7.偽物
中には、一人の家来と国王がいた。
「国王陛下。ご依頼の通り、魔王を討伐して参りました。」
「うむ。勇者ユースケよ、ご苦労であった。……そちらの3人は?」
「わわわ私は、と、盗賊の、ト、トウキにございます。こ、こちらの、ゆゆ勇者と、と、ともに旅をしていたものでしゅ。」
いやいや、緊張しすぎでしょ。
「お主、緊張しておるのか?」
聞くまでもなくない?
「ひゃ、ひゃい。」
もうもはや、イケメンに話しかけられただけで赤面してる恋愛漫画のヒロインに見えてきた。
「ほっほっほっほっほっほ…ゲホゴホ」
大丈夫そ?
「トトウキ殿、緊張しなくても良いぞ。」
名前、間違えられてる-。トウキです!みなさん、覚えて帰ってあげてくださーい!
「愛と美を司る僧侶、ソウにございます。トウキと同じく、勇者とともに旅をしていた者でございます。」
肩書きおかしくない?どこでその肩書き手にいれたの?
「なるほど、それでそちらの方は?」
華麗にスルーされてる-、ほらソウ、スルーされたから、すごい顔に。まるで怒ったゴリラみたいになってるよ。
ソウはすごい形相で国王をにらむ。でも国王は気付いていないようだ。
「魔法使いのマホです。2人と同じく、勇者とともに旅をした者でございます。」
前の二人がおかしいから!私だけ印象薄いじゃん!普通にやってるだけなのに!
「あっそ。」
おい!せめてもうちょっと興味もて!
「ところで、勇者ユースケ。」
「はい、国王陛下。」
勇者が恭しく頭を下げる。
「せっかく‥‥魔王を討伐してもらったのだが……娘との結婚はもう少し、待ってはもらえないだろうか。」
「えっ」
「「「えっ?!」」」
ワンテンポ遅れて、勇者を除く3人も反応する。
あんた、まさか王女との結婚目的だったの……?
「娘と、この国の将来を話し合いたいのだ。少し、待ってはくれないだろうか。」
「お待ちいたします。陛下のためなら……王国のためなら。」
「お主ならそう言ってくれると信じておったぞ。勇者ユースケ……また、方針が決まったら城に招待しよう。」
「ありがとうございます。」
「下がっておくれ。」
「失礼します。」
そういうと、勇者たち4人はそそくさと部屋から退出する。
----------------------------------------------------------------
さて、家来と王が残った玉間では。
「家来よ、棺を開けて死体を見せてくれないか」
「かしこまりました」
家来は棺を開けた。
王はその死体をまじまじと見つめる。
「なあ、生き物の死体の顔はこんなに整っているものか?もっと抵抗の跡が残るものじゃないのか?」
「さあ、私はあまり見たことないので分かりませんが。」
王は、さらに死体を持ち上げる。
「陛下……何を‥‥‥?」
「なあ、死体ってこんなに硬直してるものか?」
「死後硬直とか……?」
王がさっきから変なことばかりいっている、と家来は思った。
彼はさらに、
「こいつをこうして……」
魔王の死体を転がした。
何を、と家来が言う前に。
ゴロゴロゴロゴロ……ポキッ。
死体の人差し指が欠けた。
「これは……!」
「なぁ、魔王の死体はどこかが欠けるなんてこと、あると思うか?」
「……ないと思います。」
そうか。王は最初から気付いていたのか。
「じゃあ、この魔王の死体は……」
「おそらく偽者ではないかと……見たところ、石膏に絵の具を塗っているだけみたいですね。」
王に指摘されるまで全然気付かなかった。
「いい加減だな。やっぱり、こんな奴には国王は任せられない。」
「……では、どうなさいますか。」
「……消すしかないだろうな。勇者の仲間もろとも。」
やっぱりそうか。
王は最近、いっつもこうだ。おそらく1年前から、このように暴虐な態度なのである。
気に入らない相手は文字通り、消す。
前はこんな人じゃなかったはずなのにな。
家来がそう思った、その時だった。
「いや、それには及ばないわ!」
背後から、聞き慣れた少女の声がした……。
国王、家来が見た先に立っていたのは……
「……消えるべきなのは、あなたなんじゃないの。」
国王の愛娘で、この国の王女であった。
「いつからいたのですか。お嬢様。」
「最初からずっと聞いていたわ。棚の陰に隠れていたの。」
「まぁ……!」
「お前、陛下に向かってどんなことを言っているのか、分かっているのか?」
国王が怒鳴っても、彼女は怯まなかった。
「また、「お前」呼び。何かにつけてお前、お前って……私の名前すら呼べなくなってしまったの?……やっぱり、あなたは変わってしまったわ。」
「なんだって?!」
「国民と話す時だって、何よあの偉そうな態度。自分が神だとでも思っているの?「陛下」っていう立場に溺れすぎよ。」
「……。」
「ねぇ。」
少女に呼びかけられても、王は彼女を見ようとはしなかった。
少女は続けてこうささやく。
「私の名前を呼んで」
「……。」
「……私の名前すら、忘れてしまったのね。無理もない話かしら。みんな私のことを“王女”とか“お嬢様”とか呼ぶんだもの。……まあいいわ。私の名前はね、サクラ……だよ。」
由来はね、と彼女はまるで、王が初めて聞くことかのように話した。
「冬の間、準備しているつぼみのように、諦めず民のために努力できる人になって欲しいって。そしていつか、花開くようにって。そして、実をつけるさくらんぼのように、民たちに幸せを分け与えられる人になれるようにって。……忘れちゃったのね……お父様がつけてくれたのに。」
「……。」
「優しかったお父様に憧れて、私もいつかは一国の主になりたくて勉強したり、民の声を聞いてみたりしてたのに……。最近のあなたはおかしいわ。」
「……。」
「ねぇ」
そして彼女は決定的な一言を放った。
「魔王を倒せとか言ってるけど、本当の魔王は他でもないあなたなんじゃないの。」