カードゲームが始まらない
ボクの名前はアリス。漢字で書くと『荒罹崇』。ひょんな事から異世界に飛ばされた転移者だ。
「うちの異世界、『カードゲームで全てが決まる系』の世界なんだけどさー。ちょっと観光していく?」
そんな軽いノリでお誘いを受けたので即断でOKし、初期デッキを貰って転移をさせて貰ったのだ。
「おっ、あそこでバトルをしてますね。ちょっと見学してみましょう」
『カードゲームで全てが決まる系』の世界である事は知っているが、肝心要であるカードゲームのルールをボクは全く知らない。ルールブックを読むのも良いが、まずは実戦を見てみたい。その方が理解も早まるだろう。
とはいえボクはこれでも『レジェンドジエンド』という有名なカードゲームのトッププレイヤーだ。少しくらい斬新なルールであってもすぐに理解できると思う。
町の広場では2人の男性が互いに向かい合ってバトルを繰り広げていた。両者の腕にはカードの束であるデッキを収納する為のホルダーが取り付けられている。またホルダーにはゲームの状況を表示していると思わしきモニターやカードを配置する為の台座が付随していた。
「くっ……なかなかやるな!優れたタクティクスだ」
プレイヤーの眼前には強そうなドラゴンが鎮座しており、もう片側のプレイヤーの前にモンスターはいない。状況だけを見るとドラゴンを召喚している側が有利なようにも見えるけれど、それは素人の意見らしい。ドラゴンを従えている側のプレイヤーには冷や汗が浮かんでいた。
モンスターを召喚していない側のプレイヤーの後方には巨大なライトのような機械が鎮座しており、場を明るく照らしていた。あれもカードによって召喚された設置物なのだろうか?
「まさか、令和最新版の高輝度LEDライトで俺の視界を奪うとはな……ッ!優れたタクティクスにも程があるぜっ!」
「ふざけてます???」
そんな盤外戦術って有りなんですか???『カードゲームで全てが決まる系』の世界で???
「素晴らしいタクティクスだ、アレックス。これなら魔王ゾルゴンの戦いでも通用するだろう」
2人のカードバトルを横で見学していた一般解説者もその華麗なるタクティクスに太鼓判を押す。どうやら有りらしい。
「だがそのタクティクス、俺には通用せん!」
そう言うとLEDライトによる妨害行為を受けていた側のプレイヤーはカードをドローし、即座にフィールドへ召喚する。
「なにっ!?カードを確認せずに召喚しただと!?」
「ククク……俺のカードは手感での判別を可能とする為の特殊なマーキングを施してある、視覚が使えずともバトルは可能よ!」
「イカサマでは????????」
「くっ、デッキホルダーがイカサマとして検出しない程の極微細なマーキングを手感によって判別しているという事か、流石だぜ!」
ルールの裁定者が認識出来ないイカサマという事か。人間の審判が居ないこの場においてはシステムこそが全て――理に適っていますね。
「しかし自分のカードはマーキングできても俺が出すカードの判別は出来ないハズ――俺の勝ちだ!」
「――それはどうかな!」
「何!?」
その瞬間、漆黒のローブをその身に纏った謎の男が出現する。ローブの男はマーキングの男に対して小声で呟いた。
「ユミル様、アレックスの手札には『ボルカニック・ドラグーン』がおります。また、フィールドには『連鎖地雷』が仕掛けられているようです。お気を付けください」
「そんなの有りですか????????」
「さっきからうるせーな。有りに決まってるだろ。システムが反応していないんだから」
「ごめんなさい……」
衝撃の展開に動揺してしまったボクがうるさかったらしく、見学者の1人が苦情を入れてきた。申し訳ありません。
「なるほど、『連鎖地雷』があるのか。それなら『連鎖地雷』の発動条件である『複数モンスターの同時召喚』は行わない方がいいな。それならば俺は2体のモンスターをコストに『天帝テレーヌ』を召喚する!」
「罠発動!『核地雷』!」
「なんだと!?『連鎖地雷』では無いのかッ!?」
「俺のカードは特別性でね、表面にはフェイクとして偽装データを記載してあるんだ!」
「カードゲームを舐めてます????????」
「舐めてる訳ねーだろ!命が掛かってるからここまでやってるんだ!」
「……確かに!」
『カードゲームで全てが決まる系』の世界だからこそ、出来る事はなんでもやる。これは理に適ってますね。
だからこそ、ボクが言うべき事は1つだけ。
——もっと不正行為の検出精度を上げてください!