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ありきたりな異世界で純愛ルートを目指します。  作者: 成瀬あやめ
ミリしらなCERO Dの世界で純愛ルートを目指します。
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― 乙女ゲームは生もの。推せるときに推せ。 ―



これは、乙女の沼に突き落とした長年の戦友で友人の格言だ。


今以上に彼女の言葉の意味を実感することも、ゲームのパッケージをすぐに開けなかったことを後悔することはきっとないだろう。




*****




このご時世、マスクをしていない人が集まっているだけでもいい気はしないが、

ド派手なドレスに身をまとった女性たちが一人の男性を囲んで談笑している集団や、男性たちが女性を品定めし、ふくよかな男性が談笑している。


人の薄暗い欲が見えて透けるその様子をあまり見ていたくなくて視線を上に逸らすととても高い天井にはきらめくシャンデリア、目の前には美味しそうな食事。


手元を見ると、ここ最近ろくにケアをできていなかった乾燥気味の手ではなく、傷ひとつない白くきれいな肌。

右手の薬指には小ぶりな宝石がついた指輪をしているが、明らかに高そうなそれは自分のものであるはずがない。



だって食費を削ってでもグッツにお金を費やしているのだから。




「リーリエ嬢?いかがされましたか?」




自分の名前に近いその呼びかけに反射的に振り返ったが、

目の前には薄いアクアマリンのような瞳があり、少し細められて笑顔を向けられた。

初めて見る筈なのに、その顔にどこか見覚えがあるような不思議な感覚がある。




「ネフェル公爵はいらっしゃらないようだけど、飲み物でも取りにいかれたのかな?」




そう言われて目の前のテーブルを見ると、確かに空いたグラスが2つ。


目の前の男性にもう一度視線を戻すと、少し驚いた顔をされたけれどすぐに笑顔に戻る。

彼は間違いなく自分に話しかけたのだと、その時に実感した。





確実についさっきまでは自分の部屋にいた。


少し残業をして遅くなってはしまったが、それもこれも明日の休みを勝ち取るためだ。

発売から数週間は経ってしまったけれど、ようやく新作の乙女ゲームをプレイできると楽しみにしていた。 

SNSでも話題にはなっていたが、あえて情報を遮断しこの日を迎えたはずなのに。


だが今は、見たこともないほどの豪華絢爛な場所で、見たこともないほどの美青年に話しかけられている。

そして10年は若返ったであろう肌。




(…この情報からの推理は1つ。これが流行りの異世界転生というやつか。)




以前の生活でも、白猫が目の前に飛び出して来たら異世界への扉が開かれるだとか、

明日イケメンヴァンパイアとエンカウントするかもしれないからと鉄分豊富な飲み物を定期摂取したりと痛々しい生活を送っていたためか、

この状況をすんなり飲み込めていることに我ながら頭が痛い。




「……申し訳ありません。少し人に酔ってしまったようで」




初めて出したその声は、鈴を転がすという表現が合うほどに可愛らしかった。

声帯も若返ったのか。それはとてもありがたい。


改めてグラスをまじまじと見ると、反射して見えた自分の姿は藤の花のような薄紫色の髪を緩く巻いて流した美少女だ。


これはよくある転生系でも大当たりといえるだろう。




「そうでしたか。改めまして、クラディス・ヴェルエンと申します。リーリエ・ネフェル様と同じ、御七家と呼ばれる公爵家の当主です。

今日は特に人も多いですし、雰囲気に当てられてしまわれたのかもしれませんね」




短いながらも知りたかった情報を教えてくれた。自分の置かれた立場を少しでも知れるのはありがたい。

クラヴィス様が軽く頭を下げて挨拶されるので、反射的にドレスの裾を持ち上げて挨拶を返した。





(この辺りは以前のリーリエの記憶があるのかな。なんと優しい異世界…!)




この異世界の仕組みに内心感謝をしながら、あたらめてクラヴィスをしっかりと観察することにした。


すらっとした身長は180cmを超えるであろう長身。

先ほどからキラキラしている髪の毛は少し長髪ではあるものの、サイドをかき上げているためスッキリとした印象だ。


シミ一つないきれいな肌にすっと通った鼻筋。

正統派の王子様、という風貌だが先ほどの自己紹介の通りなら公爵家のご当主様ということで、とても偉い方ということだけはよくわかる。




(ここが乙女ゲームの世界なら彼はきっと攻略キャラに違いない。人気ランキング上位だろうな。レートも高そう)




ついついトレーディングのことを考えてしまうのは乙女の悪い癖だ。




「クラディス様、お気遣いいただきありがとうございます」




多くのことを話せばボロが出てしまうかもしれないと、リーリエは最低限の会話に徹する。


異世界転生ものは多くは自分が転生者とは知られないように動いているものだ。

形式美にはしっかりと従わなくては。

特に自分のポジョンが何処なのかもわからない状態で動き回るのは良くない。


けれどクラディスはそんなリーリエの様子を気にすることなく、笑みを深めてさっと、リーリエの手を持った。






「それでリーリエ嬢、お話があるのですが……私と結婚していただけませんか?」


 

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