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ありきたりな異世界で純愛ルートを目指します。  作者: 成瀬あやめ
ミリしらなCERO Dの世界で純愛ルートを目指します。
3/6

3

「ところで……記憶がないのはいつから?

全て忘れてしまった、という訳ではなさそうだけど」



小首を傾げながら片腕を組み、顎に手をやる仕草が余りにも自然で、さも「今日のおやつ何食べる?」くらいの感覚で訊かれているかのように錯覚してしまうが、異世界に転生して2日で怪しまれる演技力のなさを、リーリエは心の底から悔やんだ。




*****




「お招きいただきありがとう」


「招いた訳でないのですが……」



時間はお昼前、今日はこの国を知って、自分がどうこの後振る舞えばいいのかをじっくり考える日に当てようとネフェル家の書物が保管されている部屋へと足を伸ばそうとしたその時だった。

舞踏会の時の煌びやかな印象とは異なり、少し落ち着いた印象のクラディスを、本当に来たのかという驚きと昨夜のことを思い出してリーリエは戸惑いながらも来客用の部屋へと案内する。


どうしても外せない用事があるというロデリックから「何があってもヴェルエン家の者が来たら相手にしないように」と厳命を受けていたネフェル家の使用人たちも、流石に公爵家当主に塩をまいて追い返すことも出来ずにリーリエに泣きつく他なかった。



「昨日のドレスも美しかったけど、今日の服装も愛らしいね」



そう微笑むクラディスの服装こそ、リーリエのツボを得ているので余り直視しないことにした。

前で6つのボタンで止める襟があるタイプの紺色のジャケットだが、前は短く後ろは膝裏あたりまである。そこからすらりと伸びる白いズボンに黒い靴がよく映えるなど、癖以外の何者でもなくリーリエにとってはけしからんのだ。


部屋に入ると深紅の大きめなソファーが2つ、中央には大きな木のテーブルがある。

お互いそれぞれに腰掛けたところでちょうど紅茶が運ばれてきた。

ティーセットを置くと使用人たちがとても心配そうにこちらを見ているが何故だろうか。

ヴェルエン家の当主相手に失礼をしないか心配しているのかもしれない。




「ところで、何の御用でしょうか?」


「……それを言う前に使用人たちを下がらせてもらってもいいかな?」




目配せをすれば、すぐに身を引く。ネフェル家の人たちはとても教育が行き届いているようだ。

大丈夫、心配するようなことは起こさないとリーリエは今一度心を落ち着けた。



筈だったのに、使用人が居なくなった途端にいきなりの冒頭の台詞である。

リーリエは飲んでいた紅茶で危うく咽せそうになるのを堪えたが、手の震えまでは隠しきれなかった。



(ど、どどどういうこと?記憶がないってリーリエとしての??だって私リーリエじゃないし、え、でも何で?ここまで私完璧に令嬢演じてたよね?自分が思っているよりも演技が下手くそとか?)



「記憶がないとさぞ不便でしょう。

その様子からすると、あまり他の人には知られたくないのかな?ネフェル公爵はこのことを知っているの?」



決して責めたりするような言い方ではなく、声色には面白がっているのが透けて見えた。

リーリエはクラディスの表情から何を考えているのか必死に読み取ろうとしたが数秒で諦めた。



(……無理だ。たった一度、少ししか話していないのに記憶がないことを勘付くような人だ。これ以上話したらボロが出てしまう。

 今日のところはすぐに帰ってもらってーーー)



「まず、貴女のいるこのノルディア帝国はこの大陸の中でも一番大きな国なことは覚えているかな?」



"ノルディア"という言葉を聞いて、リーリエの思考が急速に働き出す。

リーリエがあの日、仕事が終わってからやろうとしていたあのゲームのタイトルはーーー



「……ノルディアの秘花」


「それはジャスミンのことだね。この国の初代皇后は天啓を授かる力があるとされている。

その皇后が愛した花がジャスミンで、以降も皇后だけがその身に飾ることを許されている貴重な花だよ。

昨日その花を一緒に見たかったのに残念だな」



クラディスの説明も右から左へと流れていく。

ノルディアの秘花はリーリエにとってはゲームタイトルだ。

それも、未プレイの17歳以上対象の。

17歳以上対象ということは多少色気のあるシーンもあるに違いない。

リーリエが知っている情報はあまりにも少ない。所謂ミリしらだ。あとはゲームのジャケットにあったイラストがぼんやり頭に浮かぶ程度で。


赤い髪の色をした黄金の瞳を持つ人が1人中央にいて、その斜め後ろには黒髪の男性が1人、その周りを白い髪色の少年と金の……金?



目の前の王子様のような男性も奇遇にも金色の髪をされている。

まさかこれは……



「あの、つかぬことをお聞きしますが赤髪と黒髪と白髪の男性に心当たりは?」


「赤と黒と白?そうだな……赤はノルディア皇室に多い髪色だね。第二王子のアウリスも綺麗な赤色だし。

黒は庶民でも貴族でもよくいる色だけど、アウリスの補佐役の奴がそういえば黒い髪をしているな。

後は白か。これは神殿にいる神官なんかに多い印象かな」



クラディスの答えを聞いて、リーリエは考えをまとめた。

この世界は前世ではプレイできなかった乙女ゲームの世界で、目の前にいるクラディスもおそらく攻略対象の1人。

クラディスが言う第二王子も怪しい。

そしてその攻略対象をある意味攻略済みのリーリエは……ヒロイン、なのだろうか?


異世界転生でヒロインなんて、美味しいポジションだろう。



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