む。


「アレン、大丈夫……!?」


「ごめん、仕留め損ねた……っ」


 ニアはすぐさま『創造の炎』を使い、アレンの氷を溶かしてダメージを癒す。


(私の不意打ちも、私とアレンのコンビネーションでも、まるでダメージを与えられない……っ。これがあの(・・)ホロウでさえ警戒する魔法士、『大翁(おおおきな)』ゾーヴァ・レ・エインズワースの力……ッ)


 ニアが敵の脅威を再認識する中、視界を取り戻したゾーヴァが、その長く白い髭を揉む。


「ふむ……そこな子兎(こうさぎ)はレドリックの予科生、確かアレン・フォルティスといったか。人並み以上の膂力(りょりょく)を備えておるようじゃが……所詮はそれだけ。貴様にはまるで興味が湧かぬな」


 その間、ニアとアレンは小声で密談を交わす。


「長期戦は圧倒的にこちらが不利。打ち合わせ通り、『次』で仕留めるわよ?」


「わかった。ここからが正念場だね」


 アレンは浅く短く息を吐き、集中をさらに高めた。


「……もしも万が一、次の攻撃が失敗に終わったら、アレンだけでも逃げてちょうだい。その(スピード)があれば、あなた一人なら振り切れるかもしれない」


「ごめん、それだけは絶対に嫌だ」


 彼は即座に首を横へ振る。


「……前々から思っていたけれど、けっこう頑固よね」


「そう、かな? まぁとにかく、今は勝つことだけを考えようよ」


 どんな状況でも明るく前向きなその姿勢は、まさに『主人公』と呼べるモノだった。


「私はホロウみたいに魔力制御が上手くないから、大きな魔法を使うには『溜め』がいる。時間稼ぎ、頼むわよ?」


「うん、任せて」


 言うが早いか、アレンは風のように走り出し、


「ハァッ!」


「ちょこまかちょこまかと……目障りな子兎だ」


 ゾーヴァとの接近格闘戦を演じた。


 ニアはその間に息を整え――体内で莫大な魔力を練りながら、(ホロウ)との会話を思い出す。


【どう、かしら……? 強くなった今の私なら、ゾーヴァに勝てそう……?】


【まぁ、現実的ではないな。たかだか『数週間』の修業で、大翁(おおおきな)の『三百年』に勝てれば苦労はない。単純に時間の差が大き過ぎる】


【そ、それじゃどうすればいいのよ……っ】


【前にも言ったと思うが、<原初の炎>の強みは『圧倒的な超火力』。だから、一撃で(・・・)仕留めろ(・・・・)


【い、一撃で……?】


【そうだ。長期戦になれば、地力の差が浮き彫りになる。狙うは超短期決戦。後のことなど考えず、ありったけの魔力を一発の魔法に注ぎ込め。そうすれば、瞬間的な火力はゾーヴァを上回り……もしかすると殺し切れるかもしれん】


 ゾーヴァ・レ・エインズワースは、遥か悠久の時を生きる化物。

 魔法士としての総合力では、とても勝てない。


 だから、長所を活かす。

『火力』に絞った一点勝負。

 渾身の一撃を持って、エインズワースの亡霊を焼き滅ぼす。


(私のこれまでの人生を、十五年にわたる努力の日々を――ありったけを、この一発に……込めるッ!)


 ニアは息を止め――全魔力を解放する。


「ハァアアアアアアアア……ッ!」


 その瞬間、『起源の火』が吹き荒れた。

 暴力的な紅蓮の炎は森羅万象を焼き焦がし、白い燐光(りんこう)を帯びた火焔(かえん)はあらゆる一切を回帰させる。

『破滅の焔』と『創造の焔』を(まと)いしニアは、『炎の女神』と見紛(みまが)うばかりの神々しさを放っていた。


「なんと……っ」


「す、凄い……ッ」


 交戦中のゾーヴァとアレンは思わず、ニアの威容(いよう)見惚(みと)れてしまう。


 極寒の永久凍土が雪解けを迎える中、ニアは大きく右手を振りかぶった。


「これが私の全身全霊……! 食らいなさい、<原初の太陽(オリジン・フレア)>ッ!」


 刹那(せつな)、まるで太陽かと見紛(みまが)う灼熱の大炎塊が、凄まじい速度で解き放たれる。


(これをまともに食らえば、さすがの儂も消し飛ぶな……)


 ニアの練り上げた大魔法は、ゾーヴァを(ほふ)るだけの威力を秘めていた。


(しかし――若い。火力を優先するあまり、構造が雑になっておるぞ?)


 ゾーヴァは冷静に頭を回し、<原初の太陽>の構造的弱点を突くような形で、最高位の防御魔法を構築せんとする。

 これは()しくも、ホロウがニアとの戦いで披露した、<障壁(ウォール)>による防御とまったく同じ手法だった。


 そしてこのとき、


「――ハァアアアアアアアア!」


 ゾーヴァは視界の片隅に、猛然と迫るアレンを捉えた。


 しかし――捨て置いた。


(ただ速いだけの子兎に脅威となるものはない。それよりも今警戒すべきはニアの大魔法!)


 アレンの攻撃なぞ、氷の自律防御でどうにでもなる。


 その油断と慢心こそが、主人公の狙いだとも知らず。


「――<零相殺(ゼロ・カウンター)>!」


 甲高い音が鳴り響き、氷の自律防御が()き消された。


「なにッ!?」


 前方の魔法Aを瞬時に模倣、全く逆位相の魔法A’を放ち、対消滅させる。


 勇者の固有魔法<零相殺>が、これ以上ない最高のタイミングで刺さった。


(儂の<自律氷壁(オート・ウォール)>が突破された……否、相殺された!? 今の現象はまさか、『勇者』の固有――)


「ここだッ!」


 アレンの短刀が(きらめ)き、ゾーヴァの胸部が深々と斬り裂かれる。


「ぐ、ぉ……子兎、如きが……ッ」


 彼はすぐさま回復魔法を発動。

 それと同時に<自律氷壁(オート・ウォール)>を組み直し、氷の自律防御を再構築する。


 しかしそれは、明確な『悪手』だった。


「――お爺様、どこを見ているのかしら?」


「しまっ!?」


<原初の太陽>がゾーヴァの体を正確に捉える。


「ぐっ、ぉ、ぉおおおおおおおお……!?」


 次の瞬間、世界が真白(ましろ)に染まった。

 それは音を消し飛ばすほどの『大爆発』、凄まじい爆炎が吹き荒れ、強烈な衝撃波が腹の底を打つ。


「……や、やった。ゾーヴァに……勝った……っ。これで、あの子たちも助か――」


 ニアの目尻に歓喜の涙が浮かんだそのとき、


「――<炸裂氷柱(アイシクル・バーン)>」


 鋭く尖った無数の氷柱(つらら)が、散弾銃のように放たれた。


「……えっ……?」


 視界を埋め尽くすのは氷柱の壁。

 全魔力を使い果たしたニアに、これを回避する力は残されていない。


「――危ないッ!」


 超人的な反射神経を持つアレンは、必死に両手を伸ばし、ニアを思い切り突き飛ばした。


 直後、


「ぐ……ッ」


 鋭利な氷柱が、主人公の全身を襲う。


「だ、大丈夫……!?」


「はぁはぁ……なんとか、ね……っ。それよりもゾーヴァが……」


 アレンの視線の先――燃え盛る爆炎の中から現れたのは、


「――ふははっ、死ぬかと思うたぞ!」


 全身に大火傷(おおやけど)を負ったエインズワースの亡霊。

 彼は傷口を霜で覆い、出血箇所を結晶で塞ぎ、千切れた左腕を氷で繋ぎ合わせていた。


「そん、な……っ」


「く……ッ」


 ニアとアレンが絶望に暮れる中、勝利を確信したゾーヴァが饒舌(じょうぜつ)に語る。


「子兎よ。貴様の短刀がもうちぃとばかし深く、心の臓まで達しておれば、今の攻撃で()れていただろうな」


 生死を分けたのは、僅か数センチの差だった。


 アレンに胸部を斬り裂かれ、眼前に<原初の太陽>が迫ったゾーヴァは――迅速に諦めた(・・・)


(もはや無傷での防御は叶わん……っ。どれほどの重傷を負おうとも、生き残ることを優先するッ!)


 胸の傷は深いが、心臓までは届いていない。

 今ここで対応すべきは、胸部の切り傷ではなく、目の前に迫る大炎塊。


(最高最大強化――<原初の氷鎧(フロスト・アーマー)>×<原初の冷気(フロスト・エアー)>ッ!)


 分厚い氷の鎧で爆炎を受け止めつつ、極寒の冷気で威力を減衰させることで――瀕死の重傷を負いながらも、なんとか(しの)ぎ切った。


 もしもアレンの斬撃が、もう少し深く抉っていれば……。

 もしもアレンの<零相殺>が進化していれば……。

 ゾーヴァの言葉通り、今の手順で殺し切れていただろう。


 敗因は明確――『主人公のレベリング不足』。


(くそ、ボクがしっかりと決め切れていれば……っ)


 彼がグッと奥歯を噛み締めていると、ゾーヴァから声が掛かる。


「ときに子兎よ、先の固有魔法……貴様、勇者の子孫だな?」


「……それが何か?」


 自分が伝説の六英雄の――勇者の血を引いていることは、祖父から説明を受けていた。


「くくっ……そうか、アレはやはり勇者の固有であったか!」


 ゾーヴァが(おぞ)ましい笑みを浮かべる中、ニアは最後の願いを口にする。


「……アレン、ここまで付き合ってくれて、本当にありがとう。悔しいけれど、これはもう私達の負け……。せめて、あなただけでも生きてちょうだい」


「嫌だ。女の子を置いて逃げるような軟弱者を……誰も『勇者』とは呼ばない」


 アレン・フォルティスは、勇者の血を色濃く引く英雄の卵。

 その血はまるで『呪い』のように彼の行動を縛り付け、『勇者とは()くあらん』と強制する。


(死ぬほど痛いけど、体はまだ動く……っ)


 アレンは短刀を握る手に力を込め、


「ハァアアアアアアアア……!」


 ボロボロの体に鞭を打ち、真っ直ぐ一直線に駆け出した。


(こっちは満身創痍だけど……。ゾーヴァだって瀕死のダメージを負っているッ!)


 地面を踏みしめるたび、傷口からじんわりと血が(にじ)む。


 しかしそれでも、彼の足は止まらない。


「食らえッ!」


「芸の無い……」


 アレンの蹴りに反応して、氷の防壁が自動的に生成される。


「なん、の……!」


 彼は空中で強引に体を捻り蹴撃(しゅうげき)を中断、すかさず固有魔法を展開する。


「<零相殺(ゼロ・カウンター)>!」


 氷の壁を掻き消し――さらにもう一歩奥へ踏み込む。


 今度こそ確実に仕留めるために。


 だが……。


「――<原初の氷刃>・<凍土の一撃>・<氷嵐の吹雪>」


 ゾーヴァは空中に指を走らせ、出の早い魔法を三連続で放つ。


「<零相殺>……が、ふッ!?」


<零相殺>が無力化できるのは、前方に存在する一つの魔法のみ。

 今みたく物量で押された場合、その真価を発揮できない。


「<零相殺>は所詮、『(おどろ)かしの一発芸』に過ぎぬ。相殺されるとわかっているのならば、そう(わきま)えたうえで攻めればよい」


 ゾーヴァが右腕を薙ぐ同時、七つの巨大な氷塊が、アレンの周囲を取り囲む。


「なっ!?(この規模の大魔法を一瞬で……!?)」


 白銀の氷塊は凄まじい速度で落下し、


「か、は……っ」


 アレンの全身を完膚なきまでに痛め付けた。


「アレンッ!?」


 ニアの悲鳴が響く中、主人公は(なお)も立ち上がる。


「……はぁ、はぁ……っ」


 おびただしい量の血を流し、右腕はだらりと垂れ、片足を引き摺ったまま――左の短刀を握り締める。


「まだ、だ……ッ」


 もはや死に体となっているが、その心はまだ折れていない。


「その眼……くくっ、なるほどそういうことか。『あともう少しで倒せる』、そう思っているのだな?」


 ゾーヴァは飛び切り邪悪な笑みを浮かべ、まるで見せ付けるかのように右手を掲げる。


「希望とはまやかし。真なる絶望を――我が『収奪の力』を見せてくれる!」


 ニアから取り上げた収奪の力を起動し、大病院に監禁している子どもたちから、大量の魔力を吸い上げた。


 その結果、ゾーヴァの肉体へ莫大な魔力が流れ込み、


「ふぅうううう……っ」


 必死の思いで積み重ねたダメージが、完全に回復してしまった。

 外部の魔力源からバックアップを得ることで、戦闘開始時よりも遥かに強くなっている。


「そん、な……っ」


「こんなのって……ッ」


 アレンとニアの顔が、今度こそ絶望に染まった。


 彼らの抱くほんの僅かな希望は、ここに(つい)えてしまった。


「くくっ、いい顔だ」


 満足気に微笑んだゾーヴァは、パチンと指を鳴らす。


「勇者の子孫は貴重な『実験試料』、可能な限り、綺麗な状態で保存したい」


 濃密な冷気がアレンの四肢を優しく包み、ゆっくりと丁寧に凍らせていった。


「く、そ……っ」


 手足を封じられ、身動き一つ取れない主人公。


「こんな、ところで……っ」


 魔力が底を突き、指一本と動かせないヒロイン。


 戦いは終幕。

 蓋を開けてみれば、『大翁(おおおきな)』ゾーヴァ・レ・エインズワースの完全勝利だ。


「く、くくく……ふははははははは……! <原初の炎>のみならず、勇者の因子まで手に入れられるとは……なんと素晴らしい夜だ! 『世界』は今、この手の中にあるッ!」


 狂ったように笑いあげるゾーヴァは――ふと『違和感』を覚えた。


(……なんだ?)


 アレンとニアが、こちらを見ていない。

 何故か二人の焦点は、自分の背後で結ばれている。


(いったいどこを見ておる……?)


 不審に思ったゾーヴァが、ゆっくり振り返るとそこには――黒いローブを(まと)った謎の仮面が立っていた。

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― 新着の感想 ―
用意していた「莫大な魔力」を使った時点で大翁の負け。良い仕事をした
主人公君早く退場してほしいな〜
おっ勇者弱ってんじゃーん トドメ刺せ
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