九
赤い傘の下に、女の子とお母さんが二人、入っています。
すぐに帰ってしまうのかと思いましたが、お母さんが女の子の手を引いて私の方へと戻ってきました。
二人は私の真下まで来ると、濡れないように少しだけ傘を動かして私を見上げました。
お母さんのその表情を見て、私はまた嬉しくなりました。
女の子の瞳とそっくりです。
やはり親子なのですね。
そして、私の記憶の中の少女の瞳ともそっくりです。
お母さんは私の一本の枝を指さしながら、女の子に何かを話しています。
そうでした、あの日、赤い帽子がかかったのはこの枝でしたね。
二人は枝を見た後、顔を見合わせて笑っていました。
二人は私とお別れすると、ゆっくりと来た道を帰って行きました。
傘の下でしっかりとつないだ手が見えます。
しばらくすると、二人の唄声が聞こえてきました。
少し前まで一人で寂しそうに歌っていた女の子の唄声は、弾むような唄声に変わっていました。
そして、あの頃聴いた赤い帽子の少女の唄声も、聴こえてきました。
赤い傘が見えなくなるまで、私は二人を見届けました。
空を覆っていた雲はいつのまにか晴れて、そこには夕焼け空が見えていました。