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プロローグ・一 ありきたりな絶望

 \\おにぎりワッショイ!!//

 / ■\  /■ \ / ■\

( ´∀`∩ (´∀`∩)( ´∀`)

(つ  ノ (つ  丿(つ  つ

 ヽ( ノ ( ヽノ  ) ) )

(_)し' し(_) (_)_)

「俺は強くなりすぎてしまった」


 人里から離れた森の奥にある、小さな洞窟。その中はごつごつとした岩肌ばかりで、ところどころに苔が生えている。空気は冷たく、生き物の気配も無い。

 そんな誰も知らないであろう洞窟の奥で、勇者ルイス・ラボーは寂しそうにそう呟いた。


 勇者とは、魔物達や魔族達の王「魔王」を倒す使命を持つ者だ。ルイスは祖国の国王から任命され、勇者となった。

 幼い頃から魔王を倒す事だけを考えて生きてきたルイスは、世界最強と言われるほどに成長した。武術、魔術、技術、おにぎりの作り方、何もかもが人智を超える能力になるまで鍛え上げた。三人の仲間や、旅路で出会い契約した精霊姫と共に魔王討伐の旅に出た時も、国民は誰もが「絶対に勝てる」と評するほどであった。


 そしてルイスは、二十歳の時に魔王討伐の使命を果たした。果たしたのだ。


 が、ルイスは落胆した。あまりにもあっけなく魔王を倒してしまったのだ。

 軽く剣を一振り。それで全ては終わった。ルイス自身あっけなさに驚いてしまったし、三人の仲間たちも唖然とした表情を浮かべていた事をルイスは覚えている。

 

 その後、ルイスの一行は祖国で真の勇者として大いに称えられた。しかしルイスの心には晴れないモヤがかかるようになった。幼い頃から魔王を倒す事だけを考えて生きてきたルイスにとって、目標があっけなく達成できた事は喜びよりも虚無感が強かったのだ。


「あの戦いはあまりにもあっけなかった。いや、そもそも今まで俺は何をするにもあっさり終わらなかった事があっただろうか」


 ルイスは天才でありすぎた。何をこなすにしてもすぐ会得できてしまうし、どんなピンチも即座に切り抜けた。その能力は確かに魔王を倒すための旅路では役に立った。だがその能力の高さのせいで、魔王を倒したルイスの生活は燃え尽きたような退屈ばかりの毎日に変わってしまった。


 この世界にはもう、自分を成長させる見込みはない。この世界にはもう、自分をワクワクさせるような出来事は存在しない。ルイスはそんな悲しい事実を悟ってしまった。




 だがルイスはただ絶望するような軟な男ではなかった。


「皆には悪いけど、これを使う時が来たか」


 ルイスは懐から指輪のような物を取り出す。蒼く光り輝く宝石が目立つその指輪の名は「時渡りの輪」。莫大な魔力を込めると未来へ行く事が可能とされる、マジックアイテムだ。魔王討伐の旅で偶然手に入れた代物である。

 普通の人間では起動することもできないだろうが、莫大な魔力を体内に秘めたルイスなら作動することもたやすいだろう。


 ルイスが最後に賭けたのは、未来であった。世界は魔王が倒され平和になったのだから、遠い未来まで繁栄を続けるだろう。そして、技術が発展した未来ならば自分をワクワクさせるような「何か」に出会えるかもしれない。そう思ったのだ。


 ルイスは時渡りの輪を指にはめ、少しずつ魔力をそれに流す。すると蒼い光が宝石から放たれる。このまま魔力を流し続ければ、未来へ行く事ができるはずだ。


「……黙って消えるんだから、皆怒るだろうな」


 ルイスは魔力を流しながら、魔王討伐の旅で共に戦った三人の仲間の顔を思い浮かべる。戦士のウォート、魔法使いのマジョーネ、治癒師のイヤリス。彼らは最強で孤立しがちだったルイスの数少ない友でもあった。

 だがルイスは彼らに何も告げずに旅立った。そして森に囲まれた誰にも見つからないような洞窟で、時渡りを行うための儀式を一人で始めた。自分の灰になった感情を取り戻すためだけに、未来に行きたいという勇者らしからぬ願い……。親しい友人である彼らに話しても止められるだけだと気づいていたからだ。

 ルイスの心の中では申し訳ないという感情はもちろんあった。しかしこの時渡りはルイスの数少ない希望。やめるわけにはいかなかった。


 彼は改めて決心しなおしたからか、さらに強く魔力を流す。光はどんどん強くなり、周囲はきらきらと蒼い輝きを増していく。

 だんだん、眠気を覚えてルイスの瞼が重くなっていく。魔力を流し続けている弊害だろうか。ルイスは首をぶんぶんと横に振り、必死で眠気を吹き飛ばす。

 指輪に魔力を注入し続け、眠気を再び覚え、それでもまだ魔力を注入し、眠気を覚え、魔力注入、眠気、魔力注入、魔力注入、眠気、魔力注入、眠気、眠気、眠気……。

 次第に訳の分からない状態になりつつも、ルイスは限界まで魔力を注入し続けた。

 そして辺りは暖かな蒼いきらめきに満たされ――。

お読みいただきありがとうございます。

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