十五話 おにぎり依頼
昼になるまでの間、二人は町中を散策した。ものの見事におにぎりしかなかったのでプリマリアは吐きそうになった。
気分転換にブティックとかアクセサリーショップに寄らないかとルイスが言ったため、そういった店も巡る。ものの見事におにぎりデザインしかなかったのでプリマリアは眩暈がした。
お昼ご飯は二人でカフェランチ。こちらもものの見事におにぎりしかメニューが無かった上に出てきたのは土くれだったのでプリマリアは拒絶した。
そんな感じで楽しい楽しいおにぎり時間が過ぎていく。プリマリアの心は壊れていく。
「じゃあ昼休みも過ぎただろうし、ちょっと遅いがおにぎりギルドに寄っておにぎり依頼を確認するか」
「嫌です」
「プリマリアも俺も新人だ。初仕事をだらだら後回しにするのも印象悪いだろうから今日中に依頼を引き受けたいところだな」
「嫌です」
「じゃあ張り切っていってみよう! おにぎりが俺達を待ってるぞ!」
「嫌です」
やがて二人の午後の予定はおにぎりギルドに決定した。ルイスの意見しか通っておらず、プリマリアの断固たる拒否が聞き入れられなかったかの見えるが多分目の錯覚だ。
***
「あ、ルイスさんプリマリアさんー。何か御用ですかー?」
「依頼を見に来た。俺とプリマリアの二人で引き受けたいから、おすすめの依頼を教えてくれないか?」
「嫌だって言ってるのに……」
ルイスが嫌そうな表情を浮かべ続けるプリマリアを引きずりながらおにぎりギルドに入ると、正面の受付に昨日対応してくれたジョーナがいた。これ幸いと、ルイスは嫌がるプリマリアを無視してジョーナに良い依頼が無いか訪ねた。
するとジョーナは困った顔を浮かべる。
「うーん。でも今は午後ですからねー。新しい依頼はだいたい朝一に出されるので、割のいい依頼はだいたい取られちゃってますよー?」
「あぁ、そうなのか。じゃあ依頼はあまり残ってないのか?」
「そうですねー。初心者向けの依頼なら無くも無いですが、支払われる報酬がやや少ない物ばかり残ってますー。ドラゴンのおにぎりを採れるルイスさんにはちょっと物足りないかもしれませんねー」
「いや、それでいい。まずは小さな依頼でも実績を積むのが大事だからな」
「そうですかー、分かりましたー。えーと、今残ってる中で良い依頼は、とー……」
時間帯的に良い依頼は残ってないようだが、ルイスはあまり気にしないと伝えた。それを聞いたジョーナは、机の下から紙のような束を出して一枚一枚確認し始める。どうやら依頼書の束のようだ。
「やっぱり普通に紙、あるじゃないですか。さっきのおにぎりばかり展示してた図書館は一体なんだったんですか……?」
「いや、よく見ろプリマリア。あれは潰れたおにぎりだ。どうやら場面によって潰れたおにぎりを紙代わりにする事もあるようだな」
「なんでもおにぎりにしなきゃ気が済まんのか、この世界は。というか紙に間違えるほど薄いおにぎりってそれはおにぎりと呼べるのか?」
プリマリアは普通に存在している紙を見ておにぎり図書館に疑問を呈したが、ルイスはプリマリアが紙と思っていた物もおにぎりであると説明した。その説明により、プリマリアは世界の方にも疑問を呈すようになった。ツッコミ規模のグローバル化時代だ。
「こんな依頼はいかがでしょうー?」
ジョーナはそんなやり取りをしていた二人に依頼書を差し出してきた。よく見ると確かに紙に見えたそれは、米の粒が立っていておにぎりのようであった。プリマリアの精神力は削れた。
そして依頼書には、次のような内容が書かれていた。
===
依頼者:二丁目のおにぎり屋
内容:ギリオーイ草原のそこらへんに落ちているおにぎりを五十個拾って来て欲しい。
期間:一週間以内
報酬:五十オーニ
===
「草原のそこらへんに落ちてるおにぎりってなんなの……? なんでおにぎり屋がそんなの集めてるの……? 売るの……?」
得体の知れない紙おにぎりに精神力を削りながらも、依頼内容をきちんと確認したプリマリア。が、依頼内容も依頼内容だったので更にプリマリアの精神力が削れた。
「五十オーニか。確かに相場よりはやや少ないな」
「やめときますかー?」
「いや。一度決めたことは取り消さないさ。それに相場より安いとはいえ、おにぎり屋さんとコネクションができるかも知れないのは大きい」
「最初におにぎり屋さんとコネクションつなぐメリットが分からないですし、落ちたおにぎり拾うおにぎり屋さんとコネクション繋ぎたくないです。あと、なんで来たばかりなのに依頼相場知ってるんですルイス様……?」
ルイスはやや安めらしい報酬価格に反応したものの、依頼者がおにぎり屋さんだったのもあって割とすんなり引き受ける事になった。一方プリマリアは、明らかに怪しいおにぎり屋と何故か依頼相場を知っているルイスに対して不安感をにじませた。
ちなみにこの世界の通貨オーニは、おにぎりでできている。黒おにぎり、銅おにぎり、銀おにぎり、金おにぎり、白金おにぎりの五種類が貨幣として使われておりどれも糞まずい。その貨幣価値はそれぞれ
黒おにぎり=おにぎり一個分
銅おにぎり=おにぎり五十個分
銀おにぎり=おにぎり百個分
金おにぎり=おにぎり一万個分
白金おにぎり=おにぎり十万個分
となっている。
他の小説だと現代日本の金銭と比較されるはずの貨幣価値表までおにぎりに浸食されてるので非常に分かりづらい。
「じゃあ、ジョーナ。この依頼を受けさせてくれ」
「頑張ってくださいねー。期間は一週間後のギルド窓口が閉まるまでですー。それまでに達成できなかったらおにぎりにされますので気を付けてくださいねー」
「分かった。じゃあ行こう、プリマリア」
「待って。おにぎりにされるって何? 私達おにぎりにされるの!?」
兎にも角にも、こうしてルイスとプリマリアはおにぎりギルドでの初仕事を受けることになった。最後にジョーナがとんでもないペナルティを言ったので、プリマリアの不安はハチャメチャにインフレした。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白いと思いましたら、ページ下部の[☆☆☆☆☆]をタップして評価をしていただけると作者が喜びます。