第八話:特殊暗殺部隊
あぁ、綺麗な夜空だ。
ダイヤに見せてあげたら、きっと喜ぶだろうな。
ぼんやりそんなことを考えながら、満天の星空を見上げていると――背後から短刀がヌッと伸びてきた。
「――終わりだ」
「バレバレだぞ?」
ボクが右肘を軽く引くと、
「ガ、ハッ!?」
真後ろにいた男の胸に刺さり、グシャリという嫌な音が鳴った。
(……ん……?)
えらく生々しい感触だったので、チラリと振り返れば――なんと『暗殺者A』の胸部が、深く陥没しているではないか。
彼は口から血反吐を吐き、ゆっくりと膝を折って倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。
どうやら胸骨が砕け、心臓が弾けたっぽい。
(これは……ちょっとやり過ぎたかもしれない)
放っておいてたら死んじゃうので、こっそりと回復魔法を使い、応急処置を施した。
やっぱり命って、貴重な資源だからね。
(しかし、やりづらいなぁ)
元々ボクは手加減が得意じゃない。
今はそこへ聖域のデバフも乗っているため、『ちょうどいい出力』がとても掴みづらい。
(とりあえず……ここが『猟奇的な殺人現場』にならないよう、かなり抑えめでいかなきゃね)
基本的な方針を定めたところで、周囲をグルリと見回す。
「まったく……それで隠れているつもりか?」
ボクがそう言い放つと――夜闇の中から黒装束が浮かび上がり、リーダー格の男が不敵に微笑む。
「褒めてやろう、よく我等の隠形を見破った」
「くくっ、どこの世界にそんなバレバレの隠形がある? 褒めてやろう、中々に面白い『コスプレ集団』だ」
挨拶代わりに軽い挑発を送ると、
「「「……っ」」」
敵さんたちは、鋭い殺気を放った。
一触即発の空気が漂う中、再びリーダー格の男が口を開く。
「私はジェロム、大魔教団の『特殊暗殺部隊クィンズ』を束ねる者だ」
まぁ、予想通りの展開だ。
原作ホロウは、世界に中指を立てられた存在。
破滅の運命は、隙あらば悪役貴族を抹殺しようとする。
(勇者の聖域にいる間、ボクの全ステータスは大幅にダウンし、ボイドバレ防止のため<虚空>も使えない……)
早い話、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクを消す『千載一遇の大チャンス』だ。
おそらく『世界の修正力』が働き、自然な形で死亡フラグを寄せてくるはず。
そんな風に考えていると、『クィンズ御一行』がやってきた。
既に警戒していたため、特段の驚きはない。
「ホロウよ、貴様は少々調子に乗り過ぎた。ただの学生に『天魔』を討たれたとあっては、大魔教団の面子が丸潰れなのでな。ここできっちり落とし前を付けさせてもらおう」
「おやおや、自慢の最高幹部がやられて、次に出て来るのが『下っ端』とは……哀れだな。よほど人材難と見える」
「……私達は下っ端じゃない。『殺し』に特化した特殊部隊だ」
不快そうに眉を顰めたジェロムは、ゆっくりと右腕をあげる。
「モノを知らぬ哀れなガキよ、冥途の土産に教えてやろう。『強さ』には、様々な種類があるということをなッ!」
彼がパチンと指を鳴らした瞬間、暗殺者たちが一斉に襲い掛かってきた。
「――我が『魔剣』、受けてみろッ!」
正面から振り下ろされるのは、よく目立つ真っ白な太刀。
(あっ、『暗器』じゃん)
白い剣先から伸びた透明な刃を優しく摘まんでやる。
「なっ!?(この暗がりの中、初見でッ!?)」
「くだらん玩具だ」
「ご、ハ……ッ」
暗殺者Bの腹を殴り、その意識を刈り取る。
直後、
「「――死ね」」
短刀を握った暗殺者CとDが、両サイドから突進してきた。
よくよく見れば、刀身がしっとりと濡れている。
(おっ、毒だね)
今は『虚空のかけら』を使った『免疫機構』を切っているため、平時の『完全毒耐性』がない。
ここはしっかり防御しよう。
ボクは地面に転がる暗殺者AとBを爪先でヒョイと蹴り上げ――即席の『盾』とした。
「「なっ!?」」
「「が、ふ……っ」」
まさに同士討ち。
毒の塗られた短刀が、盾の腹部をぐっさりと抉る。
「あーあー、可哀想に……。まさか仲間に刺されるなんて、思っていなかっただろうなぁ」
「「……っ」」
動揺する暗殺者CとDの後頭部に手を回し、それぞれの額をゴツンとぶつけてやった。
「「ぁ、う゛ッ」」
鈍い音が響き、二人はぐったりと倒れ伏す。
「ん?」
目の前に白い玉が転がった。
(ははっ、煙玉か)
蹴り返してやってもいいけど、向こうの油断を誘うため、ここは敢えて爆発させよう。
刹那、煙玉がボフンと弾け、視界が真白に染まり――これを好機と見た暗殺者E・F・G・H・Iが、無言のままに襲い掛かってきた。
(残念ながら、丸わかりなんだよね)
風の流れ・鼓動の音・魔力の揺らぎ、たくさんの情報が、敵の位置を正確に教えてくれる。
「よっこいせっと」
ボクは前屈みになって、先ほど昏倒させた暗殺者CとDを拾い――即席の『剣』として、暗殺者たちを迎え撃つ。
「よっ」
「貴様、なんと卑劣な……ガハッ」
「ほっ」
「ひ、酷い……きゃぁ!?」
「はっ」
「お前は悪魔だ……うぐっ」
「そぉれ」
「この外道め! ぐはッ!?」
あっという間にE・F・G・Hが沈黙。
「や、やめろ……っ。ホロウ……お前は人の命をなんだと思っているんだッ!?」
「くくっ、お前も暗殺者だろう? この世界で『甘さ』は命取りだ」
同じ暗殺者として、助言をプレゼントし――お手製の剣でIを殴り倒す。
「ふむ、存外に悪くないな」
『人剣』、刃渡り約170センチ。
基本的人権を削ぎ落とした至高の一振りだ。
斬れ味はそんなによくないけど、軽く刃毀れしちゃっても、回復魔法で治るところがグッド。
さらに今みたく、敵の戦意を削ぐオマケ付き。
咄嗟の思い付きにしては、けっこうイイ武器だね。
「さて、残すはお前一人だな」
ボクの視線の先には、特殊暗殺部隊クィンズの長ジェロム。
「……なるほど、『第六天』ラグナ・ラインを倒すだけはあるらしい。だが、この私――『世界最強の暗殺者』ジェロム・ジェノヴァーゼには遠く及んぞッ!」
彼が両手を広げたそのとき、周囲の木々が音もなく両断された。
「ほぅ、『操糸術』か」
「御明察! 研ぎ澄まされた魔力糸を指より放ち、それらを手足のように操る高等技能だ! 3糸を手繰りて二流、5糸を束ねて一流、10糸を纏めて超一流と呼ばれる世界で――私は30糸を同時に操るっ!」
自慢気にそう語ったジェロムは、
「ホロウ、貴様の首を手土産に持ち、このジェロムが新たな天魔となるのだァ!」
両腕を激しく振るい、30本の魔力糸をこちらへ放った。
鋼を刻む『糸の斬撃』はしかし、
「――ふむ、確かこうだったかな?」
『漆黒の魔力糸』によって防がれた。
「なっ!? 貴様も操糸術を……!?」
「くくっ、何を驚いている? こんなものは児戯に過ぎん」
ボクの両指から、大量の魔力糸が伸びていく。
「あ、あり得ん……っ。貴様、いったい何本を……!?」
「さぁな、1万から先は数えていない」
多分、3万本ぐらいはいけると思う。
「せっかくだ、一つ手本を見せてやろう。操糸術は、こうやるんだ」
「ひ、ひぃいいいいいいいい……!?」
っというわけで、大魔教団の特殊暗殺部隊は壊滅。
魔法の絡まない戦闘は、また趣向が違って楽しかった。
たまには、こういうのも悪くないね。
(さて、どうしようかな……)
ボクの足元に転がるのは、満身創痍の暗殺者9人と糸でグルグル巻きのジェロム。
大魔教団の特殊暗殺部隊が、お得なセットになって纏まっている。
(いつもなら、家族へ迎え入れるところなんだけど……)
残念ながら、ここで<虚空渡り>を使うわけにはいかない。
(ちょうどやってきたみたいだしね……)
騒ぎを聞きつけたアレンとラウルが、こちらへ駆け寄って来ている。
ニアとエリザが出て来ないのは、お風呂にでも入っているのかな?
(仕方ない、今回はリリースしよう)
ボクは魔力糸を消し、ジェロムを解放してあげた。
「……貴様、なんの真似だ……?」
「お前たちのボスに伝えろ。『そう怯えずとも、しばらくは生かしてやる』、とな」
そのまま返すのもあれなので、『メッセンジャー』として働いてもらう。
「くそ……覚えていろッ!」
ジェロムは捨て台詞を吐き、煙玉を投げ付けた。
白い煙幕が立ち込める中、彼は気絶した仲間を素早く回収し、脱兎の如く駆け出す。
そうこうしているうちに、アレンとラウルがやってきた。
「ホロウくん、今の奴等は!?」
「これはいったい何事じゃ!?」
「大魔教団の下っ端です。自分を狙っていたようなので追い返しました」
特に嘘をつく意味もないので、正直に現状を説明する。
「さすがはホロウくん。でも、怪我とかはない?」
「あぁ、大丈夫だ」
「そっか、よかったぁ……。でも、凄かったね! あの黒い魔力の糸! アレも魔力操作の応用なの!?」
「まぁ、そんなところだ」
アレンが鼻息を荒くして、絶賛の言葉を並べる中、
(……今の一幕で十分にわかる。このホロウとやら、異常なほどに強い……っ)
ラウルはジッとこちらを見つめた。
(若くして修めた回復魔法・驚異的に仕上がった体術・神業と呼べる魔力操作……こやつ、まさか……っ)
もしかしたら、ちょっと不審に思われているかもしれない。
「自分の顔に何か付いていますか?」
「……いや、ハンサムなうえにその強さ、女子が放っておかんじゃろうと思ってな(いかんいかん、儂は何を考えておるのじゃ。アレンの大切な友達が、ボイドであるはずなかろう!)」
僅かに疑念を持たれたようだけど、確信には至っていない。
これぐらいなら誤魔化せそうだ。
もう二度とここには来ないしね。
その後、勇者コンビと別れたボクは、<創造>で作った屋敷へ戻るのだった。
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