3.お揃いUVは金欠には無理である
「お父様。」
「この間、言ったことは本気なのか?」
ああ、怒ってる。
「だから…」
「本気なのかと聞いているんだ!」
だけど、私自身、間違っていることを言っているつもりはない。
「…本気よ。」
「…お前はこの先、新たな国王の妃として、この国を守っていかなければならない。身の程をわきまえろ!!」
少女には、言い分があった。
「でも、新たな国王…私の相手はまだ見つかっていないのよね?」
「いや…もう見つかった。」
「…え?」
それは初耳だった。国王は、ほくそ笑みながら続けた。
「彼の名はユースケ。伝説の勇者だ。古い書物に書いてあった通りの見た目だったよ。彼は今、魔王を討伐しに行っている。見事討伐したら、お前と結婚させてやるともすでに言っている。」
なるほど……。ずいぶんと準備の早いこと。もう段取りも決まっている訳ね……。
少女はふと思った。
何それ。勝手に決めないでよ。
「………嫌だ」
「何だと?」
少女は初めて、国王である父の言葉に背いた。
「私だって国を守りたいわ。だけど、私が思う“国を守る”という概念はお父様と違う。
それに、結婚相手だって自分で決める!幸せに暮らすためには、夢も相手も譲れないわ」
「夢ばっかり語るんじゃない!!現実を見るんだ!!お前なんかが“歌手”になったって幸せになれる訳ないじゃないか!」
「“歌手”を目指して何が悪いの?
何で幸せになれないって分かるの?
そんな無駄にいい椅子座ってさ、人を見下してあごで使ったり、気に入らなければクビにしたりしてさ。お父様、今、幸せ?私にはそうは見えないわ。」
「………。」
もう話すことは何もない。
「あなたは、変わってしまった」
少女は静かに出ていった。
「生意気だ。お前ごときが」
彼は、一人ぼっちのだだっ広い空間に舌打ちをした。
---------------------------------------------------------------------
さて、話は戻り。
勇者たちは相変わらず、初夏の陽気の中、暢気に旅を続けていた。
「そろそろ夏だなぁ。ねぇ、マホ~。ソウ、長袖のUVカットの上着が欲し~い~。」
「ああ、いいね!みんなでお揃いにしよ!」
美容気にする系僧侶に、アホ勇者が賛同する。しかし。
「お揃いダサすぎ-。今時お揃いって死語だよ?」
その一言であっさり切り捨てられてしまう。
「くっ……そうなのか……。」
勇者、悔しそう。
「だがしかし、この間双子らしき女の子が色ちがいのおんなじ服を着てたぞ。」
おっ、盗賊が助けに入った。
「そうなのか!!なら俺たちも……」
「あんた達さ、そういうのは可愛い双子ちゃんがやるからおしゃれなの~!
恋人同士とか親友同士とかで着るのとかもまだ分かるけど、そんなどちらにも当てはまらない私たちがお揃い着たって、イタい奴だと思われておしま~い!」
「えぇ-。」
ばっさり切り捨てられる。
え。第一さ………。
「何言ってんの?ないよ。そんなの買うお金。」
「えぇ~?何で~??」
「戦わないからお金をゲット出来ないんだよ。もうすぐ資金だって底を付きそうなのに…」
だから戦えって言ってるのに。
でも、こんなことを言うとさ。
「いや、でも魔物の虐殺は良くない。魔物にも命がある。」
はい、絶対言われると思ってました-。
「女子の日焼けより大事なことなんてあるー?」
山ほどある。
「ちょっとトウキィ~。あんた盗賊なんだから敵から宝盗んでよ~。」
「いや、ダメだ。自分で稼いだ金を使わねばならん…たとえ、人を苦しめている魔物であっても、金を取ってはならん。」
いやー、こいつもぶれない奴だな-。
「えぇ~。ケチ!!」
「け、ケチ?!……ガーン…………」
あっ、弱くない?
たった二文字の“ケチ”に負けるの?メンタル弱すぎない??豆腐か!
「そ、そんな……。そこまで言わなくても。」
盗賊はその場に崩れ落ちた。
「しょうがない。サクッと魔物狩りしますか……」
いーや勇者よ、そんなにお揃いが着たいのか……
絶対もっとやるべきことがあるでしょ。
「あっ、待って!見てあれ!」
どうした?なんか見つけた?某銀色の溶けたスライムいた?銀色のでっかいスライムでも良い!あいつでお金貯めよ!
「マホ、早口すぎるよ~。」
「むむう、あれは……」
盗賊は唸っている。
「宝箱だー!!やったー!!」
勇者は喜んでる。喜んでるけど……。
何かでも、やけに大きく見えるような……
「質より量だよ!マホ~。」
えっ、どゆこと?
「言ってみたかっただ~け。」
えっ、謎すぎる。
「どうしよう…開けようかな?」
あっ、いっつも先手必勝をモットーにしている勇者が、今日は慎重になっている!
珍しい!今世紀最初で最後じゃない?雨でも降るのでは……。
勇者は不意にニカッと笑うと、
「誰が開ける?じゃんけんにする??」
と言った。
…だよね。あんたが慎重になった日こそ、この世の終わりだよね。……唱えるか。
「タカボクス!!」
「…今、呪文唱えたか?」
盗賊が私に聞く。
「唱えた。宝の中に何か怪しい物が入っていないか分かる呪文だけど。」
こういう、日常に役立つ系の呪文も全部魔道書に載ってただけ。だから覚えた。
そう言った途端に、みんなの目が丸くなる。
「はぁ~。ほんっとマホって色んな呪文、平気な顔で使いこなすわよねぇ~。」
「でも私、回復魔法は使えないから。」
むしろ、人を癒す回復呪文が使えるだけでよっぽどうらやましい。
「なんか怪しい物だったか?」
「待って……はっ!見えたわ!!」
「なにがなにが~??」
「赤い光が見える……!」
赤とは言っても、赤黒い感じじゃなくて、すっきりとした色の光……
本来なら、赤は敵を表す色。だが、目の前の光からは人、勇者とかに対する敵意が全然感じられない。
もしかしたらルビーとか赤い宝物の可能性もある。だけど。
「一応、開けない方が良いでしょう。」
「ひらけー、ゴマ!!」
「えーっと、勇者?」
さっきから全然しゃべってなかったけど。なにしてんの?
「うーん、全然あかないな-。」
「話聞いてた?」
「開くわけないじゃ~ん。そんなんじゃ~。」
「いや…いいかもしれん。行け!勇者殿!いけいけいけーーー!!」
「もしもし、お巡りさ~ん!ここに2名ほどバカがいるんですけど~!ユースケって奴とトーキって奴で~す!」
僧侶さん、ツッコミの方向性は正しいけど、ガチ通報しないでもらっていいですか。
「ダメだこれ…鍵閉まってるよ………」
「マジか…悲しいな……」
「ううぅ…」
あんなに喚いていたと思ったら、急に2人が泣き出した。
「えっ、なんだろう~バカ共がなんか可哀想になってきたよ~」
「うん。」
「ああ、もし大魔法使いさまと大僧侶さまが…」
「鍵を開けられるような呪文を…」
「「唱えてくれたらなぁ-。」」
なるほど、そういう魂胆か……
「「そんな呪文あったらとっくに唱えてるわ~!!」」
思わずソウとハモってしまった。
「「ガーン………」」
さっきから、勇者と盗賊はどうしてそうも息ぴったりなの?前世双子か!
そんな感じで言い争っていたら。
がさがさ、ごそごそ。箱の中から音がする。
「えっ、なになに?怖いんだけど~!」
僧侶がぶりっ子特有の黄色い声を出す。
ほんとに怖がってる?
「マジで怖い~」
あっ、ガチな怖がりだった。
「もし、これで動物とかだったらこんなとこに閉じ込めて、動物愛護法違反だな。」
トウキはやっぱ、盗賊より弁護士の方が向いてるんじゃない?
「やっぱ敵だった系かな?」
おっかしいな。敵意は全く感じなかったんだけどな。
「ここまで来たら開けるしかない!!」
どうやら勇者、本気なご様子。
「マジで言ってるの~~??」
「いや、むしろ動物なら早く出してあげた方が良いかも。」
早くしないと、酸素不足で死んじゃうかも。
「うぅ~。マジで~。怪物だったら、ソウ、戦わないからね~?逃げるもん!嫁入り前に死にたくないもん!!」
死にたくないのはみんな一緒です。
「さて…開けるか。」
勇者が宝箱に手をかける。
「ま、待って!力ずくだと開かなくなっちゃうかも……」
開ける方法を考えてからにしよう、そう続けようと思ったけど。
「…分かってるって。」
彼はゆっくりこちらを向いて、意味ありげに微笑んだ。
その言葉には、有無を言わせない圧力があった。
何か考えがあるのかも……。
「何するつもり…?」
勇者は右手の人差し指を宝箱に向け、回し始めると、こう言った。