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第二十三話:最後の自由時間

 聖暦1015年7月11日。

 皇帝との初顔合(はつかおあ)わせを済ませた翌日、ボクは朝一番にボイドタウンへ飛んだ。


(第五章もついに『終盤』へ突入した。おそらくこの午前中が『最後の自由時間』……テキパキ動かないとね!)


 今日は午後から、『ホロウ』として魔女の秘跡(ひせき)(おもむ)き、死亡フラグをへし折ってくる。

 そして夜21時に、『ボイド』として皇帝と極秘会談を行い、(うつろ)と帝国の友好関係を構築。

 さらに明日以降は、『ハイゼンベルク公爵』として帝都中を巡り、邪悪な大貴族たちを脅迫して回る予定だ。


 そんなこんなをしているうちに、最終盤面の『闘技場』へ辿り着き、第五章はフィナーレを迎えるだろう。


(最近はイベント続きで、ボイドタウンが少し放置気味になっていた……。第六章以降の攻略も見据えて、進行中のプロジェクトやその他諸々(もろもろ)を確認しておきたい) 


 っというわけで、唯一の空き時間である午前を利用して、街の視察へ行くことに決めたのだ。


(まずはウロボロスを――)


 魔力探知を広げて、とある人物を探そうとしたそのとき、


「――ゼーノーっ!」


四災獣(しさいじゅう)天喰(そらぐい)ことソラグマが、凄まじい勢いで飛び付いてきた。


「おっと」


「全然会いに来てくれないから、オノレは寂しかったよー!」


「ごめんごめん、ちょっとバタバタしていてさ」


 彼女のフワモコボディをわしゃわしゃ()ぜていると、前方から青髪の美少女が小走りでやってきた。


「ちょっとソラグマ、どこへ……ってボイド様!?」


 ボク専属の特殊諜報員かつソラグマの飼育係――シュガーだ。


「やぁシュガー、ソラグマはどう? ちゃんといい子にしてる?」


「はい。たまにオイタをすることもありますが、きちんと言うことを聞いてくれています。将来この子は、世界一の白熊になるでしょう!」


 シュガーは目を輝かせて拳を握り、


「むっふー!」


 ソラグマは誇らしげに胸を張った。


 ちょっと見ないうちに、いいコンビになっているようだ。


「あっ、そうそう。少し前にウロボロスって連中が、こっちへ送られてきたと思うんだけど、どんな感じ?」


「ウロボロス……あぁ、いましたね。最初は暴れていましたが、すぐにラグナが鎮圧しました。この時間帯は、第三開発地区で労働に(はげ)んでいるかと」


「そっか、ありがとう」


『スケルトン製造機』ことラグナ・ラインは、ひたすらに強さを求めている。

 最近は『腕試し』と称して、虚空界に送られた重罪人と()り合い、自分を高めているらしい。


「さて、ボクはそろそろ行くね」


「はっ」


 シュガーが頭を下げる中、


「えー、もうちょっと遊ぼうよー……っ」


 ソラグマは小さな手を器用に操り、ボクの服の袖をクイクイと引っ張った。

 なんか……自宅に仔犬(こいぬ)を置いたまま、職場へ出勤するみたいで、後ろ髪を引かれてしまう。


「こらこらソラグマ、ボイド様はお仕事で忙しいの。あんまり無理を言っちゃ駄目ですよ?」


「……うむ、わかった」


「偉いわね、それじゃ私と一緒に遊びましょうか?」


「よかろう!」


 いつの間にか、シュガーの母性が爆発していた。

 これはもう完全に『ママ属性』を備えているな。


(ソラグマの飼育係、彼女に任せて正解だったね)


 ぼんやりそんなことを考えつつ、ウロボロスのいる第三開発地区へ向かう。


(えーっと、確かこの辺りに魔力反応が……っと、いたいた!)


 前方に目標を発見。

<虚空渡り>でショートワープし、()の肩をポンポンと軽く叩く。


「――ねぇドラン、ちょっといい?」


「ぼ、ぼぼぼ、ボイド様……!?」


 大慌てで(ひざまず)いたのは、ドラン・バザール。

 犯罪結社ウロボロスの頭領(とうりょう)であり、つい先日まで帝国の裏社会を牛耳(ぎゅうじ)っていた男だ。


「キミさ、皇帝から貴重なモノを渡されなかっ――」


「――こちらでございます」


 彼は逡巡(しゅんじゅん)する間もなく、六角柱の小さな魔水晶を差し出した。


「そうそう、これこれ! ちょっと借りてもいい?」


「もちろんです。どうぞお納めください」


「ありがとう、助かるよ」


「滅相もございません」


 ドランから拝借(はいしゃく)したこの魔水晶には、『特別な<交信(コール)>』が内包されている。

 魔法の構成を巧みに調整することで、外部からの逆探知(ぎゃくたんち)念波傍受(ねんぱぼうじゅ)を防ぐ優れモノ。


(でも、これはあくまで受信のみ、こちらから発信することはできない)


 要するに『極めて匿名性(とくめいせい)の高い受信機』だ。


(この『キーアイテム』を持っていると、『面白いイベント』が発生するんだよね!)


 この魔水晶が起動するときを想像すると……それだけで『黒い愉悦(ゆえつ)』が込み上げてくる。


(さて、お次は――あそこ(・・・)だな)


 ボイドタウンは『武具の大量生産』と『ニュータウンの建設』という二大事業を手掛けていた。

 武具の大量生産は既に完了し、第四章でゾルドラ家を()めるために使用済み。

 そしてニュータウンの建設、こっちは今なお進行中の案件だ。


「――やっ、久しぶりだね」


 ボクが声を掛けた相手は、


「おぅボス、こっちに顔を出すなんざ珍しいじゃねぇか!」


 盗賊団の頭領グラード・グランツ、50歳。

 ()げ茶色の髪・立派に(たくわ)えた(ひげ)・ほどよく筋肉のついた大男。

 第一章で回収した、ボイドタウンの古参(こさん)メンバーだ。

 家族歴(かぞくれき)が長いということもあり、周囲からはけっこう(した)われているらしく、土木建築部門のリーダー的な存在となっている。


 ちなみにグラードの親友は、これまた古株(ふるかぶ)のイグヴァ・ノーランド。

 イグヴァは大魔教団の構成員で、実験施設に囚われたダイヤを救うとき、ガルザック地下監獄で回収した。

 グラードとイグヴァは呑み仲間であり、ボクもたまーに付き合ったりしている。


(この街が出来て早四年、たくさんの家族に恵まれたなぁ……)


 しみじみと感慨(かんがい)(ひた)りつつ、本題へ入る。


「どう、ニュータウンは順調?」


「一時はどうなることかと思ったが……ボスの考案した『スケルトンの人海戦術』がデケぇな! この分なら、余裕で工期に間に合うぜ!」


「ふふっ、心強い返事だね。頼りにしてるよ?」


「あぁ、任せとけ!」


 ニュータウン事業は順調そのもの。

 グラードに任せておけば、なんの問題もなさそうだ。


(えーっと次は……アレ(・・)か)


 ボクは<虚空渡り>を使い、ボイドタウンの地下に眠る、『秘密の研究所』へ飛んだ。

 広大な空間に(そび)え立つのは、見上げるほどに巨大な『魔水晶』。

 その根元部分に置かれた研究机に、第一章の大ボス『大翁(おおおきな)』ゾーヴァが()いており、凄まじい速度で筆を走らせていた。


(彼には魔法炉(まほうろ)の調整を、『魔力の精錬』を頼んでいるんだけど……)


 この様子を見る限り、とても真面目にやってくれているようだ。


「やぁゾーヴァ、凄い集中力だね」


「これはこれはボイド様、ご機嫌(うるわ)しゅうございます」


「『魔力の精錬』はどう? イイ感じに進んでる?」


「お(よろこ)びください! 既に根幹となる魔法理論が完成し、間もなく、実証実験へ移るところです!」


「おぉ、素晴らしいね!」


 予想よりもかなり早い。


「やっぱり馬カスやセレスさんとの『意見交換会』が大きかった?」


「はい。ボイド様が素晴らしき研究者たちと引き合わせてくださったおかげで、魔法の深淵にズズイと迫ることができました! 本当に、本当にありがとうございます!」


 ゾーヴァはキラッキラの目をさらに輝かせ、深々と頭を下げた。

 彼は根っからの研究職なので、魔法の(ことわり)を解き明かすことが――今のこの仕事が、楽しくて楽しくて仕方ないのだろう。


(モチベーションは重要なパラメーターだし、本人が喜んでいるのはとてもイイことだね)


 ボクはそんなことを考えながら、机上(きじょう)のレポートをチラリと見る。

 そこには複雑な魔法式がズラリと並んでおり、素人が見ればさっぱりわからないだろうけど……ホロウ(ブレイン)なら、解析は容易い。


(……確かに、理論はもう完成しているな。これなら第六章で実戦投入できそうだ!)


 やっぱり天才研究者三人組は、ゾーヴァ×馬カス×セレスさんの組み合わせは強力だね。


「それじゃ、引き続き頼むよ」


「ははっ、どうぞお任せください」


 魔法炉のチェックを済ませたボクは、再び<虚空渡り>を使い、


(さて、次がラストだな)


 街の中央にある『情報統合室』へ飛んだ。

 ここでは戸籍・都市計画・経済施策(しさく)など、多くの情報を一元管理している。


 (いささ)かこじんまりとした室長室には、第二章の大ボス『闇の大貴族』ヴァランがおり、黙々と業務に(いそ)しんでいた。

 彼は卓越した『情報操作スキル』を持つため、ここの室長として働いてもらっているのだ。


「……おやボイド様、いかがなされましたか?」


 こちらに気付いたヴァランは、幽鬼(ゆうき)のように立ち上がると、その場で臣下の礼を取った。

 中途半端に魔人化した彼は、肌が紫色になっているため、ちょっと表情がわかりづらい。

 だが、明らかに目が死んでいる。

 どこぞのキラッキラな老爺(ろうや)とは、比べるべくもないほどに。


「お、お疲れヴァラン……なんか疲れてるね。大丈夫? ちゃんと寝れてる?」


「お恥ずかしながら、三日と眠っておりませぬ」


「それはよくないよ、ちゃんと休まないと」


「申し訳ございません。しかしこうでもしなければ、業務が(とどこお)ってしまいまして……」


「そっか……なんかごめんね」


「いえいえ、何を仰いますか。貴方様の慈悲がなければ、私はこの世に存在しておりません。この程度の労苦、なんのそのでございます」


 ヴァランはそう言って、不健康そうな顔で笑った。

 確かに彼は、王国の裏社会で悪行の限りを尽くしてきたけど……この現状は、ちょっと可哀想に思えてしまう。


「えっと……これ、差し入れ」


 ボクは右手を黒い渦に突っ込み、上位のポーションを取り出した。


「ありがとうございます」


「あんまり頑張り過ぎちゃ駄目だよ? ほどほどにね?」


「もったいなき御言葉、感謝の言葉もございません」


 情報統合室を出たボクは、真っ白な大空へ浮かび上がり、街全体を俯瞰(ふかん)する。


(それにしても、大きくなったなぁ……)


 軽い思い付きで始めたボイドタウンだけど、今や人口五千人を超える立派な都市になっていた。


(でも、あまりに急激な発展を遂げた結果、ちょっと(ひずみ)が生まれている……)


 その筆頭が、ヴァランの情報統合室だ。


(ボクの街に『ブラックな職場』があるのは、非常に遺憾(いかん)なことだ、なんとも受け入れ難い)


 ハイゼンベルク家の当主として、(うつろ)の統治者として、ボイドタウンの管理者として――多くの臣下を率いる者として、『快適な組織』を作らなくちゃいけない。


(とにかく、業務の改善――いや、効率化が必要だ!)


 もうすぐ第五章が終わるから、そのタイミングで少し時間を取って、『組織体系』を練り直すとしよう。


(ひとまずこれで、ボイドタウンの視察は終わった)


 後は、五獄(ごごく)に招集を掛けないとだね!

(うつろ)(みや)』へ移動したボクは、漆黒の玉座に腰を落ち着かせ、<交信コール>を飛ばす。


(――ダイヤ、ルビー、アクア、今ちょっといい?)

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― 新着の感想 ―
あれ?馬カスの本名なんだっけ?
笑顔の絶えない職場ッ >『面白いイベント』 目の前で受話器を取った時の皇帝の顔芸が楽しみだな!
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