第十二話:緊急事態
フィオナさん・セレスさん・ゾーヴァ、三人の天才研究者が一堂に会する中、
「でも、ゾーヴァさんって確か……」
「魔法実験中の事故で、お亡くなりになられたはずじゃ……」
フィオナさんとセレスさんは、怪訝な表情を浮かべる。
(懐かしいな。そう言えば、そんな『情報操作』もやったっけ)
第一章の話なんだけど、随分と昔のことのように思える。
「ゾーヴァの訃報は、俺の流した嘘だ」
「「う、嘘……?」」
二人はキョトンと目を丸くした。
「詳しい話は割愛するが……こいつはかつて邪法に手を染めてな。少々目に余ったので、灸を据えてやった。この『つぶらな瞳』を見ればわかる通り、今はもうすっかり改心している」
大翁は「その節は大変なご迷惑を」と言って、小さく頭を下げた。
「俺たちはこれから、例の『魔法炉』を見に行く。ゾーヴァ、お前も付いて来い」
「はっ、承知しました」
そうしてボク・フィオナさん・セレスさん・ゾーヴァの四人で、ボイドタウンの地下深くに存在する、『秘密の研究所』へ飛んだ。
広大な空間に聳え立つのは、見上げるほどに巨大な『魔水晶』。
「うわぁ、大きいですねぇ!」
「凄い純度……。こんな貴重なモノ、いったいどこで……」
「ほっほっ、かれこれ二百年ほど前に、ドワーフより買い付けた逸品でございます」
この巨大な魔水晶は『世界最高の魔法炉』であり、魔力の『貯蔵』・『融合』という二つの機能を併せ持つ。
ボクはこれを『外部の魔力源』として活用する予定だ。
(魔法炉に溜める魔力は、ボイドタウンの住人から、『税金』の形で徴収するとして……)
問題は、集めた魔力をどうやって精錬するか。
魔法因子は、遥か原初の時代より引き継がれ、その過程で多くの『不純物』を孕む。
簡単に言うと、世代を経るごとに『純度』が下がり、少しずつ弱体化していくのだ。
多種多様な属性を持ってしまった因子、それを一つ一つ丁寧に解きほぐし、『原初の在るべき姿』に戻す。
この作業を精錬と呼ぶんだけど……これが中々に難しいっぽい。
(せっかく手間暇掛けて、こんな大掛かりなモノを作るんだ。どうせなら『純度の高い魔力』を貯蔵したい……)
っというわけで今回、因子分離の専門家を連れてきた。
「セレス、簡単に現状を共有しておこう。まずこの魔水晶だが――」
こちらの事情を掻い摘まんで説明すると、
「――なるほど、『魔法炉に純度の高い魔力を貯蔵したいけれど、精錬の過程で問題が発生している』ということですね」
聡明な彼女は、一発で理解してみせた。
さすがは天才魔法研究者、話が早くて助かるよ。
「セレス、『因子分離』に精通した、お前の知識を借りたい」
「はい、もちろんです」
「フィオナ、研究職としてのお前は一流だ。何か気付いたことがあれば、遠慮なく発言しろ」
「わかりました!」
「ゾーヴァ、『因子融合』の専門家として、お前の意見は重要な意味を持つ。期待しているぞ」
「はっ、心して務めさせていただきます」
みんなに軽く発破を掛けて――サッと身を引く。
(ボクは『研究職』じゃなくて、『統治者』だからね)
あまり現場へ口を挟み過ぎず、かといって離れ過ぎず、ほどほどの間合いを維持する。
これぐらいの方が、きっと向こうもやりやすいはずだ。
その後――天才研究者たちは、小さな木の椅子に座り、丸テーブルを囲んで議論を交わす。
「魔力の精錬でしたら、私の考案した『臨界拡散モデル』が流用できるかと。これは単位因子に魔力振を加え続けることで――」
因子分離のスペシャリストが、最新の理論をわかりやすく展開し、
「なんと、そのような法則が……っ。お、面白い……実に興味深いッ! であれば、儂の提唱した『収束融合』を使えるのではないか!?」
因子融合の専門家が、興奮した様子で意見を出し、
「あっ、因子の脱色であれば、私の『ダービー理論』が適用できるはずですよ!」
オールラウンダーのフィオナさんが、独特な発想でズズイと核心へ迫る。
三人は打てば響くような議論を楽しみ、傍目に見てわかるほど、『活き活き』していた。
(ふふっ、凄くいい感じだね!)
『三人寄れば文殊の知恵』と言うけれど、天才研究者が三人も集まれば、どんな難題でも解決できそうだ。
(とはいえ、『この場ですぐに』というわけじゃないだろう)
ボクはボイドタウンの統治者として、他にも確認しなきゃいけないことが盛りだくさん。
『餅は餅屋』、この場は本職たちに任せるとしよう。
「俺は他の視察へ行ってくる。何かあれば、<交信>を飛ばせ」
短くそう言い残し、<虚空渡り>を使った。
飛び先は――『倉庫エリア』。
現在ボイドタウンでは、『武具の大量生産』・『ニュータウンの開発』という二大事業が行われている。
このエリアには完成した武具が搬入されるので、ザッと進捗を確認しに来たのだ。
(どれどれ……おっ、めちゃくちゃあるじゃん!)
第一倉庫はもうパンパン。
続く第二倉庫と第三倉庫にも、大量の武具が詰め込まれており、第四倉庫の前には――五獄の統括が立っていた。
「あっ、ダイヤだ」
「ん……? あら、ボイドじゃない」
銀髪のハーフエルフが振り返り、美しくも華やかな笑みを浮かべ、小走りで駆け寄ってきた。
「キミは本当によく働くね。たまには休んだら?」
「ふふっ、あなたこそ。っと、そんなことよりも報告があるの」
「なに?」
「予定されていた10万の武具、全ての生産が完了したわ。今ちょうど検品が終わったところよ」
「素晴らしいね、最高だよ」
これで第四章の懸念事項は、ほぼほぼ解消されたと言っていい。
「武具はもう大丈夫として、ニュータウンの方はどう?」
「あっちはまだ少し時間が掛かりそうね。でも、日ごとに労働力が増えているから、きっと工期には間に合うはずよ」
「ふふっ、それは何よりだ」
危ぶまれていたニュータウン事業も、一気に解決の方向へ向かっている。
(やっぱり召喚士と<原初の巨釜>の組み合わせは最高だね!)
計画は順調そのもの。
全てボクの予想通り、第四章も完璧な進行を見せている。
「そう言えば、ラグナはいつものところ?」
「えぇ。あの愚か者なら、今も空き地で作業中のはずよ」
『愚か者』、ね……。
どうやら先日の一件を、ラグナが調子に乗ってNo2を名乗ったことを、まだちょっと根に持っているようだ。
他の五獄から聞いたところによれば――ダイヤにとって『ボクの右腕』という地位は、自分の命と同じぐらい大切なモノらしい。
(お、重……重たく……ない……っ)
そう、女の子はこれぐらい普通だよ普通。
そんな風に『自分の中の常識』を無理矢理に改変して、超重量級のヒロインを必死に受け止める。
虚の統治者をやるには、海よりも広く山よりも高い『超人的な度量』が必要なのだ。
「さて、せっかくだし、ラグナのところも覗いて来ようかな」
そうしてダイヤと別れたボクは、『スケルトン製造機』の様子を見に行く。
(おっ、いたいた)
大きく開けた空き地のド真ん中に、金髪の巨漢が立っている。
「――やぁラグナ、調子はどうだい?」
「ん……? おぅボス、ちょうどいいところに来たな!」
「何か用事でもあった?」
「へへっ、まぁこいつを見てくれや――<原初の巨釜・無限召喚>!」
彼が両手を合わせると同時、300体のスケルトンが地面から這い出して来た。
「おっ、やるじゃん」
この前は100体が限界だったから、単純計算で3倍の練度になっている。
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ? ボスの課した過酷な重労働によって、俺の魔力操作は『神の領域』へ達した!」
ラグナが右腕を振り上げれば、300体のスケルトンたちが整列し――巨大なピラミッドを作りあげた。
(これは……自動じゃなくて、手動操作だね)
300体を自由に行動させるのではなく、個体ごとに細かく指示を出している。
そうでもなければ、組み立て体操の極致――ピラミッドは作れない。
「なるほど、細やかな魔力操作だね」
「へへっ、凄ぇだろ?」
「うん。ただ――神の領域には届かないかな?」
ボクがひと睨みした次の瞬間、
「んなっ!?」
300体のスケルトンたちは、激しい『ブレイクダンス』を踊り始めた。
軽やかな『ステップ』に始まって、『ウィンドミル』から『トーマスフレア』へ移行し――完璧な『フリーズ』でフィニッシュ。
「ば、馬鹿な……っ(あり得ねぇ。俺から支配権を奪い取り、300体全員にこんな複雑な指示を!? この魔力操作は、もはや神の領域を超えている……ッ)」
呆然とした様子のラグナは、大きなため息をつく。
「……ボスに追い付くヴィジョンがまるで見えねぇ。その若さでこの技量……あんた、いったいどんな人生を送って来たんだ?」
「こう見えて、たくさんの修羅場を潜っているんだよ」
例えばそう――『無防備な美少女二人に手を出さず、情欲と戦いながら朝チュンを迎える』とかね。
とにもかくにも、ラグナの成長は喜ばしいことだ。
(彼の召喚魔法は、『無限の労働力』を生み出す……)
今後もボロ雑巾になるまで、使い倒――ゴホン、必死に頑張ってもらうとしよう。
「ときにボス、こんな大量のスケルトンを呼び出して、いったいどうするつもりなんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「武具の大量生産とニュータウンの建設だろ? 俺が知りてぇのは、この二つを利用して、何をするつもりなのか。つまり、あんたの見据える未来だ」
「あー、なるほど」
五獄はみんな知っているし、ラグナは本件の功労者だし……特別に教えてあげるとしよう。
従業員のモチベーションアップは、統治者の大切な仕事の一つだからね。
「実はさ――」
ごにょごにょごにょと耳打ちすると――ラグナの顔が驚愕に固まった。
「お、おいボス……あんたそれ、マジで言ってんのか?」
「うん、大マジ。ボクはいつだって真剣だよ」
「は、はは……っ。あんた、やっぱイカレてるよ……ッ」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくね」
そうして二人で楽しく笑い合っていると、
「……ん……?」
突然、<交信>が入った。
ルビーからだ。
(――ボイド様、緊急事態です)
(どうしたの?)
(監視対象『国王バルタザール』の容態が急変しました。医者の話を盗聴したところ、持って後二日とのこと)
(えっ、そんなに酷いの?)
(私が遠目で確認する限り、かなり深刻な状況です)
(うーん……?)
確かちょっと前に呼んだ朝刊にも、『国王の状態が優れない』と書いてあったけど……さすがにちょっと早過ぎる。
多分、アレの仕業かな?
なんにせよ、これは『緊急事態』だ。
今ここで国王に倒れられたら、王族たちが天喰戦に出張って来て、『主人公抹殺計画』が無茶苦茶にされてしまう。
(ボイド様、いかがいたしましょうか?)
(今回はボクが出るよ)
本件は非常に優先度が高い。
ここは『ボイド』として動くべきだろう。
さぁ――『王城』を襲撃しようか!
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