第十話:運命の再会
聖暦1015年6月19日早朝。
ボク・ニア・エリザ・アレンの四人は、勇者の隠れ家を発った。
「みな、気を付けて帰るのじゃぞー!」
ラウルに見送られながら、鬱蒼と茂った森を踏み分け、ハイゼンベルク家の馬車で王都へ戻り――それぞれの家の中間地点である、レドリック魔法学校で解散。
屋敷へ戻ったボクは、軽く昼食を済ませて、自室の椅子に腰を下ろす。
時刻は12時55分。
「……ふわぁ……」
大きな欠伸が自然と零れた。
(うん、さすがにちょっと眠たいね……)
猛り狂う情欲を抑えながら、魔力操作を極めるのは、精神的な負荷が大きかった。
(軽く昼寝でもしたい気分だけど、もうすぐ待ち合わせの時間だ)
ここは気合を入れて、もうひと頑張りするとしよう。
ボクが大きく体を伸ばすと、コンコンコンとノックの音が鳴り、オルヴィンさんの声が響く。
「――坊ちゃま、お客様がいらっしゃいました」
「通せ」
扉が開くとそこには――『第三章の特別クリア報酬』が立っていた。
彼女が恐る恐る部屋に足を踏み入れたところで、オルヴィンさんはお辞儀をして、静かに扉を閉めた。
「久しいなセレス」
ボクの部屋にやって来たのは、セレス・ケルビー、33歳。
身長167センチ、透明感の強い薄緑のロングヘア。
柔らかい緑の瞳・瑞々しく白い肌・均整の取れた顔、とても美しくて可愛らしい人だ。
何よりも特筆すべきは、その完璧なプロポーション。作中屈指の豊かな胸・健康的にくびれた細い腰・肉感のある太腿――驚くほどにスタイルがいい。
黒いシャツの上から清潔な白衣を纏い、縁の細い眼鏡を掛けた彼女は、ロンゾルキアが誇る天才魔法研究者だ。
「この屋敷に呼び出されたときから、もしかしてと思っていましたが……やっぱりホロウ様だったんですね」
「あぁ、俺がボイドだ」
証拠に一瞬だけ仮面を出し、すぐに虚空界へ収納した。
「俺の正体を知るのは、極一部の限られた者だけ。念のために言っておくが、ボイドではなくホロウと呼ぶように」
「はい、かしこまりました」
自己紹介もそこそこに、セレスさんは深々と頭を下げる。
「ホロウ様、先日は私と娘の命を助けてくださり、本当にありがとうございました。その後は衣食住に加え、働き口や身の安全まで保証していただき、もうなんとお礼を申し上げればよいのか……」
「礼などいらん」
第三章の事件を経て、セレスさんは大魔教団から狙われる立場になった。
(何せ彼女は、たった一人で『魔王因子の精錬』を進めたからね)
向こうからすれば、喉から手が出るほどに欲しい研究者だろう。
セレスさんはもはや、誰かの保護なしで普通の生活を送れない。
(だから、ケルビー母娘をハイゼンベルク領へ呼び寄せた)
なんと言ってもうちの領地は、王国で最も安全な場所だからね。
ちょっとしたサービスとして、家具付きの住宅と1000万の生活費を渡したから、向こうの負担はほとんどない。
今は家族二人、極悪貴族のお膝元で、幸せな毎日を過ごしている。
ちなみに……もしも大魔教団の連中が、ケルビー母娘に手を出してきた場合は、半分こにした『天魔』をさらに半分こにする予定だ。
「俺がセレスに求めるモノは一つ――『結果』だ。うちで研究に励み、確たる利益を齎せ」
「はい。御恩に報いるためにも、頑張らせていただきます!」
「よい返事だ」
同級生の母親を、『未亡人の美女』を従えるこの感覚は、非常にクルものがあった。
『背徳感』とも言うべき特殊な情欲が、腹の底をジワジワと焼き焦がすのだ。
(ふぅー……)
昨夜から続く怒濤の『情欲ラッシュ』。
睡眠不足と精神的な疲労も祟って、理性は既に限界ギリギリ。
(落ち着け落ち着け、セレスさんに手を出すのは、本当にマズイんだから……っ)
彼女は同級生の母親であって、攻略対象のキャラじゃない。
(それに何より、ボクはあくまで『ノーマル』。エリザのような『特殊性癖』を持っていない)
眉間に右手を添え、呼吸を整えていると、
「ホロウ様、どうかなされましたか?」
セレスさんは、こちらの顔を覗き込むよう前屈みになり、可愛らしくコテンと小首を傾げた。
(……この人、いちいち色っぽいんだよなぁ……)
頭を軽く左右に振って、煩悩を弾き飛ばす。
「なんでもない。それよりも、うちの研究所へ案内しよう」
「はい、お願いします」
自室を出て、屋敷の廊下を歩く。
道中、無言でいるのもアレなので、ちょっとした話を振った。
「研究に必要な資材や設備は、一通り揃えているつもりだが……。何か必要なモノがあれば、遠慮なく言うといい」
「ありがとうございます」
小さくお辞儀したセレスさんが、今度は逆に問い掛けてくる。
「ホロウ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、なんだ」
「以前結んだ就業規則に、『明るい先輩のいるアットホームな職場です』とあったのですが……。いったいどんな人なんでしょうか?」
「優秀な研究者だが……人格面に『巨大な問題』を抱えている。毒されんように注意しろ」
「は、はい、わかりました……っ(うぅ、ちょっと怖いなぁ、仲良くできたらいいんだけど……)」
屋敷を出て少し歩き――特別棟に到着。
ここは四年前、ボクのポケットマネーで建てた研究所であり、今は借金馬女が一人で使っている。
コンコンコンとノックするが……返事はない。
まぁいつものことだね。
「――邪魔するぞ」
そう断りを入れてから、扉をグッと押し開ける。
研究所の中は、
「……酷いな」
「う、うわぁ……っ」
めちゃくちゃ汚かった。
脱ぎ捨てられた衣服・空っぽのカップ酒・よれた競馬雑誌などなど、フィオナさんの私物が散乱している。
(こんなのでも一応、『ヒロイン枠』なんだよなぁ……)
なんならセレスさんの方が、ヒロインとして……いや、これ以上は何も言うまい。
(しっかし、さすがだね。あんなこっぴどく負けて、まだ懲りないのか……)
研究所の壁には、『必勝! 王国記念杯!』という垂れ幕が掛かっていた。
王国記念杯は、うちの競馬場で開催される、七月最大のレースだ。
どうやら、リベンジマッチに燃えているらしい。
(何度負けても立ち上がる不屈の闘志。これは彼女のいいところ……なのかなぁ?)
複雑な気持ちを抱きながら、研究室の奥へ進んで行く。
(っと、いたいた)
一際ごっちゃごちゃのデスク、そこにフィオナさんがいた。
「……」
彼女は黙々と手を動かし、魔法式を書き記している。
(まったくこちらに気付いていない……凄い集中力だね)
うっかりすると忘れがちだけど、フィオナ・セーデルはこれでも一応、『天才魔法研究者』なのだ。
「フィオナ、ちょっといいか?」
ボクがそう声を掛けると、彼女はクルリと振り返った。
「ホロウ様? 研究所に来るなんて珍し……あれ?」
「……」
「……」
フィオナさん(25歳)とセレスさん(33歳)、両者の視線が交錯し、
「あっ、セレスちゃんだ」
「ふぃ、フィオナ先輩……!?」
二人は『運命の再会』を果たすのだった。
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