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薄幸の堕天使  作者: 怒雲
一章『終りと始まりの詩』
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異なるその場所なら。



 辿り着くは異なる世界。常識の通じぬ地と、常識が無さそうな誰かさん。



 訳が解らないままに走り出すあたしの物語り。


 今はまだ、なにも解らないまま……。









「……………ん」


 柔らかな何かに包まれた感触と共に、アクルは目を開いた。日の光りをやんわりと感じる。


「お? 起きた起きた。おっはよーさんおはよーさん。太陽はサンサン。」


 するも、すかさず聞こえる頭の声。


ぼんやりとした調子でアクルは身体を起こして口を開く。


「おはようございます……」



 まだ、意識がハッキリしない。ここは、どこ?


「しょうへいへーい! 朝からテンション低いぞーアンタ!

 いよっしゃあ!まずはアンタの疑問にお答えしましょうコーナー! デデーン!」


 朝っぱらからクソうるせぇ声に、アクルは軽く頭を押さえる。


………まぁでも、それはそれとして。お陰で目は覚めた。



「何故に我がコロコッタの事をコロちゃんと呼ぶのかだったよなぁ!?

 あれはそうだなぁ、そうだなぁ!? 単に、その方が可愛いからだぁぁぁぁあ!!!」



「……はぁ」



 謎過ぎるハイテンションに、アクルは早速だが心が折れそうだ。


 しかも滅茶苦茶どうでもいい話しである。ちなみにアクルは、自分が何故コロちゃんなんですか? と聞いた事は忘れている。気絶直前だったし混乱してたし、まぁ、多少はね?




「ん……。」


 辺りを見渡すと、どうやら民家らしい事に気付く。アクルは、ベッドの上だ。


ぽすんと、再び寝っ転がる。


───柔らかく温かいお布団が、気持ちいい。



「……えへへ」



「どしたんアンタ。なんっつーか、すっげぇニヤニヤしてるぜ。いや、むしろニヨニヨしてるぜ」



 アクルは柔らかなベッドに寝転がり、ふかふかの布団を堪能しながら返事をする。



「こんなふかふかの柔らかいお布団は初めてなんです」



家の、いつも寝るお布団は、固かったから。



「アンタの胸は小さくて柔らかくなさそーだな。」


「えっ……」



 すると、謎過ぎる突然の中傷にアクルの表情が固まった。突然、なに?


「ちなみに、我の本来の身体ボディーは超☆ムチムチのナイスバディだったぜHAHAHA!

 それに比べてアンタは貧相だなぁ~。」



 それらを聞いて、少しポカーンとしていたアクルの表情は、少し拗ねたようにムッとなる。



 ちなみにネタバレになってしまうが、こいつは背だけは高いがアクルに負けないくらい貧相な残念ボディーである。


「おい地の文この野郎。」



「ところで、ここはどこなんですか?」


 少し咳払いしつつ、アクルは頭の声に尋ねる。板張りの床とタンスにドア。まぁ、普通の家という感じだ。すぐ近くには窓があり、そこからは曇った空と、少なくとも現代日本という感じはしない町並みが見えた。


 煉瓦造りで煙突付きの家が沢山である。



「見てのとーり。町の民家だぜよ。

 アンタがコロちゃん倒してぶっ倒れた後、どうやらコロちゃんを討伐に来たらしいこの町の連中が、アンタをとりあえず保護したんよ。

 コロちゃんの残骸を見て困惑してたなー」



「はぁ……」


 成る程と呟き、アクルは少し考えてからおずおずと質問を重ねる。


「えっと……ここ、日本じゃあないですよね?」



「おうよ。つーか、アンタのいた地球じゃあないな。地の球って意味なら確かに地球だけど、アンタの住んでたとこの地図には絶対無いぜぃ」



 再びアクルは、はぁ、と小さく呟く。突拍子の無い話しだが、まぁ信じるしかなさそうだ。


 見た事ない獣に襲れるし、とり憑かれるし、手は噛み千切られても元に戻るし、何もない所から剣は出現するし。



「あ。ちなみに我との会話はもうちょい声のトーン下げた方がいいよん?

 我の声はアンタにしか聞こえないからな。我と会話してるとこ、端から見ればただの独り言だかんな。

 頭おかしい奴か、頭残念な奴か、頭が可哀想な奴か、頭のネジが外れた奴かと思われるぜ」


 どれも似た様なもんである。


 頭の声に素直に頷いて、再びベッドに寝転がってぼんやりしていると、ドアを軽くコンコンと叩く音がした。


「入ってもよろしいかな?」


「え?あ、はい。」


 ちょっと慌てて身を起こすと、ドアが開いて一人の老人が現れる。白い短めな髪と、整えた髭がどことなく清潔感というか、気品を感じさせた。



「おや、起きてましたか。具合はどうですかな?」


「あ、えっと……えっと……。」


「苦しゅうないと言え。」


「苦しゅ……苦しくないです、だ、大丈夫です。」


 どう返事をしたものかと戸惑ったアクルは、頭の声が言った言葉を言おうとして踏み留まった。何様だ。



「うは! 本当に言いそうになったぜこいつ! ゲラッ!ゲララァッ!」


 頭の声は凄く楽しそうに、滅茶苦茶ムカつく声で笑った。アクルは少し頬をひくつかせている。


「……それならば良かった」


 老人は穏やかに笑いながら、近くの椅子に腰掛けた。


「あ、えっ、えっと……あの……。」


「ああ、これは失礼。私はアルケス・クラテリースと言います。以後、お見知り置きを。」


 アクルの困惑した様子に対し、老人は穏やかに微笑みながら簡単に自己紹介をした。


「あ、えーと……アクルです。えっと、アクル・ヒヤマ?」


「何故に疑問系。つーかアンタ、アクルって名前なんだな。そういや聞いてなかったわー」


 ふむ、アクル・ヒヤマですかなとアルケスと名乗った老人は片手を顎に持って行く。


「旅の方ですかな? コロコッタは、貴女が?」


「あ、えーと……。」


「あ、と、えーとが多いぞーあんたぁ……。

 よし、ここは記憶喪失とでもしとくんだ。実際、こっちの世界の事まったく解らんだろ?」


 頭の声の助言に、確かにそうだと思いつつ、アクルは答える。



「あの、すみません……その、えっと、よく覚えてないんです……その、ここ最近の事とか。」


「ふむぅ?」


 少し怪訝そうな様子を見せたアルケスだったが、穏やかに微笑み頷いた。




 そんな老人の笑みに、アクルも思わずホッとした瞬間……お腹の音が鳴ってしまう。


「おー、アンタ中々にいい自己主張のしかただな。そうだよなぁ、腹へったよなぁ。」


 笑いを噛み殺したような頭の声に、アクルは「あぅ……」と赤面してしまう。


 そんな様子に、アルケス老人は少し噴き出しつつ立ち上がった。


「食事でも持って来ましょうかな?」



「あっ、あのあの、お構い無く……。」


 あたふたするアクルに、遠慮はいりませぬぞとアルケスは部屋から出て行ってしまう。


「うぅ……。」


 恥ずかしそうな声を漏らしつつも、アクルはその大きな茶の瞳から涙が少し零れそうになった。そう言えば、こんな風に扱われたのは初めてかもしれない。


 少なくとも、最近の記憶には無い。疎まれ蔑まれるのが当たり前だった。



「……この世界なら。」


「うん?」


「あたしは、人として扱われていいんですかね?

 ……生きてて、いいんですかね?」


「あー……。」


 頭の声は、少しだけバツが悪そうな声をあげてから、続けた。


「まぁ、なんだ。我はアンタがどんな風に生きて来たのかなんか全然知らねーし、何を背負ってるのかも知らねーけどさ。 少なくとも、死ぬべき輩とは思っちゃいないさね」


 アクルは、ほんの少しだけキョトンとした後……顔を布団に埋めて呟いた。


「ありがとう、ございます……」


 絞り出す様に、呟いた。

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