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1.大魔法使いの過去


 昔の昔のその昔。

 といっても、10年前のことだけど。

 いやだってさ、私今15歳だよ?人生の3分の2を遡るんだよ?大昔すぎるよね?

ね?

そう思うよね??

 まあ、いいや。とりあえず、10年前の………。


 8月の終わりだった。

 少し涼しくなってきた夕方、海水浴シーズンを過ぎた浜辺には、人っ子一人いなかった。

 そんな中で私は一人、熱い呪文の練習をしていた。

 

「ホノファイア!」

 

 親が魔法使いの家柄だった。

 だから私は3歳の時から、ひたすら呪文の練習をした。上手くなるために、本も読んだ。だけど。

 

「はぁ...ぜんぜんダメだ...ちっちゃい…」

 

 私の手からは、小さな火が出てるだけ。炎とか、火柱とかには程遠い。

 だけど、一回唱えるだけで玉のように光る汗が、頬を伝う。しばらくは、いくら息をしても、酸素が足りなくなる。

 これはまだまだ練習不足である証拠。

 昔、そう、お父様が言ってたっけ。

 

 「こんなにつかれるならせめて、もっとおおきいのがだせたらな-。」

 そんな本音が飛び出たその時。

 

「そうかなぁ。ボクにはおおきくみえるけど。」

 「え。」

 突然現れたのは、私と同い年ぐらいの男の子。だけど、この辺じゃあんまり見かけない顔だった。

 都会の子かな……?

 お盆の季節になると、里帰りしてくる人たちが増えるけど、彼もそのうちの一人だろうか。

 

「えっ、ほんとうに...?」

「うん。ホンモノのまほうつかいみたい。」

 あんまり大真面目に男の子が言うから、私は笑ってしまった。

 そっか。都会の子なら、呪文を実際に見たことがないんだろうな。

 

「あはは、そうかな…うれしい!ウソじゃない?」

「ウソじゃないよ。ボクはウソがキライなんだ。だから、もっとじしんもちなよ!」

「ありがとう。そんなこといってくれるひと、いままであったことない。」

 「えー、なんでかな。みんなもっときづけばいいのに。」

 男の子は本気で悩むしぐさをする。その動きがいちいち大袈裟でますます面白い。

 

 だけど、まだ幼いはずの彼に、未来がすべて見透かされているようなそんな気がした。それで、

「あのさ!あたし、もっとレンシューつづけたらもっとおおきいの!出せるようになるかな?」

 思わず、そんなことを聞いてしまった。

 

「えっ?」

「あたし、いつかね、いつかね、このセカイでいちばんのまほうつかいになりたいの!」

 

「当たり前じゃん。なれるよ。ボクがほしょーする。」

 その顔はとても頼もしくて。

「ありがと。」

 思わずそんな言葉がこぼれた。

 

「じゃあボクはもういくね。かえらなきゃ。」

 彼は地平線を指差した。

 見ると、太陽がもう西に傾きかけている。

 

「ねえ!また、あえる?」

「あえるよ。いきていれば。だからそれまで、じゅもんのレンシューがんばって!」

「うん!わかった!」

 

 ホノファイア、と呟いてみると、なんだか火が心なしか大きく感じるような気がした。

 すごいな。人の応援って、こんなにも力をもらえるものなんだ。

「あっ、そういえば!」

 お名前は、と私が言いかけたとき、彼はすでにいなかった。

 いなくなるの速いな。走っていた足音とかも聞こえなかったのに。

 でも。

 「……ありがとう」

 私の心には確かに、彼からもらった勇気の炎があかあかと燃えていた。

 

 ってまあ、こんな感じのことがあってから。私は彼の言葉通り、頑張ったんだ。自分で言うのもなんだけど、ものすごっく頑張った。

 そして、それから10年経った今。炎はあの頃よりも大きくなって。そして、使える呪文も増えたんだ。

 えっ……背?

 大きくならなかったのはそれだけ。

 小さくて何が悪いんだ-!

 

 そして、3か月くらい時をさかのぼったある日……。あの浜辺にて………。

 

 季節は春。まだ、風が冷たくて、とてもじゃないけど海水浴シーズンではない。

 そんな中また一人、私は声高らかに唱える。

 

  「ホノファイア!!」

 辺りに、大きな炎柱が上がる。

 

  「コオフローズン!!」

 たちまち氷が出て、炎柱が消える。

 

  うん、あの頃よりも進歩してる。

 

 「へー、いい魔法使いますねぇ」

 「あ、ありがとうございます」

 「この浜辺、良いですよね」

 「はい」

 

 この季節の浜辺が、私は一番好き。

 宝石みたいな、波の色。

 鼻をくすぐる、潮風の匂い。

 この季節に多い、さくら色の貝殻。

 全部全部、私にとって宝物の景色。

 これからもずっとずっと大事にしたい。

 

 ……ん?ちょっと待って?

 さっき、なんか変な男が話しかけてきたけど。誰-?この人。

 せっかくこの浜辺へ、思いを馳せているところだったのに。

 

 「あの、良かったら僕と一緒に魔王を倒す旅に出てくれませんか?」

 

 えっ、ちょ-っと、展開が急すぎじゃない?

 ほら、こういうのってもうひと悶着あるもんじゃん。知らんけど。

 こんなテンポで進むの?物語って。

 

 「ま、魔王?」

 「はい」

 「あなた、正気ですか?」 

 「はい」

 「魔王なんているんですか?」

 「はい」

 「見たことありますか?」

 「いいえ」

 「そこは、はいじゃないんかい。」

 「はい」

 

 「はぁ、全く。魔王なんているわけないじゃないですか。あなたも早く精神科行って、その中二病。治した方がいいと思いますよ。それじゃあ話は終わりですね。お大事にどうぞ~」

 所詮この人も、私をからかいに来た人だ。

 だって今まで、そんな人ばっかりだから。

 

 「ま、待ってください。」

 「まだ何か?」

 「魔王はいるんです。だから僕という存在が生まれた」

 「こりゃ、重症だ」

 「じゃあ聞きますけど、魔王がいないなら、何で外に魔物はいるんですか?」

「それは…」

「じゃあ、あなたはなぜ攻撃魔法を練習しているんですか?」

 

 この人、知ってるの?

 まさか……信じてくれるの?

 

 「家にある魔道書に、魔王の存在が書いてあったから。魔王ってなんだろうって思っていたけど、両親に訊いたらそんなのいるわけはないって…」

 両親は、呪文は教えてくれたけど、それはただ先祖が代々受け継いで来たものだったから、ただ、それだけ。

 別に、魔王が本当にいるって信じてた訳じゃなかった。

 

 「決めつけてはいけない!目で見たものだけが真実ではない。僕はそう思う。」

 

 昔、呪文の練習をしていたところをクラスメートの何人かに見られた。

 

 「ばっかじゃねえの?」

 「そんなことより、足が速い方がいいよ!」

 クラスメートはそういって、私を罵った。

 

 「あの子は危ない呪文を使うから近付かないで」

 クラスメートの親たちはそういって、私を仲間外れにした。

 

 だけど、彼は違う。

 彼は、魔王はいるはずだと言ってくれた。

 

「あなたはもしかして…」

「僕のこれを見ても、まだ魔王はいないって言いますか?」

 彼はそういって前髪をかきあげる。

 すると額に勇者の勇の文字が刻まれていた。

 

「魔道書で読んだことある!じゃあ、あなたは…」

 

「僕はユースケ。魔王討伐のため、勇者としてこの世に生を授かりました。

先日、国王から魔王討伐のお願いをされましたが、具体的にどのような事をすれば良いか迷っていたところ。この砂浜で呪文を唱えているあなたを見つけました。

あなたはどうやら、魔法使いの中でも位の高い方であるようですね。

どうか、こんな僕に力を貸して頂けませんか?お願いします。」

 

 彼、いや、勇者は土下座する。


 なんかさ、こんなお願いのされ方したら断りたくても断れないじゃないですか。

 私はこの後、一応親に相談しましたが………

 

 「あら、こんなイケメンとだったら人生安泰じゃなーい。お母さん安心」

 いや、お母さん。なんか勘違いしてない?別に結婚するわけじゃないから!

 あと、ちっともイケメンじゃないです。

 

 「じゃーね。土産頼むわ。あんずボーがいいな」

 お父さんも勘違いしてる……。命がけの戦いで駄菓子なんて買う暇ないから!

 あと、それは関東の人にしか通じてないですよ。

 たぶん。

 

 ってまあ、こんな感じでむしろ親の方が乗り気で…。

 はぁ。あの時親が反対しててくれればこんなことにはならなかったのかも。結局、彼のお願いに負けて、私はついていくことにしました。

 あれから3か月、私以外にも旅人を2人誘って、4人で旅をしている現在に至ります。至るのですが…

 

 「もうやってらんないよ!」

 

「「「えっ?」」」

 

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