4.大根と人参の違いとは
「何するつもり…?」
勇者は右手の人差し指を宝箱に向け、回し始めると、こう言った。
「ひらけー、タカラバコ!」
「「「え?」」」
しかし、何も起きなかった。
「やっぱりダメか~。」
「「「そりゃそうだろ~!!」」」
ああ、そうだよね。勇者って考えるタイプじゃないもんね。ある意味安心した。
「こうなったら……あれを出すか。」
勇者は怪しげに両手を動かし始めた。
また、変なことするつもりじゃないよね……?
「次は何をするつもりだ?」
「あぁ~!何でもいいけど日焼けしちゃうから早くして~!」
いやいや…今それ気にしてる場合?
「任せとけよ。行くぞ!」
勇者は両手を宝箱に向け、前髪をかきあげた。
たちまち、彼のおでこの勇者を表すマークが、あらわになる。
そして、こう叫んだ。
「勇者パワー!!」
「「「ダッサー!!」」」
いやいや、いくらなんでもダサすぎでしょ!って思ったら。
勇者のおでこの「勇」のマークが光った。
そこから黄色い光線が出て、宝箱に当たると。
パカッ。
「「「「あ、開いた~!!」」」」
「な、だから勇者は最強なんだよ。」
ここぞとばかりにドヤ顔を決める勇者。
なぜ最初から使わなかった。
「いやだってこれ、普通にダサいやん。」
絶対に勇者がそれを言わないでください。
「ねぇ、マホ~。何か出てくるよ~?!」
「だ、誰だ??」
盗賊が戦闘体制を取る。
やっぱり、生き物だったか……。
宝箱の中からツノが生えた生き物が出てくる。
「フッフッフ!私は魔王だ!!」
「「「「えーーー?!」」」」
こんなところに??
「マジで?!一緒に写真取ってもらっても良いですか?!」
「「「ズコーーーッ!!」」」
こんの、アホ勇者ーーー!!
何、仲良くなろうとしてるの!!
「え……まあ良いけど。」
いや、魔王もOKしないでください!
「やったー!!ハイ、チーズ!(パシャ)
撮れた撮れた!これ、インスタにあげても良いですか?!友達しか見れないようにするんで。」
ダメだよ?
「えっと………良いけど。」
いいんかい!
「やったー!バズるといいなー!」
あっ、バズるわけないよ?
ほら、トウキにも注意されちゃうよ?
肖像権?侵害とかで。
ねぇ、トウキ?
「お主………インスタやっておったのか。」
……あれ?なんか別の観点で怒ってない?
「何で僕にインスタのアカウント教えてくれないんだ!」
「なるほど。非公開にされてた系かー。」
「トウキ、ドンマ~イ!」
「あのさ!出してくれてありがとう。」
急に、魔王がおじぎをしてきた。
「えっ?!自分で入ったんじゃないんですか?」
「うん。誰かにここに閉じ込められたんだ。」
「あなた、よく生きてましたね~。」
ソウが呆れたように言う。
「まあ、子供が成人するまで死ねませんからね。」
「えっ、お主、子供がいるのか??」
トウキが目を丸くする。
「ええ、4人。」
「「「「4人?!」」」」
思わず、私たち4人の声がハモる。
魔王は嬉しそうにスマホを取り出す。
「そうです!みんなすっごく可愛いんですよ。写真見ますか?7歳と5歳の男の子2人と3歳の双子の女の子なんですけど……」
「可愛い~!!」
ソウが黄色い声を出す。
「お揃いが似合うじゃないか。」
まだお揃い諦めてないんだ……。
案の定、ソウににらまれている。
「この女の子2人……前にお揃いの服着てた子たちだ……!!」
トウキが思い出したように叫ぶ。
「可愛いでしょう?!この2人はこの間初めてのお使いに行かせたんです。そしたら牛乳と豆乳間違えるし、ニワトリの卵とうずらの卵間違えるし、さつまいもとじゃがいも間違えるしで………」
あの、それは、若干問題ある気が……
「いいじゃん別に~。細かいことは気にしない~。可愛いからいいの~」
はい、すいません。
「でもそれもこれも全部可愛いから許せちゃうんですよ。私って親バカですかね……」
「そんなことないですよ。僕だってよく、大根とニンジン間違えたり、リンゴとりんご飴間違えたりは、しょっちゅうでしたから。」
もっと問題ありな奴いた。
大根とニンジンの色は違いすぎるし、りんご飴に関しては……売ってる方が珍しくない?あんなん夏祭りでしか見たことないよ?
「部下がミスしたときはキツく叱ってしまうんですけどね-。」
魔王が眉を下げる。
「そんなに怒ってはいけない。パワハラで訴えられる可能性がある。」
「えっ?」
魔王さん、すみません。トウキはこういう奴なんです。
「一つ文句を言われたら、二つ優しい言葉を誰かにかけよう。そうすれば世界は平和に……」
「ところで部下って?魔物のこと?」
危ない危ない。下手すると、5時間ぐらい喋り続けるから。そろそろ止めておかないと。
それに、そろそろ本題を聞かないとね。
私の問いに魔王はこう答えた。
「いや、僕は不動産会社の社長なんです。」
「「「「不動産会社?!」」」」
「はい。」
「魔王なのに~?」
「はい。」
「そうだ、こいつ魔王なんだった。ちょっとそろそろ茶番は終わりにして戦いましょうか。」
勇者の切り替え早すぎでしょ!新幹線か!
あと、誰が始めた茶番でしたっけ?
「ちょっと待ってください!!」
魔王が急に涙ながらに叫んだ。
「僕にはまだ小さい子供がいるんです……それに会社もあるんです……」
「そうだ。暴力は良くない。」
いやトウキ、何であなたはなんで魔王の味方してんのよ。
「そうだ!地球半分買いませんか?」
買いませんよ?「地球の半分をやるから私の仲間にならないか?」の不動産屋バージョン?
不動産屋って、そんな広い土地売らなくない?普通。知らんけど。
「勇者殿。買いますか-?買いませんか-?」
なにしてんの?トウキは。あなたは、セールスマンの方が向いてるんじゃない?絶対になるべきなのは盗賊じゃないと思う。
「買いま…………………キープ!」
「キープ出ました-!」
キープしないで?そんな土地、買うお金ないからね?あと10回人生やっても貯まる気がしないよ?
ていうか、ツッコミが追い付かないんだけど!
そんなにボケ倒さないで!
もういっか。こいつ、魔王だし。いま攻撃したら不意を突けそう。
ホノふ……
「ちょっと待って~!マホ~。よく考えて~!こんなに子供思いで~ユーモアがあって~全然魔王っぽさがないのに~こんな人が魔王だと思う~?」
ソウが悲痛そうな声を出す。
……まあ、それは確かに?でもさ。
「じゃあそのツノとマントは?」
「えっ?!全然気づかなかった。」
魔王は頭に手をやると。
カポ。
「なんだと?!取れた!」
トウキがすっとんきょうな声をあげる。
魔王が、自らのツノを取ったのだ。
そして現れたのは……。
「普通の人?!」
「はい。」
「ね~、だから言ったでしょ~。」
ソウは、得意げに言う。
うーん、確かに敵意は見えなかったしな-。
「あ、あと言い忘れてたんですけど……
僕、自分の名前覚えてないんです。」
「「「「え?」」」」
今日よくハモるな-。
まあ、それどころじゃないんだけど。
名前、覚えてないってどゆこと?
「箱に閉じ込められる時に、たぶん何者かに名前の記憶だけ消されたんだと思います………」
「えっ…じゃあ、何で魔王って名乗ったんですか?」
私はなるべく丁寧に聞いてみる。
すると魔王は、
「ここにこうやって言えって書いてあったからです。」
と言って、一枚の紙を取り出した。
「これは…カンニングペーパー…?」
「よし、じゃあ倒しますね。」
勇者、ストーップ!話聞いてた?倒さないで!
「じゃあ、あなたは魔王…じゃないんですか?」
「はい、多分……自分の名前だけは覚えてないけど、他の自分の事は覚えているから。」
どうやらこの人は、ほんとうに魔王じゃないらしい。危なかった。倒す前でよかった。
この人が嘘をついている可能性もあるけど、なんかそうは思えないんだよねー。
「うーん、じゃあ国王になんて言えばいいか……。魔王近いうちに倒すって言ったのに……」
「また別の魔王探せばいいじゃない。」
別の魔王って言い方が正しいのかは分からないけど。
「……果てしない道のりだな。」
トウキは溜息をつく。
「早く魔王見つけて、早く倒さないと!じゃないとソウ、年取っちゃって理想の人に出会えない!」
残念なお知らせだけど、そんな理想の人は一生現れないと思うよ。
「マホ~。何か言った~~???」
あっ、お願い。そんなに怖い顔で睨まないで?
可愛い顔が台無しになっちゃうよ?
「まあね~私は可愛いから~」
ソウがうぬぼれている横で、勇者は「そうだ!」と手を打った。
「死んだふりして、国王にその姿を見せたら?」
「それはバレるのでは。息とかしたら、肺とか膨らむからな。」
トウキにあっさり却下されてしまう。
「そっか。うーん。」
「「「どうしよう………」」」
私を除く3人が唸ったその時。
「何かお困りのようですね……?」
後ろから、澄んだ声がした。