9.この世界を救うものとは
「っからのヤミファイア!!」
魔王、不意打ちに4人に紫の炎を繰り出す。
「プロタテクト・シールド!!」
マホはすかさず光るバリアを出した。
しかし今回の攻撃の威力は大きかったようで……
「ああ、バリアが壊れそう……!!ごめんみんな!!」
「結婚できない~!!」
「おお、神よ……」
「……。」
するとバリアが壊れて、4人にダメージが……
「あ~、ごめんマホ。HPが0になっちゃった……。」
ソウは諦めたように微笑んで、倒れる。
「門番さん、好きでした……。」
そして静かに目を閉じた。
「俺も……なくなってしまったようだ。」
トウキもゆっくり倒れる。
「神のご加護を……」
「二人とも……!!」
私が二人を呼ぶその隣で。
「マホ、俺も……ダメみたいだ……。」
勇者が消え入りそうな声でいう。
「えっ、しっかりしてよ!勇者なんでしょ!不死身なんでしょ!!」
何がなんだか分からなくなって、私の目から涙がぽたぽた零れた。
「ごめん……調子乗って……嘘、ついてた……。」
ほんとうに、これで最期なんだ。
私は勇者の言葉を聞き取ろうと、耳を寄せる。
「マホなら絶対に、勝てるよ。魔王にも。だって。」
勇者は弱々しく微笑んで言う。
「マホは、この世界で、いちばんの、魔法使いだから……。」
そして勇者はとうとうこと切れた。
「これで……あたしは……ひとりぼっち。」
「ハッハッハッハッハ!!お前の仲間は弱いな!!」
魔王は嘲笑ってくる。もうでも、私も厳しいかな……。
「……そうよ。そして、私も……。」
私はその場に倒れる。
だけど、私には言い残したことがある。
「魔王……聞きなさい。」
私は最期の力を振り絞って、魔王を睨み付ける。
「あなたは、無敵じゃないわ。あなたには、なにか足りないものがある。」
そしてマホは、静かに目を閉じた。
「ハッハッハッハ、あの魔法使い、俺に足りないものがあるだって?!だとしたら、そんな俺に負けたあいつらにはもっともっと足りない何かがあるってことじゃないか……。
さあ、あとはお前だけだな。」
魔王は壁際のサクラに向き直る。
「どうだ。一年間、父親だって思って接してきた俺が実は魔王だったなんて。」
魔王は両手を空に掲げる。
「嫌……やめて!」
魔王は闇の炎を手に宿す。
「これで終わりだー!!世界は俺のものだ-!!」
魔王は炎を投げ、
……。
……。
……。
「……なぜだ。投げられない。」
魔王は炎を投げようとしているが、あと一歩のところで投げられないみたいだ。
もしかして。
「……!お父様!お父様が止めてくださってるのね!!」
魔王の、乗っ取られたその内側にはまだ、父が生きている。少女はとっさにそう思った。
「……その呼び方はやめろ!」
「お父様、久しぶり。私よ……、サクラよ。」
「……やめてくれ。」
魔王は苦しんでいるが、少女はお構い無しだ。
「止めてくれてありがとう!私のために……。」
「やめろと言っているんだ!」
「お父様、私はお父様を……愛してるわ。
覚えてる?私に名前をつけてくれた日のこと。
桜の花が満開だったんでしょう?その日。
私ね、桜の花が大好きなの。だって、桜を見ると、お父様の優しさに触れることが出来るような気がして……。
来年の桜は一緒に見に行こう?だから!……戻って来てよ!お父様!」
その瞬間、魔王の体からまばゆい光の束が溢れ出した!
「ぐわああぁぁぁ!!」
「今だ!ホノファイア!!」
死んだはずの大魔法使いが、呪文を唱え、特大の火球が魔王を焼き払う!!
「お、お主、なんで生きておる……。」
あんな闇の炎じゃ死なないっての。
「あれじゃ、レベル38を一発KOは出来ない。今まで死んだふりしてたの。」
「お、おぬし……!ぎゃああぁぁぁ……」
ものすごい断末魔を残して、魔王が焼け焦げて倒される。
そして、王から紫色の炎が出て、消えてしまった。
そして、もとの国王が倒れていた。
「……魔王を倒すのに必要だったのは、勇者パワーでも、世界一の魔法でもなかった‥‥‥
愛の力だ……。この世界には、愛が必要だったんだ……。」
「大丈夫ですか?」
王女が心配そうな顔でこちらを覗き込む。
「え、えぇ……大丈夫ですが……。あなたこそ、大丈夫ですか……?」
「はい。大丈夫です。最愛の父を取り戻せたんですもの。」
ああ、嬉しそう。
でも、それもそうか。
実のお父さんを取り戻したんだもんね。
家族っていいな。
私も家族になんかしようかな。
「はっ!そういえば……ご、ごめんなさい!お父さんに、でっかい火球を投げてしまって……」
「多分、父は大丈夫だと思います。火球が当たって、攻撃が効いていたのは魔王だけに見えたので……。」
「なら、いいのですが……。」
「マドモアゼル!」
王女が声高らかに、家来を呼ぶ。
「お父様を医務室へ連れてって!」
すると家来が棚の陰から出てくる。
「かしこまりました。」
「いないな、って一瞬思ったけど、小心者のあなたの事だから、隠れてるんじゃないかって、思ってたわよ。」
「バレてしまいましたか。」
「ほら、ほかの人も連れてきて!運んであげてちょうだい。」
「了解です。」
家来がいそいで玉間から出ていく。
「……私。」
と王女が口を開く。
「母を小さい頃に亡くしていまして。それで、父だけが唯一の血が繋がった家族なんです。」
「そうだったんですね……」
「だから、もし父を失ってしまったら‥‥‥私だけ、ひとりぼっち……。」
「ひとりぼっちにはさせない!」