第十六話:情欲の大爆発
ワイズリーくんとの決闘に勝利したボクは、レドリック陣営へ戻る。
「相変わらず、とんでもない魔力ね……っ」
ニアは苦笑いを浮かべ、
「まさか<障壁>だけで倒すとは……さすがだな」
エリザは感心したように呟き、
「ホロウくんって、魔法の使い方が本当に上手だよね!」
アレンは尊敬の瞳をキラキラと輝かせた。
「はっ、当たり前のことを言っても、褒めたことにはならんぞ?」
ボクが原作ホロウっぽく応じると、ワイズリーくんが担架に載せられた。
「大丈夫か、ワイズリー!?」
「ワイくん、しっかりして……!」
「あのワイが、ただの<障壁>にやられるなんて……っ」
帝国魔法学院の一年生たちは、自分たちの首席を心配しつつ――敵意と畏怖の入り混じった目で、ジッとこちらを見つめる。
(よしよし、ここで格付けを済ませられたのは、地味にけっこう大きいね!)
ワイズリーくんを中途半端に倒した場合、彼らの恨みを買ってしまい、『復讐イベント』がランダム発生。
怠惰傲慢な原作ホロウは、背中からナイフで一突きにされて、BadEndに入ることが多い。
(もちろんボクには<虚空憑依>があるから、そんなことにはならないけど……)
将来の火種は、早いうちに消した方がいい。
っというわけで今回は、自分にたくさんの縛りを課し、圧倒的な実力差を見せ付けた。
これでもう帝国魔法学院の連中が、こっちにちょっかいを出してくることはない。
面倒な復讐イベントに気を取られることなく、自分の描いた『最強の攻略チャート』に集中できる、というわけだ。
(ふふっ、我ながら上手くいったね!)
そうして確かな充実感に浸っていると、
「――あなた、強いね」
帝国魔法学院の女子生徒が、スッと目の前に立った。
(あっ、イリスだ)
本来メインルートでは、主人公とイリスがここで関係を築くんだけど……。
ボクが『VSワイズリーくん』のイベントを乗っ取ったことで、こちらとのフラグが成立しちゃったっぽい。
「ふむ、お前は誰だ?」
ボクが素知らぬふりをして問い掛けると、イリスは鈴を転がしたような綺麗な声で名乗る。
「私はイリス、見ての通りエルフ族」
イリス・エルフェリア、外見年齢は15歳ほど。
身長168センチ、プラチナブロンドのロングヘア。
透明な青い瞳・長く尖った耳・雪のように白い肌、ダイヤとは違って『純血』のエルフだ。
大きく柔らかそうな胸・適度にくびれた腰つき、そのプロポーションは『完成』していた。
上は肩を大きく出した白いトップス・下は黒いショートパンツ・黒いローブで身を包んでいるけど、肌の露出は非常に多い。
ちなみに……帝国魔法学院に所属しながら、一人だけ制服を着ていないのは、『エルフの国』の留学生だからだ。
(本来イリスは『第五章のヒロイン』なんだけど、今回の攻略チャート的にほとんど出番がない)
それもそのはず、ボクは帝国魔法学院との人界交流プログラムを――ばっさりカットするのだ。
(ぶっちゃけこのイベント、あんまりおいしくないんだよね……)
それに何より、せっかくハイゼンベルク家の当主になったのに、せっかく帝国という新たな舞台に立ったのに……。この第五章を『ありきたりな学院バトル』で終わらせるのは、さすがにもったいないと思う。
ボクの原作知識をフルに活用すれば、『もっとおいしいルート』に進めるからね。
(そりゃ、ニアやエリザたちと青春するのは、きっと凄く楽しいだろうけど……。イリス関連のイベントが消えるのは、原作ファンとしてちょっと悲しいけど……)
ボクの行動方針は、この世界に転生した六年前から、一ミリたりとも変わっていない。
(――メリットとデメリットを天秤に掛け、自分にとってより有益な択を選ぶ)
っというわけで、『VS帝国魔法学院』のイベントは割愛。
これ以降は『ハイゼンベルク公爵』として、帝国の貴族社会に乗り出すつもりだ。
そうして『ストーリー分岐』を考えていると、イリスがジーッとこちらを見つめてきた。
(……綺麗だな……)
ひとかけらの曇りもない透明な青、まるで空を宿したかのような瞳だ。
ボクが一瞬だけ見惚れていると、
「ホロウ」
「なんだ」
「私と付き合ってほしい」
いきなり公開プロポーズを受けた。
(原作通りの流れだから、予想はしていたけど……さすがにドキっとするね)
何せイリスはエルフ、世界で最も美しいと言われる種族だ。
原作ホロウの『情動』が、起動しないわけがない。
(ふー……っ)
心の中でガス抜きを行い、必死に気持ちを静めていると、
「ちょっ、ちょっとあなた! 急に何を言っているの!?」
「こんな大衆の面前で、いったいどういうつもりだ!?」
ニアとエリザが猛烈な抗議を行った。
(いいぞ! ナイスだ、二人とも!)
ボクが情欲を支配するまでの間、なんとか時間を稼いでくれ!
その直後、
「どうしてあなたたちが怒るの……?」
イリスはキョトンとした顔で、強烈な『正論パンチ』を繰り出し、
「「う゛っ」」
ニアとエリザは、揃って言葉を詰まらせた。
イリスはおっとりしているけど、本質を突く力がある。
所謂『レスバに強いタイプ』だ。
一方うちの臣下たちは、こういう言い合いに滅法弱い。
何せ片方は不憫属性、もう片方は被虐体質だからね。
「な、何故って……っ。それは、その……非常識だからよ!」
「こちらにもいろいろと事情がある! 抜け駆けは駄目だ!」
ニアとエリザの抗弁を受け、イリスは「あっ」と声をあげた。
「もしかして、ホロウのことが好き?」
「べ、別に誰もそんなこと言ってないでしょ!?」
「い、今はそういう話をしているんじゃない!」
「よかった。なら、彼に告白しても問題にならない」
「「ぐ、ぐぬぬ……っ」」
勝者イリス。
やっぱりニアとエリザじゃ、相手にならなかったね。
(でも、十分だ)
二人が会話を繋いでくれたおかげで、昂った気持ちを鎮められた。
「イリスとやら、初対面でいきなり交際を申し込むとは、いったいどういう了見だ? こういうのは普通、もっと段階を踏むものだと思うが?」
「確かにそうかもしれない。でも、付き合ってみた方が手っ取り早くわかる。相性とか、いろいろ」
「「あ、相性!?」」
頬を赤く染めるニアとエリザをスルーして、話を先へ進める。
「驚いたな、エルフの貞操観念がこうも緩いとは」
「いや、むしろ固い。実際に私は、今まで一度も付き合ったことがない」
「では、何故俺に?」
「強く惹かれた。多分、本能的なモノ」
イリスの宣言を受け、
「ほ、ほほほ……本能ぉ!?」
「な、なんと破廉恥な……っ」
両隣のニアとエリザが、耳まで真っ赤にした。
(あの……もう下がっていてもいいからね?)
ボクは短く息を吐き、首を小さく横へ振る。
「一応これでも、立場のある身でな。そんな曖昧な理由で交際を申し込まれても困るぞ?」
「なら、もっとはっきり言う。私はずっと強い男を探していた、あなたのような飛び抜けた存在を」
「なんのために?」
「故郷のために」
「はっ、愛のない回答だ」
「……ごめん。でも、私にはもう時間がない」
だろうね。
今、エルフの国には、大きな危機が迫っている。
「ホロウ、もしあなたが力を貸してくれるのなら――」
「俺が力を貸すのなら?」
「――私のことを好きにしていい」
「わかった、付き合おう」
次の瞬間、
「「……えっ……?」」
ニアとエリザが言葉を失い、
「――なんて、言うと思ったか?」
ボクは慌てて軌道修正を図る。
(……あ、危なかった……ッ)
イリスの体を好きにできると聞き、原作ホロウの情欲が大爆発。
正常な思考能力が一瞬にして吹き飛び、理性を取り戻した頃には、既に交際を承諾していた。
(前々からわかっていたことだけど、やはりこの情欲は危険だ……っ)
なんなら現状、主人公よりも厄介な存在と言える。
早急に手を打たなければ、とんでもないルートに入りかねない。
(もういっそのこと、誰かと結婚してしまうか……?)
いや、それはあまりに早計だ。
ヒロインと結ばれた後、自分の情欲をコントロールできず、正妻以外に手を出そうモノなら……BadEndは免れない。
(はぁ、どうすればいいんだ……)
ボクが割と真剣に頭を悩ませていると、イリスがズィっと体を寄せてきた。
「私はエルフ族、とても美しい……らしい。ホロウにとっても、悪くない話だと思う」
「俺は、女を外見で判断せん」
「それは……困った」
アテの外れた彼女は、真剣な表情で悩み出す。
自分の出せる交渉材料を必死に考えているっぽい。
(エルフ族は――使える)
彼女たちとは、今後も仲良くやっていく予定だ。
そういう風に計画を組んでいる。
(だから、本当はイリスのことも、今すぐ助けてあげたいんだけど……)
極悪貴族として、優しいところを見せるわけにはいかない。
原作ホロウの設定がブレた場合、メインルートが思わぬ方向に進んでしまい、原作知識の力が弱まる可能性がある。
ちょっと心が痛むけど、ここは突き放すとしよう。
「悪いが、お前の故郷がどうなろうと知ったことではない。他を当たれ」
ボクが冷たくそう言うと、
「……わかった……」
イリスはガックリと肩を落とし、クルリと踵を返した。
(ごめんね。今はつらいだろうけど、ちょっとだけ我慢してほしい)
また後で、キミの抱える大きな問題は、完璧に解決してあげるからさ。
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