第二十一話:『最高の結果』と『最悪の結果』+【特報】カクヨムコン10大賞受賞!
【☆★過去最高に大切なおしらせ★☆】
あとがきに『過去最高に大切なお知らせ』を掲載しております!
1分で読み終わるので、全ての読者様に見ていただきたいです!
ボクが右腕を引き抜くと、
「ぁ、ぅ……っ」
胸に風穴を開けたザラドゥームは、ゆっくりと前のめりに倒れ伏す。
(よしよし、第五天ぐらいなら、素手で問題なさそうだね!)
一日も欠かすことなく、地道な努力を続けること六年。
ボクの基礎ステータスはいい具合に仕上がっており、『数値の暴力』で死亡フラグをへし折ることができた。
(さて、皇帝に強い衝撃を与えられただろうか……?)
チラリと横目を流し、ルインの表情を拝見。
(ば、馬鹿な……っ。ザラドゥームは『天魔十傑』、その『第五天』に君臨する絶対強者だぞ!?)
顔面蒼白になった彼は、驚愕に瞳を震わせ、言葉を失っている。
(ふふっ、第一印象は完璧だね!)
きっと皇帝の頭蓋には、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクが、深く刻み込まれたことだろう。
(帝国の大貴族たちとも縁を繋げたし、皇帝とも素晴らしい出会い方ができた……魔女の舞踏会における目的は、全て完璧に達成されたね!)
後はそうそう、『イベント報酬』を手早く回収しなきゃだ。
ボクは回復魔法を使い、ザラドゥームの心臓を半分だけ治してあげる。
「ぅ、うぅ……っ」
暴れられても困るので、生かさず殺さず、生命維持ギリギリのラインで留めた。
続けて<交信>を使い、帝国担当の五獄へ念波を飛ばす。
(――アクア、お願いできる?)
(はい、もちろんですっ!)
元気のいい声が脳内に響くと同時、黒い液体がズプヌプゴプと湧きあがり、ザラドゥームの体を呑み込んでいった。
その異様な光景を前にして、
「「「な……っ」」」
皇帝や大貴族たちが息を呑んだ。
そして皇護騎士の四人もまた、
「なっ、なんと悍ましい……っ」
「このどす黒い水は、あんにゃろうの固有か?」
「……いや、違う」
「彼のは伝説級の<屈折>。おそらくこれは、近くに潜伏させた臣下の固有でしょう」
それぞれ驚愕の表情を浮かべている。
(いつもなら、自分でヌポンするところなんだけど……)
今のボクはボイドじゃなくて、ハイゼンベルク公爵として動いている。
虚空を使ったらすぐに正体がバレてしまうので、起源級の魔法因子の回収は、アクアに任せることにしたのだ。
(虚空が便利過ぎるから、ちょっと使えなくなるだけで、かなり不自由に感じるなぁ……)
ぼんやりそんなことを考えていると、
(んっ?)
漆黒の液体がヌチャりと体に纏わり付き、右腕と胸元に付いた血を吸い取ってくれた。
どうやらアクアが、お掃除してくれたみたいだ。
(ありがとう、気が利くね)
(とんでもございません!(はぁ、はぁ、はぁ……ボイド様の汗、ボイド様の細胞、ボイド様の筋線維……っ))
(それじゃ、ザラドゥームはポイントβに移してもらえる? 後で拾いに行くからさ)
(はぃ、承知しましたっ!)
<交信>切断。
(なんか念波に乗って、涎を啜る音が聞こえたような……いや、気のせいだな)
最近はイベント続きで、ずっと忙しかったからね。
幻聴の一つや二つ、あって然るべきだろう。
(とにかく――これでまた一人、新しい家族が増えたぞ!)
ザラドゥームを温かく迎え入れ、死亡フラグをへし折ったボクが、
「お怪我はございませんか、陛下……?」
『本件の首謀者』へ心配そうに声を掛けると、
「あ、あぁ、感謝するよホロウ殿(こいつ……っ。俺がこの一件を仕込んだと知って、全て承知のうえで心配したフリを!? この皇帝ルインに対して、『心配風煽り』とはイイ度胸だ……ッ)」
彼は瞳の奥をギラつかせた後、穏やかな笑みを浮かべ、なんとか平静を維持した。
必死に外面を取り繕っているけど、きっと腹の中は煮え繰り返っているだろうね。
「それはそれは、御無事で何よりです」
ボクが柔らかい貴族スマイルを見せると、皇帝は不快気に眉を歪めた後、静かに目礼する。
「舞踏会の主催者として、申し訳なく思っている。このダリオス宮殿の外周には、多くの憲兵を配置したのだが……。敵の実力は、こちらの想定を遥かに――」
「――お気になさらないでください。たとえどれだけ厳重な警備網を敷いたとしても、『羽虫』の侵入を完璧に防ぎ切ることなどできません。小さき故に網目を潜るが、小さき故にまた問題とならない。些末なことです」
「そ、その通りだ! さすがはホロウ殿、モノの道理をよくわかっておられる!(天魔十傑を羽虫だと!? なんと傲慢な……いや、違う。事実としてザラドゥームは瞬殺された。こいつにとっては、本当に取るに足らぬ相手だったのだ。『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、まさかここまでの実力者だとは……ッ)」
重く長い息を吐いた皇帝は、血だらけの絨毯を見つめる。
「ときにホロウ殿、先の暴漢はどこへ……?」
「当家の使用人に引き取らせました。羽虫と雖も貴重な命、まだ使い道はあります(なんと言ってもザラドゥームは、超々希少な起源級の固有持ち! 戦闘に特化しているから、ちょっと使い勝手は悪いけど……。『因子コレクション』としては、最高クラスの一品だ!)」
「なる、ほど……(どうせ拷問して背後関係を洗うつもりだろうが、甘いな! ザラドゥームとは既に<契約>を結んでいる! 奴をどれだけ詰めようが、俺が雇い主だという『確たる証拠』は出ないッ!)」
ボクと皇帝がそれぞれの想いが交錯する中、周囲の貴族たちが徐々に再起動を果たす。
(先の悍ましい魔力を放つ暴漢を羽虫扱いとは……なんという武力!)
(もはや疑いの余地はない! 来たる王選の『大本命』はホロウ殿だ!)
(くそっ、初動を誤った……っ。てっきりゾルドラ家が『次代の王』になると思い、貿易協定を結んだが……至急、ハイゼンベルク家に乗り換えねば!)」
彼ら彼女らの瞳には、ドス黒い『欲望』が浮かんでいた。
(ふふっ、イイね! 欲に目の眩んだ相手ほど、御しやすいモノはない!)
ボクは邪悪に微笑み、
(この大馬鹿者どもめ……っ。何故ホロウの悪性がわからん!? こいつは『捕食者』、お前たちを取り込もうと……否、帝国を喰い荒そうとしているのだぞッ!?)
皇帝はグッと奥歯を噛み締めた。
(さすがはルイン、素晴らしい頭脳と観察眼だ。この僅かな時間で、ボクの『裏』に気付いている)
彼をフリーにして、妙なことをされても厄介だ。
もう『出会いイベント』は終わったし、速やかに『おかえり』願うとしよう。
「そう言えば陛下、公務はよろしかったのですか?」
「あ、あぁ、そうだったな。後は楽しくやってくれ(なるほど、俺は既に用済みということか……っ。手札を切るタイミングも申し分ない。本当に厄介な相手だ……ッ)」
皇帝はクルリと踵を返し、四人の皇護騎士を引き連れて、この場を立ち去った。
それと同時、
「さすがはホロウ殿! 見事な御手前でした!(この武力、なんとしても欲しい!)」
「暴漢に臆さないばかりか、瞬時に制圧する手腕……私、思わず見惚れてしまいましたわ!(ホロウ殿に娘を宛がい、血縁関係を結ばせましょう!)」
「いやぁ、まだお若いのに立派なモノだ。ハイゼンベルク家の未来は、燦然と輝いておりますなァ!(圧倒的な武力と優れた知略を持っているようだが……。所詮はまだ十五歳、尻の青いガキよ! この儂が上手く丸め込んで、傀儡にしてくれようではないか!)」
ボクに『巨大な利用価値』を見い出した大貴族たちは、先ほどとは比べ物にならない熱意で押し寄せてくる。
(これから汚職の情報で脅され、ボロ雑巾になるまで使い倒されるとも知らず……なんて健気なんだろう)
愛おしくなってくるね。
(それにしても、本当に上手く行ったなぁ……!)
魔女の舞踏会へ臨むにあたって、いろいろな『ルート分岐』を想定してきたんだけど……一番スムーズな形で進んでくれた。
(ありがとう、皇帝陛下!)
キミのおかげで、ボクの武力を自然に見せ付けることができた。
(後はそうそう、ザラドゥームにも感謝しなきゃだね!)
キミは『踏み台』として、本当に素晴らしい活躍をしてくれた。
こうして魔女の舞踏会は、
(くくっ、この勢いに乗って、帝国の支配を一気に進めようか!)
ボクにとって『最高の結果』に、
(……マズい、マズいぞ。ホロウのことを見縊っていた。何か早急に手を打たねば、俺の帝国が呑まれてしまう……っ)
皇帝にとって『最悪の結果』に終わるのだった。
【特報】カクヨムコン10大賞受賞!
なんと此度『世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する』が、カクヨムコン10の『大賞』を受賞しました!
これにより本作の書籍化が決定、『電撃文庫』から発売されます!
主人公ホロウやヒロインのニア・エリザ・アレンはもちろん、借金馬女こと馬カスもイラスト化!
そしてさらに! コミカライズ賞も同時受賞したため、漫画化も決定!
ホロウたちが小説&漫画となって、『ロンゾルキアの世界』を越え、『Webの世界』を越え、『現実世界』の攻略に乗り出します!
いやぁ、嬉しいな……本当に嬉しい!
毎日ずっと机に向かって執筆し、ここまで頑張ってきた甲斐がありました!
応援してくださった皆様、本当にありがとうございます!
ホロウの物語はまだまだ続くので、これからもよろしくお願いします!
また大賞受賞を記念して、Twitter(旧:X)を始めました!
作者(月島秀一)のTwitterのURL:https://x.com/tsukishima_info
Twitterでは本作の『お休み連絡』や『マル秘情報』、さらには『馬カスの日常』といった世界一生産性のないモノまで、皆様のタイムラインを汚さない塩梅で呟いていきます!(1日1ツイートほど)
もしよかったら、この機にフォローしていただけると嬉しいです!
また書籍版第一巻の発売は、「来年の頭頃になるのかなぁ?」と勝手に思っているのですけれど、こちらは詳細が決まり次第すぐにお伝えいたします!
これから書籍化作業が始まり、編集さんとの打ち合わせ・書籍版限定の新規書き下ろしエピソードの執筆・漫画のネームチェックなどなど……今まで以上に忙しくなります。
それでも! 限界ギリギリぶっ倒れるまで、Web版の更新も頑張っていきたいなと思っているので、どうか応援いただけると嬉しいです!