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六
歌は不思議ですね。
忘れていた記憶をふと思い出させてくれることがあります。
そういえば、記憶の中の少女も同じ歌を歌っていました。
そして目の前の女の子の唄声を聞いているうちに、昔会った少女のことを、ぼんやりと思い出してきました。
その少女は赤い帽子を被って私の下にやってきました。
その日は冷たい北風が吹いていて、強い風が、その赤い帽子を飛ばしてしまいました。
帽子が脱げた後に見えた大きな瞳が印象的で、私はその子のことを覚えていたようです。
風に飛ばされた帽子は私の枝にかかりました。
高い所にある枝だったので、少女には手が届きません。
もっと強い風が吹けば精一杯枝を揺らしてあげたいですが、私にはどうすることもできません。
そのうちに、とうとう少女は泣き出してしまいました。
私も少女と一緒になって途方に暮れていました。