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薄幸の堕天使  作者: 怒雲
二章『ハッピーエンドに憧れて』
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2




 そんなこんなで、アクルは馬車に乗っていた。


 中も何やら豪華な感じで、向かい合う様に赤い、ソファーの的な椅子と、白いテーブルまである。



「紅茶でもいかが?」



 微笑むお嬢様に、お構い無く、と噛み気味に呟くアクル。



「ほいほい着いて行っちまって良かったのかい?」



 魔王が呟く。もっとも、乗る様に提案したのは魔王である。 アクルも、お嬢様の雰囲気に押され、流される様に馬車に乗り込んだのだが。



 馬車に乗り込むと、アクルはお嬢様の隣。向かいの席には二人くらい、軽装の鎧を身に付けた男性が二人、少し困った様な笑みを浮かべている。



 なんとなく居心地悪く、ちょこんと座るアクル。苦笑こそしているが、二人の従者にはアクルを邪険にしようという意思はないらしい。



「ああ、私とした事が……まだ名乗っておりませんでしたわね」



 軽く手を叩きながら、お嬢様はアクルの方に体を向ける。



「私、プリキュオンと言いますわ。プリキュオン・ゴメイサーレン……今はハドリアースでしたわね。プリキュオン・ハドリアースですわ」



「あ……ええと、アクルです」



 ちょっぴり小首を傾げながら、名乗るアクル。



「ん。このお嬢様、既婚者か。多分、新婚さんだな」



 えっ、とアクルは呟いた。見た感じ年が近そうな、アクルよりは背が高い程度の小柄なお嬢様である。



「えっと……プリキュオンさんは、ご結婚なさってるんですか?」



 尋ねてみると、ええ、とお嬢様ことプリキュオンは頷いて見せる。



「先月くらいに式をあげましたわ。ふふ、まだ新婚ですわね」



 そう言って上品に微笑むプリキュオンを見ながら、アクルは質問を続ける。



「えっと……プリキュオンさんって、おいくつなんですか?」



「今年で十五になりますわ。アクル様は?」


「あぇ……お、同じ年なんですね」



 まぁ、とプリキュオンはちょっと驚く。年下だと思っていたらしい。



 アクルの方もかなり驚いていた。十五歳で結婚かぁ……。


 ちなみに魔王も驚いていた。


「アクルたん、十五だったのか……十二か十三くらいかと……。」


 あたしはかなり小柄ですからねぇ、と呟く。まぁ、あんまりちゃんと食べてなかったし仕方ない。




「ああ、そうですわ。貴女は知っているかしら?

 最近、この近くの町にワームが大量発生したそうですわよ」


 その場にいたであろうアクルは、ギクリとしながらおそるおそるプリキュオンの方にその大きな目を向ける。


そんなアクルに対し、プリキュオンはクスリと笑って。



「心配せずとも、偶然居合わせた十二聖護士様が駆逐してくれましたわよ。犠牲者はいないそうですわ。流石ですわね」



 アクルの反応を見て、単純に怯えただけだと考えたプリキュオンは、そう言って上品に笑う。



「……ん?」


 そうですか、と呟くアクルをよそに、変だな、と魔王は思う。ワームの話題だけ? 魔王の話題はねーの? それっておかしくね?? 普通に大事件じゃんね。



「……んー? アクルたん、他に変わった事は無かったのか聞くんだ」



「え? あ、えっと、そのぅ……他に、変わった事とか無かったんですか?」


「ん?」



 アクルに問われて、プリキュオンは少しキョトンとしてから、そうですわね、と呟きその綺麗な紅い髪を少し弄る。



「特に何も。まぁ、ワームの大量発生はどう考えても異常事態ですわ。恐らく、魔族の仕業として間違いないでしょうが……」



 そこで間を置いてから、再び口を開く。



「そこら辺は詳しく聞いていませんわ。

 まだ魔族の仕業かどうか、突き止めれていないのでしょうね。いくら十二聖護士様といえど、一般市民を守りながら魔族の下まで辿り着くのは難しいでしょうし………」



 それを聞いて、アクルもちょっと首を傾げた。







 ……魔王の事を、知らない?





「アクルたん、魔王の話題は出すなよ?」


 流石に不思議そうな顔をしているアクルに、魔王は一応釘を刺す。アクルたんなら聞きかねない。


 虎穴に入らずんばなんとやらで、アクルたんには馬車に乗って貰ったが……こりゃあ、すっげぇいい情報が得られるかもしれないぞ。



 アクルとしては、何故に魔王の話題が出ないのかとモヤモヤしているので、魔王に聞いてみたいが、流石に今の状況で魔王と会話すると怪しさ満点なので押し黙る。



「……まぁ、仮にワームの残党が残っていたとしても、この私がいる限り心配いりませんわ」


 プリキュオンには、アクルが不安がっている様に見えたらしく、安心させる為にそう言ってのけて、従者二人が苦笑を浮かべる。


「やれやれ……護衛として立つ瀬が無いですね」



「おほほほ!この私に護衛など、本来は必要ありませんわ」



 そう言って、自信満々得意満面に鼻を鳴らすプリキュオンを見ながら、すげー自信だと魔王が呟いて、アクルは少し不思議そうにお嬢様に尋ねる。



「えっと、プリキュオンさんは強いんですか?」



 その質問に、従者が困ったように笑いながら答えた。



「ええ、お強いですよプリキュオン様は。流石に聖護士様には劣りますが、八区でもそれなりの実力者になるんじゃあないでしょうか」



 おかげで立つ瀬がありませんと、従者は苦笑を浮かべたまま答えるのだった。




「考えられるのはそうさなー。人間側は、アクルたんをスルーするつもりかもしれないな」



 魔王は、ちょっとにんまり気味に呟く。



「多分、十二支含む魔族がアンタ襲ってるの見て、仲間割れひゃっほい!てとこなのかもしれん。

 だから、他の人間が手を出さない様に、魔王の件は伏せてるんだろうよさー。

 つまり、人里を彷徨いていれば結構安全ってぇ訳だぜぃ。こいつぁあ、いい事を聞いたよーぃ」



 その言葉に、アクルは少し胸を撫で下ろした。

 

 が、直後に険しい表情で窓の外を見るプリキュオンを見て、凍り付く。


もしかして、魔王という事がバレた?



「お、お嬢様!」


「ええ、魔族……ですわね」



 馬車が速度を落とし、アクルは少し目を見開いた。



 窓から様子を伺おうとするが、よく見えない。


とりあえずバレたわけでない事にはホッとする。まぁ、武器とか、再生能力とか見せたわけじゃないので当然なのだが。

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