七区にて
「結構、長くなったなっ!ようやく帰って来たぞっ!」
人形の様に愛らしい容姿をした少女、エリダヌスは歓喜の声をあげた。
透き通る様な白い肌。紫の瞳とウェーブヘアーの長い金髪。そして、抱き締めると壊れてしまいそうな小柄で華奢な体。
儚げなその顔立ちから見て、彼女は疑う余地が無い程の美少女と言えるだろう。が、その口調からはあまり美しさを感じ無い。
コロコロ変わるその表情はコミカルで、親しみ易さすらある。
「おー。ま、実家って訳じゃあねぇけどな。」
その隣の所謂イケメン的な感じだが、チャラそうな感じの青年、ユークリッドが笑う。黒っぽいヘアバンドと、ツンツンした茶髪が特徴的である。
二人は街中にいた。周囲の建物は、レンガ造りだったり木造だったりと、統一感が無いが、全てが赤を基調としており、視覚的にはかなり統一感がある。
ここは七区のとある街。規模としてはそれほどでも無いが、特徴的な街である。
何故ならば、この街はほとんど学生か先生。もしくは、学園の関係者しかいないからだ。
十二聖護士養成学科。もしくは学園。
エリダヌスとユークリッドは、真っ直ぐに真ん中の赤い宮殿みたいな建物を目指し歩く。
その途中にで声をかけられ、二人の足が止まった。
「よーっす、お疲れさん。」
「おーっ。サザンクロス先輩。それにアノース先輩。何だか久しぶりですだなっ!元気そうで何よりだですぞっ!」
そう言って、一組の男女に向けてエリダヌスは手を振った。
紫のクセのある髪を、大きな赤いリボンでくくり、ポニーテールにしてる少女、サザンクロスと金髪碧眼の青年、アノース・ハドリアース。二人はこの学園の四年生である。
四年生……いわば、十二聖護士準備期間といった感じだ。二人とも、今いる聖護士に何かがあれば、彼らが次の十二聖護士となるだろう。
「……遠征帰りかい?」
「うっす、そんな感じッスね。」
アノースに問われ、笑みを浮かべたまま。ユークリッドは答える。
「奥さんは元気ッスか?」
「ああ、プリキュオンは何時も元気だね。あまり帰ってやれなくて申し訳無いよ。」
そう言って、アノースは肩をすくめる。
「十二区だっけ?なんか面白い事とかあったか?」
なんとなしにサザンクロスが聞いて、ユークリッドとエリダヌスは顔を合わせて……ある事を思い出して、同時に噴き出した。
「崖の下で、毒キノコ食ってラリってた奴を見掛けましたぞっ!」
思い出して爆笑しているユークリッドとエリダヌスを交互に見ながら、なんだそりゃとサザンクロスは詳しく聞く。
聞いて見ると、謎の小柄な黒髪みつあみの……かなり小柄なエリダヌスより更に小柄な可愛い感じの少女が、「どすこーい! あへへへへ~、ロマンチック~! 諸葛亮の北伐成功~!」 とか言いながら、クネクネしていたとか。成程、それはインパクト絶大だ。自分もその場にいたら爆笑だろうなとサザンクロスは苦笑する。誰だよショカツリョウって。
「面白いね。その子の名前は分かるかい?」
アノースが尋ねてみると、二人とも忘れてしまったらしい。
………まさかねとアノースは思う。妻であるプリキュオンという少女からの手紙で、『アクル』という少女と出会った話があった。容姿も酷似してる気がする。
その娘も十二区に向かったらしいけれど…………。
「…………なぁ、お前ら知ってるか?」
その子、アクルって名前じゃないかい?そうアノースが尋ねようとした時………ふと、サザンクロスが声のトーンを落とした。
「まだ噂だけどさ、魔王が復活したんだってよ。」
少し、トーンを落としたその声を聞いて、エリダヌスとユークリッドは顔を見合わせた。
「ああ……あくまでも噂だけどね。」
苦笑混じりにそう言ったのは、アノースである。ふわりとした金髪と青い目。
「私の住む八区に現れたそうでね。今は詳しく調査中みたいなんだよ。」
へぇ、と二人は呟く。それなら、自分ら三年生も忙しくなりそうだ。
死ぬかもなー、とユークリッドは思う。実際、二年、三年生は死にやすい。
エリダヌスもユークリッドも、自分は生き延びられるだろうと楽観視はしていない。
楽観視していたものは、とっくに墓の下だ。そういう世界なのだ。
「………ところで、サザンクロス。もう行った方がいいんじゃない?一区で任務なんだろう?私も、十二区まで行かないとだしね。」
「あー。そろそろ切りあげるか。」
ちょいと長話になったなとサザンクロスは苦笑する。
ついでに、乗り気しないんだよなぁとサザンクロスは思う。エリス聖護士からの依頼だが、あの人は胡散臭いから苦手なのだ。
………まぁ、評価上がるから、行くんだが。
じゃあなとサザンクロスとアノースは手を振り、去り行く二人を見送ってエリダヌスとユークリッドは再び校舎を目指し歩き出した。




